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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第二席 帝国編Ⅱ
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失-20 ようこそ絶望

なんか忘れてる気がすると思っていたら、まさかの予約投稿忘れてました。

「混沌様ッ!」


 ふと、聞き覚えのある声がした。

 そちらを見れば、闘技場の壁をとびこえ、こちらへと駆けてくるサタンの姿があった。にしても……こうしてみると闘技場もボロボロだな。数年前に私が攻撃したものを改築し、さらに今回もこのザマだ。そろそろ建て直した方がいいと思う。


「混沌様、ご無事でしたか……! ギルも……」

「……雑多が、これがご無事に見えるのか」


 そう言ったギルは、四肢を大地に投げ出している。

 傷は全て癒えているものの……身体中には至る所に鮮血の後が残っている。私は終焉の性質上、あまりダメージは受けていないが……彼にとっては一歩間違えれば即死の大仕事だったろう。


「眷属の……そこの女の気配が、魔力が消えたのを感じて戻って来ましたが……さすがは、我らが主。まさか、上位眷属を倒してしまう日が来ようとは……」

「はっ、これでどこぞの神王にも、威張り散らせるというものだ」


 まぁ、あの男は上位の中でも上位……シングルナンバーを相手に圧勝するような怪物だがな。まだまだその域には程遠い。

 私は胸へと手を当てる。

 言霊王の打倒により、己が体の内に、新たな『王冠』が火を灯す。

 レベルCROWNとは、私も初めて見知った言葉だが……これで十の空座のうち、二つの席が埋まったわけだ。

 炎魔神イフリートを倒した時と。

 今、言霊王セイズを倒した時と。

 もちろん、セイズの方が格上だったこともあり、イフリートを倒した時よりも遥かに体が充実している。まるで、レベルアップを急激に重ねたみたいだ。


「まだまだ、強くなれるらしいな、私も」

「……ふん、この化け物めが」


 ギルが呆れたように鼻を鳴らす。

 ……ふと、気配を感じてみれば、多くの出場者が戻って来たようだ。

 その先頭には、珍しく戦闘服を身につけたアスタロトの姿まであり、奴は周囲をキョロキョロ見渡しながら震えている。……あんなんでも地獄の大公爵だと言うのだから笑えない。


「あっ、こんと……クロノボス! ま、まさか、本当に倒したんですかっ? アレですよそれ、そこに倒れてるの……上位眷属ですよ!?」

「あぁ、なんとかな。相性が非常に良かった」


 近づいてきたアスタロトへ、苦笑して返す。

 今回は、相性が良すぎた。

 相手の攻撃を無効化、吸収できる以上、これ以上ないほどの相性の良さであったろう。まぁ、それでも苦戦は必至であったが、他の上位眷属が相手だったなら、恐らくは苦戦すら出来ていなかっただろう。


「全く、運に救われるとはな」

「あっ! クロノスさん! 大丈夫だったんですか!?」


 幼い声がしてみれば……おや、孤児院の餓鬼ではないか。

 私は咄嗟にキツく当たりそうになったが、さすがに保護者(ギル)の前であの態度をとる訳にも行くまい。……それに、先程までは『いつ眷属に襲われてもおかしくない』と気を張っていたからな……。子供が相手でも気を許す訳にはいかなかった。


「個人的には……怪しいとは思っていたのだが」


 まさか、空亡の方が偽物だったとは。

 私は珍しく読みが外れたことに頬を掻き。


 そして、ギルの困ったような声がした。



「して、クロノス。()()()()()()()()()?」



「………………はっ?」


 彼の言葉を理解するのに、数秒。

 全てを察し、私は咄嗟に動き出すが――既に、遅すぎた。


「さぁて、俺は誰でしょう?」


 私の胸を、背後から大きな腕が貫いた。


 振り返った先で、子供の口から、大人の声がした。

 いや違う……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 孤児院出身の子供。

 ギルやエルザが承認した大会出場者。

 妙に私についてくるよく分からないガキ。


 そして、私の本名を知っていた存在。


 クソ、クソクソクソクソ……ッ!

 何故、なぜこんなことに気が付かなかった!


