第84話
最強への第1歩?
扉の正体が明らかにっ!?
「頭大丈夫?」
もうそれしか言うことがなかった。
フェンリルを一人で倒せとか、脳梗塞でも起きて脳神経が全部死滅してるんじゃないだろうか?
いや、もしかしたら神様特有の病気......
「ちっがーうっ!! そもそもこれは私が限界まで協力する対価みたいなもんだもんっ! 全くもうっ! 話くらい最後まで聞いてよねっ! ぷんぷん!」
うぜぇ.........
なんて言うんだろ、キャピキャピしたJKみたいな?
うん、友達になったら面倒臭い奴だ。
「.........はぁ、本当に容赦ないよね。私、やろうと思えば三秒後くらいにはこの世界破壊できるんだけど?」
「おいおい三秒後かよ。僕のゼウスは一秒もいらないと思うぜ? プークスクスっ、お前ザッコっ!」
「.........ねぇ、君ってゼウスがどれだけ規格外か分かってる? 全世界の神を集結させても勝てるかわからないような本物のチート野郎なんだよ? そんな神を『僕の』とか.........、凄い度胸だね」
.........なに、あのロリっ子ってそんなにヤバかったの?
ま、まぁ? 確かに雷霆はやばかったけど........お前とゼウスにそこまで差があるとは思えないけどな......?
「いや、全知全能ってこと、忘れないでね? .........って、今はその話じゃないでしょっ!?」
閑話休題。
「話を戻すけど、私が『勝てない』って言ったのは、君が今の状態では、って話だよ? 私が幾らか手助けをすれば............くふふっ、面白いことになるよぉ?」
「なぁっ!? ほ、本気で言ってたのかッ!?」
ぼ、僕があのフェンリルと......まともに戦えるようになるのか!?
「くふふっ、この世界に対する干渉は認められないけど、君個人に関してはかなり干渉可能なんだよねぇ。私のステータスの少しを讓渡できたりとか......ね?」
えっ、そんなの貰っていいの?
「もちろん後で返しもらうよぉ? .........持ち逃げなんてしたらぶち殺すからね?」
「は、はいっ! わ、わかりましたっ!」
『君個人に対しては干渉可能』
ということは
『下手なことしたらいつでもぶち殺せるからな?』
ってことに他ならない。
.........ホント、嫌な性格してやがるぜ。
「それで? まさかステータス譲渡だけ、ってわけじゃないだろ?」
確かにコイツのステータスは馬鹿げているのだろう。
───測る気にもなれないから鑑定すらしていない。
だが、それでも譲渡出来るのは一割未満だろう。仮にも神が人間にステータスを渡すのだ。それくらいでないと釣り合いが取れない。
いくら馬鹿げたステータスだったとしてもそれが5%やそこらでは、僕のステータスが2倍3倍になるだけだろう?
そんなことを考えた僕は、そう、尋ねたのだが......
「くふふっ、もちろんさっ! 君にはまず、進化してもらうよ?」
.........はっ?
し、進化......するのはいいんだが.......それでもキツくないか?
恐らくは僕が進化したところで白夜以上、輝夜以下で終わりだろう。それにちょいとステータス足しても輝夜には届かな......
「うんうん、でもそれでも確実じゃないからねっ! だからねっ? 例の扉の正体を私が教えてあげるよっ!」
.........えっ?
