閑話 勇者たちの行く先は
どうやら勇者サイドも物語が着々と進んでいるようですね。
この閑話の後に登場人物(勇者)を出しますので、この会話は誰のかなぁ? という感じでご覧ください。
水井幸之助。
かつて、自分は正しいと思いこみ、自らの幼馴染みを自殺へと追いやった人物。
───そして、彼が生まれて初めて激怒した原因でもある。
☆☆☆
友達のいなかったギン───今は銀と呼んでおこうか。彼はほとんど友達が居ないにも関わらず、大学内、いや、町内でもかなりの有名人であった。
何故なら、
どんな人の悩みでもしっかりと聞いてくれ、それがどんな問題でも九割程の確率で解決へと導いてくれる。
という噂が流れたためである。
その噂を聞きつけたのか、彼の受け持っていたカウンセリングには一般人までもが訪れることもあった。その一般人の問題すらも解決してしまったため、更に新たな噂が広まる。という感じになっていったのだ。そうして彼の噂は瞬く間広まっていった。
───まぁ、本人は知らないのだが。
曰く「嫌な顔ひとつしない」
曰く「真剣に聞いてくれる」
曰く「一緒になって考えてくれる」等々。
それはひとえに彼の性格のお陰だろう。
くだらない事であっても、銀には『あぁ、この人は本気で悩んでいるんだな』と分かっていたため、親切丁寧に最後まで付き合って解決していったのだ。
────そんな中、町にとある噂が流れた。
「銀君が、理性を無くすほど怒って、怒鳴っていた」と。
そのあまりの衝撃に、彼の元患者たちは彼について調べた。
──そして、知ってしまった。水井幸之助と、その事件を。
その噂は瞬く間に広がり、銀自身が水井幸之助を見つけ出す前には、もう既に警察が動き出していたほどである。
そこからも彼がどれだけ信用されていたか分かるだろう。
結局彼が背負ったのは、四十万の賠償金と一年の懲役。
───まぁ、そんなわけで水井幸之助は捕まった。
のだが、
当日、水井幸之助は21歳、銀は18歳であった。
そして現在、ギン19歳。
あれからちょうど1年が経った。
銀が向こうで死んだことになって、穂花が家に閉じこもっていた1日間。その間に、奴は釈放された。
そうして水井幸之助は異世界召喚に巻き込まれたのだった。
☆☆☆
「ほら! 僕のステータスを見てくれ!」
そう言って水井幸之助は自らのステータスを可視化させた。
名前 水井幸之助 (22)
種族 人族
Lv.1
HP 580
MP 160
STR 180
VIT 420
DEX 60
INT 140
MND 380
AGI 280
LUK 21
ユニーク
聖剣ミスティルテイン(偽)
会得経験値2倍
アクティブ
光魔法Lv.1
パッシブ
精神攻撃Lv.5
聖剣術Lv.1
危険察知Lv.1
全属性耐性Lv.1
称号
勇者(笑) 正義の味方
「「「「「............」」」」」
どこかで見たようなステータスである。
いや、まだこの時点では、ギン本人も彼とは出会っていなかったか。
───まぁ、ステータス以外は完全に偽物である。
が、
「ゆ、勇者様っ!」
聖女はそう言って水井の腕に抱きついた。
「称号とユニークスキルの所にある(笑)と(偽)のことはよく分かりませんが! きっと貴方が勇者に違いありません!」
聖女の目は節穴であった。
「うわぁっ、や、やめてください! は、恥ずかしい.....」
「うふふ、勇者様はウブなのですね♡」
「そ、そんなことないさ。君があまりに美人だったから......つい」
そう言って聖女の頭を撫でる水井。
......おい、お前好きなやつ居たんじゃないのか?
そう問いたくなる現状だった。
「あっ......」
「あっ! ごめん! つい僕の幼馴染みと勘違いしちゃって.........はは、その子はもう居ないのに、何を言ってるんだろうね、僕は...」
「よ、よく分かりませんが! 私でよければいくらでも撫でてくださって結構です! そ、それに.........気持ちよかったですし」
「え? ごめん、聞こえなくて......」
「い、いえっ、な、何でもないですよっ!」
あれ、この話の主人公は難聴系のイケメンでしたっけ?
