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霊媒師のセオリー  作者: 黒川博美
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笑う髑髏

第1章 緑の館


 例年よりも寒かった冬も過ぎ去り、チューリップやムスカリが花壇を賑わすようになった頃、

ルイス・モーガンは自分の店を臨時休業にして郊外のある邸宅やってきた。鉄格子の門についた

呼び鈴を鳴らしてから、玄関につくまで200mはあるかという大きな屋敷であった。屋敷は大きな

赤レンガ製のブロックを積み上げた外観で、2階建てではあるものの、広い敷地のあるものだった。

屋敷の南側にあたる壁面には一面に蔦が這い、屋上までが緑に染まっていた。

「こんなとこに住んでみてえな。でも、ひとりじゃ寂しいし、掃除が大変だろうな〜。」

 無責任なことを思いつつ、10年来の相棒である仕事道具を携え、彼は重厚な木製のドアを叩いた。

「こんにちは。鍵屋のルイスです。今日はご予約ありがとうございます。」

 出迎えた屋敷の主人は、黒い髪の毛を整髪料で固めた伊達男で、明るめの茶色いスーツをイキに着こなしていた。

「こちらこそありがとうございます。普段はこの屋敷に住んでいないもので、どこから整理していいのかさっぱり

わかりません。」

 にこやかに笑うと、主人はアンドレイ・ウィルスだと自己紹介した。

「早速ですが、どこから始めましょうか。普通の鍵の方は問題ないのですよね?」

「はい。そちらはなんとかなりました。では、まず地下のワインセラーからお願いしたいのですが・・・」

「こんなこと言ってはなんですが、なにが出てくるか楽しみです。」

 ルイスは笑いながら答えた。ウィルス氏もそれを見て少し相好を崩した。

「父の代から開けていませんからね。飲み尽くされていないといいのですが。」

 玄関から調度品の整った客間を抜け、かつての使用人が使った台所のあたりに来た。食品貯蔵庫を年代物の鍵で

あけると、彼らは地下に降りていった。セラーはさらにその奥にあり、入るとひんやりとした空気が漂っていた。

 ほとんどの棚がが空になっていたが、一部残るワインはかなりの年代物だった。

「こちらになります。」

「はあ。立派な棚だ。」

 壁の一辺にマホガニーでできたおおきなガラス戸付きの棚があり、古びた南京錠が一つかかっていた。

「普通の鍵屋ではお手上げでね。鍵の複製がとれないのです。」

「まあ、そうでしょうね。では、早速・・・。」

 持ってきた7つ道具を開けると、ルイスは懐中時計の形をした器具を南京錠に近づけた。

「たしかに魔術による鍵ですな。この形式ですと鍵の複製が不能で、本体ごと壊してしまうしかないのですが、よろしいでしょうか?」

「構いません。やってしまってください。」

 それでは、とルイスは細い鉄の棒に見えるものをとりだし、鍵穴にあてがった。ウィルス氏の見守るなか、十分ほどで

作業は終わり、南京錠はU字型の部分と鍵穴の部分に分解されてしまった。

 それでは・・・と、ウィルス氏が戸棚を開けると、そこには数本のワインが残っていた。いずれも当たり年の年代物で、

オークションに出せばかなりのいい値段がつくであろうものだった。

 その後も、寝室のコレクションボードや、精密な細工の施された小箱の鍵を開けて周った。時計の針は昼を少し周り、

ルイスは昼食をいただくことになった。

「すみません。気を使っていただいて・・・。」

 だだっ広い食堂で紅茶とサンドイッチの軽食を摂りながら、ルイスは礼を言った。

「いえ、これからが本番なのです。我が家の家宝とも家紋ともいうべきものが残っているのです。」

 ウィルス氏が髪をかきあげながら言った。少し複雑そうな表情をしている。指にはめた大きめの指輪を指しながら言った。

「あなたは魔術師だからご存知かもしれない・・・。昔、他人の研究を盗もうとして見つかった者がどうなったかを・・・。」

 指輪には苦悶の表情とも笑っているともとれる表情をした髑髏が刻まれていた。 

挿絵(By みてみん)

