第74話
今回、執行者モードの全容が明らかに!?
「お、おい......なんだよそれ......」
僕を見上げるマックスがそう聞いてくる。
「......それってなんだ? 僕には心当たりが多すぎてよく分からないが.........髪の事か?」
「いや、それもだけどよ.........なんだよその服とか武器とかよ.......特にその武器....俺の魔剣がゴミに見えるくらい魔力こもってんじゃねぇか.....」
今現在、僕は"執行者モード"とやらになっているらしい。
───何故だかは知らないが、僕の身体が変化する際、この身体の事が勝手に頭へと入ってきたのだ。
身体の変化としては身長が二十センチ以上伸びたこと、少し筋肉質になったこと、髪が少し伸びて白く染まったこと、変身前は出していた翼と尻尾が無くなった、等が挙げられる。
────赤い瞳に白い髪。確かに死神ちゃんと酷似しているが、恭香が僕を死神ちゃんと見間違えたのはその為だけでは無い。
現在の服装としては、白いワイシャツに黒ネクタイ。
その上から黒地に銀の刺繍の入った軍服、軍帽を着用し、肩から膝裏まで伸びる深紅色一色のマントを着用している。マントの背の部分には、銀色で例の紋様が入っている。
───死神のコート、輝夜のローブ、それにこのマント.........もしかしてこれが僕の家紋みたいなモノなのだろうか?
僕の死神のコートを着た状態を"黒モード"と称するならば、この執行者モードは"赤モード"とでも言うのだろうか。それ程までに背中のマントが存在感を放っていた。
だが、何よりも
『............マスター。その二つの武器は、まだマスターには荷が重いと思うよ......?』
珍しく、少し怯えの入った恭香の声。
それも仕方ないだろう。
「あ、あぁ、僕も全くの同感だよ.............僕が始祖になっても完全には使いこなせそうに無いな............神祖でやっと、って所かな?」
「ふ、二つ? そ、その大鎌以外にもまだあるのか.........?」
一応情報は得ていたが、それでも僕は、その二つの武器を鑑定して見ることにした。
─────右手の大鎌と、左手の縄を。
「『鑑定』!」
アダマスの大鎌 品質error
全能神から譲り受けし最強の大鎌。
最高峰の強度を誇る金属"アダマス"により造られた。
元々は時空神クロノスの所有物であり、別名『時の大鎌』。
『正義執行』のスキルレベルに応じて能力が解放される。
Lv.1= 月光斬 / 破壊不能
グレイプニル 品質error
かつて神獣フェンリルを捕縛する為に造られた縄。
後に全能神の所有物となり、神をも捕縛する力を得た。
『正義執行』のスキルレベルに応じて能力が解放される。
Lv.1= 操作可能 / 破壊不能
『.........二つとも神器クラスだよ?』
「はぁぁぁぁぁぁッッッッ!?!?」
驚きに目を見開くマックスの叫び声が響く。
正義執行が弱いと思ってた読者諸君。
どうやらとんでもない能力らしいぞ?
☆☆☆
片や黒い柄に黒い刀身。刀身の刃の部分だけが赤く染まったデスサイズ。
片や全身を銀色一色に染めた、直径五センチ程の縄。
今現在、僕はその二つを返還して、恭香、マックスと話し合っていた。
「うーむ、俺の魔剣みたいな感じで召喚して使う、って感じなのか......」
どうやら大鎌は右手から、
縄は左手から召喚出来るらしい。
────何故だがグレイプニルは通常モードでも召喚可能らしいが。.........ドMの変態をこれで亀甲縛りにしろ、との神の思し召しだろうか? 個人的には輝夜の方がいいんだけどね。
「あぁ、鎌の方は絶対に使わないことにするよ。グレイプニルはなんとか使えるとは思うけどな.........」
実際、今現在のグレイプニルは自由に動かせる縄ってだけだから今の僕でも充分に扱えるのだ。
だが、アダマスの大鎌は別だ。
試しに僕の腕をダイヤモンドにして刈ってみたが、まるで感触が無かった。
それは勿論切れ味が良すぎて鎌を握る腕にも、切断された方にも、全くの感触が無かった、という意味である。
───斬られた方が斬られたことに気づかないって、どっかの漫画かよ。そんなことを思った。
(実験に自分の腕を切り落とすって............凄いね)
いや、これで実験しなくていざという時に失敗したらそれこそ大変なことになるだろ。それに比べたらすぐに生えてくる腕の一本や二本、大したことじゃないさ。
あぁ、そう言えば変身シーンも短く出来るみたいだぞ? それこそ毎回あの変身の仕方だといざという時に大変だもんな。
(.........なら何であんなに派手にしたのさ?)
