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託された娘

「あなたが適合者……ヴァーミリオンの者ではありませんね。では息子は……」


 問いかける女性の姿に実体はなく、上半身だけがゆらゆらと透けていた。

 ウェーブのかかった長い金髪を携え、顔には聖母様のような穏やかな微笑みをたたえている。

 初めて見る顔。だが不思議と俺は目の前の人物が誰なのかを直感で感じ取っていた。


「あ、あの……初代様、でしょうか。ノエル・ヴァーミリオン様……」


 神秘的な光を放つ女性の影は、俺の顔をまじまじと見つめたあと、厳かに頷いた……



 俺は初代様に先々代……つまり初代様の息子で、師匠の父親にあたる人に起こった事。そしてお孫さんにあたる師匠の顛末について簡単に説明した。



「そう。あの子には悪い事をしました……ですが、あの子を支えてくれた伴侶が見つかった事は僥倖でしたね……」


 話を聞くノエル様は。とても悲しそうな目をたたえてなお、穏やかな微笑みを崩さず、とても神々しかった。



「あなたには感謝をしないといけませんね。孫の最期を看取ってくれて。そして、私からもあなたに託したいものがあります」






「ここは……」


 そして俺は初代様に導かれるまま、裏山にある祠に来ていた。

 半円のドーム状の石碑に、装飾が施された。お師匠様がまだ自分で歩けた頃、毎日欠かさず来ていた祠だ。


 そして祠の前まで来ると、指輪から光があふれた。光は収束し、石碑に埋められた水晶のような部分に吸い込まれる。


ゴゴゴゴゴ


 ただの模様と思っていた、真ん中に縦一文に走った切れ目が左右に裂ける。

 その下から地下へと通じる階段が現れた。


「さぁ、いきましょう」



 指輪から出る光を頼りに、地下を進んでいく。

 地下の通路は精巧な石造りで出来ていて。このような裏山にこんなものが作れられていたのかと驚かされた。

 そして、その奥には巨大な水晶に包まれた1人の少女が。

 歳の頃は10代の前半ほどだろうか。宇宙の深淵を思わせる漆黒の髪が重力を感じさせずに広がったまま、閉じ込められている。

 初代様を聖母に例えるなら、こちらはまるで地上に降りた天使とも悪魔ともつかないような神秘的な雰囲気をかもしだしていた。


「こ、これは!?」


 初代様に問いただそうとしたが、彼女を形作る光がとても弱まっている事に気づく。そして初代様は今にも消えそうな声で言った。


「時間がありませんからよく聞いてください。私がかつて魔導士として名を馳せていた頃。一柱の強大な悪魔と戦いました。

 その力は滅するにはあまりにも強大で、私達は悪魔を封印するだけで精一杯でした。そしてその封印先に選ばれたのが、当時すでに光の聖女としての資質を開花させつつあった我が娘だったのです」


 思わず閉じ込められた女の子へ振り向く。


「この娘がその……!?」


「ですが悲劇は起きました。1つの体に封印された二つの魂は混ざりあってしまい。再び分離した時には両者とも以前とは全く異なる別の人格になってしまっていたのです」



 初代様から語られた話は俺にとってまるで現実味のないものだった。

 大した成果をあげられなかった師匠に魔法使いに成れもしなかった俺。どこにでもいる凡百に過ぎなかった俺達が、急にどこかの御伽噺 おとぎばなしに迷い込んでしまったかのような錯覚を受ける。


「そして……この娘が封印を解く鍵となります」


「っ!?」


 ドクン、と指輪から何かが流れこんできた。

 そして頭の中に幼子の泣き声のようなものが聞こえてくる。

 居る。魂の中に。信じられないと言う驚きを、手触りよりもはるかに絶対的な実感が蹴散らしてしまう。


「長き封印の果てに、もう外に出ても大丈夫なくらい邪気は弱まっています。忘れないでください。闇が怪物で光が私の娘なのではありません。どちらも私の娘で、またどちらも恐ろしい力を秘めています」


 声がかすれて初代様の光がほとんど見えなくなる。


「気を付けて。光と闇、どちらにも決して偏らせないに。そして、出来る事なら二人とも愛してあげてください」


「待ってください! 俺はそんな大事な事を託されるような大した男では!」


 そして初代様の姿は完全に見えなくなった。


「大丈夫。指輪に選ばれたあなたならきっと……娘達に、外の世界を……」


 それっきり指輪は何の返答もしなくなった。頭の中に幼子の泣き声だけが鳴り響く。



 俺は意を決して指輪を、女の子が閉じ込められた水晶にかざした。

 なにもかもがあまりにも唐突で、現実感がなくて。

 だからだろうか。俺はまるで物語の主人公になったかのように。「これ」が俺の成すべき事なんだと言う不思議な使命感に駆られて指輪を近づけた。



 閃光。凄まじい音が起きていたのかもしれないが、一瞬で聴覚を失っていたのでわからなかった。



 どれくらい気を失っていたのだろう。服のすそをひっぱられる感触に目が覚める。

 痛みを我慢して顔を向けると、傍らに漆黒の髪の少女が立っていた。


「ゴシュジン サマ ワタシ シタガウ」


 生まれたてのひな鳥のような真っ直ぐな瞳で見つめてくる。



 そう……すべてはここから始まったんだ。

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