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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第二席 帝国編Ⅱ
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失-11 開幕

『さぁ、そろそろ予選開始の時間も迫って参りました!』


 アスタロトの声が響いて、私は瞼を開く。

 場所は控え室ではなく、既に街中。

 少し離れたところには件の少年が噴水の近くで腰を下ろしており、彼は目に見えてしょんぼりとした様子だ。何故か『近くに座りたい』と言って止まなかったが、それを拒否した影響か。

 私は小さくため息を漏らすと、頭をガシガシとかいた。


「あぁ……くそ、おかしくなりそうだな」


 ギルの奴が居ればそれで全て解決したんだが、アイツはまた別の場所からスタートらしい。

 なんとも、こういう時に限って間の悪い奴だ。

 せっかくなら『本戦で戦おう』とか言っておきながら予選でぶち当たる的な空気の読めなさを発揮して欲しい。

 ……といっても、まぁ、今回ばかりはそれが幸いしたのかもしれないが。


「……ねぇ、もしかしてあの人……」

「ええ、間違いないでしょうね」


 コソコソっと話し声が聞こえてそちらを見る。

 そこには、白銀色の鎧に身を包んだ金髪の青年と、その隣に佇む紺髪のメイドの姿があり、ほんと、ここにギルが居なくて良かったなぁ、とある意味思った。

 私と目が合ったことを察したか、金髪の青年はこちらの方へと歩いてくる。


「あ、あの、もしかして……」

「初対面、では無いはずだな、アーマー・ペンドラゴン」


 私の言葉に、ギルの話で出てきた偽勇者、アーマーは目を丸くした。

 確かこの男とは『直接会ったことがない』と言うだけで、初対面ではなかったはずだ。なにせ、前回武闘会を襲撃した際、この男もその場に居合わせたはずだから。だから、全く覚えてはいないが、初対面の間柄ではない。


「は、はい! 初めまして……えっと、クロノスさん、と名乗っているんでしたっけ? 冒険者ギルドで噂になってましたよ」

「ほう? 聞いた話によると、貴様は冒険者ギルドを追放された稀有な人材とも聞いていたが」

「……ま、まぁ、あくまでも追放されたのは僕だけでして。相方のこの人……マルタはこう見えてSSSランク冒険者なんですよ」


 視線を隣のメイドへと移す。

 無表情を顔に張りつけた、どこにでも居そうなメイド。

 しかし、よく見れば既に戦闘態勢に入っている。余程『元・ラスボス』の私が恐ろしいと見える。よく出来た、主思いの侍女らしい。


「そちらも……まぁ、会っているのだろうな。聞いていると思うが、クロノスだ。敵意はないから安心しろ」

「……そう、ですか。信用はしませんが、マルタです。旧聖国の暗殺部隊の長を務めておりました」

「……それは恐ろしい」


 もしも私がこの身でなければ警戒しただろう。

 しかし、それは『if』の話だ、今は違う。

 特に警戒することも無くそう返すと、彼女は呆れたようにため息を漏らす。


「ギンさんからは聞いていましたが……抜け殻、とはよく言ったものですね。燃えたぎる憎悪の炎を失ったラスボス。失礼を承知で言いますが、()()()()()()()()()()()()()()?」

「ちょ、ま、マルタ!」


 アーマーが制止を呼びかけるが、マルタは止まらない。


「少なくとも……あの日、神魔大戦の終幕後。炎の巨人に立ち向かったあの姿。……遠目でしか見ませんでしたが、あの時の方が余程恐ろしかった。今の貴女に、【強さを求めていたあの時の強さ】は一切感じない」

「……そう、なるのかな」


 確かに、言われて初めて自覚した。

 私は、あの時ほど強烈に強さを求めていない。

 でなければ『手加減の練習』なんて発想は出てこないだろう。

 力を制限して、新たな世界を見るだなんて思いもしないだろう。

 私は首の金属に触れ、軽く笑った。


「――『腑抜けた愚か者』、と見る者もいるのだろうな。つい先日も、そう考えた昔の知人が私の元へとやってきた。……まぁ、アレがどう思っているのかは知らないし、貴様がどう思おうと知ったことではない」


 だが、それでも。


「私はな。もう、誰にも負ける気はしていないんだ」


 そう告げた私は、きっと笑っていただろう。

 かつての凄みなんてどこにもない。威厳も威圧も何も無い。

 なんの理由もなければ道理もない。

 けれど不思議と、自信はある。


「……そう、ですか。ならば示してください」

「当たり前だ、私の言葉にはなんの重みもないからな」


 かくして、私は組んでいた腕を解く。

 視線を周囲へと巡らせる。

 そして、拳を握った。


『ルールは簡単! 相手が持っている【札】を奪い取り、最終的に札を持っていた数の多い上位32名のみを本戦出場とします! その倍率、なんと百倍以上! 奪うも捨てるも盗むも破り捨てるも全て自由!』


