竜ー05 対決!変態性の暴力!
「フッ、くくく、ハハハハハ! よくぞ我が元まで――」
「ふんっ!」
とりあえず、殴った。
柱の陰から出てきた変態は、一直線に吹き飛んでゆく。
巨大な扉にぶち当たり、というかぶち破り、扉の向こう側へと消えていく。
「し、信じられない……あの魔王の右腕、疾逝きのガネッサ様が……い、一撃で!」
「な、なんて男……超ドSだけにとどまらず、まさか、こんな……野蛮すぎるわ! でも不思議、殴られてみたいと思っている私がいるわ!」
背後で変態どもが騒ぎ始める。
一瞥くれるとすぐに黙ったが……こいつら連れてくるのは失敗だったかもなぁ。どーせ変態しかいない城だし、わざわざ乗り込まなくても銀炎で焼けばよかった。
焼き討ちだ。
「主殿……なんだか物騒なことを考えていそうな顔だが、もしも城ごとぶっ壊す的な考えをしているのならば見直すことを推奨するぞ。人質がいた場合はどうするのだ」
「……わかってるよ。じゃなきゃ最初っから焼いてる」
「「「や、ヤイテル……?」」」
変態四人が、僕の言葉に喉を鳴らす。
「おい新入りよ。気を付けるのじゃぞ。主様は頭はいいくせに、怒ったらものすごく怖いんじゃからな。正確に言うと、国に喧嘩を売って真正面からぶっ壊してしまうほどにはイカレとる」
「「「「ひいいいいいいいいっ!?」」」」
白夜の(なぜか自慢げな)言葉に、怯える四人。
ああ、あったねぇ、そんな時期も。
聖国だろ? 懐かしいなぁ。
あの紫野郎と戦ってた時期だ。
にしても、国を亡ぼすだなんて僕もまだまだ若かったんだなぁ。
今ならその周辺の大陸……というか、星ごと消し去ってやれるのに。
というか、単体で一国を亡ぼせる過去の僕も、指一本動かさず星を割れるだろう今の僕も、ちょっとイカれてるんじゃないかと思う。
白夜の言葉に、何の反論も浮かばないや。
僕は苦笑し、右手を振るう。
何もない空間へと振るった右腕。
されど、遠く離れた巨大な扉は、まるで右腕でこじ開けられるようにして開いてゆく。
正直、どんな技が使えるのか、覚えてないくらいには様々な技を習得してきた僕だが。
この世界……おそらくは、【無神世界】というやつだろう。
どれだけ万全を期していても、それらをあざ笑うように牙をむくのが現実ってやつだ。
一切の油断はできない。
僕は背後を振り返り、四人へ言った。
「しっかり後ろについてこい。近くにいるなら、守ってやるさ」
認めたくはない。
それでも認めざるを得ない事実。
それは、僕――ギン=クラッシュベルは、攻める時ではなく……守るときに全霊を出せるということ。
後ろにいる、仲間の変態四人。
四天王的な奴らはどうでもいいが……後ろに守るべき人がいるというのは、それだけで力が湧いてくる。
「……我ながら、丸くなったもんだよ」
ただ、残念ながら。
そんな今の僕が、不思議と嫌いじゃない自分がいる。
☆☆☆
その扉の向こうには、玉座の間が広がっていた。
その中央には、一人の男がいた。
「……よくぞ、我が元まで来たな、勇者よ」
そこにいたのは、筋骨隆々の男だった。
一目で、かなり強いのは察しが付いた。
この男……他の変態どもとは格が違う。
純粋な強さでも。
――そして、変態性という意味でも。
「むむ!」
「なかなかにやりますね……あの男」
「クク、余も燃えてきたぞ、初っ端からフルスロットルだ」
変態ども三人が呟く中。
僕と輝夜は、思いっきり頬を引き攣らせた。
男は、筋骨隆々だった。
でも、変態だった。
何故って?
一つ、ブーメランパンツ一丁だから。
一つ、なぜか四つん這いになっていたから。
一つ、うら若き少女が、泣きながら男のケツに鞭を打っていたから。
一つ、男はとっても幸せそうだったから。
「【銀炎】」
気持ち悪くて、咄嗟に銀炎を打ち込んだ。
それは一直線に男へと直撃し、驚いた様子の少女を輝夜が回収してくる。
「変態性の暴力……見た通りの男であったな。村人に、無理やり変態行為を強要するド変態……見下げ果てた男だ」
輝夜が嫌悪感に呟く中。
僕は、燃え盛る銀炎から目を離せずにいた。
「……なるほど。どうやら少しは戦えそうだ」
呟いた、次の瞬間。
燃えていた銀炎が一瞬にして掻き消える。
その向こうから現れたのは、ブーメランパンツの変態。
「我、変態性の暴力也。我は生まれ落ちると同時にこの力を神より授かった」
「ぼ、ボスの固有能力……攻撃により快感を覚えれば覚えるほどに身体能力が増す力! その名も【痛快の魂】!」
なんだそのふざけた力!
