第87話
一体彼女はなにものだっ!?
もう少しでフェンリル戦に突入するのでこうご期待です。
「.........アンタ、何者だ?」
「嫌ですねぇ、ただの一般市民ですよぉ」
フェンリルを倒せるのが一般市民だったならば、きっともう、この世界は破滅してるに違いない。
そんなことを思った。
因みに今、僕は何をしているかと言うと、孤児院の客室にお邪魔して、少し休憩をしていたのだった。
初めて使う身体のせいか、少しだけ疲労が溜まりやすい。もう少し慣れれば大したことはなくなると思うが、まぁ、それでも休むに越したことはないさ。
「はぁ、まぁそれはもう聞かないことにするよ。エルザって名前が本名ならね」
「うふふ、エルフは嘘を苦手とする生き物なんですよ? 私は嘘なんてついたことはありません。神に誓えます」
........ホントかねぇ?
「この孤児院が避難していないことはみんな知ってるのか?」
「いえ? ついさっきこの孤児院一帯にかなりの偽装結界を貼りましたので、SS以下の実力ではたどり着けませんし、気づくこともできません。まぁ、この街で言うならあなた達と、エルグリッドさん、それにレイシアさん......は居ないのでしたか。それと最後に狡知神さんですね」
何気にロキの存在に気づいている、エルザ。
......やっぱり只者じゃないだろうな。SS以下に感知できなくする結界なんて、はっきり言って尋常じゃない。
なんだか疑わしげな目をしていたのがバレたのだろうか、
「うふふ、まぁいいではありませんか。此度は子供たちと戯れるために来てくれたのでしょう? まだ三時半ですし、しばらくの間は遊んで行って下さいませ」
「......まぁ、そうだな」
実はさっきから客室の扉からロリっ子ショタっ子たちがコソコソとこっち見てるんだよね。
「お、おいあのお兄ちゃん、ホントに執行者なのか?」
「う、うん、院長先生がそう言ってたし......髪黒いし」
「なんだかよわそーだな」
「きゃはは、よわそーだ! よわそー!」
「でもあの人.........染めた感じの髪じゃないよね」
「つよくみえないからこそつよいひともいるのだっ!」
「......わたし、稽古つけてもらおうかなぁ?」
「ええっ!? じゃあぼくもっ!」
「で、でもしっこうしゃってなんの武器つかってるんだー?」
「「「「「.........すで?」」」」」
酷い言われようだった。
フェンリル戦前に楽園に寄ろうと思えば確実に神級種の化物みたいなエルフはいるし、幼女たちには酷い言われようだし───なんだか若干一名ほど中二病になりそうな奴いたな。
「それじゃあテキトーに遊んでくるよ。訓練とか言ってるけどやっちゃっていいのか?」
「うふふ、生意気な子がいたら殺っちゃっていいですよ?」
.........あれっ?
今この人なんて言った......?
「さぁ、みんな? 執行者のギンさんが稽古をつけてくれるらしいわよ?」
「「「「「やったーーー!!」」」」」
おい、さっきの言葉を無かったことにする気か?
今絶対"殺っちゃっていい"って言ったよね、この人。
「なぁなぁ! 兄ちゃんしっこうしゃなのかっ!?」
「お兄ちゃんカッコいいねっ!」
「あ、あのっ、私に稽古つけてもらえませんかっ?」
「あっ! ぼ、僕もお願いしますっ!」
「むー! ずるいぞっ! 俺もっ! 俺も稽古つけてくれっ」
「いけめんだな、おにいちゃん」
「ねぇーしっこうしゃってなんの武器使ってるのー? すで? アーマーぶっ殺したのってすででやったんでしょ?」
「えー? アーマー死んでないらしいよー?」
「なんか股間と顔面だけ破壊されていなくなったってー」
「「「「「.........ざまぁみろ」」」」」
酷い言われようだった、アーマー君が。
「......エルザ......さん? 彼ってなんでこんなに嫌われてるんだ? 一応はお金を寄付......」
「呼び捨てでいいですよ? .........彼は32ゴールド出しただけで家族のように毎日毎日やって来てご飯まで食べてたんですよ? この街の領主さんはいい御方なので、この孤児院もほかと比べれば裕福ですけど.........」
.........毎日毎日やって来て当然のようにご飯まで食べられると、当然のように他の子のご飯が減ってしまう、という事か。
しかも彼は確か十七歳。育ち盛りだ。
その食べる量は子供たちの比ではなかったろうに.........。
「『自分が来て一緒にご飯を食べている事が子供たちにとっても幸せなことだ』とでも思ってたんだろうかね.........ホントに頭がお花畑な奴だな」
「全くですよ.......あなたが彼を追い出してくれたおかげで皆のご飯が増えたので、みんなあなたに感謝してるのですよ? .........私も頭撫でられなくて済むようになりましたし」
あぁ、よく主人公がヒロインの頭撫でて、
『あっ、ごめんっ......つい』
『あっ.........い、いえっ、別に嫌ではなかったので.........と言うか気持ちよかったですし......』
『えっ? 今なんて?』
『なっ、なんでもないですっ!』
という奴だろう。
まぁ、難聴系主人公というやつだ。
ハッハッハ、現実に頭撫でて気持ちよくなる女がどこにいるってんだよ。
もし同じ状態に僕がなったら間違いなくこうなるぞ?