☆☆☆
僕とマックスは今現在、レオンバイクに乗って街へと戻っている所であった。
その道中、僕は、先程のロキとの会話を思い出していた。
『吸血鬼の真祖、最後の進化条件は"古代種以上の魔物の血液の一定吸血"。まぁ、帰って二人のうちどっちかに頼めばすぐにでも進化可能なくらい楽な仕事さ。くふふっ、呆気ないことだねぇ』
『なっ!? そ、そんなことで良かったのか.........ま、まぁ帰ってすぐに吸血するとして.........問題はその次だ』
そう、コイツは言ったのだ。
"例の扉"と。
『くふふっ、君が気にしてた、"南京錠のかかった扉"の事でしょ? まさか君にその症状が出るとはねぇ.........』
とても楽しそうに、そう笑うロキ。
───それは新たな玩具を手にいれた子供のようでもあった。
だが、次の瞬間には、その笑みは消えていた。
『ねぇギンくん。進化だけならまだしも、その扉、開けたら最後、弱者には戻っては来れないよ? 確実に神格を得ることになる。間違いなく、君の従魔より強くなっちゃうよ?』
彼女は一変して真剣な顔つきで、僕にそう問う。
『.........それは輝夜や、進化した白夜よりも、ってことでいいのか?』
『もちろんだよ。まぁ、吸血鬼の特性は完全に消えないから、二人より強いのは夜に限るけどねぇ』
───それも、即答であった。
ならばそれは、事実なのだろう。
僕の心の中にある、南京錠が幾つもかかっている扉。
ゼウスに敗北した時、雷霆を目撃した時、変化を自覚した時。
その度にひとつずつ外れてゆく南京錠。
そして、不意に上昇するステータス。
僕には、その扉が何かは分からない。
もしかしたら何かの代償があるのかもしれない。
良くないものが封じられているのかもしれない。
だけど、
『だけど僕は、強くなりたい』
うちの馬鹿どもをみんなまとめて助けてやれるような。
自分の好きに生きていけるような。
壁をぶっ壊して進んでいけるような。
───僕は、そんな力が欲しい。
『くふふっ、そうかい。それは良かった。それなら安心して話すことができそうだよっ』
『何に安心するかは分からないが、まぁ、大丈夫だ』
『くふふっ、それじゃあ君の扉についてだね?』
そう笑って、ロキは語り始めた。
『それは肉体の───器を封印した扉。器の大きさに魂がついていけていない人に起こる.........まぁ、簡単にいうと身体と精神の釣り合いが取れてないことから来る現象さ』
それはどういう事かというと、創造神エウラスは、生物、という概念を二つのものを組み合わせて創ったそうだ。
───それが"魂"と"器"。
つまりは精神と肉体。わかりやすく言うと水とコップ、みたいなものだろう。
『エウラスは最初の生命のその器を魂に丁度いい形で作り上げたんだけどね。代を重ねていく度に、魂が器より劣っている───いや、器が大きすぎて魂が上手く合致しない、というイレギュラーが出てきてね。ごく稀に、だけど。そのイレギュラーが"自分の弱さ"を思い知った時に現れる症状が、君の言う"扉"だよ』
本来、人も神も魔物も、その器に相応しい魂を持っており、その器を───人にもよるが───90%前後は扱えるものなのだとか。
だが、なぜそのイレギュラーとやらにそんな症状が出るんだ?
『えっとね、器を満遍なく動かすためにはそれに相応しい魂が必要なんだよ。だからこそ、小さな魂で大きな器を動かそうとすれば簡単に魂が擦り切れちゃう.........のは分かる? だからこそ器は自身を封じ込める"扉"を作る。魂が自らに相応しいものへと成長するまでね? .........まぁ、今回みたいなのは裏技みたいなものだよ」
今回の場合は強くなりたいという気持ちが強すぎて勝手に開いてしまった、みたいなものだろうか?
『うんうん、そのとおりっ! つまりはそのイレギュラーたちは、器が大きすぎるが故に、"力を持て余している"。正確には出し切れていない、ってことになるんだよ。それは君にも当てはまることだ、ギンくん』
簡単に言えば、僕の魂は器の力を完全に引き出しきれていない、って話か。上級神たちと創造神に造られたこの器は、僕の魂を考えると少し───かなり大きかった、という事だろう。
───ま、人間の魂を吸血鬼の肉体に入れた様なものだ。それもある意味当たり前のことなのであろう。
『それでね、ここからが本題なんだけど、私の加護が内包する能力の1つに"精神上昇率極大"というのがあってね。魂の成長が促進されるってわけさ、本当の器ギリッギリまで、ね?』
『ってことはなんだ? その能力を使ってあの扉を完全に開ける───つまりは精神が肉体に相応しくなるまで成長させれば、今までとは違った動きが出来るってわけか?』
『くふふっ、違ったどころじゃないよ。隔絶した、が丁度いいかな? だって今の精神、50%以下だよ? 単純に考えるだけでも全ステータス2倍以上......もしかしたら3倍近くにもなるってわけさ』
さ、3倍か........確かに凄そうだな。
