第67話
今回からまた主人公サイド
ゴンゴンと扉を叩く音が聞こえる。
「おいっ! 主様っ! 朝じゃぞっ!」
『もう8時だよ? ご飯だから起きてー!』
「クハハハハハハッッ! ギン殿は朝が弱いのだなっ!」
悪魔共の笑い声が聞こえる。
少し、目を開けると、カーテン越しに僕の顔へと陽の光が当たっているようだった。
「......まだ朝じゃねぇか」
ばっ!とカーテンを閉める。
何をそこまで必死になって起こそうとしているのか、全くもって意味がわからない。うん、これはきっと虐めだ。悪魔共が僕の睡眠を邪魔しようと妨害しているに違いない。
そもそも僕は、『朝』という単語自体が好きではないのだ。
『希望の朝』という単語を聞いた時は吐き気がしたね。
朝に何を求めているんだ、お前達は。
普通に考えても見ろよ、朝だぜ?
朝になれば何がある?
そう、学校だよ。
学校がなくとも仕事だろう。
朝起きて、学校や仕事に向かう。
どこに希望があるのだろうか? 教えてほしいものだ。
学校へ行き、クラスの誰とも話さない奴の気持ちにもなって欲しい。
クラスへ行き、自分の席に座ろうかと思えば他の女子がそこに座って雑談していた時の絶望感。
どうしようかと悩んでいれば「あ、ごめんなさい」と言って退けてくれた時の申し訳なさ。
その女子が僕の隣に立って、また更に隣の女子と話している時の更なる申し訳なさ。
何となくその話を聞いていたら名前を呼ばれ、思わず返事したら別の人の事だった時の羞恥心。
そして、最後に訪れる、孤独感。
君たちは知っているのか?
その時に味わう孤独感の味を。
僕はわざわざ朝に起きてまで、そんな嫌な気分にはなりたくないね。うん、絶対に嫌だ。
「だから僕は学校へは行かないとここに誓おう。さようなら、悪魔たち。おやすみなさい」
「「『.........』」」
結局、テレポートで僕の部屋の中に転移してきた白夜によって、僕の睡眠は妨害されたのだった。
☆☆☆
少し時間は進んで、食堂。
何故先ほどのような事態に陥ったか、と言われれば、それは昨日の夜にまで遡ることとなる、と言っても一言で済むのだが。
輝夜と一緒に寝るのは流石に理性が持ちません、僕とレオンだけ部屋を変えてください。
と、ルーシィに頼みこんだ結果である。
空き部屋に僕とレオンだけ引っ越したのだ。
まぁ、それはいいとして、
「んで? 何? せっかく前回いい感じに締めたんだから、今回は数ヶ月飛んでても良かったんじゃないのか?」
そう、せっかく前回はいい感じに締めたのだ。
今回はプロローグちょい手前くらいまでは進んでいても良かったのではないか? オリビアとバトりました、領主の所行きました、国から誰か派遣されてきました、それ+αでちょっと依頼こなしましたー、って言って、それで終わりでよかったんじゃないのか?
「うむ、それがな? 妾たちに客が来たのだ。まぁ、もう帰ったのだが、伝言を伝えられてのぅ」
「はぁ? 客? なに? この僕様の眠りを妨げてまで相手をする必要のあるレベルの奴なの? 今からこの国の王様と会談があるとか? 小国の王様程度なら真正面から暗殺するよ?」
『......朝だからかな? すっごい変なテンションしてるね』
......自分でも分かってるって。僕様って何だよ。
「う、うむ.....実はブルーノ殿からの伝言での?『国からの返事が来たので、今日中に迷いの森の駐屯基地まで来てほしい』との事じゃ」
はぁ、国か......。
あの時は変なテンションで喧嘩売るような真似をしちゃったけど、実際この国滅ぼしてもなんの得にもならないんだよね......。そもそもこの国の飯が食えなくなる時点でこの国、守っちゃおうかな? って思い始めちゃったし。
あぁ、やっと目が覚めてきた。
「って事は、国から誰か派遣......はこの短時間では不可能か。あの基地の誰かが僕たちの監視に選ばれた、って事と向こうからの条件が決まった、ってことかな?」
『まぁ、そうだろうね。この短時間で連絡を取り合ったって事は、恐らくは奥の手を使ったんだと思うけど、それでも人を派遣するなんて不可能だと思うよ? 少なくともルーシィさんレベルの実力者でなければ』
奥の手......? 死神のオーブみたいなものがあるのだろうか?もしそれなら確かに短時間で連絡を取り合えるが、それこそ人を送るなんて不可能だろう。
なら、何かの乗り物か、もしくは転移魔法陣?
ルーシィ並の実力者、って事は十中八九とんでもない乗り物なのだろうけれど、まぁ、転移陣による負担も考えられるかな。
まぁ、どっちでもいいか。
『......朝だからかな? すっごい頭が冴えてるね.....』
ふっ、僕が冴えてるのはいつもの事だろう?
