領主との対談2
「ここだ」
「……ニューゲート……」
領主の男が駒を置いた先はニューゲートと言う、トレイランとの国境に面する、南大陸の最北端中の最北端の街だった。
「ニューゲートにあるトレイラン側の城壁と城門はかなり強固に作られているが、王国側の守備が薄い。もしアケレイを傭兵達に取られるような事があれば格好の進軍拠点となるだろう」
「でしたらなおの事! 防衛が必要でしょうに!」
「ダメだ。防衛拠点を分散させる訳にはいかない……事は単純ではない。銀狼団はトレイランのタカ派を後ろ盾にしてこの地に災いをふりまこうとしている」
俺が若干声を荒げると、領主の男は力なく首を振った。
「ニューゲートの領主はデミル・ボルトン。名前くらいは聞いた事がないか? かなり評判の悪い男だ」
知っている……市民に重税を課すだけでなく、市井の娘を手当たり次第にかっさらって食い荒らしたり、気に入らないやつを地下で拷問にかけたり好き放題やっているらしい。この辺りじゃ結構有名だ。
「領民からの支持は最悪。兵士たちの士気も規律もとてもではないが戦えたものではない。
私は再三ボルトンの更迭とニューゲートの増強を中央に打診しているが、ボルトンは無能なりに狡猾な男でな。
お得意のおべっかと賄賂で中央からの信頼は厚く、逆に私が疎まれてしまっている現状だ」
情けないことだ……と、領主の男がギリリと歯を噛みしめ、無念そうに言った。
「現在、ありとあらゆる手を尽くしてニューゲートを守り切れないか画策している。だが成功する保証はない。
トレイランのタカ派は王国と傭兵団のいざこざを切り口に王国に戦争をふっかける気だ。
アムルゼンとの全面戦争に王家や世論を引っ張る事は出来なくとも、辺境の小競り合いさえ確保できれば自分たちの食い扶持は確保できると言う算段だろう」
「…………」
「もし万が一ニューゲートが落ちれば戦線は一気に拡大する。その際、王国にトレイランを押し返す力などない。
ただただ向こうの貴族が満足するまで一方的に戦線を後退させるだけの無様な撤退戦だ。
その際、私がシグリスの領主として出来る事は、やつらの侵攻を一日でも遅らせるために……
間にある補給拠点となる村々を焼き払う事だ」
「そんな!」
マナが驚愕に目を見開いてこちらを見る。
どうにも……まいったなぁこりゃ……