『それで? 僕は何をすれば魂が成長するんだ? フェンリルを倒すのって、魂の成長が必要なんだろ?』
扉の正体を教えるためだけに、今こんな話したわけじゃないだろう。
『うんうん、よく分かってるみたいだね! 魂の成長に最も効率がいいのが"自分の行動理念を把握すること"。つまりは何のために自分が動くかを把握できれば、まぁ五分くらいで君の魂も器に見合うサイズになるだろうねぇ」
『五分って.........お前の加護って凄いんだな。魂をそんなに簡単に成長させちゃうんだからさ』
『くふふっ、それほどでもあるかなっ? それじゃあ今から出す問題を全て───って言っても2問なんだけど、自分で考えて答えてね? 他人の言葉は一切使用は不可能。おーけー?』
まぁ、そんなこんなで奴は2つの質問を僕に投げかけたのだった。
『君にとって、正義ってなにかな?』
『君は、何のために戦ってるの?』
☆☆☆
「あっ!? ぎ、ギンさん! お帰りになられたんですかっ!?」
東門の前にはネイルを始めとしたギルド職員に冒険者たち。それに加えてブルーノたち騎士団の面々までが集合していた。
.........あれっ、目がおかしくなったのかな。
ここにいるはずのない人物が見えた気がしたが.........まぁ、気のせいだろう。
辺りでは何やら、土嚢や土魔法を使って防壁を作ろうとしているが、まぁ、気休めにしかならないだろう。なにせ相手は一万の軍勢にEXランクなのだ。
───まぁ、進化が済んだら手伝ってやろう。
「あぁ、今戻ったよ。色々と情報収集もしてきたんだけど......誰に伝えればいい?」
僕はそう、ネイルとブルーノに聞いたつもりだったのだが.........
「あー、俺とネイル嬢ちゃん、ブルーノに領主、あと冒険者......めんどくせぇな。もう大声で叫べよ、テメェ」
「..........何でここにいるのさ、お義父さん」
「おい、今変なこと言わなかったか?」
何故かここに居る、エルグリッド。
───もうコイツの出番は閑話の中だけだと思ってたぜ。
「あ、あはは、流石にちょっと重要そうなのでギルドへ行きませんか?」
「そうですよ国王様。俺たちが相手にするのはEXランク.........でいいんだよな?」
「ん? あぁ、フェンリルだったぞ?」
「ほら聞きましたか国王様、相手はフェン...リ.....ル?」
「「「「「ふぇ、フェンリルっ!?」」」」」
まぁ、こんな感じで相手の正体が知られて言ったのだった。
あぁ、ちなみにフェンリルはこの世界でも有名らしいぞ? 少なくとも『滅亡の使徒』の伝説と同レベルくらいには。
───フェンリルの伝説と同レベルなことをやらかした輝夜に、なんとも言えない気持ちになった。
☆☆☆
場所は変わってギルド前。
「あ、主殿っ!? 無事であったか!?」
「いやぁ、お前たちが居留守なんて使うからまた死ぬところだったぜ。いやぁ、生きててよかったなぁ......なにせ相手はEXランクだもんなぁ.........僕みたいな弱っちいやつなんてすぐ死んじゃうよぉ」
「うぐっ......や、やはりバレておったか.........と言うか主殿.........なんか強くなっておらんか? 少なくともそこの白夜よりかは」
「なぬぅぅぅぅっっっ!?」
「うん、強くなったね、白夜よりは」
「ぬがぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?」
『.........これからEXランク来るんだけど、大丈夫?』
僕は半日ぶりに仲間達と再会していた。
───くっくっくっ、居留守の罪は消えんぞ......?
「おい、そんなことより今はフェンリルの事だろうがよ。ギン、テメェが知ってること、今から全部話してもらうぞ?」
珍しく本気モードのエルグリッド。
大陸滅亡の危機に立ち会ったんだ。そりゃあ本気にもなるか。
「おう、それじゃあとっとと説明しちゃうから聞いとけよ?」
数分後、
僕が説明した内容としては、
①投獄中の中級神がフェンリル逃がした。
②フェンリルを追って最高神のロキが下界まで来た。
③ロキと僕たち三人が邂逅。ロキの依頼について。
④ロキのステータス少しと、僕自身の進化と扉のこと。
⑤補足としてロキが言っていた事。
(山に結界を張る許可をもらったため、夜まではフェンリルを閉じ込めておける事、フェンリルとは僕が一人で戦う事、等々)
まぁ、基本的にこんな感じだ。
───もちろん中二病とブーメランパンツの事も報告しました。
「まぁ、こんなもんかな」
「.........テメェ、どれだけの加護持ってやがるんだ?」
『創造神様に死神様、魔導神様、そして今回の二人.........凄いことになってるね』
「二人? おい、今二人って......」
「いや、気のせいじゃない? 僕は合計四個の加護しか持ってないぞ? 余裕で全能神に誓えるね」
「そ、そうか......?」
うん、嘘は言ってない。嘘はね。
そう! ゼウスから貰ったのは愛情だけなのだっ!