 ルイスは少ししてから答えた。

「まあ、両手を上げて大歓迎とはいかんかったでしょうな・・・。」

「ははは・・・。そうでしょうね。私の先祖、アンドレアス・ウィルスもそうだった模様で・・・。」

「・・・・・・・拷問・・・とか?」

「・・・・・・・。」

 黙ってしまったウィルス氏はルイスを2階の主人の部屋に案内した。そこのキャビネットを開け、鉄で補強した木製の箱を取り出した・・・。

「鍵を半年前に紛失してしまいましてね・・・。これは祖父の代から開けていません。」

「・・・拝見します・・・。」

 答えると、恐る恐るルイスは重い箱を受け取った。箱と格闘すること一時間、かちりという音とともに鍵が開いた。

 どんな遺産が出てくるのか、ルイスの心臓は早鐘のように打った。

 なかば開かれた箱の中身が昼の光を反射して、鈍く光った。意を決して蓋を全て開けると、そこには金箔を貼られた

髑髏が鎮座していた・・・。


第2章 消失


「本当に人間の髑髏だったら、教会に寄贈して弔ってもらおうと思いましてね・・・。教区の聖堂に持っていったの

ですよ。その髑髏を。敵対する魔術師から生きながら取り出したと言われているものです。もし本物なら・・・。」

 連盟員のアニーに付き添われ、現れたウィルス氏は語った。本日のルークの店に来た最初の客だった。 

「ルイス氏が帰ってから保管箱を開けたら、髑髏の下顎がなくって・・・・・。」

 そこまで聞いて、ルーク・マクドネルはボソッと言った。

「まず警察に相談なさるべきです。」

 それを聞いて、ウィルス氏も同感だというふうにうなづいた。

「ええ、そうしました。屋敷に来てもらい、調査をしてもらいました。しかし玄関の監視カメラにも犯人らしきものはちっとも

映っていませんでした。

 箱の鍵を開けてもらってから教会で髑髏の箱を持っていくまで半日とたっていないのです・・・。その間に抜き取れる者は

ごく限られてしまいます・・・。」

「というと?」

「実は、屋敷や残された古文書を文化財に登録する作業をしていまして、今作業の真っ最中なんです。ゆくゆくは財団

を立ち上げようと思っていましてね・・・。」

「では、あなたはもう魔術師ではないと・・・。」

「ええ、最初から。私は写真家です。魔術師は4代前に廃業しました。」

「そうなんですね。魔術師アンドレアスといえば呪いの専門家として有名なのに・・・。」

「先祖は先祖ですよ。」

 そう言うと、ウィルス氏は笑った。

「昨日ルイス氏を呼んだのは私自身ですし、屋敷の調査員たちもその日は休みでした。ということは・・・・・。」

 それを聞いてルークは苦笑した。

「なぜか知りませんが、あなたはご自分を疑ってらっしゃる・・・。」

「そのとおりです。私の記憶を読んで欲しいのです。」

「・・・・・・。」

 栗色の髪をポニーテールにまとめ、現代的なパンツスーツに身を包んだアニーが言った。(連盟の制服を着て受付をしている時

とは雰囲気が大違いだった。)

