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浅野駅にて……。ゴミに感じる歴史!

作者: 橋沢高広
掲載日:2017/03/21

「明美って、鶴見線の沿線に住んでいるんだよね?」と、高校のクラスメイト……、比較的、仲が良い友達から尋ねられたのは、ある日の昼休み。本を読んでいる事の多い彼女が私の席へと近付き、声を掛けて来たんだ。

 私は神奈川県横浜市鶴見区潮田町四丁目という場所に住んでいる。ここからだと最寄駅はJR鶴見線の「浅野駅」。私は、この電車を使って高校に通っていた。

 この鶴見線、一応、横浜市鶴見区と川崎市川崎区という共に政令指定都市を走る電車ながら、日中になると、平日は二十分に一本、土曜日・休日だと三十分に一本しか浅野駅に到着しないという凄い路線。まぁ、朝晩のラッシュ時には、かなりの電車が走っているけどね。

 これは、鶴見線が、その沿線にある企業や学校の通勤・通学に特化した路線という事もあって、この様な状況になったらしい。詳しい事は知らないけど……。

「浅野って駅から歩いて、十分も掛からない所に住んでいるわよ。でも、それが、どうしたの?」

「ねぇ、明美は芥川賞作家に興味、ある?」

 女子同士の会話って、その内容が噛み合わない事も、しばしば……。でも、この様な状態でも成立するから、凄いと思う。この時も、そうだった。

 彼女の話を要約すると、こうなる。

 第百十一回の芥川賞に『タイムスリップ・コンビナート』という小説が選ばれた。作者は笙野頼子しょうの・よりこ

 この作品、鶴見線が出て来る話らしいけど、彼女は最近、この小説を読み、興味を覚えたという。私が鶴見線沿線に住んでいるのを知っていたから、『タイムスリップ・コンビナート』に登場する「海芝浦駅」へ行くのに付き合って欲しいとの事。

「この駅って、ホームから海が見えるんでしょう? よかったら、今度の日曜日にでも案内してくれない?」

 彼女は、そう言ってから、「少しだけど、この小説、浅野駅も出てくるわよ」と付け加えた。

 生憎、私には本を読む習慣がない。もちろん、芥川賞にも関心がない。その一方、(鶴見線が登場する小説があるんだ! しかも、私が普段使っている浅野も!)と、興味を覚えたのも確か。

(海芝浦なら何度も行っているし、案内ぐらい出来そうね……。でも、ホームから見えるのは〈海〉じゃなくて、正確には〈運河〉なんだけど……)と考えつつ、私は彼女の申し出を受ける事にしたんだ。

「午後の早い内に行きたいのなら、鶴見駅、午後一時三十分の海芝浦行き電車に乗って。一番後、車掌さんがいる場所に近い所がいいわ。私、浅野駅で一番後ろの電車に乗り込むから……。それにね、海芝浦行の電車って、二時間に一本しか走っていないから、絶対に乗り遅れないで!」

 鶴見線とは凄い路線。日中、海芝浦駅に行く電車は、平日、休日を問わず、二時間に一本しか走っていないの!


 日曜日の午後一時十五分頃。彼女からメールがあった。

「遅刻しないで海芝浦駅行きの電車に乗れる!」

 それを受け取ったのは、私が浅野駅に到着した時。

(少し早く着き過ぎたな……)と考えながら、浅野駅の改札付近にある花壇……、一応、花壇として作られているらしいけど、一切、手入れはされておらず、何本かの木と雑草によって占拠されている場所があった。

 私自身、この場所に全く関心がない。今日は少し時間があるから、(暇潰しに……)と、この花壇らしき場所を観察する事にしたんだ。でも、三分もしない内に飽きてしまう。

 その時だった。改札口から最も遠い花壇らしき場所の端で〈何か〉が鈍く光った事に気付く。雲で見え隠れしていた太陽が完全に顔を出し、その陽射しを〈何か〉が反射したらしい。

(何だろう?)と思いながら、視線を、その場所に向ける。それは、缶ジュース等の飲み口に付いていた金属製の蓋だった。

(うわ、これ、今のと違って、飲み口と蓋とが完全に別れるタイプ?)

 その一部分が土に埋もれていたものを近くにあった枯れた枝で穿ほじくり出す。

(間違いない!)

 今の缶飲料は「タブ」と呼ばれる〈つまみ〉を持ち上げると、その内部に蓋が押し込まれる構造。だけど、昔のは違ったんだよね。

 中学生の頃、社会科の授業で、「以前は、この様な物を使っており、これを〈ポイ捨て〉する人が多かったから、『散乱公害』とも呼ばれていた」という話を聞かされ、その時、実際に、このプルタブも見せられたんだ。

(先生の話では平成元年に、このタイプは使用されなくなったと聞いたけど……、えっ!)

 私は平成生まれ。

(ここにあるプルタブ……、もしかしたら……)

 私が生まれる前に捨てられた可能性がある事に気付く。

(ここに落ちているのはポイ捨てされた、ただのゴミ。でも、私が生まれる前に捨てられ、今まで残っていたとなると……。これは凄いかも!)

 しばらくして、海芝浦行きの鶴見線が浅野駅の3番線ホームに到着した。

 私は、一番後ろの車両に乗る。そこには友達がいた。

(後で、あのプルタブの話をしよう。そして、海芝浦からの帰りに浅野で降りて貰い、実際に見て貰おう! どんな反応をするのか……。ちょっと楽しみ!)

 浅野駅の花壇みたいな場所で見付けた、ただのゴミ。私は、それに歴史を感じ、その話を彼女にしたくて仕方なかった。

浅野駅にて……。ゴミに感じる歴史!(了)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 出ました。橋沢さんの文章の真骨頂!活き活きと存在感の ある人物表現。 [気になる点] 前の2作品同様に続編が読みたくなる感じですね。 「了」の字をうたないとかどうでしょう? [一言] …
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