と、一瞬思ったけれど、七つの大罪スキルも似たようなもんだ。
怒るほど力が増したり。
傲慢だったら力が増したり。
怠惰だったら力が増す。
あいつらを知ってる手前、僕の方からどうこうは言えない。
僕は拳を鳴らして、前に出た。
「助かるよ。最近は……ちょっと本気を出し尽くせる相手が居なくてね。リハビリがてら、ちょいと相手してくれよ」
「……笑止、その傲慢……命取りになると知れ」
ブーメランパンツはそう呟き、僕を睨む。
……命取り、か。
その言葉、覚えておくよ。
僕は思わず笑ってしまい。
瞬間、その男は一気に加速。
それに少し遅れて、僕もまた大地を蹴った。
拳に拳を合わせ、真正面から力比べ。
衝撃が突き抜けて、男は、大きく目を見開く。
……どうやら、余程腕力に自信があったようだ。
僕の素の腕力は男と同格……に見えた。
よく見れば男の腕は徐々に押し込まれており、僕は笑う。
「おいおい、少しは楽しませてくれよド変態」
「――ッ!? ド変態だと! 興奮してしまうでは無いか!!」
男は怒り狂ったように興奮し、もう片方の拳を振り上げる。
だが、それが振り下ろされるより先に十数発、まとめてやつの体へと拳をぶち込む。
「が……!?」
「……なんじゃろう。主様、めっちゃ強くなっておらんか?」
どこからか白夜の焦ったような声がする中。
僕は、回し蹴りをやつの顔面へと叩き込む。
その体は一直線に玉座へと吹っ飛んでゆく。
その勢いは凄まじく、変態が玉座に突っ込んだ時の勢いで城の崩壊が加速した。
そんな中、僕は壊れた玉座へ向かって歩く。
「ちょ!? 覇魔王様!!?」
「えっ、今、王様吹き飛ばされてなかった?」
四天王が小うるさく騒ぐ中、膝に手を当てて何とか立ち上がる変態へと視線を向ける。
「はい、次」
「ぐ、ぬぬぬ……! なんという、我が変態深度をもってしても、耐えきれぬダメージ! だが、これを超えた先に真の興奮が待っていようぞ!!」
男は叫び、拳を振るう。
それを頬の皮一枚で躱し、クロスカウンター。
僕の右拳が深深と顔面へと突き刺さり、思いっきり鮮血が吹き上がる。
「がば……!?」
「ほっ」
そして、前蹴り一閃。
腹を思いっきり蹴り抜いた僕と、人間が出しちゃいけない悲鳴をあげて吹き飛んでゆく変態。
その体は壁に空いた穴の向こうへと吹き飛んでゆき、城の外へと消えていった変態を見て、僕は指を鳴らす。
――瞬間、目の前の瓦礫と変態が入れ替わった。
「な……ぐげほっ!?」
そして、蹴る。
あまりにも情け容赦ない連撃に、もはや四天王も絶句状態。
気になって白夜たちの方を見るも、さすがに興奮はしていなかった。こんだけ嬲ってんだ。これで興奮してたら頭のネジが吹っ飛んでいる。
僕は数メートル吹き飛んだ変態へと歩いてゆくと、プルプルと震え始めた変態を前に、ただ、無表情で見下ろした。
「で? 早く立てよ。僕の傲慢が命取りになるその強さ、今から僕に教えてくれよ」
「…………っ!?」
その目が、僕の姿を捉える。
最初は情欲しか浮かんでいなかった瞳には。
もう、恐怖しか宿っていなかった。
僕は大きく息を吐き、拳を振り上げる。
それを見て、変態性の暴力は焦ったように声を上げるが。
「ちょ!? ま、待ってくれ! さすがにそれは死――」
「暴力を強制して喜んでたド変態。てめぇにお似合いの最後だろ」
僕は、思い切り拳を振り下ろす。
やつの顔面から鳴っちゃいけない音がして。
その体は、対面の壁へと思いっきり吹っ飛んでゆく。
彼は顔面から壁に突き刺さって痙攣しており。
それを一瞥して、頬を引き攣らせる一同に。
「はい、次」
僕は、次の覇魔王の居城の方へと目を向けていた。
※ちなみにこの変態、通常状態の【機界王ギシギブル】と同じくらいの強さがあります。
改めてこの作品……というか、ギンを書いていると、他作品と比べて1人だけ強さが天元突破してるんですよね。
間違っても他の物語(特にバトル系)には登場させられないレベル。
600話に渡って成長してきた主人公ですものねぇ……。




