閑話 勇者たちと神々の会話
閑話ってのは難しいですね......。
それはギンたちが転移魔方陣に乗ったのとほぼ同時の出来事である。
ミラージュ聖国の大神殿にて、聖女や大司祭たちは、勇者の召喚に成功していた。
───その儀式の生け贄として、亜人を何十人も捧げて。
「おお! 勇者召喚に成功いたしましたぞ!?」
「おおっ! それも一人ではありませんなぁっ!」
「素晴らしい! 流石は聖女様っ!」
「ふふふ、これも神のお導きです」
「「「「......え?」」」」
召喚されたのはとある大学の生徒達17名。
その中には、桜町穂花、堂島紗由里、鮫島美月の姿もあった。
───それに加えて、とある男の姿も。
「勇者様方っ! どうか悪しき魔王を討ち取り、魔族を滅ぼして下さいませっ!」
そう彼らに言ったのは長い金髪に翡翠の瞳、その上から上質な修道服を着た、正に天使のような人物───聖女であった。
一度見ただけで全ての人を魅了するその容姿。
太陽のように輝くその笑顔。
まるで聖母のような言動。
どこを取っても良いところしかないように見える彼女にお願いされた生徒達の答えは、もう既に決まっていた。
「「「「「ねぇ、それより帰してくれない?」」」」」
「......はっ?」
もちろん拒否であった。
────ひとりを除いて。
☆☆☆
その頃天界。
「ほっほっほ! これまた面白い奴らが来たのう、ワシ、面白くなってきちゃった!」
まるで子供のように騒ぐおじいちゃん───創造神である。
「いや、俺様も何人かの召喚前の事情説明をしたが......誰一人としてまともな奴がいなかったぜ? アイツら......大丈夫か?」
そう答えるは、長身の白髪の女性───死神だ。
......何故かその手は血に塗れていた。
理由は聞いてはならないだろう。
「いやいや、大丈夫じゃねぇだろ、アイツら。俺なんかよりもよっぽど頭がイかれてやがるぜ? 特にあの男、正直言ってあの場でぶっ殺したくなっちまったぜ」
「あらあら、破壊神がそんなこと言うだなんて、よっぽど頭が沸いている子だったのね......」
そう話すは禍々しいオーラを放つ超大柄の紫髪の男──破壊神と、膨大な魔力を身体に纏う蒼髪の女性──魔導神であった。
「だってアイツ、説明しても『お前の様な悪い奴の話が聞けるかッ! 俺は信じないぞっ!』っ言って聞かねぇんだぜ? 確かに昔は破壊しまくってたからこんなナリだけどよぅ......ひどすぎやしねぇか?」
「アッハッハッハッハッ! なにそれ! お前人間に馬鹿にされたの!? 神様なのに!? アッハッハッハッハッ!!」
腹をかかえて破壊神を笑っているのは、赤い髪に日に焼けた肌を持つ、これまた長身の女性
「うるせぇ鍛治神! テメェはアイツと話してねぇから分かんねぇんだよ! 何なら今から呼び戻して話すかぁ? あぁ?」
「いや、遠慮するよ。ボクはそんな面倒臭い子嫌いだし」
「あぁん? テメェ、俺に喧嘩売ってんのか? そうなんだろ?」
「やだなぁ、身長250センチ越えの破壊神に向かって喧嘩売れるのなんて、死神ちゃんとか闘神ちゃん、それに邪神ちゃんに竜神くんくらいでしょ? あぁ、実力ならおじいちゃんたちも行けるかな?」
「うっせぇ! ぶっ殺してやる!」
「きゃぁー、犯されるぅー(棒)」
瞬間、破壊神の身体から圧倒的なオーラが吹き出し、全てを破壊せんとばかりに周囲を暴れまわる。
目を見開いた鍛治神も、咄嗟に一振りのハンマーを生み出す。
正に一触即発。
しかし、
「ほっほっほ、喧嘩もそこらでやめておけ。本気でやるならワシも参加するぞい?」
その場にそぐわない、老人の一言。
瞬間、破壊神と鍛治神の周囲の空間に、無数の"聖剣 ミスティルテイン"が生み出され、彼らに狙いを定める。
───そして、
「「ちょっ!? す、ストップ! 喧嘩やめるから!」」
「ほっほっほ、ならば良いのじゃが。せめて場所くらいは弁えろよ?」
「「わっ、分かりましたっ!」」
正に圧倒的。
鍛治神でさえも、輝夜を一撃で沈める程の強さを持っているのにも関わらず、彼女よりも圧倒的に強い破壊神をも指すら動かさずに殺しうる力。
