第73話
バトルシーンは苦手です......
魔剣。
その言葉だけを聞いたならば、
『魔人が作った剣』『悪い剣』『呪われた剣』
等というイメージが湧くだろう。
がしかし、この世界において『魔剣』というものは『魔法の剣』という意味で使われている。
───確かに呪われた剣もある事にはあるが、それは総数のうちの極一部でしかないらしい。
「それで? お前はその魔剣を召喚出来る、と?」
「あぁ、今は召喚出来るのは一つだけなんだけどよ? 正直、魔剣を一つ召喚するだけでかなりきついんだぜ?」
だ、そうだ。
『魔剣........私でも他人のステータスまで把握してるわけじゃないからね、まさかそこまでだとは思わなかったよ......』
どうやら恭香は他人のステータスまでは把握していなかったようだ。流石にそこまで行くとやりすぎ、とでも思ったのだろう───恭香を創った神様が。
それにしても魔剣か......聖剣と何が違うんだ?
(基本的には聖剣と対をなす存在なんだけどね。でも、正直聖剣の方が勝っている場合が多いよ?)
......ってことは、魔剣のちょい強化バージョンが聖剣ってことになるのか......うーん、よく分からんな。
そんな事を考えていると、恭香が、
『それにしても良かったね、マスター、マックス君。いい対戦相手が出来たみたいで』
「「............へ?」」
僕たちは思わず顔を見合わせるのだった。
☆☆☆
その数分後。
『気絶か降参、それと私のストップがかかれば試合終了、マスターは素手で魔導と攻撃用魔法の禁止、マックス君はなんでもありのハンデマッチ! 試合開始っ!』
恭香がノリノリでそんな事を叫びだした。
「って言われてもね.........」
「ひ、ひでぇハンデだな......」
今現在、僕はマックスと対峙している。
のだが、
『ちょっと! もう試合始まってるよ!?』
夜中のせいだろうか。テンションのおかしい恭香。
「ふぁぁぁぁぁっっ......眠すぎだろっ.........」
眠過ぎてそれどころじゃないマックス。
唯一無事なのが、夜中こそ我が世界ッ!と言わんばかりに体調が絶好調の僕のみ。
.........人選、間違えたか?
ま、まぁ、次回以降はどうなるかはまた考えるとして、
「どっかの誰かの聖剣(偽)がしばらく見ない間に強くなられていても困るしな。お前が構えないなら僕から行かせてもらうぞ?」
マックスに向かって軽い威圧を飛ばす。
「うおぉっ!? ま、マジかよ......結構本気......か?」
「なわけないだろ二割も使ってねぇよ.........あと十秒」
「なぁっ!?」
どうやら僕のマジ加減に眠気が吹っ飛んだ様子のマックス。
その間に両方の袖をまくり上げて変身スキルを使った。今回は両拳から肘にかけてをミスリルへと変身───というより材質変化に近いかな?
とにかく動きはそのまま、硬さと魔力順応度はミスリル、という天然防具の完成である。あぁ、因みにミスリル以上の金属は不可能でした。
マックスが掌をパシンッと合わせる。
そして次の瞬間、マックスの身体からは多くの魔力が吹き出す。
「我が声に従い顕現せよ!『魔剣ティルヴィング』ッ!」
マックスのその声がトリガーとなったのだろうか、彼の目の前に一振りの長剣が顕現しする。
黄金の柄に白銀の刀身。
それ以外、装飾も何も無い、ただの剣。
───逆に、機能性を追求し、他をすべて削ぎ落とした完全にして完璧な"武器"の究極形態、とも言えるだろう。
見た目はアーマー君のエクスカリバー(偽)の方が圧倒的に豪華で、美しく、そして何よりも光が強かった。
しかし、その差は歴然であった。
「お、おいおい、その剣の魔力だけでも四万くらいはあるんじゃないか......?」
その剣が発する魔力は少し前の僕の全魔力の半分に迫る程でもあったのだ。恐らくは、その全魔力を載せた一撃ならば、Sランクですら重傷、当たりどころや相性が良ければ一撃で沈められるだろう。
それほどまでの威圧感。
それがたった一振りの剣から発せられているのだと思うと、背中を冷や汗が伝う。
果たしてこの両手で防ぎきれるか?