(あれ、もう浮気?)
ふっ、そんなに浮気が嫌ならさっさと人化でもしたらどうだ?
(.........まぁ、この戦いが終わって生きてたらね?)
.........酷でぇこと言いやがるぜ。
「それじゃあ白夜か輝夜、ちょっと手伝ってくんない? あと少し飲めば進化出来るらしいんだよね」
「なぁっ!?」
「ほぅ? 我もいいのか?」
何故か驚く二人。特に白夜の驚きようがやばいんだけど......
『白夜ちゃんは輝夜さんにも吸血を許したことに嫉妬してるんじゃない?』
「なぁっ!? な、何を言っておるのだァっっ!? あ、主様っ、そ、そんなことないからのぅ!?」
「ほう? ならば今回は我が行こうかっ! クハハハハハハハッ! 恭香に先を越されてしまったが我も負けてはおれんっ!」
ほう? 今回は輝夜か.........。
.........あんま嬌声とかあげないで欲しいものだがな。
白夜ならまだしも輝夜ともなると.........まぁ? 対面して首筋に噛み付いたら当たっちゃうわけでして.........うん。魂が強くなったことを信じようっ!
────それでも持たなかったら、うん、仕方ないよねっ!?
そんなことを考えていた時だった。
『.........そう言えば、なんかキスしてたよね』
突然の爆弾発言。
「なぁっ!? し、知ってるのかッ!?」
「「「「「「ほ、ほんとにっ!?」」」」」」
『........さぁねっ』
珍しく拗ねた声を出す恭香。
────まぁ、ぶっちゃけかわいかったです。
「おいギン! お前どういう事だっ!? 俺の前で恭香とあんなラブラブっぷりを見せつけておいて、もう浮気かよっ!?」
「おい、誰が恭香とイチャついてたって?」
「ちょっ!? な、何その太刀!? れ、レオンかっ!?」
「って言うか誰とキスしたのじゃぁっ!? 何じゃっ!? 輝夜かぁっ!?」
「わ、我がするわけなかろうっ!? ということは..........ま、まさかっ!? 狡知神ロキかっ!?」
「まさかっ!? ギンさん神様とキスしたんですかっ!?」
「ぎ、ギン様............しちゃったんですぅ?」
「お、オリビアっ!? おいテメェっ! 俺の娘に何をしたァァァっっ!?」
「ちょっ!? この愚王がっ! 何いきなり本気で来てんだよっ!?」
大陸の危機だってのに、自分が死ぬかもって時なのに、まるでいつも通りな僕の仲間達。
そんな愛すべき馬鹿どもを見ていると、思わず笑ってしまう。
「なっ、何を笑っておるのじゃぁっ!?」
「これでも我らは真剣なのだぞっ!?」
「いやいや.........」
思い出すのは日本での生活。
いつも一人ぼっちだった僕。
一人で登校し、
一人で授業を受け、
一人で飯を食い、
一人で家まで帰り、
一人で飯を食う。
そんな毎日だった。
────とっても、寂しかった。
確かに久瀬やら穂花.........最近は堂島さんや鮫島とも話すことはあったが、それでも僕は、独りだった。
────孤独だった。
孤独を好いてはいても、到底、耐えられなかった。
だからこそ思う。
馬鹿なことやって僕を笑わせてくれる白夜。
馬鹿だがとても頼りになる、輝夜。
何だかんだで僕と気が合う、レオンやマックス。
可愛らしいオリビアに、しっかり者のアイギス。
そして、相棒の恭香。
「ははっ、やっぱりお前ら最高だよ。本当に大好きだぜ」
僕はそう言って笑うのだった。
何だか、初めて心の底から笑えたような、
───そんな気がした。
まぁ、なんとなく伝わってくれれば幸いです。
次回、進化なるか!?