第86話
進化完了か!?
「それじゃあ質問していくねー?」
目の前には色の失せたロキの姿。まるで昔の白黒テレビに映っていいるかのように色がついていなかった。
僕の隣には色の無いレオンとマックス。
場所は、どこかの山だろうか? ロキはどうやら僕よりも勾配の高い位置に立っているらしく、期せずして───かどうかは分からないが、僕が見下ろされる形になっている。
あぁ、これは夢だな。
そんなことを思った。
それは間違いなく、僕が魂を鍛えるために問われた質問に答える場面であった。
───何故、僕はこんな夢を見ているのか?
そう問われれば、多分魂がまた大きくなるであろう始祖の身体に見合うよう、成長しているためであろう。
これが夢ならば、ロキはこの後に一つの質問を投げかけてくるはずだ。
「それじゃあ一つ目、君にとって、正義ってなにかな?」
そう、一つ目の質問だ。
その質問を受けて、僕はとある言葉が頭に思い浮かんだ。
『勝利こそが正義だ』
それは、僕が正義の定義にしている言葉であり、
───死神ちゃんの言葉でもあった。
「君は勝利を正義だなんて思っちゃいないよね? 少なくとも心の底では負けていい戦いがあってもいいと信じている。それじゃあ君は罪人ってことになっちゃうよ?」
確かに、そうだ。
少なくともエルグリッドとの戦いは負けることを前提としていた。それでは僕は、罪人どころか極悪人だろう。
ならば、僕にとって正義とはなんだ?
頭の中に浮ぶのはアーマー・ペンドラゴンと、水井幸之助。
奴らはクズでゴミだし、思考がガキで周りもろくに見えていない馬鹿野郎だったが、
───それと同時に、彼らは正義そのものだった。
正義の味方、なんてのは烏滸がましい、正義そのもの。
弱者を助け、悪を倒し、皆を助けようとする心はだけは賞賛に値するものであった。
ならば僕の正義とは彼らと同義か? と聞かれれば、否と首を横にふらねばなるまい。
明らかに異なっている。僕の正義はあんなに正しくない。
ならば僕の正義とは何か。
正しくもなく、誰かが幸せになることもなく。
曲がっていて、ひねくれていて。
自分以外には理解出来なくて。
───それでいて、どこか芯の通った、僕の正義。
そんなことを考えた。
改めて考えたからこそ、僕はその結論に至れたのかもしれない。
「僕にとっての正義は『自分の意思を貫く』ということだ」
何があっても僕の意思を貫く。嫌なことにあっても、挫折しても、誰に文句を言われようと。絶対に負けない心の強さ。それが僕の正義だ。
そういう、答えに至った。
ガシャン!
南京錠が幾つか、同時に開いたような、そんな音がした。
「くふふっ、本当に君は傲慢だねっ、全くもって主人公には向いていない。ま、だからこそ強くなれるんだろうね」
「傲慢で何が悪い。僕は自分のしたいようにしているだけさ」
そう、僕は言う。
「くふふっ、だからだよ。傲慢な奴は強くなれる。傲慢で慢心のしない奴はもっと強くなれる。いずれ、僕たちにも届きうるほどにね?」
ロキはそう言って笑った。
本当に嬉しそうに、僕を見て笑っていた。
「くふふっ、それじゃあ最後の質問だね。今の質問でも随分と魂が成長したみたいだし.........うん、この質問が本当の最後になりそうだよっ。それじゃ、準備いいい?」
とても嬉しそうなロキ。
機嫌がいいが、何かあったのだろうか?
そんなことを考えたが、ロキはそんなのお構い無しに最後の質問を口にするのだった。
「君は、何のために戦ってるの?」
☆☆☆
「......ギ...さん? おき......さいっ。もう......時ですよっ?」
急激に夢の中から浮かび上がるような、そんな気がした。
───どうやら、あの夢はあそこで終わったらしい。
目を開けると、そこには恭香を持ったアイギスがいた。
「ギンさん? もう三時過ぎてますよっ? そろそろ起きないと......」
「んっ、あぁ、ありがとアイギス。朝から可愛いね」
『もう夕方だからね?』
「.........ツッコミ入れるのってそっち?」
.........少し寝足りないが、まぁ、夕方なのだろう。
窓からは夕焼け色の光が部屋に入ってきており、僕の身体へと陽の光が降り注いでいた。
思わず僕は右の手を見る。
───何も変わったところは無い。
開く、閉じる。そして開く。また閉じる。
「.........なんか、すげぇな。生まれ変わったみたいな.......そんな気分だよ。これってホントに僕か?」
『そのカッコつけ方は間違いなくギンだよね』
うるせっ、カッコつけてねぇよ。
と、まぁ、そんなことは今はいいのだが、
「それで、他のみんなはどうしたの? 宿の近くには居ないっぽいけど......?」
『うん、白夜ちゃんとオリビアちゃんはまだ帰ってきてないね。二時頃には進化直前みたいな雰囲気だから多分もう進化してると思うよ? 今は進化中か.........もしくは進化し終わってギンと同じ状態か、だよね』
「輝夜さんとマックス、レオン君は防衛拠点作りに行きましたよ? 輝夜さんが器用だから、って言って笑ってましたけど.........本当に器用なんですか?」
.........認めたくはないが、アイツの器用さは化物だからな。
「もしかしたらもう既に完成してるかもね、要塞が」
「そっ、そんなに器用なんですかっ!?」
───もしかしたら城が建ってるかもしれない。
......頼むから迷惑はかけるなよ?