そんな疑問が頭に浮かぶ。
でも、まぁ、
「ハハッ! 面白くなってきたっ!」
このパーティーには天才ばかりが集まっているようであった。
.........僕以外なんだけどね。
☆☆☆
「それじゃあ行くぜっ!」
マックスは全力で地を蹴り、ティルヴィングを振りかぶってこちらへと突撃してくる。
「なぁっ!?」
その早さに少し驚く僕。
もちろん油断も慢心もしていなかった僕は両腕を重ねて受けることが出来たが.........
「なぁっ!?」
僕の目が捉えたのは、僕の両腕を簡単に切り裂いている魔剣の姿であった。
咄嗟にバックステップで躱すが......
「.........ミスリルの腕を両腕とも切り落とすって、その魔剣、どんな切れ味してんだよ......?」
僕の両腕は肘の少し先の辺りから切断されてしまった。
───無論、一瞬で回復したが。
「なぁっ!? アレを一瞬でっ......恭香ちゃん! 普通の吸血鬼ってこんなに回復力あるのかっ!?」
『いや、ある程度はあると思えけど、下位種の吸血鬼なら全治まで二日はかかるよ?』
「だ、誰が才能ないんだよ! 滅茶苦茶じゃねぇかッ!」
.........その吸血鬼の両腕を簡単に切り落とした格下のお前は、もっと才能があるってことだろうが。
────それにしても切れ味良過ぎじゃないか? あの魔剣。
そんなことも思ったが、それより疑問があった。
「.........なんなんだ、あの速度?」
そう、あの踏み込みの速さだ。あの速度は、マックスのステータスからは微塵も考えられない素早さだ。
───ならば魔剣の魔力を使った身体強化か、それとも魔剣本体の能力か。いずれにしても注意する必要があるな。
「まぁ、恐らくは後者だろうが......厄介だな.........」
───今回の相手は完全なる未知数。
なんでも知ってる相棒は居ない。
もしかしたらあの魔剣には毒が塗ってあるかもしれない。
出血を増加させる能力があるかもしれない。
精神を壊す能力があるかもしれない。
確率での即死能力があるかもしれない。
僕には予想もつかない能力を持っているかもしれない。
ならば、少なくとも僕が油断も慢心も、
────敗北も許されない相手であろう。
なればこそ、僕も本気で相手をしなければなるまい。
────僕の本気ならぬ、僕の本領で。
「さぁ、正義執行だ!」
☆☆☆
瞬間、僕の身体を漆黒と深紅のオーラが包む。
「『なぁっ!?』」
魔力とも違うそのオーラに驚愕する、恭香とマックス。
そのオーラは、まるで竜巻のように、僕を中心として上へ上へと巻き上がる。その闇と炎は混ざり、混ざり合って夜の暗闇を照らしだす。
『な、なに......これ?』
あまりの光景に思わず声を零す。
恭香は、無いはずの身体中に鳥肌が立つ感覚を覚えた。
─────これはヤバイ、と、直感が告げている。
『ま、マスターぁぁぁッッッ!?』
そんな、彼女の叫び声が合図となったかのように、赤黒い竜巻が、一層強い光となって爆散する。
『うわっ!?』
「お、おいっ! 大丈夫なのかっ!?」
本である恭香でさえも、思わず目を瞑ってしまうほどの光量。
そして、その光が止んだ先には.........。
『し、死神様.........?』
「いや、僕だけど」
髪を白く染めた僕が立っていたのだった。
次回、執行者モードとは!?




