第59話
少し長いですね
あの後、
「は、はは、さすがにこれは予想外だな......」
「す、凄いです......」
「な、なんだあれ! ま、魔法なのかっ!?」
「いや、雷魔法にあんな魔法はないわっ!」
「ならなんだっ!? 自作した魔法ってわけかっ!?」
「ええ、そうとしか考えられないわね......」
「ぼ、ぼ、ぼぼ、僕はっ、ま、まけないぞっ!」
おや?
「ま、まさかっ!? 黒幕って彼の事ですかっ!?」
おや?
「って言うか何だったんだ? あの生き物はっ?」
「うむ、あれは迷い人たちが住んでいる土地、日本に伝わるドラゴンの一種じゃな」
......は?
「ええっ!? あれドラゴンなのっ!? って言うか爺さんたちよくそんな事しってたな!」
「ほっほっほっ、ワシの加護を与えただけはあるのぅ......見に来て正解だったわい」
「当たり前だろ、俺様がわざわざ生き返らせてやったんだぜ? あれくらいはしてもらわねぇとな?」
「凄いわねぇ......でも少し慢心して無いかしら?」
「ふん、一度助けてやったんだ、俺様はもう助けねぇからな?」
「あら? ツンデレかしら」
「うっせぇ!」
......。
「それにしてもスゲェーーっっ!」
「かっこいいねー! あのお兄ちゃん!」
「きゃー! かっこいい!!」
という感じの盛り上がりになりました。
───後半は幼女ボイスだったことを、ここに記しておこう。
あと、五人ほど問いただしたい人(神)物がいたが、今回は急いでいたので残念ながら相手をする暇がなかった。
何故ならば、
(ま、マスターっ! レオン君の成長率が九割超えたよっ!? もう3時間もしないでうまれちゃうよ、早く戻ってきて!)
との連絡が入ったのだ。
さすがに今はレオンを優先したい。
ちっ、もう少しアイツに恐怖を覚えさせておきたかったのに......まぁ、めっちゃ震えてるし、今日はここまでにしておいてやるさ。
───そのうち、僕の姿を見るだけで失禁するレベルまで恐怖をその身体に埋め込んでやるから、覚悟しとけよ?
にしても3時間か......
まず領主を説得して街を出るのに30分、
討伐してギルドから報酬貰うのに1時間半、
帰るのに1時間。
合計3時間、よし、これで行こう!
「なぁ、領主様? ちょっと用事入ったから、もう討伐に出てもいいか?」
ぽかんと口を開けたままフリーズしている豚。
ちっ、仕方ないか......
僕は、かるーーーーーく威圧スキルを使った。
「ちょっ! ギン君!? その威圧俺より強いんだけど!?」
聞こえない聞こえない。
「ひいいっっ、わ、我は何をっ!?」
あまりの威圧感に目を覚ます豚。
あまり時間をかけさせないでもらいたいものだ。
「領主、もう討伐行っていいよな?」
焦りからか、思わずタメ口になる。
「なぁっ!? わ、我は伯爵だぞ!? 平民風情が我に向かってなんという口をっ......」
「いいよな?」
「あ、はい。」
魔力をほんの少し威圧に乗せたらすぐ頷いてくれた、
なんだ、いい領主様じゃあないか。
「よし、それじゃあベラミ、バジリスクの居場所を教えてくれ!」
「な、何をそんなに急いでるんだ...? まぁ、教えるが、それにはまずギルドに行こう、ギルドにはバジリスクに関する資料があるからね。きっと用事というのは重要な事なのだろう?」
「あぁ、僕の宿の部屋でSSSランクの魔物が生まれようとしている。」
「「「「「「国の危機じゃないか!?」」」」」」
そんなこんなで、僕達の三時間耐久レースが幕を開けたのだった。
タイムリミットまで、残り、二時間と四十八分。
☆☆☆
ギルド到着!
