いつか未来の物語
【よく、諦めませんね。あなたも】
声が響く。
もう、幾度訪れたのかも忘れたくらい。
僕は、この世界へと入り浸っている。
場所は、誰かさんの心象世界。
風景は、僕の心の中にある『ソレ』に似ていたし。
何だったら、まだ僕が多彩だったころに使っていた『空間』そのものだ。
「諦める諦めない以前に、人の心の中に居座るのやめてくんない?」
【拒否、します。嫌なら力づくで退かせて、みては?】
神霊王イブリース。
時間軸などお構いなしに。
並行世界、異世界なんかも関係なく。
どこにでも、当たり前のように居座る怪物。
紛うことなき――最強。
学園での生活……まあ、ちょっと気に入っちゃって150年くらい居たけれど。
ほったらかしにし過ぎたせいで、ブチぎれた仲間たちが学園に殴り込みに来たりもしたけれど。
あの後、みんなでまた旅をして。
忘れられていたはずが、また伝説として名を遺しちゃったりもして。
色々と……それはもう色々と会ったけれど。
ついぞ、神霊王だけは見つからなかった。
で、どこにいるのかと思ったら……まさかの自分の心の中だ。
何だよソレ、何でもアリかよお前。
そう言ってみたところ【綺麗な場所、でしたので】とのこと。
ああそう。ちょっと照れるからやめてくれませんかね。
閑話休題。
「オーケー。ようは普段通り、ってことだろ?」
【1013戦、私の、1013勝。勝てないと身に染みて、分かったはずですが?】
……そんなに戦ってんの、僕?
ちょっとやり過ぎじゃない、とは思うけれど。
こうして、最強を目の前にして。
相も変わらず反則の権化みたいな怪物だとは思うけれど。
――手が届かない、とは不思議と思わない。
「馬鹿言え最強。伸ばせば手が届くんだ。なら、挑むだろ? 何度でも」
【そう、ですか】
神霊王は、そう言って笑ったように見えた。
僕は影を展開し。
最強は、切り裂いた時空より一振りの刀を取り出した。
150年経とうと、僕はまだまだ未熟なままで。
見上げれば、果てしなく道は続いている。
そして、すぐ目の前をこの怪物がゆったりと歩いている。
きっと、負かせば何かが変わるんだろう。
こいつも、負けじと努力を始めるのだろう。
そうすれば、きっとまた僕は負けるんだろうな。
でも、それでもいいと今では思う。
互いに削り合い、互いに高め合い。
いつまでも、どこまでもその道を追求する。
不思議と今では、そんな生き方が楽しくってしょうがない。
僕は影より短剣を取り出す。
銀色に煌めく刀身を掲げ、今日も僕は最強へと歩み続ける。
「――正義執行。今日こそ、最強の称号は僕が貰う」
【残念ながら、私、負けませんよ】
さぁ、戦おうか。
今日は誰にも、負ける気がしないんだ。
エンドロールが流れた先で。
その男は、かつて語った。
一人ぼっちの過去。
全てを諦め、自分を捨てて。
理性の仮面で矯正した、あの頃の話を。
「もう、いいや」
そう、かつて何もかもを見限った。
自分はそれでいいのだと思考を放棄した。
問うことをやめた。
普通に収まるよう、自分を殺した。
……――そんな少年は、もう居ない。
生きることは、楽しいことだと知っている。
長く、険しい道ではあったけれど。
多くの人に、多くの友に教えられた。
『自分は自分でいい』のだと。
偽らなくても、怖がられたりしないって。
誰も、自分を離れて行ったりしないって。
……もう、彼は知っている。
だから、彼を縛るものはもう何もない。
彼は、弾むように走り出す。
子供のように、無邪気な顔で。
心の底から『今』が楽しいのだと、笑って駆ける。
人はその道筋を、【成長】と呼ぶのかもしれないね。
~True End~
心の底より。
ご愛読ありがとうございました。




