竜ー11 邂逅
本当は執筆よりもお絵描きの方が好き。
そのうちイラストの勉強をしてみたいな、と常日頃から思っている藍澤です。
小説も絵も自分でかけたら凄いですよね。
まあ、そんな超人的な作家も実在しておりますが。
星竜王ガルバザルム。
馬鹿ほど大きな単一個体。
宙に漂う彼が食らった、無数の銀河。
それがそのまま腹の中で進化を遂げて、いつしか秩序も常識も消え失せて。
神の手すら届くことは無い、無神の世界へと変貌を遂げた。
それこそが、無神世界。
つまるところは、僕らの居るこの世界というわけだ。
「嘘だろ……それで六位かよ……」
僕は、その話を聞いて自信を無くしていた。
体が大きいというのは、強さに直結する。
まぁ、それも一定の強さを超えると体格のアドバンテージも減ってくるんだが……さすがにこれは、規模が違いすぎる。
銀河をまるっと食らう化け物だ。
仮に接敵したとして、その時点で相手との距離は……果たして何億光年離れているのか。
たしかに今の僕は強いよ。
ただ、光年サイズでの遠距離攻撃が出来るか……と聞かれれば、僕は首を横に振りたい。
加えて、届かせるだけでも難しい攻撃を的中させ、ダメージまで与えなければ勝てはしない。
……体格差、序列六位の純粋な身体能力など考えると、敗北以外の何も浮かんで来ないんだけど。
「簡単な即死能力でもあれば話は別なんだろうけど……そんな都合のいい能力なんて無いだろうしなぁ……」
「【ふむ。我らが序列の二位、三位はソレに近しい力を持ってはいるが。あの高みともなると、我では力を測ることも出来ん】」
「嫌な話を聞いちまったなぁー」
おい、聞いたか?
今まで出てきた中で、せいぜい即死技って言ったら【黙示録】くらいなもんだよ。
アレにしたって条件付きの即死技。
力量差や魔力不足によってはダメージも与えられないし、仮に同等の能力を持っていても、まず攻撃を当てるのが難しすぎる。
そしてなにより、自分の身への【リターン】が大き過ぎる。
故に不完全。
故に、禁術。
だって言うのに。
聞いたか? 二位と三位は使うんだとよ。
しかもアレだろ、眷属だろ?
どーせ無条件の即死持ちだぜ。
しかも、発動条件はきっとガバガバ。
下手したら念じただけで殺せるとかそういう次元も十分に考えられる。
嫌になっちまうよ、本当に。
「【何はともあれ。我は星竜王に許可を取り、この世界に滞在している。他のどの世界よりも、この世界が『敵の脅威が高い』故な】」
それは何となく理解した。
戦闘狂っぽいものね。
より強い相手を求めて……とか。
そんな感じだろう。
特に興味もないから、別にそこら辺は深く掘り下げようとも思わない。
ただ問題は……何故、僕らがこんな世界に来てしまったのか、ということ。
「【一応問うが……星竜王ガルバザルムと面識はあるか? 会話した、邂逅した、あるいは――以前にも無神世界へ来たことがある……など】」
「あるわけないだろ。こんな世界……一度来てたら忘れるかっての」
あまりにもデタラメすぎる。
変態度みたいなパラメーターはあるし。
瞬く間に世界そのものが生まれ変わるし。
こんな世界……仮に1度でも来ていれば絶対に忘れちゃいないだろう。
……ただ、ひとつ不安なのは。
眷属なら……星竜王ガルバザルムならきっと、『無神世界に来たことがある』って記憶すら消せるんだろうな、って思うことだけ。
僕の言葉を受け、鎧王は頷き返す。
「【答えだけなら最初から明白だ。この世界には、星竜王ガルバザルムの招待無くして辿り着くことは出来ぬ。故に貴殿は彼に呼ばれてここに来た。問題はその理由の方……なのだろう?】」
「……あぁ。一体、何の用なんだか」