「連盟員じゃない人の記憶に関しては、規則で関与できないから、似たような商売をしているあなたなら・・・ってね。」

「似たようなって・・・。大雑把だなあ。」

「お願いッ!」

「畑違いです。」

 きっぱり言うと、ルークは言った。

「ご自身を信じてください。あなたにはご先祖の遺産を毀損する理由がない。」

「では、諦めたほうがいいと?」

 不満げに言ったその時、ウィルス氏の携帯電話が鳴った。失礼、と断って狭い店から出て行った彼の驚いた声が、

ルーク達のもとまで聞こえてきた。

「なんですって?髑髏の上半分も消えた!?」


第3章 捜索

 教会の司教いわく、伝承つきの髑髏が怖かったため、昨日一日聖堂に保管してから、今日、人骨かどうかの鑑定を行おう

としていたらしい。そして、一日人の出入りがなかった司教室に置いた箱を開けると・・・。

「なんて日だ。髑髏が全く消えてしまうなんて・・・。」

 店の中に入ってきて、彼は頭を抱えた。  

「アニーさん、私は魔術の素人なのですが・・・髑髏自体が魔術の作り出した幻だということはありませんか?」

「そこまでは考えなくてもいいとおもいます。連盟で調べたことがあるんですけど、古い写真で髑髏を手にもっている

ものがありましたから・・・。」

「そうですか。ではやはり盗まれたと・・・。」

 ウィルス氏は肩を落とした。もう一度警察に相談してみますと言って、彼は帰っていった。

「箱だけでもリーディングすればよかったのに。」

「時間の無駄だよ。それにルイスの念がバッチリ残っているに違いない。」

「そうなんだ。便利そうな能力だと思ったのに制約も多いのね。」

 アニーも頷くと、礼を言って帰っていった。それを笑顔で見送り、ルークは独り呟いた。

「いつのまにか名探偵扱いになっている・・・。いや、警察犬か。」


 その後、本腰を入れた警察の捜査で教会にも人の出入りがなかったことだ判明したそうだ。

翌日、死にそうな顔でルークの店に現れたウィルス氏は開口一番にこう言った。

「脅迫状が送られてきたのです・・・。」

「はあ、それは大変ですね。」

「ええ、髑髏の入っていた箱と現金をよこせと・・・。」

「警察に任せてください。」

「それがですね、脅迫状の全文がこうなのですが『髑髏の入っていた箱と現金3万ポンドをよこせ。警察に言っても無駄だ。

我々が勝利するのに変わりはない。髑髏はもともと我々のものだ。』となっています。もともと我々のものとはどういうことでしょうか。」

「それは俺にはわかりかねます。」

「そう言わずに・・・。脅迫状の次に、彼らは電話もかけてきて、立会人に魔術師を求めました。

どうかよろしくお願いできないでしょうか・・・。これを・・・。」

 彼は申し訳なさそうに、懐から書状を取り出した。そこには魔術師連盟の封が押して有り、中身にはルークを髑髏の身代金の立会人に

推薦するという令状がしたためられていた。

「なんとも命令するのがお好きで・・・。」

 本気で連盟を脱退しようと思いながらルークは答えた。

「指定の時刻はいつなんですか?」

「もう一時間ほどです。表に警察の車が待っていますから、ご一緒しましょう・・・。」

 ルークは店に臨時休業の札を掲げると、ウィルス氏と一緒に覆面パトカーに乗り込んだ。

「場所は?」

「駅のバスターミナルです。なんとも人気の多いところを選んで・・・。」

「人ごみに紛れて逃げるつもりですかね・・・。」

 そんな会話を聞いていた警官が割り込んできた。

「ご心配なく。我々も腕利きを揃えました。箱にも発信器を仕込み、準備バッチリです!」

 それは頼もしい・・・。と、勢いに圧倒されながらウィルス氏は呟いた。


第4章 駅にて


 駅にはものの10分で着いた。バスターミナルには、整然と同じ間隔を保って、5本ほどの発着場が設置されていた。およそ15分間隔で

バスが到着し、乗り降りする人々で賑わっていた。すると、脅迫状の時刻まで少しといったところで、郊外行の掲示のあるバスが、結構な速度

でターミナルに突っ込んできて、駅の壁面に衝突した。事故かテロかと警官達が無線に手を伸ばした時、バスから3人の人影が降りてきた。

 拡声器を手にした彼らはバスターミナルの中心に向かってこう叫んだ。

「出てこい、ウィルス!我々は数百年の復讐に来た!」

「奴らですね。しかし、いま出て行くのは危険です・・・。」

 警官が無線と話ながら言った。

「彼らは私を呼んでいる・・・。復讐?髑髏が戻ってくるかこないかはどうでもいいが、バスの乗客に危害が加えられないだろうか・・・。」

 ウィルス氏は心配そうに言った。

