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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第二席 帝国編Ⅱ
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失-18 絶対言霊

「あぁ、最初に言っておくわね?」


 言霊王セイズは、満面の笑みでそう言った。


「『跪きなさい』」


 奴の言葉が響いた瞬間、魔力が弾けた。

 感じたのは凄まじい魔力量と、身体中に重くのしかかった重力。

 感じたことも無い圧力に膝が折れる。隣のギルは呻き声を上げながら両膝をついており、私は思わず歯噛みした。


「くっ、な、なんという――」

「凄いでしょ! 凄いでしょう私の力!」


 視線の先で、セイズは子供のようにはしゃいでいる。

 奴の眷属名からも察していたが……今ので確信した。


「言霊使い……なんとも、厄介な能力を――」

「わぁ、すごいわね! もう分かっちゃった?」


 セイズは両手を合わせ、楽しそうに笑っていた。


「私の能力は【絶対言霊(ザ・ワード)】! 私の言ったことは全て現実になる! どんな荒唐無稽でも、どんな破綻的なことであっても。私の見る光景は、私の言った光景に等しいの!」

「クソッ! 稀に見るレベルのチート野郎が……ッ!」


 隣のギルか吐き捨てた。非常に同感である。

 神王ウラノスの【設定の書き換え】や悪鬼羅刹の【能力】を知っている手前、たいていの能力では驚かなくなった自信があるが……こればっかりは頬が引き攣るのを感じた。この女、能力だけでいえばあの神王にも匹敵しかねない。


