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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

子連れヒットマン

作者: ラーク
掲載日:2017/01/02

完全なる思いつきです。


男は子供を預ける前に軽く頭を撫でてやる。

子供はキョトンとして男を見上げていた。

肌の色や顔の造形から、二人に血縁関係があると思うものは居ないだろう。

それでも男はこの子供の親代わりであると思っていたし、子供も自然と父親として接しているようだ。


「じゃあよろしくお願いします」


「はい。いってらっしゃい」


そう言って若い保育士が、抱っこしている子供の手を取って、バイバイをしてみせた。

子供の年齢はやっと一歳になったばかり、といった所だろうか。

状況がよくわかっていないであろう子供も、何が楽しいのかニコニコと笑みを浮かべている。

男はその笑みに対して笑顔を返した。


「仕事、頑張ってくるから大人しくしてるんだぞ」


そう言って男は保育士と子供に背を向ける。

背を向けた男の表情には、先程までの優しさを含んだ笑顔は無い。

そこにあるのは唯の無感情。

今日も男は、子供を愛でた手で人を殺す。





じゃりっ、じゃりっ、と足音が響く。

ある一軒家、ガラスが割れてフローリングに広がっている。

其の上を大柄な男が歩いていた。

男が首を動かすと、ゴキリと鈍い音が部屋に響いた。

男は長身。

肩幅が広く胸板も厚い。

一目で鍛えていることがわかる体つきをしている。

その強靭な肉体を無理やり詰め込んでいるスーツは、上下喪服の様に黒いスリーピース。

真っ白なワイシャツ。

靴も真っ黒な、そして無骨なデカイ革靴。

真っ黒でデカイ体の上についているのは、西洋と東洋が入り混じった独特な顔。

日本人にしては濃ゆ過ぎて、ラテン系外国人にしては彫が薄い。

が、女から言い寄られる程度には整った顔立ちをしている。

髪の毛は軽くパーマのかかった黒髪を首筋まで、男にしては長めに伸ばしている。

そして決定的に印象を悪くする、無駄に鋭い目つき。

一般人が街で出会ったら、十人が十人目も合わせずに道を譲るであろう凶悪な見た目の男が、殊更深く溜息をついた。


「……あのさぁ、俺もさ、こんな事はしたくはねぇんだよ」


訛りなく男から発せられたよく響く声は、疲れで彩られていた。

じゃりっ、じゃりっと足音が響く。

ガラスの絨毯の上には真っ赤に染まった男が五人。

それぞれ胴体の何処かに風穴を開けて倒れていた。

表情は睨みつけるような顔やニタニタ笑っている顔、興味がなさそうな顔。

死ぬ事が怖くない程の無鉄砲な男達なのか。

それとも、苦しみを認識する暇もなく風穴を開けられたのか。


そしてまだ真っ赤に染まっていない男が一人。

細身だが腹だけ出っ張った、如何にも不健康そうな男が、尻餅をついていた。

この男、五人の男とは対照的に、病的な程に顔色が悪い。

そしてこの男だけははっきりと、表情が恐怖に彩られていた。


「あんたが大人しく金を返せば何もしないし、返せなくっても謝ってくれれば内臓の一つや二つ売り払ってお仕舞いにしていたんだよ」


じゃりっ、じゃりっと足音が響く。

その度に、不健康そうな男は滑るように背後へと下がっていく。

大柄な男がもう一度ゴキリと首の関節をを鳴らすと、不健康そうな男は殊更ビクリとし、たまらず声をあげた。


「すっすすすすすまままなかかかったっ!おおおおお俺が悪かったっ!だっだだだから、いいっいい命だけは!たったす」


「いや、無理でしょ」


不健康そうな男の命乞いは、大柄な男の一言であっさりと切り捨てられた。


じゃりっと足音が響く。

不健康そうな男は、とうとう壁際まで下がってしまってこれ以上逃げれない。

恐慌に更に拍車がかかった。

何かをわめき散らしてはいるが、支離滅裂で意味をなしていない。

大柄な男はまた深く溜息をついた。


「仲間呼んで、俺のタマ取ろうとしたのに、今更命乞いはねぇんじゃないの?」


大柄な男の右腕がスッ、と持ち上げられた。

手に握られているのは黒光りした凶器。

その標準を、不健康そうな男の胴体に向けた。

そこでふと思い出した様に声をあげた。


「いや待てよ……この場合、まだあんたを生かしておいて、内臓とか色々全部取ってもらった後で殺した方が儲かるのか」


大柄な男は右手に持った凶器を腰にさして、不健康そうな男に近づいた。

不健康そうな男は気が狂ったのか、それともチャンスと思ったのか、突然立ち上がり大柄な男に組みつこうとした。


突然の凶行に対して次の瞬間、大柄な男が背を向けたかと思うと、下からすくい上げる様に大きな右足が蹴り上げられた。