「資料は先遣隊に用意させてある! さぁ、こっちだ!」
事情を説明した途端団結したギルドの冒険者たち。
道行く冒険者に対して伝言ゲームを開始し、あっという間にギルドへと報告が来ていたようだ。ちなみに、市民の方々も事情を把握しているのか、僕たちへと道を開けてくれていた。
ほんと、助かります。
───恭香曰く、『レオン君はSS以上』らしいけど、僕と白夜の魔力を吸収してるからね......SSS以上は確定な気がする。そもそも神でさえ中身が分からないのだから、可能性としては神にさえ届きうるほどの魔物が生まれてくることも考えられるのだ。
つまりは、
SS<SSS≦レオン≦EX
という一見おかしな式となるわけだ。
あぁ、これがスマホゲームなら良かったのにな......
もしも白夜でも手に負えなかったとしたら......ゾッとするね......僕が向かって何になるのか。
うん、最悪、死神ちゃんを呼ぼう。
それでも無理ならもうあきらめよう。
「さぁ、これがバジリスクのデータだ!」
そこにはバジリスクの絵と、能力、巣の位置まで、ありとあらゆるバジリスクに関する書類が置いてあった。
「十分だ! 時間を考えるとそれが限度だ!」
滅茶苦茶必死なベラミ。
「分かった! 少し待っていてくれ!」
───そして十分後。
バジリスクは緑の王冠みたいな模様のある蛇。
肉がとてつもなく美味、但し致死毒あり。
目を合わせるな、手足から石になるぞ?
力と敏捷が高いぞ、魔法はあまり使わない。
大蠍の数十倍の魔法抵抗能力のある鱗をもってるぞ。
巣の位置はここから三キロ地点にある山の山頂。
まぁ、簡単に言えばこんなものだ。
───実は鶏だと思ってたのは、ご愛嬌。
「よし! 情報は分かった! それじゃあ行ってくるよ!」
「時間が押してるぞ!」
「門番には俺が言っとくから直接飛んで行ってくれ! バジリスクの死体は出来ればこちらに持って来てくれると助かる!」
ベラミは本当に必死であった。
「それじゃあ行ってくる!」
「報酬を用意して待ってるぞ!!」
まだ討伐してないのだが......
平和のために秩序を乱す。なんて皮肉なことだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながらも僕は飛び立った。
残り、二時間と二十八分。
☆☆☆
山への道中、またワイバーンの群れに襲われた。
───ちなみに今度はドラゴンも数体いた。
まぁ、雷龍使って感電死させたんだけれど。
だが、それで時間を食ったのも事実。
「くっ、あのワイバーンたち僕に恨みでもあるのかっ!?」
自分たちから襲いかかったのは確かだが、それでも仲間が殺されているのだ。恨みがあるに決まっている。
まぁ、そんなこんなで例の山の山頂に到着した。
───のはいいのだが。
この時、僕は(恐らくは)魔導神と死神ちゃんが話していた内容について、甘く見すぎていた。
『慢心のし過ぎ』
ダンジョンの中にいた頃はそんなものはなかった。
現れるのはすべて格上。
準備を万端にして望まねばならない相手たちだった。
だが、ナイトメア・ロードを倒した後の僕はどうだっただろうか?
下手にレベルが上がって強くなった。
それこそ、Bランク冒険者や、ギルドマスター、一つの街の全騎士をも相手しても楽々勝てるほどに。
強くなったのだ。
───だが、弱い僕がいくら強くなっても、それは主人公のようになれるわけじゃあない。
頭を使い、準備を整え、作戦を考えた上で勝負に挑むのが、僕の本来の戦い方だ。
だが、今回はどうだろう?