「ご心配なく。応援を呼んでいます。もう少し、車内にいてください。」

 助手席にいた警官もそう言った。

 犯人達の主張は続いた。

「我々は逃げない!逃げることはないッ!真の『力』を人々に知らしめるのだ!」

 拡声器を持っていた長袖のシャツ姿の男の姿がバスの中に消えた。すると、その横に立っていた男が懐から拳銃を取り出し、

ちらつかせた。

 ルーク達の乗った覆面パトカーの扉がノックされ、ドアが開けられた。そこにはスーツ姿の男性が立っており、ウィルス氏に

犯人達を撮った画像を見せた。

「面識はありますかな?」

「はい・・・。彼らは私の屋敷に古文書の調査に来ていた人たちです・・・。」

 少なからずショックを受けたウィルス氏はスーツ姿の警官に詰め寄った。

「彼らは髑髏の箱を手に入れれば気が済むのですか?」

「交渉します。現金は要求しているものの彼らに逃走しようという気があるのかは疑問です・・・。」

 それだけ言うと、警官は去っていった。いつのまにかバスターミナルは、サイレンを鳴らさずにやってきたパトカーに包囲

されていた。

 少しして、先ほどのスーツ姿の警官が再びやってきた。

「ウィルスさん、マクドネルさん、ご協力いただけませんか?犯人に『髑髏の箱』を持って行って欲しいのです。」

「それは問題ありません。現金の要求はどうなったのですか?」

「それは取り下げられました。継続して魔術師一名の同伴を求めています。警官隊で援護しますので・・・。」

「俺も問題ありません。」

 ルークも答えた。霊媒としてではなく魔術師として数えられることに一抹の不安があったが・・・。


 そっと覆面パトカーを出て、警官に付き添われながらウィルス氏とルークはバスへと近づいていった。犯人たちはそれに

気づき、拳銃を向けて警官を下がらせると、ウィルス氏の持った『髑髏の箱』を持ってくるように言った。

 拳銃で脅しながら2人をバスの中まで誘導したポロシャツを着た男性は、先にバスの中に入り、ナイフで運転手を脅していた

長袖のシャツの男性に声をかけた。すると彼はナイフを出したまま、運転手を座席から出して、10名ほどの乗客を無視して一

緒に後部座席に向かった。ウィルス氏が目を凝らすと、彼は大きめの紙袋から髑髏の下顎と上半分を出し、なんとかしてはめ込

もうとしていた。しばらく続けた後、業を煮やしたポロシャツの男に促され、長袖のシャツの男はやっとその『作業』をやめた。

 3人目の小太りの男は、ナイフを構えたまま、バスの出入り口を見張っているらしかった。

「箱の中に髑髏を入れるんだ!」

 ウィルス氏を拳銃で脅し、ポロシャツの男は長袖のシャツの男から受け取った髑髏を氏に渡した。髑髏を収納すると、彼はポケット

から取り出した古い鍵で、箱に鍵をかけてしまった。

「それは半年前になくした鍵・・・・。」

 ウィルス氏がポツリと呟いた・

「それでは、そこの魔術師!この箱を発動させるんだ!」

「・・・・・・。」

 拳銃をルークに向け、ポロシャツの男は高圧的に言った。命令にどう答えたいいか分からず、ルークはとりあえず箱に手を触れてみた。

複雑そうな魔術鍵の仕掛けがあるのがわかった。

「わからないのか?箱に仕掛けられた魔術を発動させるんだ!それで俺たちの復讐が成就する!」

 仕方ないのでルークは基本的な魔術の構成を頭に浮かべ、意識を箱に集中させた。すると、ある疑問に行きあたった。

「この箱、なにも書いていないノートみたいに、モノはありますが、中身がありません・・・。」

「わかりやすく言ってください・・・。」

 ウィルス氏に囁きかけると、彼は不思議そうな顔で返した。

「魔術の体裁は整っているのですが、肝心のどういった効果を期待して構成したのかがわからないのです・・・。」

「はあ、答えのない数式のようなものですか・・・?」

 このやりとりはポロシャツの男も聞いていた。男は箱をルークから奪い取ると、もう一度鍵を開けた。ゆっくりと中身の髑髏を

引き出して呟いた。

「なんだと?」

 長袖のシャツの男も近寄ってきて、髑髏を受け取った。

「我らが祖のものではないのか?」

 バスの前で見張っていた小太りの男も入ってきた。

「早くしろ。時間をかけすぎだ・・・。手順は何度も確認しただろう!我らが祖の呪いはまだ存続している・・・。」

 小太りの男に言われてポロシャツの男が言った。

「解読したアンドレイ・ウィルスの日記には、我らが祖が『呪いの箱』を持って侵入してきたとある。その『箱』を

こともあろうに本人の首を入れるのに使用するとは・・・!我々は長きに渡って祖の恨みを晴らすのに邁進してきた!