『あーよしよし、よくがんばったねー』
『あっ.........気持ちいいのですぅ.........』
『えっ.........(もしかしてコイツって頭が性○帯!?)』
『やめちゃうのですかぁ......?』
『あっ、ごめん。.........続けた方がいいか......?』
『はいなのですっ! うへへぇ......』
『.........はぁ』
という感じになるぞ?
何故例えの相手がオリビアなのかは.........うん、想像しやすそうだったからだね。
もしこれが白夜だったら、
『にゃ、にゃニをしておるかァァァっっ!!』
って言って殴られるに決まってる。
もしくは借りてきた猫みたいに静かにして撫でられるか、多分どっちかだろう。
同じ感じで、
恭香→そもそも頭がない。
輝夜→背デカすぎ。
アイギス→想像つかない。
という感じで、まぁ、あの中で一番可能性あるのはオリビアなのだろう。まぁ、異世界なのだしそういう女性も居るのかもな。
────まぁ、彼女すら居たことのない奴が何語ってんだよ、って感じだけど。
......うん、彼はそういうのに憧れていたのかもねぇ。
「よし、ロリっ子ショタっ子たちよっ。集合っ!」
僕はもうアーマー君の思考回路を理解することは諦めて、パラダイスへと突入する事にした。
そもそも理解出来ないし、したくもない。
僕は正しい正義なんて求めない。
「「「「は、はいっ!」」」」
何故か従う幼子たち。
「諸君。君たちはなぜ強くなりたいのだっ!?、」
「は、はいっ! 冒険者になって孤児院にお金を寄付したいからですっ!」
「はいっ! かぐやのおねぇちゃんにあこがれたからですっ!」
「はいっ! ハーレム作りたいからですっ!」
「悪役令嬢に転生したいからですっ!」
.........真面目なヤツ、最初の女の子だけじゃねぇか。
確かにね、三番目の男の子とは気が合いそう何がするが......二番と四番はダメだよ、うん。
まず二番ちゃんは、アイツに憧れた時点で終わってる。
病院に行きなさい。
そして四番くん。君、男だよね?
なに、異世界人の癖して性転換転生とか望んでるわけ?
.........君はもっと病院に行きなさい。
なぜそんな知識があるのかは分からないが、多分、オタクの迷い人が広めでもしたのだろう。
「と、まぁ冗談はこれくらいにして、この中で真面目にやる気のある奴は何人くらいいる? まぁ、一時間くらいしか見てやれないし、僕自体、ものを教えることなんてやったことないからうまく出来るかは分からないけど。まぁ、ちょいと手あげてみて?」
幼子たちはお互いに顔を見合わせて手をあげる。
三十人中.........十人くらいかな?
───おい、四番手あげてないじゃねぇか。
「うーん、十人くらいか。それじゃあ逆に訓練したくないよーって子は何人くらい居る?」
今度はおずおずと手をあげる幼女たち。
その数五人。
なるほどなるほど、彼女たちは多分あれだな。おままごとが大好きな幼女たちだな。
「よし、三つの班に別れよう!
①訓練して強くなろう! という班。
②鬼ごっこと隠れんぼをしよう! という班。
③僕が作ったゲームをしよう! という班の三つだ!
それじゃあ三つ、好きな所を選べよ?『影分身』!」
何だかんだで百鬼夜行の影に埋もれてしまった影分身。
今回は二体の分身を出してそれぞれを受け持とう、という魂胆だ。
「「「「おぉぉぉっっ!? す、すごいっ!」」」」
案の定、目をキラキラと輝かせる少年少女たち。
「ほう、影魔法ですか」
.........案の定、影魔法についても知っているエルザ。
もしかして死神ちゃんの知り合いかな?