おいおい、最初の変身シーンが一秒以下とか、カッコ悪すぎだろ。
『おおぉ.....ぉぉ? え、もう終わり?』
ってなるぞ? それでも良かったのか?
(い、いや、今回はマスターが正解だったみたいだよ......)
そんなことを話していると、マックスが話しかけてきた。
「まぁ、いいけどよ。試合はどうすんだ? あの鎌とか使われるなら今すぐ降参するが?」
あ、そう言えば試合最中だったか。
何だか初めての執行者モードに興奮していて忘れてたよ。
「いや、今回は体術とグレイプニルだけで行かせてもらうよ。まぁ、執行者モードは解除しないけどな?」
「はぁ、容赦ねぇなぁ.........」
そんなことを言いながらも魔剣を構えるマックス。
それに応えるかのように僕も腰を低くして拳を構える。
そして、
ガキンッ!
次の瞬間、僕の右拳とマックスの魔剣が衝突する。
「なっ、なぁっ!?」
僕の拳が斬れなかったことに驚愕するマックス
僕はその隙をついて手首のスナップで魔剣を手の甲に当てて右へとずらし、マックスのバランスが崩れた瞬間に左拳を振りかぶる。
が、その拳が当たる前に、
「だっ、『ダークホール』ッッ!!」
マックスの魔法が完成し、僕の周囲を暗闇が包む。
闇魔法Lv.1
『ダークホール』
辺り一体に魔力によって作り出した暗闇を展開する。
相手の目を眩ませるが、自分やパーティメンバーはその暗闇の中でも視界が保たれる。
突然の変化に、狙いを定め損なう。
どうやらマックスは僕の拳を避けられたようだ。
「あれ.........? 今までよく考えてこなかったけど、無詠唱って結構すごい事なんじゃないのか?」
僕なんかは詠唱したことなんて一度も無いし、と言うか前提として詠唱の文章自体知らない。
他にも白夜や輝夜も詠唱なんてしないから今の今まで気づかなかったが、もしかしたら無詠唱と言うのは凄いのかもしれない。
そんな事を考えているとマックスからの返答があった。
「すげえ事だよっ!」
そんな声と共に僕の右前方の暗闇に白銀の刃が煌めく。
気付いた時に反応していたならば、僕の身体は少なからず斬られていたことであろう。
だけどな、マックス。
「僕は吸血鬼だぞ? 暗闇なんて昼間よりもよく見えてるに決まってるだろっ!」
僕はその魔剣を掌で受け止めると、もう片方の拳を振りかぶり、マックスの顔面の直前でピタッ、と止める。
「僕の勝ち、だな?」
「.........あぁ、俺の負けだ」
『勝者、マスターっ!』
直後、恭香から告げられた試合終了の合図。
最後の最後でミスをした天才であった。
☆☆☆
「って言うかギン! お前どうやって素手で魔剣を受け止めやがった!? 拳の材質すら変化してなかったろ!」
試合が終わった直後、マックスがこんな事を聞いてきた。
.........何を言ってんだ? こいつは......。
「言わなかったか? グレイプニルは使わせてもらう、って。だから使わせて貰っただけだぞ?」
「はぁっ!? お前、縄なんて使って.........まさかっ!?」
どうやらマックスは気づいたようだ。
「僕のグレイプニルは左の掌から無限に出てくるんだよ────まぁ、本当に無限かどうかは分からないけれど」
『だからそのグレイプニルを両腕に巻き付けての拳の防御を考えた、ってことかぁ.........そんな事考え付くなんて、流石は日本人だね』
.........いや、相手を縛る最強の縄を自分に巻き付けるなんて発想、普通の日本人じゃ思いつかねぇだろ。普通のサラリーマンとかがそんなのをパッとで思いついたらちょっと引く。
「今の所、使えるのは破壊不能と操作だからな。僕が簡単に思いつくのは相手の捕縛と自身の防具として使う、の二つだけだな。あぁ、そのまま鞭みたいに使うとかもあるか? まぁ、まだまだ操るのも下手なんだが.........そこら辺は慣れだろ?」
『逆に神器を初めてでそこまで使いこなせるのは凄いよ..........』
そ、そうか?