────それに、あれらの"聖剣ミスティルテイン"は全て本物であった。
それこそが最高神である証拠。
全ての神の上に立つ者の一人である創造神だからこそ出来る芸当であった。
「ほっほっほ、何だか面白くなりそうじゃわい!」
創造神は、またも子供のように笑って水晶玉の中を覗き込む。
さて、向こうはどうなっているかな? と。
☆☆☆
一方、ミラージュ聖国では。
「と、とりあえず事情を説明させて頂きますわね?」
あの後、何とか"聖女"という仮面を被り直した聖女。
───と言っても、内16人には既にバレているのだが。
「まず、こちらの世界は......」
「知ってるわ。私たちは神様から直接聞いてきたもの。貴方がたのような私たちを拉致した張本人なんかよりもよっぽど信頼できるわ」
そう、ピシャリと跳ね除けたのは鮫島。
青みがかったツインテールをイライラと揺らしながらも聖女を睨め付ける。
「それにしても鮫島さん、ツインテール似合ってないわね」
「あーほんとだ! ツインテール似合ってない!」
全く関係ない所で騒ぎ出す女子共。
「こっ、これは銀さんに言われて......」
「「「ひゅーひゅー!」」」
「うっ、うるさいわねッ!」
最早聖女たちは蚊帳の外だった。
「あ、あのぅ......」
口の端をピクピクと痙攣させながらも声をかける聖女。
化けの皮が剥がれかけていた。
「何? 何か用かしら?」
「せめて話だけでも......」
「......まぁ、それ位なら許してあげるわ」
最早聖女より上に立つ鮫島。
彼女もギンの死によりイライラしていたのだろう。
明らかに不機嫌そうな顔に、身が凍るほど冷たい目をして聖女を見つめている様は、正に女王。
ギンはとんでもない女の心のケアをしてしまったのだ。
「は、はいっ....と、とりあえず『ステータス』と...」
「「「「「「「『ステータス』」」」」」」」
最早最後まで話を聞いてくれない聖女。
名前 桜町 穂花 (19)
種族 人族
Lv.1
HP 150
MP 60
STR 300
VIT 150
DEX 330
INT 200
MND 210
AGI 410
LUK 120
ユニーク
聖剣召喚Lv.1
会得経験値2倍
アクティブ
火魔法Lv.1
風魔法Lv.1
光魔法Lv.1
鑑定Lv.1
偽装Lv.5
パッシブ
聖剣術Lv.1
体術Lv.1
気配察知Lv.1
危険察知Lv.1
全属性耐性Lv.1
称号
勇者 聖剣の担い手 死神の期待
名前 堂島 紗由里 (19)
種族 人族
Lv.1
HP 100
MP 610
STR 40
VIT 80
DEX 210
INT 500
MND 350
AGI 200
LUK 140
ユニーク
神聖魔法Lv.1
会得経験値2倍
アクティブ
水魔法Lv.1
風魔法Lv.1
鑑定Lv.1
パッシブ
杖術Lv.1
気配察知Lv.1
危険察知Lv.1
魔力察知Lv.1
全属性耐性Lv.1
料理Lv.1
称号
巻き込まれし者 神の癒し手 運命神の期待
名前 鮫島 美月 (20)
種族 人族
Lv.1
HP 180
MP 350
STR 210
VIT 150
DEX 400
INT 380
MND 120
AGI 310
LUK 90
ユニーク
精霊魔法Lv.1
会得経験値2倍
アクティブ
水魔法Lv.1
風魔法Lv.1
鑑定Lv.1
パッシブ
槍術Lv.1
体術
気配察知Lv.1
危険察知Lv.1
魔力察知Lv.1
全属性耐性Lv.1
称号
巻き込まれし者 氷の女王 精霊神の期待
あっ!!
穂花はステータスを見た途端に偽装Lv.5を使って『勇者』『聖剣召喚』『聖剣の担い手』の三つを隠蔽する。そして新たに『巻き込まれし者』の称号を偽装工作する。
(や、やっぱり......死神さんにこのスキル貰っておいてよかったぁ......)
偽装Lv.5
偽装スキルを極めた者のみが習得できる。
自らのステータスはもちろん、他人や物のステータスまでもを完全に偽装することが可能。
Lv.5の鑑定スキルでさえ、完全に見破ることは不可能。
P.S. くっくっくっ、お前にはこのスキルが一番だろう?