 アスタロトの声が響く。

 上空へと視線を向けると、既にカウントダウンは始まっていた。

 その注目が集まるにつれて、私やアーマー、マルタらへと注目が集まってゆき……やがて、彼らは私たち三人へと向けて武器を構える。


「これは……」

「貴女程じゃなくとも、この中じゃ一番名前が売れているのは僕とマルタ、ですから。まぁ、こうなることは予想してました」


 アーマーは腰の剣を抜き放つ。

 予選で本気は見せないつもりか、本来の『神剣』では無いようだ。だが、そうでなくともかなりの業物と見える。

 その隣では、どこからか銀色の短剣を取りだしたマルタの姿がある。


「ひ、ひぃっ! クロノスさんっ!」

「寄るな糞ガキ。参加するなら本気でやれ、でなければ辞退しろ」


 それが最低限の礼儀ってものだろう。

 それもないのに参加などするな。

 私は孤児院の少年から半歩距離をとり。

 と、同時に、上空のカウントダウンがゼロへと成った。


『いざ、予選スタートです!』


 アスタロトの声が響いて。

 そして、野太い咆哮と共に無数の冒険者が走り出した。


「やっちまえお前らァ!」

「最高位冒険者に追放野郎! ついでに大型新人だろうが数で囲めばこっちの勝ちだ! まずは厄介な野郎共からぶっ飛ばせェ!」

「先制は任せな!『ファイアボール』!」


 後方から巨大な火の玉が私たちへと迫り来る。

 私はとっさに手を掲げるが……ふと、横目に見えたマルタの姿に目を丸くした。


「全く……近接主体に飛び道具とは。なんという姑息さ。恥を知りなさい」


 彼女は、虚空へと短剣を振るった。

 途端、遠く離れたファイアボールへと巨大な斬撃跡が刻み込まれ、形を保てなくなったその魔法は瞬く間に霧散してしまう。


「……これは驚いた。攻撃を任意の場所へと飛ばせるのか……? 転移魔法の亜種、と言ったところだろうか」

「……まぁ、詳しくは語りませんが、似たようなものです」


 何が『近接主体』だ。

 同格であればこの女相手に回避は通じない。近接で切りあっていても、相手が攻撃すれば防御しようと回避しようと、好きなところに攻撃を転移させられるのだ。一方的に切り刻まれるだけになる。

 ……なるほど、あれはいい力だ。学習した。


「おいおい! なぁに余所見してんだァ!?」


 と、そんな私に横合いから冒険者が迫り来る。

 そこには白銀の大剣を振りかぶった男の姿があり、私は彼へと端的に返した。


「してないが?」


 男は大剣を振り下ろす。

 そして直後、白目を剥いて吹き飛んだ。


「な……ッ!?」


 すぐ隣で、対処しようと剣を構えていたアーマーが、驚いたような声を漏らした。それもそうだ、これは人間には真似出来ない。


「な、にが……」

「なんだ、見えなかったのか?」


 呆然とした彼に問いかけ、再び前を向く。

 そこには……見えていなかったんだろうな。なんの躊躇いもなく、勢いに任せて突撃してくる冒険者たちの姿がある。

 彼らが装備している武器は、いずれも大会のために買い揃えたであろう業物ばかり。そんな武器を、思い切り振りかぶった彼らの前に。


 ――私は、無防備に一歩踏み出した。


「――あ、あぶなッ」


 誰かが叫んだ。観客が息を飲んだ。

 その目の前で、私の頭蓋を鈍色の刀剣が【通過した】。

 正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()と言った方が正しい。

 武器を一瞬にして失った男は目を向いて後ずさり、そんな男に足をかけて後頭部から転ばせる。これで一人は白目を剥いて戦闘不能だ。


「こ、この野郎! ぶっ殺して――」

「殺意は及第点、だが遅い」


 躊躇などしない。

 ただ、刀身の前に身を乗り出して腕を伸ばす。

 私に触れた武器は全て消失、伸ばした右手はカウンターとして相手の顎を直撃し、たった一撃でまたもダウン。これで三人目。


「な……! あ、貴方は、たしか――ッ」

「攻撃できない、か? 安心しろ。攻撃はしていない、防御と、ただ腕や拳を『置いているだけ』だ」


 私何も攻撃していない。

 相手の行動を読み、相手の急所が数瞬後に来るだろう場所へと『拳を置く』。それだけで相手は勝手に倒れるし、脚をかけるなど、そんなものは攻撃にすら当たらない。

 つまり、私は攻撃などしていない。

 ただ、相手が勝手に消えていくだけ。


 私は両手を広げ、笑ってみせた。


「そも、間違いなのだ。私の体は、この世界で()()()()()()()()傷付けられない。触れただけで消す、触れただけで喰らう。動く必要なく万勝できる。それが私で、それはこれからも変わらない」


 私の天敵は、後にも先にも一人だけ。

 そして今の私は、アレと戦った時より更に強い。


「……ッ」


 隣のアーマーが、私の横顔をみて身を竦ませた。

 かつての私は、それは確かに恐ろしかったろう。

 憎悪に身を任せ、何も考えず破壊の限りを尽くした。

 だからこそ強かった、だが同時に脆かった。


 けど、今の私は違う。


 考えて、工夫して、試行錯誤し。

 全てを考え、行動している。

 視野の狭さなど、既にない。

 もはや、憎悪に囚われることは無い。

 何にこだわることもない。

 必要とあらば、神だった頃さえ思い出そう。

 私はただ貪欲に、変わらず前を見て進むだけ。



「前も昔も、変わらず負ける気だけは毛頭ない」



 たとえその相手が、神霊王の眷属だったとしても、だ。

改めて、混沌の性能をご紹介。


①触れれば消滅

②攻撃を全て吸収し、自身の力に変える。

③Lv.1からステータスが到達者。

④他者を到達者レベルまで強化可能。

⑤死者蘇生も可能。

⑥他者の支配能力(色欲の罪以上)

⑦『開闢』所持者以外に傷付けられない。

⑧他者に殺されない運命を持つ。

⑨まだレベルはMAXじゃない。

⑩戦闘技術も億単位の年数で鍛えてる。


以上、混沌の『つよいところ』TOP10でした。

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