『それで、ギンはどうするの? 私たちは避難し遅れた人が居ないか見回りに行くけど.......』
見回り.........ねぇ。
「うーん、僕は少し散歩しようかな? 僕の能力って生物の探知にめっちゃ役立つからさ。散歩ついでにそういう人を探してくるよ。アイギス、避難場所ってどこ?」
「えー、冒険者ギルドか領主様のお宅なのですが、今はその二つが満員なので商業ギルドの方に集まってもらってますね」
.........場所わかんないけど、まぁ、人が沢山いるところってことでいいか。
「それじゃ、ちょっくら散歩に行ってくるわ」
『五時過ぎまでには東門来てね?』
はいはいっ、と。
とまぁ、そんな感じで、僕は宿を出たのだった。
───この後に出会う、化物の存在すら知らずに。
☆☆☆
気付けば僕は、孤児院にいた。
何故かは、読者諸君ならば分かりきっているに違いない。
そう! 孤児院といえば子供っ!
───つまりは幼女の楽園ということだっ!!
.........まぁ、もう避難したと思うんだけどね。
そんなことを考えて来たのだが、どうだろう?
目の前には楽園が広がっていた。
「あー! あのお兄ちゃんのかみ、黒いぞぉっ!」
「うひゃぁ! しっこうしゃっ! しっこうしゃだ!」
「あれでしょ? あの.........なんだっけ? あのお兄ちゃん」
「アーマーのお兄ちゃんでしょ?」
「そう! アーマーをぶっ殺したやつだ!」
「「「いい人ってことだねっ!」」」
古くなった教会───いや、もう潰れた後なのだろう。
その教会を元に改築して作られたのであろう、孤児院。
あの憎きアーマー君が全財産を寄付していたと言われる孤児院だ。
.........めっちゃ嫌われてるじゃん。
「な、なぁ。アーマー君が何かやらかしたのか? 確かアイツ、この孤児院にお金を寄付してたんじゃ......」
そう言った時のことだった。
「ふふっ、あの方には確かにお金を寄付して頂きましたが、それもすべて合わせて32ゴールドです。あぁ、ちなみにこの世界では黒パンが30ゴールドですよ、異世界人さん?」
突如、僕は後ろから、女性に声をかけられた。
その、誰かの手が肩に置かれる。
「───ッッ!?」
冷や汗が身体から滝のように流れる。
僕の空間支配ですら、感知できない相手が、今後ろにいる。
出来なかった、気づかなかった、ではない。
今、僕の肩に触れているのにも関わらず、今なお感知出来ないのだ。
───それが空間支配でも、超直感でも。
スキルの全てが『そこには誰も居ない』と、告げている。
「うふふ、かなり強くなったみたいですけど、......まだまだ慢心しちゃダメですねぇ。スキルに頼りきっています」
後ろの彼女は、そう告げる。
僕は未だに動けない。指一本として、だ。
───それはいつの日か僕がやった恐怖での束縛だった。
「......あら? うふふっ、申し訳ございません。そんなつもりではなかったのですが.........、逆に言えば、私との実力差に気付ける程度には強くなって来ている、ということでしょうかね?」
彼女はそう言うと、僕の肩から手を離し、僕の正面へと回ってくる。
「うふふ、初めましてですね、ギン=クラッシュベルさん。私はこの孤児院を経営しております、エルザ、と申します。見た目通りエルフの一般市民ですがどうぞお見知りおきを」
僕はこうして、緑の瞳に緑髪のロング、という自称一般市民の妖精族に出会ったのだった。
どおりで孤児院だけは避難してないわけだ。
────だってこの人、少なくともフェンリルくらいは瞬殺できそうだし。
エルフの進化は、
妖精族
→エルフ・ロード
→ハイエルフ
→エルフ・ハイロード
→神白種
となっております。
.........何者なんでしょうかね?