そんな事を思わずには居られなかった穂花である。
☆☆☆
何故、穂花にそんなスキルがあるのか。
それについて語るためには、少し時間を遡る必要がある。
それは死神がギンとの再会を果たす、少し前の事。
死神と穂花がであった時のことだ。
「か、神様?」
「あぁ、俺は死神ってんだ。宜しく頼むぜ?」
......何を言っているんだろう? あぁ、頭がおかし.....
「くねぇよ! お前、いきなり何を考えていやがる!?」
「ええっ!? 今言葉に出してたっ!?」
い、いや、僕は考えてただけで言葉には出していないはず.........え? じゃあ本物?
「ったりめェだ!」
「えぇっ!? ほ、ほ、ほほ、本物っ!?」
これが、彼女たちの最初の邂逅であった。
☆☆☆
「そ、それで、神様が僕に何の用なの?」
何とか落ち着いた僕は、死神さんに向かって話しかけた。
何だかよく分からないけど、きっと僕に用事があるんでしょ?
「......お前もタメ口か。なんか似てるよな、お前達......まぁいい、正確にはお前達の大学に所属している19人、に用があるんだ」
ぼ、僕たちの大学......?
......あっ!? あ、あの時のっ!
た、確か僕たちの真下に何かの模様みたいなのが浮かんで......
「そう、それだ。お前らは大学の食堂で、異世界からの召喚、に行き遭った。お前はこれから違う世界に行っちまう、ってことだな」
ええっ!?
そ、それって最近、銀が見てた小説みたいなやつ......?
「まぁ、そう考えて貰っていいさ。魔物がいて、人間以外の種族がいて、魔法があって、それでいて科学が発展してない世界。そんな世界だ」
それは、正に銀が見ていた小説の世界だった。
『なぁ見ろよ? こんな世界がどこかにあるかもしれないんだぜ! もう考えるだけで興奮してきちゃうだろ!?』
『あぁ、僕、生れかわるとしたら吸血鬼になるんだ。だって学校来なくてもいいでしょ? 日中出れないし』
『あぁ、魔法使いたいなぁ......あぁ、三十歳を迎えたいって訳じゃないからな?』
『くっくっくっ、僕が異世界行ってハーレム形成したらお前も加えてやるよっ!』
『幼女に囲まれたい、切実に』
生前に銀が話していた内容だ。
───内容は酷いけどね......。
その時の銀の浮かべていた笑顔が思い出される。
「......そんな世界があるんだね......、銀にみせてやりたかったなぁ.........ううっ」
もう、枯れ尽くしたと思ってた涙が、僕の目から溢れる。
「ご、ごめんね、死神さん.......ぐずっ.....こ、こんなこと言っても......ううっ......し、仕方ないよね.....」
だけど、願いが叶うなら、その世界で楽しく生きている銀を、見てみたかったなぁ......
「......感傷に浸ってるところ悪いんだが、その世界に行ったらその"銀"とやらに会えるぞ?」
「えっ?」
☆☆☆
その後、死神は穂花に言った。
『会う方法までは教えんが、向こうへ行って模索しろ。そうすれば奴に会えるかもしれんぞ? くっくっくっ、そのためにひとつだけ手助けをしてやろう。特別だぞ?』
と。
そうして"手助け"にスキルを貰い、現在に至るわけだ。
「おそらくは誰か一人に『勇者』の称号がある筈です! もしもそのような表記がございましたら......」
元々、勇者召喚とは、一人の勇者を召喚するものである。
だが、馬鹿な聖女は亜人を生贄にしすぎたのだ。
───だから他の16名まで一緒に召喚してしまったのだ。
そもそも、勇者である穂花が自分のステータスを偽装しているのだから、勇者など現れるわけが......
「あったぞ! 僕の称号に勇者の文字がある!」
「「「「「.........えっ?」」」」」
勇者とは穂花の事である。
それを知っていた穂花自身、
それに加えてその声の主を見た人たちも驚きの声をあげる。
その男はハーフのような整った顔立ちに、金髪の髪。
鎧でも着れば『聖騎士』にでも見えるのだろう。
だが、残りの16人は、彼を見た途端顔を顰めるのだった。
「「「「お前も来てたのか......人殺し」」」」
彼の名は、水井幸之助。
かつて、幼馴染みを自殺に追いやった人物であった。
おや、何処かで聞いたような......?
※すいません、偽装スキルが堂島さんの方に入ってたみたいです。修正しました。




