第57話
「お、お待たせしましたっ!」
そんなことを考えていると、どうやら受付さんが戻ってきたようだ。しかも、後ろに誰かを引き連れて。
彼女の後ろにいる茶髪の男は、どちらかと言うと細マッチョタイプだった。にも関わらず、彼から感じる威圧感はあのルーシィすらも上回っていた。ちなみに獣耳がついてる。
「初めまして。俺はこのギルドマスターである所の、狼の獣人族、ベラミだ。お前がバジリスク討伐依頼を受けた奴でいいかな?」
どうやらギルドマスターだったようだ。
道理で威圧感が凄いわけだ。
「まぁ、そうだけど......威圧、そろそろ止めない? 皆怖がってるんだけど?」
ギルド内の人たちが全員、顔面蒼白にしてるんだが.....
っていうか、彼の隣にいる受付の少女なんて、生まれたての子鹿のように足をプルプルと震わせている───正直、意識を保ってるのがやっとという感じだ。
僕がそう言うと、ベラミは笑って威圧を解いた。
「ハッハッハッ! すまなかったね、ある程度実力は測っておかないと危険だからさ」
......喋り方まで変わってるじゃないか。
the優男、って感じかな?
少し野生感溢れてるけど。
「まぁ、君に関しては問題無さそうだがな? って言うか、俺が送った領主からの依頼書、たぶん届いたの今朝だろう? ここまで来るの速すぎじゃないか?」
「あぁ、そう言えば言ってなかったか......」
僕はギルドカードと依頼書を渡して、翼と尻尾を戻した。
「Cランク冒険者、ギン=クラッシュベルだ。僕は吸血鬼だからね、普通に空飛んできたよ」
ついでにフードも取ってやると、彼は驚いた様子で、
「ま、迷い人っ!? それにその赤い瞳......執行者かっ!? はぁ、レイシアさんも凄まじい人物を送ってきたね......」
あれ? 今、なんか変な単語が聞こえたような......
「それにしてもなんだよこの討伐履歴。ワイバーン×68って、一体何をしてきたんだ? 執行者のギン君?」
.........僕の二つ名はもう既に広まっているようです。
☆☆☆
彼曰く、
「大陸中のギルドには、名彫り石、という物が設置されていてね。新しい『二つ名』ができた場合、その『二つ名』『名前』『種族』『特徴』『ランク』がそれぞれ彫られるんだよ」
なんて意地の悪い石だ。
僕の(超絶中二病な)二つ名はもう既に世界中に知れ渡ってるってことだろう......泣きたくなってきた。
迷い人、ギン、執行者。
この単語を勇者のヤツらが見ないことを祈ろう。
桜町あたりに見られたらなんと言われることか......
「でも、その石、どういう原理になってるんだ? 二つ名ができる、なんて言っても曖昧すぎるだろ?」
「いやぁ、それが全くの謎なんだよな......。初代のギルドマスターたちが作った、何処かの錬金術師に依頼して作らせた、神々が与えてくださった、などと色々な噂は流れてるんだけど、たぶん、知ってる人はいないんじゃないか?」
......容疑者(神)は何となく想像つくけど、まぁ、言わないでおこうかな。
───あの神だったら『ほっほっほ、面白そうじゃし、お前ら、手伝えぃ!』とか言って上級神集めそうだもんね。
閑話休題。
「それで、バジリスクはどうしたらいい?」
結局はこの話に戻るわけだ。
コイツが出てきたのもそのためだろう。
すると、ベラミは申し訳なさそうな顔をしながら、
「いや、凄く言いづらいんだが...な? 落ち着いてきいてくれよ? ホント真面目に頼むから」
「う、うん、分かった」
「ふぅー、落ち着いて聞いてくれよ?」
彼は真剣な、それでいて申し訳なさそうな顔をして、僕に向かってこう告げた。
「領主の馬鹿が、君を試したいらしい」
☆☆☆
と、言うわけでやって来ました領主の館。
今現在、僕達は領主の館の客室に通されている。
「そういえば、パシリアの領主にも呼ばれてたけど......先にこっち来て良かったんだろうか?」
「おいギン君、パシリアの領主って言ったら侯爵様じゃないか。向こうで一体何をやらかしたんだ?」
「いやいや、極悪人を撃退した、ってお礼らしいよ。って言っても、その極悪人も今はこの街に来てるみたいだけど......」
「えぇっ!? そ、そうなんですかっ!?」
「うん、多分だけど、二人とも戻ったら大変な目に遭うと思うよ......」
「「.........」」
沈黙する二人。
あぁ、頭を抱えている二人の姿が目に浮かぶようだ。
「あ、そう言えばここの領主の名前って何なんだ?」
「そ、そんな事も知らずに来たのかい......?」
「ここの領主様は、ベネフィット伯爵ですよ?」
「こ、これまた領主らしいお名前で......」
まぁこんな感じで、一応ベラミと受付ちゃん───本名はブリジットちゃん───にも付いてきてもらったのだ。
そもそも僕は礼儀なんて知らないし、いちゃもんつけてきた時の目撃者として、ギルドから連れてきたのだった。
───まぁ、仮にも高貴な一族である所の領主様に限ってそんなことは無いとは思うのだけれど......まぁ、一応の話だよ。
そんなことを考えていると、ノックもせずに誰かが入ってきた。それも後ろに騎士たちを連れて。......誰だか予想はつくが、それでもこんな失礼な奴にこっちまで気を使う必要は無いかな?
