第69話
ギンVSエルグリッド
いや、昼間なのに勝てたら凄いですよね。
試合開始と同時に僕はエルグリッドへと駆け出した。
「『影纏』ッ!」
瞬間、僕の身体を膨大な量の影が纏う。
「「「なぁっ!?」」」
その魔力量にか、その姿にか。
騎士たちの驚く声が聞こえた。
ひとまずは小手調べだ。
油断も慢心もしないが、それでも最初からクライマックス、というわけにも行くまい。
僕は影を精一杯伸ばして、エルグリッドの視界を塞ぎながらも、今の状態での渾身の回し蹴りを撃ち込む。
が、
「ぬっ? なんだその魔法......なのか? 影......そうか! 影を操るユニークスキルか!」
気配察知だろうか?
僕の回し蹴りを軽く躱しながらも、僕の魔法の正体を宛ててくるエルグリッド。
......コイツ、頭切れすぎじゃないか!?
確かにヒントは与えたけど、言葉を発して十秒もせずに正解まで行き着くとか、尋常じゃないそくどだぞ!?
そんな驚愕もあったが、ボクは絶え間ない連打をエルグリッドへと放ってゆく。
が、簡単に躱してゆくエルグリッド。
「おうおう、執行者。お前、こんなもんだったのか? 夜じゃないとはいえ、この調子じゃ夜の状態でも俺が本気を出すまでもなさそうだぞ?」
その『本気』とは、ユニークスキルの欄にあった、『魔闘気』の事であろうか?
魔闘気
体力を消費する闘気と、
魔力を消費する身体強化。
理論的には混ざり得ぬその二つを同時使用することで、爆発的な身体能力の強化を自らに施す。
スキルレベルに応じて強化率が上がる。
まさに天才。
理論をも壊して先へと進むその才能は、正しく天才と呼ぶに相応しいものである。
が、
「僕だってこれが本気なわけがないだろう!『疾風迅雷』ッ!」
僕の体を雷と風が纏い、僕のスピードとパワーが数段階上がる。
しかし、これでもまだ足りないだろう。
「さらに『活性化』ッ!」
魔導
『活性化』
電流を身体中の全ての細胞へと流し込み、身体能力、防御力、反応速度などの、全ての能力を飛躍的に上昇させる。
疾風迅雷よりもさらに奥深くまで電流を流すため、一般人が使えば、最悪の場合は死に至る。
これは白夜や輝夜でも使用不可能な、諸刃の剣。
───まぁ、僕の場合は吸血鬼の回復能力に加えて死神の加護まであるから、全然問題ないんだけどね。
さらに数段階スピードが上がる。
流石にこれには驚いたのか、
「うぉっ!? な、なんだそりゃっ!? ちょ、早くねっ!?」
とか言いながらも一発も喰らわないエルグリッド。
「普通、躱すか? これ」
これ、通常時の数倍は早いんだけどな?
「うぉっ! か、躱さなきゃッ!? いっ!? 痛えだろうがっ!? あ、あぶねぇって!」
何だか余裕のなさそうに見えても、一発も身体に当たっていないエルグリッド。
「受け止めてすらいない奴が何を馬鹿なことを」
「あ? バレた?」
次の瞬間、また余裕な表情に戻るエルグリッド。
くっ、やっぱり演技かよ......
そもそも昼間の僕が、どれだけブーストかけた所で、夜間においての格上に勝てるはずもないのだ。
────この程度で余裕をなくしていたら、それこそ『偽装』ならぬ『演技』だろう。
そんな事を考えていると、
「まっ、バレちまったところで、そろそろ俺からも攻めさせてもらうぞ?」
そう言った瞬間、奴の姿が、消えた。
───いや、消えたように見えただけだろう。あまりの速度に。
(まっ、まずいっ!!)
咄嗟に『影化』を発動、
させた瞬間に弾け飛ぶ僕の頭部。
「「「「「はァァァァっっ!?」」」」」
白夜とエルグリッド、オリビアを筆頭とした叫び声。
......殺った本人まで驚いてんじゃねぇよ。
「あっ、主様ぁぁぁぁぁぁっっぅ!!」
「こ、国王様!? こ、殺しちゃったんじゃ......」
「や、やばくね? コイツが死んじゃったら、コイツの従魔たち、国を滅ぼすんじゃ.........」
あまりにも予想外の事態に思わず叫ぶ白夜と審判、やっちまった、と頭を抱えるエルグリッド。
くっくっくっ、油断していていいのかな?
突如動き出す、僕の首なし死体。
ゆらゆら、ふらふらと、首を探すかのように彷徨う様は、正に亡霊、幽霊、化け物の類のようで、
「「「「「「ひ、ひぃぃぃぃぃっっ!?」」」」」」
あまりの出来事に更に驚愕する一同。
驚いてないのは、恭香と、ニヤニヤしている輝夜のみ。
───確か、輝夜にはこの技で勝ったはずだしね。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっっ!? く、来るなぁっ! 俺の方に来るなぁっ!?」
叫び声をあげて地面に座り込む国王。
おや、もしかして、これ勝てちゃう?
......よし、勝っちゃおう!
正義執行してやるぜっ!
まぁ、スキルは発動しないけどね。
そうと決めると、亡霊モードで奴に近づく。
「うわぁぁぁっ!? く、来るなって言っているだろうがっ!!」
しかし、足を止めないデュラハン。
そして、
『く、びぃぃぃ、首....、ぼ、ぼぼぼ僕、の 首ぃぃぃ?』
「「「「「ぎゃぁぁぁっ!? 喋ったぁっ!?」」」」」
気絶する白夜とオリビア。
泣き始める騎士達。
それを笑いを堪えながら見ている輝夜。
恭香の呆れた溜息の幻聴?が聞こえる。
クハハハハハハッッ! ナイス演技だ!僕!
......やっぱ詐欺師の才能あるんじゃないかな?
その間もエルグリッドへと近づくデュラハン。
「ひ、ひっ、く、来るなぁっ......」
最早大声もあげられないエルグリッド。
『く、くくく、首ぃ? ぼぼく、ぼく僕の? 首ぃ......』
「「「「「ひ、ひぃぃぃぃ......」」」」」
狂ったビデオテープのように、『僕の』『首』『?』を連呼するデュラハン。
とうとうエルグリッドの目の前まで到達したデュラハンは、
エルグリッドの肩を両手でガシッと掴み、
─────そして、
「......見つけたァァァァ」
僕の影化が解除されると共に、エルグリッドは気絶したのだった。
今回の教訓。
異世界の人はお化けが苦手である。
向こうの世界にはスケルトンやデュラハン、ゾンビなどは居ますが、『幽霊』『亡霊』とか、そっちの類は居ないのです。
(魔物としては)確実に存在しないが故に恐ろしい、ということなんでしょうか?