と思わせるようなラブコメが始まった。
そんな中、聖女にもの申すシスターさんがいた。
「せ、聖女様っ! そ、その方はおそらくは勇者ではないのでは無いでしょうかっ!? 明らかにステータスの称号がおかしいです!」
周りの司教や大司祭も陰ながら頷いている。
やはり目が節穴なのは聖女だけのようだった。
だがしかし、
「......マリア、今、なんと言いました?」
いつになくドスの効いた声を出す聖女。
そして、
「私がッ! この私がッ! この方が勇者と決めたのです! 神の御使いであるこの聖女の私がですよっ!? それをあなた如き司祭がッ! くっ! 貴女には期待していたのですがね......聖騎士さんたち! マリアと偽物の勇者たちを今すぐ追い出しなさいっ!」
「「「「「「「.........はっ?」」」」」」」
突如ヒステリックになった聖女。
その、あまりの暴論に、命令された聖騎士どころか、他の司教、大司祭、それに穂花たちまでが呆然と立ち尽くす。
何故か覚悟を決めたような表情の水井。
「僕は魔王を倒さなきゃ行けないからね......みんなを守るためにも、ここは非情にならなきゃ......」
......この人たちは、何を言ってるんだ?
穂花は思った。
「早くなさいっ! 貴方たちも私に楯突くのですかっ!? 間違いなく神の天罰が下りますよっ!?」
「「「「ッッ!? は、はっ!!」」」」
狂っている。
一人の我が儘な人間の元に成立する上下関係。
彼女が有ると言えば有る、彼女が無いと言えば無い。
───そんな馬鹿なことが成り立っている現実に、穂花はそんな感情を抱いた。
「ま、待てっ! なんで僕たちまでっ!」
そんな事を言ったのは、誰だったろうか。
それに対して、水井は
「ごめん、僕は選ばれたんだ。皆を守る使命を授かったんだ......。だから......ごめんっ! いつかっ、みんなで笑って暮らせるような世界をつくるからっ!」
「おいっ! 帰るって選択肢は......ぐはぁっ!?」
「黙れっ! 聖女様の御前であるぞっ!?」
いくら勇者と言えども、現役の聖騎士たちにはかなうわけもなく、穂花たち───残りの16人とシスターマリアは、ミラージュ聖国の神殿前へと、無一文で放り出されたのだった。
☆☆☆
「よし、演技もこれ位でいいでしょうか?」
そんな声をあげたのは先ほど叫んでいた眼鏡の七三分け───名前を、御厨友樹と言う。
「まぁ、上手く抜け出せたのだし、結果としては良かったのでは無いかしら?」
そう同意する鮫島。
「いやぁ、それにしてもナイス演技だったぜ御厨!」
「私もびっくりしちゃったよ」
「ふっ、計算通り、というわけさ」
「くっくっくっ、異世界巻き込まれ召喚か! こっちには面白いことがありそうだぜ!」
「うわ、久瀬が何か言ってるよ......」
「綺麗なお花畑........」
「う、浦町さん? 大丈夫ですの......?」
「いや、いつもの事だろ。そんなことよりさ......」
突如元気になる一同。
何故なら、
「神様から現状教えて貰ったんだけど.....それって俺だけ?」
「「「「「「「俺(私)(僕)もだけど?」」」」」」」
神様に金の稼ぎ方や大陸の地図、世界情勢等を、生活していく上で必要な分だけ教えて貰っていたのだ。
───これだけの戦力が全員ミラージュ聖国についてしまえば、世界がひっくり返る可能性が無くもない、と神々は考えたのであろう。
しかし、哀れなというか、惨めというか、馬鹿な彼は、破壊神に向かって『お前のことは信じない! この悪めがっ! 黒幕めっ!』と言い放ったため、何も知らなかった、というか教えてもらえなかったのだ。
良くぞ我慢した破壊神である。
まぁ、きっと創造神の『殺すのはいかんぞ? もしそんな奴がいてもそのまま送り出すのじゃ。ほっほっほ、"幸せな奴ほど地に伏した姿は面白い" という言葉もあるのじゃよ。ほっほっほ!』という言葉を思い出したのだろう。