(『鑑定』!)
僕は迷いなく鑑定スキルを使った。
名前 オルーガ・ベネフィット (39)
種族 人族
Lv. 12
HP 34
MP 29
STR 10
VIT 6
DEX 12
INT 41
MND 14
AGI 8
LUK 18
ユニーク
なし
アクティブ
火魔法Lv.2
パッシブ
剣術Lv.1
馬術Lv.3
礼儀作法Lv.3
毒耐性Lv.1
称号
ベネフィット家当主 ビントス領主
容姿としては、オークの小型版みたいな感じ?
両手の全ての指に宝石付きの指輪。
ネックレスには魔石付きだ。
顔は脂ぎっていて口元には下卑た笑み。
その視線は僕の隣へ.........
僕の隣って、ブリジットちゃんなんだけど......
って、コイツッ!
まさか、僕の同類かっ!?
恭香がいないと本当にやりたい放題、思いたい放題なギンであった。
「ふん、お前が例の冒険者か?」
豚がそう話しかけたのはギルドマスター。
......こいつ、ギルマスの顔すら覚えてないのか?
「いえ、彼はこの街のギルドマスターです、領主様」
そう指摘したのは豚の後に立つ騎士さん。
この人もプライドが高そうだな......
「ふ、ふん、知っておるわっ! ふっ、そこの娘っ子が例の冒険者であろう?」
「いえ、彼女は恐らく受付嬢かと...」
.........コイツ、分かっててやってないか?
豚は信じられないような顔をして、こちらを見た。
「ま、まさか、この見るからに弱そうな餓鬼が、例の冒険者だとでも言うのかっ!?」
あぁん? 討伐してやろうか? この新種のオークがぁ!?
そう、口に出すのを抑えた僕は、賞賛に値するだろう。
まだ、まだコイツは口だけで僕の嫌いなタイプに合致はしていないのだ。あの馬鹿に比べたらまだまだへっちゃらさっ!
そんな脳内暗示を掛けている間も話は進む。
「えぇ、恐らくは......」
「ふん! 我も見くびられたものだなっ! まさかこんな餓鬼を送り付けてくるなぞっ! パシリアのギルドマスターもとうとう頭が湧いてしまったか? わっハッハッハっ!」
「えぇ、そうかもしれませんね、くっくっ...」
「ふん! おい、ギルドマスター。まさかこんな弱々しい餓鬼をバジリスクの討伐に向かわせるつもりではあるまいな? 我の軍でも太刀打ちできなかったあの魔物に、こんな餓鬼一人で太刀打ちできるわけがなかろうよ!」
何故だろう。
豚みたいな顔面して、『我ッ!』とか言ってる姿を見ていると、怒りよりも笑いが込み上げてくる。
少し考えてもみなよ。
豚がドヤ顔して『ふん! 我は偉い! お前は弱い!』とか言ってたら、怒りなんて湧くか?
普通は、『家畜の分際で何言ってやがる?』で終わる。
今回も似たようなものだ。
────しかしそれは、僕の場合は、の話だったようだ。
「おっと、領主様。彼は迷い人ですよ? しかもその強さはギルドマスターである私よりも遥かに格上、しかも吸血鬼。昼間の時点でその吸血鬼が私よりも強い意味、貴族さまであるアナタ様ならもちろんわかりますよねぇ?」
「確かにそうですねぇ。平民である私たちの上に立つ貴族さまともあろう者が分からなかったら、それはそれは笑いものでしょうねぇ」
......コイツら連れてきたのは失敗だったかも知れない。
そんなことを遅まきながらも思った僕だった。
ベラミ&ブリジットちゃんでした。
個人的には豚の後ろの騎士の方がイラッとします。




