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プロローグ

 俺の名はゲオルグ。魔法を使えない魔法使い。いや、魔法使いになれなかった何者でもない男。

 そして本物の魔法使い。師匠は今、目の前で死の床に瀕していた……



「師匠。すいません。俺は本当にただの穀潰しで……」


「いいんじゃよ。ゲオルグ。ワシの方こそすまんかった。こんな辺鄙なところに1人でずっと老人の世話をさせてしまい……」


 あの厳しかった師匠が信じられないような事を言う。その事がいよいよもう長くない事を雄弁に物語っていた。


「家の物は好きに売り払ってもらって構わない。だが、蓄えと呼べるようなものも残りわずか。いずれ野に下ってこれまでとは違う生き方をせねばならんだろう」


 そう言って師匠が左手の指輪を外し、こちらに差し出す。


「お前に頼みがある。この指輪を受け継いで欲しい。ヴァーミリオン家に伝わる大切な指輪らしい。ワシも、他の何を失っても守りぬけと固く誓わされて受け継いだ物じゃ。本来なら子孫に受け継がせねばならんものじゃが、知っての通り独り身じゃ。だが責任感を持って最後まで面倒を見てくれたお前になら、この指輪を託す事に不安はない」


「そんな……そんな大切なものを俺なんかに!」


「いいんじゃ、ゲオルグ。ワシはお前に感謝しとる……こんな身寄りのない爺に付き合ってくれて。

 だがな、ワシは後悔もしておるのだ。若いお前の時間を奪ってしまった事を……今からでも遅くはない。世の中は広いのだ。そして出来るなら愛するものを……」



 それが、師匠の最後の言葉だった。



 初代様。師匠のおばあ様にあたる方なのだが……その人はとても凄い魔法使いだったらしい。

 だが、その息子。つまり、先々代が幼少の時にとても辛い出来事があったそうだ。

 先々代は極端に人と接する事を嫌がるようになり。やがて、唯一心を許した奥方と共に山奥に引きこもってしまった。

 そして師匠は間違いなく魔法使いではあったものの、残念ながら才能に恵まれず、大した成果はあげられなかったらしい。ついぞ結婚もせずに、晩年は蓄えを食いつぶしながら1人で引き籠っていたのだ。


 俺の方はと言えば。両親も俺自身も何の変哲もない、ただの村人だった。それが10代の後半にもなってある日突然「根拠はないけど俺だって魔法使いになれると思うんだ!」なんて言って飛び出したのだから……頭のおかしな話である。


 当然どこもまともに受け合ってはもらえず、誰もが素質の有無を確認するまでもなく門前払いをした。

 それでも諦めきれずにありとあらゆる門を叩いた。そしてついに、当時すでにほとんど外界との接触を断っていた、うちの師匠と出会ったのだった…… 


 当時は何も考えなかったが。師匠の本音は本気で弟子を育てると言うより、単に身の回りの世話をしてくれる人が欲しかっただけなのかもしれない。

 それでも真剣に指導に取り組んでくれた事は疑いようのない事実なので、きっかけはどうあれ俺は師匠の事を恨んでなどはいないのだが。


 師匠曰く、魔力の素質自体は相当なものがあったらしい。

 だがいかんせん修行を始めるのが遅すぎた。魔法使いになるためには幼少の頃からの厳しい訓練が肝心だ。結局俺は何の魔法も使えないまま……師匠は死んだ。


 そして師匠が死んで二日後。簡素な葬儀は終わり、指輪は俺の手にある。


 何の価値もない俺に不釣り合いな美しい装飾。だがこれだけは決してなくす訳にはいかない。文字通り肌身離さず持っているために、指輪を嵌めた。



ゴォォォォォッ!!


「なんだっ!?」


 すると突然真っ白い光の炎が竜巻のように吹き上がり、俺を包んだ。

 不思議と熱さは感じなかった。そして次第に眩しさに慣れ、目を開けると。目の前に眩い光を放つとても神秘的な姿の女性の影が浮かんでいた……

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