どっかの誰かと思考回路が似ている創造神である。
───獲物は一番調子に乗ってる時に潰せ、という考え方が。
「それでは、これからどうするかね?」
そう問う御厨。
「あぁ、そう言えばマリアさん......でしたっけ? 貴方もどうするの?」
一緒に追い出されたマリアにそう聞くのは小鳥遊優香。黒髪ポニーテールの剣道少女である。
「ええっ!? わ、私も話に加わっていいんですかっ?」
「ん? まだあそこに戻りたいのか?」
超大柄の、小島拓哉がそう聞き返す。
「い、いえ......神様は信仰しているんですが......」
「うーん、この中に本物の勇者、居るんでしょ? その人について行ったらいいんじゃないかな?」
逆に小柄な、倉持愛華がそう提案する。
「それでは、皆で行動するのも何ですし、幾つかのパーティを組んで別行動。マリアさんはその"真"の勇者とやらについて行く、ということで宜しいですか?」
「「「「「おーけー」」」」」
「わ、わかりましたっ!」
全くもっていつも通り。
異世界に来たことに関して何の不満も不安もない。
そうとしか見えない16人。
それは、神から事情を説明されてきたと言うだけでは説明の付きようが無かった。
────正直に言って、異常な光景である。
ギンが死神から『大学のメンバーが勇者召喚された』と聞かされた時、なんと考えたか、覚えているだろうか?
それは、
『あぁ、それはご愁傷さま』
あの頭のイカれたメンバーを召喚してしまうなんて。
ということであった。
もしかしたらミラージュ聖国は日本人の誰かの手によって滅ぼされるのかもしれない。
☆☆☆
「「「「「い、生きてるッ!?」」」」」
「う、うん。よく分からないけどこの世界でなら会えるって言ってたよ?」
あの後、パーティ決めを行った後、穂花は銀についてみんなに話した。
「くっくっくっ、アイツ、俺より早くこっち来てんのかっ!」
子供のようにそう笑うのは久瀬竜馬。
チーレム小説の戦闘狂主人公のような奴だ。
「ふっ、僕の尊敬する銀君がそう簡単に死ぬとは思ってませんでしたよ。計算通りです」
「いや、御厨君って銀君の事尊敬してたんですの?」
困惑気味に話しかけるのは鳳凰院真紀子。ルーシィと同じ髪型のお嬢様だ。
「ふっ、当たり前ですよ。あの一匹狼のような鋭い目。最近なんて常にそんな目をしながら本を読んでいるんですよ。あれはただ者では無いと直感しましたね」
ただのラノベの挿絵を見ているだけである。
しかも露出の多い幼女の挿絵である。
「そ、そうかしら......? ま、まぁ、いいですわ。ま、まぁ? 死んでいてもよかったのですが? というか死んでいた方がよかったのですが? 生きているなら探さねばなりませんわね? ええ、仕方ありませんわ」
「あれれ? 銀君死んじゃったって泣いてなかった?」
「うるさいですわよっ! 愛華さんっ!」
「ふふふ、鳳凰院さんは銀君の事大好きだもんね?」
「桃野君もうるさいですわっ!」
「まぁ、鳳凰院君の恋愛などどうでもいいのですが」
「どうでもいいッ!?」
白夜と扱い方が似ている鳳凰院であった。
「それでは僕たちのパーティはまずはこの国を出る、ということでいいですか? 久瀬くん?」
「あぁ、ギルドに登録して魔物を狩ってもいいんだがな。水井の野郎と一緒になったらいやだろ?」
「「「「「「「あぁ、確かに......」」」」」」」
「それじゃ、私のチームもご一緒してよろしいかしら? 私たちもこの国を出たかったのですわ」
「えっ? 僕のパーティもなんだけど......」
「「「「「............」」」」」
こうして勇者16人────穂花パーティ、久瀬パーティ、鳳凰院パーティの3パーティは、一緒にミラージュ聖国脱出を目的とし、動き出したのだった。
水井君と聖女さんの頭の中はお花畑です。
浦町さんが言っていた、「綺麗なお花畑」というのは彼らの頭の中の事でしょうかね?
※水井君たちの頭の中は作者にも分かりません