『ごめん、まだ寝惚けてたみたいだね......』
「......まぁ、いいや。まぁ、今日中に駐屯基地へ行けってことだな? それじゃあとっとと行くか」
「ん? ギン殿ならば夜に行くから今は寝かせろ、とか言うのだと思っていたがな?」
まぁ、普段ならばそんなことも言うのだろう。
ただ、まぁ、これでも僕は、このパーティのリーダーなんだ。そんな僕が皆より弱いだなんて、正直嫌だからね。
恭香はまだしも、白夜、輝夜、それにレオン。
誰も彼もが僕とは違って、とてつもない才能を秘めている。
確かに、僕には創造神の加護があるから、潜在能力だけならば大量にあるのだろうが、それも天才たちの前には無意味だろう。
ならば、昼は無理でも、夜くらいは修行に宛てておきたい、そういう理由だ。まぁ、言わないけどね。恥ずかしいから。
───って言っても、きっと恭香にだけはバレてるんだろうね。アイツなんて常に僕の心を読んでるし。
(まぁね)
......是非とも秘密にして置いてください。
(じゃ、貸し一つってことで)
.........全然貸しになってねぇぞ?
ただ単純に一つ願いを聞け、ってことじゃねぇか。
はぁ、まぁいいけどさ。
「ま、夜は冒険者友達と呑む約束してるからな。用事は昼に済ませておきたいんだよ。それじゃ、飯食ったら行こうか」
「なぁっ!? ギン殿は友達が出来たのか!?」
「ふん、お前らと一緒にするなよ? 僕は向こうの世界では街一番のリア充だったからな? 黒髪ロングの美人幼馴染みに、茶髪ポニーテールの彼女、そしてニートな妹。そして男みたいな美人な悪友。もうそれはそれはすんばらしいリア充生活を送ってたんだぜ。二つ名が『ハーレムキング』だったからな? クハハハハハハッッ!!」
ちなみにほぼ全てが嘘である。
酷い妄想である。
「な、なんじゃとっ!? か、か、かか、彼女っ!?」
「何だ白夜? 嫉妬か?」
「そ、そんなわけないのじゃっ! そ、それより彼女がいたというのは本当かっ!?」
『多分嘘だよ?』
「何ぃぃぃぃぃっ!? た、謀ったなぁっっ!?」
「クハハハハハハッッ!」
まぁ、そんなこんなで、僕たちは駐屯基地へと再び行くこととなったわけだが......
☆☆☆
それは、街を出てしばらく経った後の出来事だった。
「なぁ、あんた達、ここら辺に迷いの森の駐屯基地ってのがあるはずなんだが......知らねぇか?」
僕たちがちょいちょい出てくるゴブリンを倒しながらも進んでいると、とある冒険者風の男に、そう尋ねられたのだ。
男は水色の髪をオールバックにしており、輝夜程ではないにしてもかなりの長身であった。如何にも鍛えてます、といった感じであった。
......一応鑑定しておくか、危険人物かもしれないし。
(『鑑定』!)
名前 エルグリッド(48)
種族 人族 (半神)
Lv. 36
HP 10600
MP 9600
STR 12000
VIT 5400
DEX 6200
INT 9200
MND 3100
AGI 13100
LUK 56
ユニーク
なし
アクティブ
水魔法Lv.2
風魔法Lv.2
身体強化Lv.3
パッシブ
拳術Lv. 3
格闘術Lv.3
体術Lv.3
馬術Lv.2
礼儀作法Lv.1
気配察知Lv.3
危険察知Lv.2
称号
謎の旅人 神童 世界一怪しくない人物
あ、怪し過ぎるッッ!?
な、なんなんだこの人? し、神童とか.....。
いや、それよりもなんだ!? この最後の称号......
世界一怪しくない人物
エルメス三世により、『怪しくない』と認められた証。
最早疑う要素は皆無。もしもこの称号の持ち主を疑うような輩がいた場合は、間違いなく皆から笑われるであろう。
というか信じられない。頭沸いてんじゃないの?(笑)
......恭香、この人って信じていいのかな?
(この人を信じずに誰を信じるのさ?)
そ、そうですか......。
ほ、ホントに後になってから『信じなきゃよかった!』とか言っても知らないからね!?
(いや、この人なら絶対大丈夫だって)
......その自信はどこから来ているのでしょうか。
はぁ......ほんとに知らないからな?
「それなら僕たちも今から行くところなんで、一緒に行きますか?」
「おお! いいのか? 助かるぜ!」
まぁ、そんなこんなで僕たちは『謎の旅人』エルグリッドと出会ったのだった。
────彼の正体が誰なのかも知らずに。
(......私は知ってるんだけどね?)
エルグリッドとは......?
次回! エルグリッドの正体が明らかに!?