序列六位が僕に脅威を感じている。
……とは、思わない。
あまりにも実力差が乖離している。
今更眠ってた力に覚醒するとか……そんな展開はないだろうし、このまま成長して言っても……星竜王ガルバザルムに敵う日はまだまだ先になるだろう。
だから、ガルバザルムが僕を殺そうとしている、という線はほぼ無い。
神霊王に楯突く僕がよっぽど鬱陶しいなら話は別だけとな。
「【と言っても、我にはその理由、朧気にだが想像つくのだがな】」
そう言って、鎧王は立ち上がる。
ヤツを見上げれば、彼はじっと僕の姿を見つめていた。
「【史実、眷属を葬った非眷属は、貴殿らを除いて二人のみであった】」
……二人。
その内の片方は知っている。
僕の父親、神王ウラノス。
シングルナンバーの眷属、悪鬼羅刹をも屠った怪物。史実上、最強の非眷属。
「【神王ウラノス。そして、古代の勇者、ミスク・テルロウ。彼らは共に序列五位の悪鬼王ラセツ、序列七位の魔神王アモンを屠った】」
「…………」
……あの人の他にも居たのか、そんな怪物が。
聞き覚えのない名前だが、よっぽど化け物じみた力を持っていたのだろう。
たぶん……というか、間違いなく。
今の僕より、ずっと強い。
「【いつの時代も、眷属殺しの刃はシングルナンバーにさえ届き得る。故の興味であろう】」
「僕も、シングルナンバーに届くと?」
「【さてな。だが零か百か。眷属殺しに中途半端はありえない。史実上ではな】」
……すっげぇ嫌な史実だな。
先を歩く人の背中が大きいほど、どれだけ後世が苦労するのか……少しは考えてもらいたい。とても切実に。
まぁ確かに、純粋な力量差がそのまま勝敗に通ずるとは思わないよ。
じゃないと、僕はこの鎧王には勝てていないし。
だからと言って、僕をその同類として扱っていいものか……。自分でもよく分からない。
……どうやらアンタは、僕とは別意見みたいだけどな。
「【我も貴殿と戦い、実感したよ。どれだけ小さな可能性でも……貴殿らは可能性を感じさせる】」
貴殿『ら』……ねぇ。
誰のことを言っているのかは薄々想像が着くが……そうか。あの野郎、そんなに強くなってるのか。
「……ひとつ聞く。現時点じゃどっちが強い?」
誰と、とは聞かない。
それでも彼は即答した。
「【少なくとも、我はあの女と戦いたいとは思わぬ】」
その意味を理解して。
僕は深い、深いため息を吐き出した。
「はぁぁ……、せっかく追いついたと思いきや」
この鎧王をして『戦いたくない』と来た。
それほどまでの、規格外。
……まぁ、言ってみればあの野郎はそういう才能の下に生まれてきたんだろう。
野郎の過去、絶望、全て知った上で……それでも尚、羨ましい。
僕は呆れ混じりに空を見上げていると……ふと、鎧王の影が僕に被った。
「【だがな、吸血鬼よ。アレは限りない『完成形』だ。今以上の力を得るとなると、並大抵のことでは有り得ぬさ】」
「馬鹿だなお前。並大抵じゃねぇからこんなにも頭を悩ませてんだよ」
あの馬鹿が並大抵なわけが無い。
まだまだ成長は止まらない。
これ以上強くなるわけねぇだろ、と。
そう思ったところから、さらに伸びてゆく。
それがあの姉だ。
直に殴りあった僕だから分かる。
ただ、それでも。
「僕が、負けるとは思わないけど」
根拠の欠けらも無い絶対的な自信。
彼我戦力を度外視した当てずっぽう。
ただの勘。
何の信頼性もないソレを、今ばっかりは信じていようと思う。じゃないと辛いし。
「助かったよ鎧王。今度おでんでも奢ろうか」
「【……オデン、とやらが何かは知らぬが、貴殿が言うのであれば馳走になろう】」
鎧王はそう言うと、霧のように消えてゆく。