「だが……ッ、抗えん、程ではない!」

「あらっ?」


 魔力を魔力で相殺し、私は何とか立ち上がる。

 こうして立ち上がるだけで一苦労。上位眷属……噂には聞いていたが、なんという化け物っぷりだ。我が弟のチート過多でさえ可愛く見えるぞ。

 隣を見れば、ギルもまた膝に手を当てて立ち上がっている。


「ギルよ、動けるか?」

「……誰に、モノを言っている? お前こそ足を引っ張るなよ」

「安心した。ならば、行くぞギル!」


 体の底から、魔力を汲み上げ、身体中へと纏わせる。

 奴の魔力介入を、身にまとった魔力で遮断する。そうでもしなければこの空間で動くことなど不可能に近い。

 私は大地を蹴って走り出すと、言霊王セイズは驚いたように目を丸くしていた。


「あら、本当にすごいわね! だけど不敬、神霊王様がお考えになった私の力に対して【勝てる】なんて、思ってる時点で万死よ万死!『弾けなさい』な!」

「ぐ、ぅッ!?」


 奴の言葉が響き、私たちの体は弾かれるように左右へ吹き飛ぶ。

 咄嗟に体勢を整えて奴を見上げると……そこには、見覚えのある一人の男が立っていた。

 黒髪赤目で、見上げるほどの長身。

 大して強くも見えない癖に、チートの限りを詰め込んだ反則男。

 その男は私に対して、ふっと口の端を吊り上げ笑った。


「お、お前は――」


 何故ここに、どうして、いつの間に。

 疑問が湯水のように溢れ出すが……私の思考を、ギルの叫び声が描き消した。


「惑わされるな! そこに居るのは【ギン=クラッシュベル】では無い!」

「……ッ!」


 おそらく、ギルも同じ光景を見ているのだろう。

 その顔にはありありと嫌悪感が浮かんでいる。

 私は歯を食いしばって【ギン=クラッシュベル】へと視線を向けるが……やがて、その男が下品に笑ったのを見て『偽物』であると察しがついた。


「あはははは! おいおい、この体、この口調、この性格、何から何まで【ギン=クラッシュベル】って男そのものなんだぜ? それがどうして――」

「……悪いが、俺とその男は遺伝子レベルで似ていてな。幾ら似ていようと、目の前にしていれば必ず分かる。そして、お前は違う」


 ギルの言葉に、男はきょとんと目を丸くする。

 その視線はギルの方へと向かってゆき……やがて、その掌へと銀色の魔力がこぼれ落ちた。


「まぁいいや、よく分かんねぇし。とりあえず殺すな?」

「……ったく、嫌になってくるな、その姿はァ!」


 ギルはアダマスの大鎌を両手に駆け出した。

 対する男が両手に生み出したのは――白銀の刃。

 私もよく知る神の剣【神剣シルズオーバー】。

 だが……何故だ、あの剣は世界でも弟しか持っていない、唯一無二の武器のはず。それを……なぜあの男が持っている。

 それに、何より――。


「ギル! 気をつけろ! その男……いや、その女、言霊王セイズはまだ何か力を隠している!」


 力を隠している。あるいは()()()()()()()()()()()()()と考えるべきだ。

 でなければ、『空亡』や『ギン=クラッシュベル』への変身の理由がつかない。

 まして、その人物が使った神剣まで完全にコピーできるなど……ただの『言霊使い』というだけでは説明がつかない。

 ギルと、【ギン=クラッシュベル】が交差する。

 アダマスの大鎌と神剣シルズオーバーが真正面から衝突し、衝撃波が弾ける。

 あまりの衝撃に闘技場が大きく揺れる。

 私もまた参戦しようと動き出すが……その直前、ギルの銀色の瞳が魔力を吹いた。


 ――月光眼。

 空間を司る万能の魔眼。

 世界三大魔眼の一つにして、世界で三人しか保有していない反則の眼。

 太陽眼、運命眼に比べれば戦闘能力では劣るものの、その力は他の魔眼とは一線を画する。

 ギルの魔眼により、【ギン=クラッシュベル】の動きが硬直する。


「おっ? 空間固定か……動けないな」

「そうか、死ね」


 ギルの大鎌が首へと吸い込まれる。

 その一撃は【ギン=クラッシュベル】の首を跳ねる……かと思ったが、大鎌は虚空を切り裂くだけで終わった。

 なにせ、空間固定の能力は()()()()()()()()()()()()()()()


「な―――!」

「『月光眼』。お前に使えて僕に使えないわけが無いだろ?」


 まるで、あいつの言いそうな言葉だった。

 ギルの一撃をかわした男は、右手の神剣をギルへと振るう。

 その一撃はギルの頭蓋骨へと吸い込まれてゆき……直撃する直前で、私の拳か【ギン=クラッシュベル】を殴り飛ばした。


「うぉ……っ!? あ、危ないな……何すんだよ」

「チッ、仕留め損なったか……。大丈夫か、ギル」

「…………ふん、余計な真似を」


 声をかけると、ギルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 前を見据えると……【ギン=クラッシュベル】の瞳は銀色へと染まっている。

 月光眼か。神剣を使い始めた時点で察してはいたが……この眷属、どういう理屈か、特定の相手へ変身し、その能力を全てコピーすることができるらしい。


「この複写の強さは理解した。だが、オリジナルには遥かに劣る」


 ギルの言葉に、私は思わず頬を弛めた。

 あぁ、確かにその通りだ。

 技術も雰囲気も、あの男の【強さ】も。

 この眷属は、要肝心な所を何一つとしてコピー出来て居ない。


「あらそうなの? つまらないわね……。『元に戻る』わ」


 口調が変わり、姿が元の赤髪へと戻ってゆく。

 その姿は完全に元へと戻って……いいや、正確には違う。


「……どういう、ことだ?」


 眷属の姿は、最初から一度も変わっていなかった。

 小柄で、赤髪で、青い目をした女性。それを私は『長身、黒髪、赤目の男性』だと錯覚していた。

 完全に、彼女の姿を弟の姿に重ねていた。

 性別も体格も正反対の二人の姿を、全く【同じ】だと思い込んでいた。


「貴様、ただの言霊使いでは、無いな?」


 ギルの言葉に、言霊王セイズはニヤリと笑った。

 こんなもの……言霊の力なんて『レベル』じゃない。

 言葉一つで相手の記憶の中にすら入り込み、捏造し、自分の姿すら相手に誤認させる。


「見る光景は、言った光景に全て等しい……だったか」

「……馬鹿を言え。それが『文字通りの意味』だとすれば――」


 だとすれば、絶望という言葉も生温い。

 この女の言った言葉は全てが現実になる。

 跪けといえば、皆が一様に膝をつき。

 自身へ『私はギン=クラッシュベルだ』と言えば、姿も能力も性格も口調も、全てが『同一人物である』と錯覚させられる。

 果ては『自分は無傷だ』なんて口にされれば……最悪の光景が目に浮かぶ。どんな致命傷も一瞬で回復されるなど悪夢もいいところだ。


「これは、本気でやらねばこちらが死ぬぞ」


 ギルの声は、珍しく緊張していたように思える。

 ……この眷属は、他者へと介入していない。

 この眷属が持つ力は、言葉にすれば単純だったんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 正しく、言霊の王様。


「改めまして。私は言霊王セイズ。私が言ったことが現実で、世界は私を中心に回っているの。だから、安心して諦めて? だって私には勝てないもの」


 負けるなど、考えてもいないだろう。

 言霊王セイズの言葉に、私たち二人は苦笑を返す他ない。


 油断も慢心も、一切ない。

 相手は格上、最初から分かりきっていた。

 だが、これは、あまりにも……。



「それじゃ、殺すわね? 弱過ぎる自分たちを恨んでちょうだい」



 この眷属は、あまりにも強すぎる。



稀に見るクソチート

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
― 新着の感想 ―
[一言] 言霊とかすげえかっこいい!やってみたい!
[一言] 久々の感想失礼します。言葉が現実になるなら喋れなくしてしまえばいいじゃない。なんて考えちゃった。
[良い点] 不意打ち更新ありがとうございます [一言] ざ・ワールド?(難聴)
感想一覧
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