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「う、そだろ……!」


 焦ったギルが動き出す。

 彼はアダマスの大鎌を振りかざしたが、その瞬間、全てが戻った。


【治りなさい】


 血潮が逆再生のように戻っていく。

 斬られた頭部が再生し、倒れた体が立ち上がる。


 それは、悪夢のような光景だった。

 最悪にして災厄。手の打ちようのない絶望。

 どうして、なぜ、確実に倒したはずなのに。


 私の胸から、王冠の灯火が消えてゆく。

 戻っていくのだ、なにもかも。

 倒した功績も、得た力も。


 私たちの消耗を除き、あらゆる全てが元へと戻った。



「……ったく、出てくるのが遅いんじゃないの?」



 嫌な声が、耳に届いた。


「悪い悪い、ついつい見入っちまってなぁ」


 男は、私の背から腕を引き抜く。

 ()()()()()()()()()()()

 もちろん、あらゆる攻撃を吸収できる力なんてない。

 鮮血が溢れ出し、久方ぶりに肉体の死を間近に感じた。


「き、きさ、ま……ごはっ」

「おいおい、やめとけよ混沌。てめぇは負けだ」


 男は、膝をついた私を見下ろした。

 何が……孤児院のガキだ。

 異世界人に多く見られる黒髪に、その姿は威風堂々が過ぎている。

 動じることなき大木、鋼の如き肉体、獣のような眼光。

 身体中の全てが『格上』だと断言している。

 それも……間違いない、()()()()()()()()()()()()()()


「……はぁ、もう、全く……! ようこそだよ、絶望!」


 状況の不味さを理解したアスタロトが、やけくそ気味に叫んだ。

 それを前に、眷属の男は名を名乗る。



()()()()1()5()()、我が名【簒奪王ロッド】。我が力は【万強奪(オールテイカー)】。()()()()()()()()()()力だ」



 おいおい、やめてくれよ。

 ただでさえ勝ち目がないんだ。

 これ以上……私たちにどんな絶望を見せようと言うのだ。


 男の腕から――どす黒い魔力が吹き上がる。


 どこの誰より、私はその魔力を知っている。


 幾億年と共にあり、共に苦難を乗り越えてきた。



 ――それは、私の終焉だった。



「貴様……貴様ッ!」

「負け犬ほど良く吠える。これで勝機は潰えたか?」


 簒奪王ロッドは、私を見下していた。

 その視線を受け、私の両脇を二つの影が駆け抜けた。


「はっ! ならば触れさせなければいいだけの事!」

「良くも我が主に……! 万死に値すると知れ!」


 大鎌を構えたギルと、拳を構えたサタン。

 二人の殺気を受け、されどロッドは動じなかった。

 それはひとえに、余裕が故に。


「『止まりなさい』」


 声が、響いた。

 瞬間、その場にいた全ての人が停止した。

 人だけではない、動物も、空気も、何もかもが停止した。

 ただ、意識だけが残っていた。


「俺の力は……力を奪い、ストックする力。……例え、他の力全てを生贄に得るような能力とて、なんのデメリットもなく簒奪できるわけだ」


 ロッドの両手が、ギルとサタンへと伸びる。

 二人は必死に抵抗するが、動けやしない。

 だって、今の言霊王セイズには、慢心も余裕もないから。

 一度殺され、残ったのは全身全霊だけ。

 この一瞬のためだけに、全力を注いで私たちの動きを止めに来ている。


「悪いが、貰うぞ、その力」

「ま――、や、やめ――ッ!」


 声を上げるが、届きはしない。

 彼の両手が、二人に届く。

 そして、耳を塞ぎたくなる言葉の羅列が響き渡った。



【簒奪――絶望の燈】

【簒奪――憤怒の罪】

【簒奪――影神】

【簒奪――太陽神】

【簒奪――月光眼】

【簒奪――原始魔法】

【簒奪――神血の祖】

【簒奪――絶歩】

【簒奪――武の神髄】

【簒奪――血液操作】

【簒奪――眷属召喚】

【簒奪――】

【簒奪――】

【簒奪――】

【簒奪――】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】

【簒奪】



 どれだけの、時間が過ぎたか。

 既に、両名に意識は無かった。

 ありとあらゆる力を奪われ、空白と成り果てた抜け殻。

 全ての力、全ての努力、今までの全て。

 何もかもが奪われた。


 そして、男は笑っていた。


「ふっ、ははは、ははははははは! なんという、なんという力だ! 幾年ぶりだ、かのような興奮を覚えたのは! 褒めて遣わすぞ抜け殻共よ! 今の私ならば……シングルナンバーにさえ入れるやもしれん!」


 奴の体は、既に理解の及ばぬ高みへ移行していた。

 私の終焉。

 ギルの全て。

 サタンの七つの大罪。

 それらを全て【上乗せ】した上位眷属。

 ともすれば……全盛期の神王ウラノスにさえ匹敵する【怪物】だろう。


 それを前に、私はどうすればよかったのか。

 分からない、分からない、分からない、けど。


 気がついた時、私は不思議と立ち上がっていた。

 なんの力もない、失ったのだから。

 相手との力量差は歴然。

 勝機など、無論ゼロパーセント。

 勝てるはずがない、なのに、立ち向かった。


「……ほう」


 私の拳を、ロッドは躱すこともしなかった。

 奴は私の拳を右手で払うと、そのまま首を掴み上げる。


「折角の良い気分が台無しだぞ、蝿が。……そうだ。そうだったな。俺は当初、神霊王様が【ギン】なる男を注目しているのが気に食わなかったのだ。そして得た、殺す権利を頂戴した。貴様を殺せば奴を殺して良いと許可を得た。故に、貴様は殺さなくてはならないのだったな」