今こそアンドレイ・ウィルスの子孫にその咎を問うッ!」

 ポロシャツの男はウィルス氏に拳銃を向け、威嚇した。小太りの男は髑髏をもう一度箱に戻し、鍵を掛けてからルークに

渡した。

「我が祖の日記には、この箱の使用方法が書かれている・・・。中にモノを入れた状態で魔力を流し込めば、人を死に至らしめる

呪いが発動するのだ・・・!もう一度試せッ!」

 拳銃を頭に突きつけられ、ルークはもう一度魔術の構成を試みた・・・。しかし、やはり空振りだった。撃たれるかも・・・と、

冷たい汗が背中を伝った。

 その時、箱から白い霧のようなものが出てきて、少しづつバスの床に貯まり始めた。近くの席に座っていた乗客がくぐもった悲鳴を

上げた。

「おお、発動したぞ!」 

 ウィルス氏は霧を見つめてポツリと呟いた。

「アンドレイ・ウィルスの子孫として、呪いにやられるのは私1人でいい・・・。乗客を開放してください!」

「無駄だ。どちらが優れた魔術師であったかを知らしめるのだ!」

 ポロシャツの男が半ば叫ぶように吐き出した。

 白い霧は少しづつ勢いを増し、ドライアイスの煙が低い場所に貯まるように一箇所に集まり始めた。

 小太りの男が様子を近くで見ようと近寄った。その時・・・。

「ぐわッ!」

 煙のなかから筋張った手が伸びてきて小太りの男の心臓のあたりを貫いた。

 男はそのまま後ろ向きに倒れこみ、ピクリとも動かなくなってしまった。それを見て、助けに寄ってきたポロシャツの男も同じく

腕の犠牲になった。

「なんだと!?」

 最後に残った長袖のシャツの男は、監視していたバスの運転手を放り出して後部の出口から逃げ出そうとした。しかし、そこまで

白い霧が腕を伸ばし、瞬時に追いついた。

「寄るな!」

 虚しくナイフを振り回すが、彼の周りにだんだんと霧がよっていき、いつのまにかぼんやりとした人の形をとっていた。

「予定と違う!」

 霧の中から腕が伸び、長袖のシャツの男の顔を掴んだ。

「うわああああッ!」

 霧の腕はまるで熟した果物を掴むように、指先を彼の顔に喰い込ませ、種を取り出すかのような手つきで、頭蓋骨を引き抜きに

かかった。

「あれが『呪い』・・・?」

 唖然としてウィルス氏が呟いた。

「どうやら、箱と頭蓋骨は『侵入した魔術師』のものとは違ったようですね・・・。」

 拳銃から開放されたルークが静かに呟いた。 

 霧の腕はさらに指を男の顔に喰い込ませ、メリメリという音と共に、眼球の入ったままの頭蓋骨を抜き出した。

 男は悲鳴とともに気を失い、白い霧も少しの時間を置いて掻き消えた・・・。


第5章 笑う髑髏

 盛りを迎えたチューリップや春咲き水仙の間をミツバチが忙しそうに行き交っている午後、ルイスはルークの店に立ち寄って

お茶をしていた。

「そんな大変なことになっていたとは・・・。TVの取材とか来たか?」

「いや、全然。ニュースも一回切りだったし・・・。」

「そりゃ、一般人にしたら変な事件だもんな。」

 その時、店の玄関にある郵便受けになにかが投げ込まれた。音を聞いたアシスタントのエイダが店の奥の小部屋から出てきて

郵便物を見に行った。戻ってきた彼女は一通のA4サイズの封筒をルークに渡した。

「ウィルス氏からだ・・・。」

 差出人を見て、ルークが呟いた。

「中身は・・・。カレンダー?」

 中に入っていたのは綺麗な景色の映った壁掛けカレンダーだった。他にもなにかが入っていたので封筒を逆さにして振ってみると、

写真の個展の案内が数枚と、折りたたまれた白い便箋が出てきた。

「きっちり営業してますな。」

 個展の案内を手に取ってルイスが言った。便箋を広げて眺めていたルークが口を開いた。

「結局、髑髏は人のものだったが、『誰のもの』かはわからないそうだ。そして、あの3人は氏が古文書調査員の親睦会を自宅で

開いた際に電話に盗聴器を仕掛けていたそうだ・・・。だからルイスがいつ屋敷に行くかもわかったんだよ。」

「盗聴器だなんて現代的だな。」

「ふふ・・・。犯人ももう魔術師じゃなかったからな・・・。」

 ルークは笑うともう一度便箋に目をやった。便箋の下部には、氏の家紋・笑う髑髏が印刷されていた。

 ふと2人は笑い合うと、ふっと静かになってお茶をすすった。

「魔術師連盟ってどうやって退会するんだ?」

 ルークがその沈黙を破った。

「は、なに言ってるんだ?退会できないぞ?一度所属したら死んでも魔術師だ。」


 













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