二人の男にとって、この瞬間はスローモーションの様に、ゆっくりと時間が流れた気がした。

右足がゆっくりと、半月の軌道を描いて不健康そうな男の鳩尾に吸い込まれていく。

技名はティッチャギ。

テコンドーで言う後ろ押し蹴りである。

音はドウンと、鈍い衝突音が響く。

蹴られた男は壁に向かって吹き飛ばされた後、壁でバウンドしてまるで土下座をする様に崩れ落ちていった。


大柄な男は内ポケットから煙草、赤ラークのロングを取り出して一本口に咥え、組長から貰ったオイルライターで火を点けた。

一口吸い込んで紫煙を吐き出すと、心地よい酩酊感が頭を襲った。

煙草を左手の人差し指と親指で摘んで口から離し、右手に持ったスマートフォンで上司に電話をかける。

三コール目で相手が電話に出た。


「おう、アントニオォ。回収できたか?」


「すんません問題が発生しまして」


「あぁ?」


「結論はですね、……長光の野郎仲間を呼んでやがって、俺のタマ取ろうとしてきたんです。ですので咄嗟に長光以外を殺ってしまいまして」


「あぁ?そうかよ。んじゃあ長光はどうなってんだぁ?」


「いいえ、こいつだけは生かしてます。全部取ってからバラした方が良いかと思いまして」


「おっし、エライぞ」


「ありがとうございます。それでですね、掃除の手配をしたいんですが……」


「今から若い奴ら十人くらいそっちやるわ。お前は若い奴らに引き継いだら今日はもう上がれ」


「ありがとうございます。了解しました」


「おう、じゃーなー」


そう言って唐突に、ブチっと電話を切られた。

忙しない人だ、等と思いながら、アントニオと呼ばれた男は紫煙を吸い込んだ。












室内にワラワラと若い衆が入ってきた。

総勢十名の大所帯である。

各々が遠慮する事もなく、土足でズカズカと。

皆見た目は何処にでもいるチンピラの様な風体。

しかし目を見れば唯のチンピラ等ではない事が分かる。

決して一般人が敵対しても良い相手ではない。


彼らは人を殺す事を恐れていない。

彼らは敵対者を殺す事を躊躇わない。

彼らは見た目通りではなく、頭は悪いが狡猾で、何よりも手馴れていた。


「アントニオさんお疲れ様です!」


「お疲れっす!」


「おっかれっす!」


各自が各々、元気よく好きな挨拶をしていく。

もしも彼等が気の抜けた挨拶をしようものなら、その瞬間に頭を弾かれても文句は言えない。

それだけアントニオと若い衆の間には、隔絶された身分差があった。

もっともアントニオ自身は元気の良さ等どうでもよく、むしろ煩いと思っていた。


「はいよ、お疲れさん。その生きてる奴はいつものカイコウさんの所に持って行っといて。それ以外はいつも通り埋めといてね。んじゃあお疲れさん」


あくまで軽くそう言い残して、問題事のあった一軒家を後にする。

車の後部座席に乗り込み、新たに取り出したラークに火を点け紫煙を吐き出す。

どうせこの車は年がら年中煙草臭い。

いちいち断りを入れる事こそ野暮だ。


「お疲れ様です」


運転席に座っていた弟分、サモラーノ恵三が労いの言葉をかけてきた。

アントニオと恵三、共にスペイン人と日本人のハーフだ。

アントニオは母親が、恵三は父親がスペイン人というきた違いはあるが。

このサモラーノ恵三という男、見た目は典型的なラテン系の顔をしている。

肌色は濃く黒髪。

目の色は茶色。

体格ははがっちりしているが、背はそれ程高く無く、おおよそ百七十センチ程度。

彫りの深い顔立ちはそれなりにモテそうではある。

しかし見た目に反して意外と奥手で、未だに素人童貞である事をアントニオは知っていた。


「親分から今日はこのまま帰宅していいって言われてますけどどうします?」


丁寧な運転をしながら恵三が聞いてくる。

アントニオは顎髭をジョリジョリと撫でながら、ほんの少し考えて口を開いた。


「じゃあ恵三、飯食いに行くか?」


「ありがとうございます。お供させていただきます」


「……あ」


「どうしました?」


「……悪りぃ、今日は先約があったわ」


「了解しました。じゃあ直でマンションで構いませんか?」


「……いや、何処か適当なおもちゃ屋に連れて行け」


「……オモチャ屋っすか?……ああ、そういう事っすね」


「……すまんな」


今日はあいつの誕生日だったな。






今日、男は人をたくさん殺した。

そして血塗られた手で男は子供を愛でる。

きっとまた、男は人を殺す。

子供を立派な大人にするために。










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