 その言葉に、私は目を見開いた。

 なるほど、なぜ私を狙うかと思えば……()()()()()()()()()()()()()ということか。

 そこまで考え、私は腹の底から感心した。


 あの男を殺すために、私を殺す?

 なんだそれは、何故そんなことになっている。

 私が負ければ、弟まで被害が及ぶだと?


 なんだ、願ってりかなったりじゃあ、ないか。


 元より、あの男は気に食わなかったのだ。

 ヘラヘラしていくるせに、妙に強くて。

 気が合うのかと思えば、血の繋がりのない姉弟で。

 あの男に育てられたのだと思うと胸糞悪くて。

 潰そうと思っても、何度殴っても折れやしない。

 殺したって、簡単に蘇って立ち上がる。


 まるでゾンビの体現者。

 人間離れした部分しか見当たらない人外野郎。

 だけどさ……簒奪王。

 あんな弟にも、大切なものがあるらしい。


「――貴様、あの男に手を出すと言ったか」

「まだ囀るか。俺は貴様に返事など求めては――」


 返される言葉に耳を傾けることは無い。

 私はな、あの男に大きな借りがあるんだよ。

 だから、それを返すまでは絶対に死ぬことは許されない。

 そしてなにより、私には、まだ、生きてなさねばならないことがある。


 私は、簒奪王の腕を握りしめる。

 力を込めると、奴は忌々しそうに私の体を投げ捨てた。


 私の体は、凄まじい勢いで壁へと突き刺さる。

 あまりの威力に意識が遠のく。

 だけど、それ以上の激痛で目がくっきりと覚めてしまった。


 久方ぶりの、肉体的な痛み。


 血の味、死の足音。



 いずれも、神で在った時と、同じ感覚だ。



「もう良い、黙れ。貴様は殺す。俺は貴様が嫌いなようだ」


 簒奪王が、一歩踏み出す。

 その姿を、瓦礫に埋まりながら見つめていた。




 ――私は、幸せになる権利などないのだろう。


 全てを失い、絶望し、世界を怨み。

 多くの部下を見殺しにし。

 間違い続け、間違いの果てに敗北し。

 それでも尚、私は何故か、生き続けている。


 きっと私の人生は、ハッピーエンドには程遠い。


 幸せには、きっと手が届かない。


 そう知っている。

 分かりきっていることだ。

 そんなことは、他の誰より知っている。


 けれど、私は生きている。

 生きねばならぬ、そう教わった。


 他でもない、私を倒した男から。


 瞼を飛ばせば、多くの怨嗟が瞼に映る。

 私が見殺しにした部下たち、私が殺した多くの民草。


 私が関わり、死んだ者たち。

 彼らの恨みが、憎しみが、瞼を飛ばせば思い起こされる。

 直視すれば心が折れてしまいそうな、負の塊。

 それを背負っている以上、私はハッピーエンドには至れない。


 だけど、それでも。


 彼らには憎まれて当然だけれど。

 私は許されるはずもないけれど。


 せめて。

 死んでいった彼らの【生】が、正しいものであったと証明したい。


 私が為す、正義によって。


 私のために死んで行った全ての者に報いたい。

 散っていっだ無数の命を、正当化したい。


「……笑いたければ、笑うがいいさ」


 私は、拳をにぎりしめる。

 ふわりと、()()()()()が胸に宿った。

 それは、酷く懐かしい魔力だった。


 立ち上がり、前方を睨み据える。

 簒奪王ロッド。

 言霊王セイズ。

 この二人を前に勝ち目は皆無。

 だが、諦める訳にはいかない。


 弟よ。

 悪いが、お前の敵は、私が貰うぞ。

 この両名が、私の生を否定しようというのなら。


 今までの全てを、間違っていたというのなら。

 私は、断固としてこの二人を否定しなければならない。

 今までの【生】が、正しかったと証明するために。



「――これは、私がすべきことだ」



 さぁ、私の正義を執行しよう。

ようこそ絶望。

そしておはよう、時空神。


次回【時空神クロノス】

失って、初めて得るものも、きっとある。


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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] ギンは姉さんに一気に差をつけられそうだなぁ
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