そんなことを考えたが、まぁ、どっちでもいい事だ。
少なくとも、今の僕には関係ない。
「それじゃあ訓練班はこっちだぞー」
「はいこっちは鬼ごっこと隠れんぼねー」
「さぁ、幼女たちっ! 僕の胸に飛び込んでおいでっ!?」
さぁ、どれが本物でしょう?
ふっ、もちろん一番最後!
だったら良かったのだけどね.........。
今回は泣く泣く訓練班を受け持つことにした。何せこの後にフェンリル戦が控えているのだ。少しでも身体を動かして慣らしておきたいからね。
鬼ごっこ、隠れんぼの影分身には、逃げる時はかるーく、子供でも頭を使えば捕まえられる程度で、捕まえる時は本気でいいぞ? と命令を下し、
幼女グループの影分身には、僕が魔導を使って作った、薄ーい木の板製のトランプを貸して差し上げた。ついでに呪詛も。
それで、僕が担当する訓練班はというと、先程の一番~三番目までの、ロリっ子二人にショタっ子一人を中心とした六名が集まってきた。
───何故かトランプ組に半分ほど取られたようだった。
.........今度、商業ギルドに登録しに行こう。
トランプに将棋とか、そういう娯楽系の物を作って売ったら金になりそうだしね。
「それじゃあ改めまして。僕はギン、執行者って呼ばれてるけど......まぁ、好きな呼び方で呼んでくれ」
「「「「「じゃあお兄ちゃん!」」」」」
.........どうしてそうなった?
「な、なんでお兄ちゃんなんだ?」
「なんだかかぞくみたいなかんじがするーのだ!」
即答する中二病。
.........たしかに僕は兄だが、そこまで兄貴臭漂ってるか?
どちらかと言うと哀愁が漂ってるだろ。
......あれっ? 今のうまいんじゃね!?
そんな下らないことを考えている間も、彼ら彼女らの話は進む。
「う、うん......わたしもお兄ちゃんみたいだなって思いました」
「ぼ、僕もっ! 本物の家族は知らないけど、なんか、お兄ちゃんみたいな感じがするよ、ぽかぽかと言うか.........よく分からないけど、一緒にいて落ち着きそう!」
「俺もだぞー! 俺も捨て子だけど、兄ちゃんは家族みたいな感じだ!」
す、捨て子.........?
その言葉の衝撃に、思わずここがどこなのか思い出した。
そう、ここは孤児院だ。
聞けば、親の顔を知らず物心がついた頃にはこの孤児院に居たという女の子。物心がついた後に親から捨てられてここに流れ着いた男の子。親に暴力をふるわれて逃げてここまで来た女の子。ただの気まぐれで親から見放された男の子。娼婦から生まれそのまま捨てられた女の子。人種差別でここまで逃げてきた他種族の女の子。
彼ら彼女らは、心に多かれ少なかれ、トラウマを抱えていた。
───寂しい
───怖い
───捨てないで
───暴力をふるわないで
それはきっと、僕みたいな特殊な仕事をしていた人でなくとも分かるだろう。
ほんの一瞬でもここを楽園などと表現した僕自身を、大いに恥じた。
自己満足や、偽善、欺瞞でそんなことを考えている、自分が情けない。
何も出来ない癖に同情している、自分が腹立たしい。
ただ、
少し、ほんの少しだけ、アーマー君がここに通いつめていた理由がわかった気がした。
───この子達には、幸せを知ってほしいのだ。
『君は、一体なんのために戦っているの?』
いつかのロキの質問が頭を過ぎる。
ハハッ、まさか大真面目に答えたあの質問が、こんなところで実証されるとは思わなかったな。
そう、僕はあの時、こう答えたのだった。
『世界中の幼女を助けるために決まってんだろ?』
ハハッ、まさにその通りだな、少し前の僕よ。
そこに困っている幼女たちが居るならば、それを助けてこその僕だろう?
「よし! それじゃあ特訓開始だ!」
「「「「「おぉーー!!」」」」」
まぁ、こうして僕は、一時間半をたっぷりと使って彼ら彼女らと過ごしたのだった。
まぁ、こんな性格が破綻している僕だけど、せめて子供にくらいは優しくしてやるさ。
────白夜みたいなパチモンじゃなければな?
次回! 進化した白夜の姿とは!?
彼女はグラマラスになれたのかっ!?