............って、よく考えたら、何だか僕って神様と縁がありすぎじゃないか? この世界に来た時から創造神の加護があったし、それに加えて死神ちゃん、魔導神さん、そして今回、最高神の一角である全能神。
創造神は『お主、面白そうじゃから加護あげちゃう!』とか、そんな理由だろう。
死神ちゃんはただ単に僕の事が気に入ったんだろう。部下にするとか言ってたし。
魔導神さんは僕の魔力量に驚き、興味を示したんだろう。それで僕を観察して加護を与えた───まぁ、これは輝夜もか。
だが、どうだろう? 全能神に関しては僕、全然理由が思い浮かばないぞ? 僕のロリへの素晴らしい心遣いに心を打たれでもしのだろうか?
『............それに、多分だけど『正義執行』のスキルをマスターに与えたのも全能神様だろうしね。私でも聞いたこと無い名前に神器二つの召喚。こんなスキルは全能神様と創造神様辺りが合作しないと不可能だよ.........』
おい、何してんだ創造神。
顔すらもまともに描写されてない分際で裏から糸を引きすぎだろ。もうちょい自重しようぜ?
どうせ聞いてなんかいないだろうが。
そう言おうとしたところだった、
『嫌じゃよーん! わし、面白いことだーいすき!』
「『「.........へっ?」』」
突如お気楽な老人の声が周囲に響いた。
────まじですか?
僕は直感スキルに従って死神のオーブをアイテムボックスから取り出す。死神のオーブは通常時は黒く、鈍く光っていたのだが、今は赤く光り輝いている。
『ほっほっ! やっと見おったか、ギンよ。それに恭香ちゃんも懐かしいのぅ、元気にしておったか?』
『そっ、そそ、創造神様ぁぁぁぁぁッ!?!?』
「はぁぁぁぁぁぁッッッ!?」
またも、夜の草原に彼らの叫び声が響いたのだった。
おい、夜の二時を回ってるんだから少し声を控えなさい。
☆☆☆
「それで? 何で創造神が死神ちゃんのオーブから話しかけてきてるんだ?」
至ってクールな僕。
一体二人は何に驚いているのであろうか?
神様を舐めてるんじゃないか? これくらいやらかしてくるに決まってんだろ。人間やめてんだぞ、この人たち。
そんな奴ら相手にはある程度最悪な自体を予想して.........
『ほっほっほ、通信機を盗んだに決まっておろうが』
おっと予想外。
.........とんでもないことをやらかしたな創造神。
「......死神ちゃん、大丈夫なのか?」
『ほっほっ、恐らくはまた部下が減るであろうな。部下のせいに見せかけて盗んできたからのぅ』
やめたげてっ! もうこれ以上部下の人を虐めないであげてっ!
────それと同時期、天界にはまたも悲鳴がこだましたと言うが、それも僕には知り得ぬことであった。
『そ、それで創造神様? 一体何用でしょうか? わざわざ死神様の部下事情を話すためだけに通信機を盗んだ訳じゃないですよね?』
『ほっほっほ、お主は相変わらずじゃのう。ワシのことは"エウおじちゃん"でいいと言っておろうに』
『そ、そんなこと言えるわけないじゃないですかッ!』
「.........この相手って、まじであの最高神様?」
『ほっほっほ、マジじゃぞマックス君。そもそもお主に魔剣召喚のスキルを授けたのはワシじゃし?』
「まっ、マジですか創造神様っ!?」
.........この人が全ての黒幕なんじゃないだろうか?
そんなことを思った。
「って言うか神様って名前あるのかっ!? 初めて知ったんだけど!?」
『ん? 恭香ちゃんから聞いとらんのか? ほっほっほ、ワシの名前は"創造神エウラス"。全世界を統べる最高神の一角じゃ。改めてよろしくの?』
.........この人、さらっと衝撃事実を発表したな。
もしかして見逃してる人とか居るんじゃねぇか?
「.........はぁ、それより創造神、何で死神ちゃんの通信機なんて盗んだんだ? 全能神の事でも教えてくれるのか?」
『名前聞いたのに「創造神」って呼ぶんだね......』
何だか恭香の声が聞こえた気がするが気にしないでおこう。
そもそも、神様の言動をいちいち気にしている方がおかしいのではないだろうか? 普通に考えて身体が持たないだろう。
うーん、よし、決めた!
僕はもう何が起こっても気にしないことに.........
『うむ、その件じゃ、よく分かったのぅ。実は全能神から伝言を預かって来ていてのぅ.........聞くか?』
「はっ?」
どうやら神様相手に想定内、と言うのは不可能なようです。
ちなみにこの世界では、
"アダマス"という謎の金属を製造する為に神様たちが試行錯誤してできた存在が"アダマンタイト"
という設定になってます。
次回、少し恋愛に走ります!
.........多分少しじゃ無いですが、まぁ、お楽しみにっ!
 




