竜-15 その先へ
【お知らせ】
いずれ最強へと至る道。
今後の活動方針――というか、完結させます、って話をします。
詳しいことは活動報告に載せますが……。
4/29 18時更新(本話)
4/30 18時更新
5/1 18時更新(最終話)
以上、計三話、後日談第三章終了と同時に完結となります。
……もしかしたら、もう一話くらいやるかもしれませんが。
600話超にも及ぶ長期連載、その最後。
作者の想いは長々と活動報告に収めたつもりです。
気になる方は、見てみてください。
「最強になる方法? 知らないけど」
神王ウラノスはそう笑い飛ばした。
想定外の答えに、僕はがっくりと肩を落とした。
――あの後。
星竜王の空間から出た僕ら一行。
白夜たち変態ズは、ゼウスのところに預けてきた。
まあ、神界だな。
ゼウスは変態どもがなだれ込んできたことに頬を引き攣らせていたが……まあ、今度わびでも入れておこうと思う。その『今度』がいつになるかは分からないけどな。
「知らないって……」
「知るわけないじゃん、だって僕元最強なだけで、今の最強は君か混沌のどっちかだろう? まあ、眷属関係も含めたらその限りじゃないんだけどさぁ」
随分と軽い様子で彼は言う。
彼は普段着姿のままで、せんべいを齧っている。
周囲へと視線を向ければ……懐かしい光景にため息も出た。
――場所は、日本。
僕がもともと暮らしていた世界。
試したことは無かったが、今の僕ならこうして多世界にも転移が出来る。
なので、どこを探しても見つからなかった父親――神王ウラノスがここに居るのではないかと狙いをつけて、僕も日本で来ていた衣服に着替えて転移してきたわけだ。
……わけ、だったんだが。
「いや、もう少し真面目に……」
「真面目も何も、聞く相手と手段が間違ってるんだよ、ギン」
彼は口にしていたせんべいを食べ尽くし、呆れた目で僕を見る。
「力とは高めるモノ。努力とは重ねるモノ。技とは磨くモノ。君はまだ何も完成しちゃいない」
「……だけど」
分かってる。
僕は強くとも、まだ未熟だ。
何もかも完成しきってるわけじゃない。
多くの技術、多くの戦術。
その全てを試せたわけじゃない。
何もかもが極まってるわけじゃない。
――けれど。
仮に全てを極めたとして。
あの連中に通用するのかと、心が揺れる。
「……なんだい。君がそこまで頑固だなんて……誰の入れ知恵だい?」
あっという間に僕の背後へと気づく父。
……もともと言うつもりはなかったが、僕は渋々と事情を説明した。
「……なるほど、そういうことかい」
一通り聞き終えて。
父は、『余計なことを言いやがって、図体だけの蜥蜴が』とどっかの誰かみたいなことを吐いた。
「自分でも分かってるつもりなんだ。ギン=クラッシュベルには限界が来る。まだまだ高める余地はあるが、それでも……成長しきったとしても、シングルナンバー相手に、歯が立たないとは感じてる」
「……そうだね。それは否定しないよ。シングルとは戦うべきじゃない」
眷属の頂点に君臨する、わずか9名のシングルナンバー。
星竜王がその一人でもあり。
僕の剣に眠るのも、またその一人。
そいつらに勝てるのか?
仮に勝てたとしても――その先は?
奴らに辛勝している程度で、神霊王には勝てないんじゃないか?
その疑問は、きっと正しい。
新王ウラノスが、真剣な目で言葉を重ねる。
「あいつらはね。人知の手の届く範囲には居ないのさ。それはもちろん神知でも言えること。人だろうと、神だろうと、眷属には勝てない。まあ、君たちみたいなイレギュラーなら、眷属の末端くらいは崩すだろうけど……上澄みには勝てないよ。そういうもんさ」
諦めるように、彼は言う。
……まあ、彼が言うならきっとそれは正しいのだろう。
人知、神知の頂点に立ち。
自ら最強を手放した。
誰より強く、かつてそのシングルナンバーすら屠った怪物。
そんな彼が断言するなら、そういうもんだと納得できる。
――わけが、ねぇだろうが。
強く握った拳から、血が滲む。
僕の目を見て、神王ウラノスが目を細めた。
「……だろうね、言っても聞かないんだろうね」
「ああ。僕はギン=クラッシュベルとしてここに来た。アンタの可愛がって息子としての僕じゃない。最強を目指す一人の若人として、かつての最強に会いに来たんだ」
常識なんていらねぇんだよ。
心配なんて以ての外だ。
僕は最強になるために来た。
仲間を守れるように。
その時になって、後悔しないように。
「しばらく、旅に出るとあいつ等には言ってきた。……そろいもそろって変態・変人しか居ない我が家だけど、いい奴ばっかりでな。何にも聞かず、引き止めず、快く笑顔で送ってくれたよ」
しばらく、戻らないという覚悟は伝わっているだろうに。
なんだったら、僕の心配もしてくれなかったくらいだよ。
……本当に、いい仲間に恵まれた。
心の底からそう思う。
だからこそ、諦めるわけにはいかない。
「時間が無いんだよ、神王ウラノス。しらばっくれるなら本題に入るぞ」
悠久を生きる吸血鬼。
されど、仲間と過ごす今は、この瞬間しかないんだ。
余計な時間は、どこにもない。
彼女らと過ごす時を、無粋な眷属どもに邪魔されないためにも。
もう二度と、彼女らを危険な目に遭わせないためにも。
「――【覚醒】、あの技術を僕に教えてくれ」
「――……はぁ。恭香ちゃんだね。余計な事言ったのは」
僕の言葉に、彼は驚くことは無かった。
ただ、知ってたよ、と言わんばかりの苦笑を浮かべ。
僕にその技術を教えてくれた彼女の名を言った。
「ずっと昔……何年前だったかな。僕がまだ最強だった時に、彼女と会った記憶がある。当然、君のことも遠目から認識していたよ。……時間遡行とは珍しい技術だけど……ミスったなぁ。あの時、彼女にはアレを見せちゃったんだっけ」
「らしいな。僕は見てないが……そういう技術がある、とは教わったよ」
神王ウラノス。
かつて、彼が用いたとされる技術【覚醒】。
教本である恭香にも記されていない何らかの秘奥。
「……まあ、君ならいずれ求めるだろうとは思っていたよ。当然、教える準備も整えている。……あとは、タイミングと、君の覚悟次第かなぁ……とは、考えていたんだけどね」
「なら、何の問題もなさそうだな」
これ以上、力を得る機会を逃すつもりはない。
それに覚悟なら、とっくに出来ている。
どんなものを代償にしても。
仲間との今を守れるのなら、安いに決まってるさ。
そう、ニヤリと笑って見せた僕に対して。
神王ウラノスは、呆れ気味にこう言った。
「いいのかい? 覚醒を覚えたが最後……君、ほんとに弱くなっちゃうけど」
次回『覚醒の代償』