……勝負には勝ったけれど、多分、同じ勝利は二度拾えないだろうな。今戦えばボコボコに嬲られる。そんな力量差を感じる。
「あっ、主様よ!」
鎧王が消えた方向を見ていると、白夜たちが寄ってきた。
「け、眷属にも……なんじゃ、良い輩は居ると考えて良いのかの?」
「さぁな。鎧王や銀皇が特殊なだけで、あとはイカれた魑魅魍魎、って考える方がいいんじゃないか?」
と、そこまで言って自分で気がつく。
僕は足元へと視線を向けると、暁穂が冷や汗を垂らしながら口を開いた。
「……となると。現在進行形でその腹の中に居るわけですが」
「そうなんだよなぁ……」
この大地……星、というか銀河系。
それすらゴロッと腹の中の些事な出来事。
そう考えると……規模の差ってのを身に染みて実感する。
僕はつま先で足元の地面を叩く。
果たしてこんな化け物に、僕の攻撃が通じるのか。
腹の中から焼こうにも、全力で攻撃したらこの星どころか近隣の星までぶっ壊れる自信があるし。
……再生と崩壊を繰り返す世界とはいえ、今生きている人たちを犠牲にしようとも思わない。
僕は息を吸い込むと、空を見上げる。
「おい、聞こえてんだろ、星竜王ガルバザルム!」
「おっ、おい主殿……!」
僕の大きな声に、輝夜が思わず声を上げる。
周囲の人々から視線が集まるが、特に気にせず声を張り上げた。
「なんか用事があるなら、さっさと済ませてくれないか! ちょっとばかし、僕も用事が出来そうなんでな!」
並び立てたと思ってた野郎に、なんか知らん間に置き去りにされてたみたいでな。
悪いが、あんたに構ってる暇は無くなった。
思いっきり修行パートに入りてぇんで、さっさと帰してくれないか。
そんなことを言おうとして、息を吸い込む。
そして、次の瞬間。
感じたのは酸素の欠如と。
目の前に広がる、広大な宙。
「――ッ!?」
背後に白夜たちの気配。
肺の中から酸素の限りが消えてゆく。
――宇宙に転移させられた。
そう気づくまでさほど時間はかからない。
咄嗟にアイテムボックスから『大量の空気』を放り出すと、それらを独裁魂域で半径十メートルに押しとどめる。
「が……はぁっ……、はぁ……無事か皆!」
「だ、大丈夫だが……主殿、いつから宇宙空間に対応できるようになったのだ……?」
いつからだろう。
というか、僕単体なら別に酸素くらい無くとも生きていけるんだが、まぁそれはそれとして。
四人の無事を確認した僕は、再び前方へと視線を向ける。
距離感さえ、もはや分からない。
空気の無い澄んだ宙天。
黒一色に無数の星が浮かぶ世界に。
俗に宇宙と呼ばれる場所に。
その巨体は、浮遊していた。
『初めまして。と言っておこうか。久しく見ぬ内に強くなったな』
頭に響くようなその声。
何光年離れているのか知らないけれど……普通、これだけ距離があれば時差的な『遅れ』が生じるモノだけれど。
「……言動がおかしいな。1度でも話していれば、アンタみたいな強烈な姿、忘れるはずもないと思うが」
あぁ、普通なら忘れるはずがない。
それでも僕の記憶になくて、奴が僕へ『久しいな』と言うのであれば。
きっと、それは僕の方が間違っている。
不思議とそんな気がした。
僕は大きく息を吐く。
これだけ離れていて。
それでも尚、一つの視界に全体像が入り切らない。
あまりにも巨大な――。
世界で最も、偉大な竜族。
『我が名、星竜王ガルバザルム』
巨大な瞳が、僕らを見下ろす。
今回ばかりは……死を覚悟した方がいいのかもしれない。
ちなみに、魔神王アモンを倒した勇者ですが、作者の短編小説にて登場しております。
その作中の『魔王』=『魔神王アモン』と捉えて下されば。