私服姿に武器はナイフ一振り。
そして、何よりも。
────レオン対策に、万能薬を全て白夜に預けてしまっている。
慢心し、考えることすらも放棄した結果、どうなるか。
「おいおい......バジリスクって一体のはずだろ?」
───目の前にはバジリスクの群れがいた。
その数およそ三十頭。
───不幸中の幸い、バジリスクの上位種は居ないようだ。ほんとに不幸でしかないのだが。
ちなみに、百鬼夜行使えば? と思う人もいるだろうが、あの魔法の発動条件の一つに、
『太陽の光に当たっていないこと』
というのがある。
地上では、夜しか使えない死に魔法である。
つまりは、この数のAAA相手に単体で勝負を挑まなければならない、というわけだ。
その上、今は日中のため、僕の強さもAAAの最上位、ブーストかけまくってやっとSランクってところだ。
一体なら余裕だったんだが......流石にこの数は
────絶望的だ。
『『『『『キシャァァァァァッッッ!!』』』』』
「くっ! 『影纏』ッ! 『疾風迅雷』ッ!!」
僕の命をかけた、街の存亡をかけた戦いが、今始まる。
☆☆☆
いつの日か、恭香から聞いたことがあった。
『吸血鬼の回復能力っていうのは、その身体自身に宿っている能力、というわけではないんだよ。実は、吸血鬼のその回復能力はその身に流れる血液の影響なのさ』
どういう事か、と問うと。
『確かに身体能力は人族と比べても圧倒的なんだけど、それでも身体の強度としては、人族と同じ───いや、それ以下だろうね。それ程までに、吸血鬼というのは脆い個体なんだよ』
それでは説明になってないではないか。
逆に謎が深まるばかりだ。
そう言うと恭香は、
『そうだよね。人間より脆いのにも関わらず、それ以上の力を出しても平気でいる、だなんて完全に矛盾している。そしてこの矛盾を解決するのが、吸血鬼の回復能力、というわけになるね』
つまりは最初の話に戻るわけだ。
『そう、結局は最初の話に戻るんだよ。創造神様は最初、吸血鬼という存在を作る際、"高火力、紙防御" という特徴をメインに考えて創ったそうだよ。それでも、先程挙げたような問題が浮かび上がった』
脆すぎて攻撃に身体がついて行かない、という事か。
『そう、その通り。だからこそ創造神様は、吸血鬼に回復能力を授けようと思ったらしいよ? ただ、ここでまた新しい問題が浮かび上がった』
え、まだ問題あんの?
『種族を作るって、大変なことだからね? ...こほん、それで新しい問題って言うのが、脆いままの身体に付与できる回復能力があまりにも弱すぎた、ってことさ』
......つまりは?
『その身体に直接回復能力を付与させても、程度が知れているっていう話だよ。とてもじゃないけれど、吸血鬼の肉体の行使についていける程の回復能力じゃあ無かった。だからこその"血"なんだよ』
ん? あぁ、そういう事か。
『そう、常に身体中を巡っている血液。創造神様はその血液そのものに回復能力を付与させた。いや、血液だけじゃなく身体中のあらゆる体液に、かな?』
その結果、今のような吸血鬼が出来上がった、ってことか。
『まぁ、そんな事情があるからこそ、人間と違うこともあるんだけれどね。出血がかなり抑えられるとか、吸血すると体内で血が生成されるとか、そもそも出血死という概念が存在しないとか.........』
まさに超生物だな、吸血鬼って。
そんなことを考えたが、
『そして、何よりも......』
彼女は言った。
吸血鬼、最大の弱点を。
『血を失いすぎると回復能力が消滅する、とかね?』
☆☆☆
あれからおよそ、三十分後。
「うおらぁぁぁっっ!!」
未だに決着は着いていなかった。
「はぁ、はぁ、ちょっとばかし厄介だな......」
相手の数はもう既に十頭を切っており、そのどれもが多かれ少なかれ傷を負っている状態だ。
今でこそまだマシなのだが、三十頭全員が居た時なんて、どこを向いても目が合うから石化されまくりだったよ......一体、どれだけ自分の四肢をちぎった事か......
───今になって思う。その行動がその時の最善であり
───今現在の最悪の原因なのだ、という事に。
「くっ、ほんと、馬鹿みてぇに慢心してたな.....」
もう既に、僕の身体には血が殆ど残っていなかったのだ。
レオン君への対策とはいえ、全部預けることは無かったのに......
少し痛い目にあってもらいましょう。




