獣使い
カラーン! カラーン!
物音がしてベッドから飛び起きる。何者かが侵入者用に張ったトラップを踏んだらしい。
住民はもういないはずだし物取り目的でないならもうこの村には用はないはず。向こうから仕掛けてくるとは思わなかったので少々面食らう。
急いで敵の戦力を確認しようとして、見つからないように周囲の様子を伺うと闇の中に蠢く小さな影があった。猿だ。
「…っ! この! 紛らわしい!」
依頼主も見つからないのに今更害獣の退治なんぞどうでもいいのだが、村にはまだ埋葬出来ていない遺体が何体かある。これ以上むやみに仏さんが傷つけられないように猿どもを追っ払わねばならない。
「待て! くそっ!」
剣を構えて走って追いかけると、猿達はときおりこちらを振り返りながら森の方に向かって逃げていった。
距離は離れもしなかったが縮まりもしない。そして……
「うおぉぉぉぉ!?」
なにが起こったのか一瞬わからなかった。森に入っていくらか進んだところで俺は落とし穴を踏んでしまったらしい。全力疾走しているところへ全く予期せず踏み抜いてしまってガクンと足腰に痛みが入ったのもつかの間。俺は投網のようなものを投げかけられていた。
「しまった!」
必死にもがこうとする手はすぐに止まってしまう。俺はあまりにも驚き過ぎて完全に止まってしまっていた。
「な、バカな……」
周りには猿が集まっていた。その数は10、20……いや、もっとだ。だが問題は数じゃない。
やつらの手には松明や槍。明らかに人工的な武器が握られていた……
「うっ! ぐっ!」
俺は網に捕らわれたまま森の中を引きずられていた。
訓練された動物に、棒を使わせてエサをとらせるような芸を仕込むことは不可能じゃない。だが猿達の動きは余りにも組織的で、器用に道具を使いこなし過ぎている。もはや訓練とかそういうレベルじゃなかった。
敵になんらかの能力を持った動物使いがいるのは確定だ。恐らく銀級以上……それも相当強力な手合いらしい。
統率系の能力者との戦いではことさら敵の大将を叩く事が重要になる。俺は敵に同じレベルの能力者達が護衛についていない事を祈った。最も、そこまで戦力を集められる連中がこんな小さな村を襲う理由がないのだが……
「なぁ、おい。言葉は通じないのか?」
敵の戦力の構成が知りたい。俺はダメ元で意志の疎通がとれないのか言葉を投げかけてみるが反応はかえってこない。
だが、やつらに意志があると言う事はすぐにわかった。……わりと最悪の形で。
しばらく進んだ先で探していた村の住民を見つけてしまったのである。
俺が彼と顔を合わせると猿達はいったん歩みを止めた。
雰囲気……とかじゃない。明らかに顔がニヤついてるのがわかる。
村の住民らしき彼は目玉をくりぬかれた状態で首から上だけの状態で槍のようなものに刺さって地面にたっていた。
やつらは楽しんでいる。俺の反応を見て。
猿どもに知能を与えたやつがどんな人物かはわからない。だが、やつらは人間の最も醜悪な部分に寄せて知能を発達させてしまっていた。
こいつらは駆除しなければならない。操られているだけの兵隊であったとしてもその本質はきっと邪悪なのだろう。
このあとの展開を想像して俺は胸糞が悪くなった……