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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第二席 帝国編Ⅱ
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失―02 クロノス

お待たせしました。

『第二席、帝国編Ⅱ』開幕です!

ちなみに今回のテーマは【ラスボスがインフレしたらこうなる】って感じです。

「…………ん?」


 ふと、すれ違った赤髪の女を見て首を傾げる。


「今のは……はて、どこかで会った気もするが」


 どこで見たのだったか。

 なんとなく、とても昔……それこそ古代王国やらなんやらがまだ残ってた時代だったと思うが……。って、いや待て。そんな太古から生存してるということはかなり高位の神なのか?

 思わず振り返ろうと腰をあげると、隣からぐいっと引っ張られて馬車の座席へと後戻りする。


「あねじゃー! もっとお話ききたいのだ、なのよ!」

「……おいお前、どうでもいいが、なんだその語尾は。どこのガキかは知らんが、もう少しマシな言葉遣いをしろ。アホみたいだぞ」


 なんだその「なのよ」とかいう語尾は。

 おおよそどこかの馬の骨が使っていたから真似している、と言ったところだろうが、アホ丸出しにも程がある。

 そう幼女の頭を軽くつつくと、彼女は何がおかしいのかきゃっきゃと私へと抱きついてくる。正直、困る。

 私は現実逃避気味に馬車の外へと視線を投げると、どうしてこうなったのか、もう一度最初から思い出すことにした。


 ――あの男との戦いを終えて、数日が経た。


 惨敗だよ惨敗。

 もう思い出したくもないが、負けてしまった。

 あぁ、思い出すだけであの男の顔面をギッタギタに斬り裂いてやりたくなる。そういうレベルで嫌悪感増し増しだが、今はそういう話ではない。

 あの後、私はとある『制約』をあの男にこの体へと掛けさせた。

 その上で、かつての仲間たちと別れた私は、一人、世界を巡る旅を始めたのだった……だが。


「……不覚をとったか」


 旅を初めて、初日の昼。

 なんだか悲鳴が聞こえて駆けつけてみれば、なんと馬車が襲われているではないか。思わず声をかけたはいいが、襲っている輩はなんと私に発情するようなゴミばかり。男に好かれるとか本当に鳥肌が立つ。反吐が出るわ。

 ということで、皆殺しにした。

 今更人殺しになんの感慨も覚えない。ましてや相手は馬車を襲い、女子供を売り払おうとするような『悪』だ。なんの躊躇も無かった。


 しかし、私はひとつ間違いを犯した。


 そう、金を持って来忘れたのである。

 本当に失敗だった。

 長らく食事はサタンに任せっきりだったから、ついつい『貨幣』などという概念を忘れていた。

 ということで、私は助けた馬車へと見返りを求めた。

 それ自体が間違いだったのである。


「ふへー! あねじゃはいいニオイがする、なのよー」


 そう、何故か馬車に乗っていた幼女に懐かれたのだ。

 はぁ? 意味がわからない。

 なんで私みたいな殺意マシマシの男装野郎に懐くんだ。その上一瞬で荒くれ者どもを喰らい尽くすような結構な化物。客観的に見れば私でも引く自信があるぞ。

 私は額に手を当てため息を漏らすと、同乗している男へと視線を向ける。


「おい貴様、私みたいなのを乗せて大丈夫なのか? まぁ、私としては助かるが……」

「ん? あぁ、なんだ今更」


 その男は、水色の髪を短く切りそろえた大柄な男だった。

 今私に抱きついているパイナップルヘアーも水色の髪だし、恐らくは親子なのだろう。そんな推測を立てる私に、男は遠い目をして口を開いた。


「まぁ……うん。お前さん、俺から見てもガチなやばいヤツだってのは理解してるぜ? それこそ俺如きじゃ格の違いも測れねぇレベルのやべぇ奴だ」

「だろうな」

「けど……なんつーかな。俺の義理の息子なんだが。そいつもかなーりブッ飛んだ野郎でな。ぶっちゃけ慣れた。山吹っ飛ばしたり、攻撃の直撃地点が赤熱してガラスになってたり……あぁ、またインフレしてるの? って感じなわけよ」


 その言葉に、少し驚いた。

 義理の息子……ということは、コイツの娘の婿殿、ということか、あるいは養子か。いずれにしても、私の【終焉(ジ・オーラス)】の片鱗を見た上で『慣れた』等と……。


「なんなのだその男は。……神魔戦争に出ていたか?」

「ん? あぁ、あの戦争にはほとんど出なかったみたいだぜ。ほとんど後方支援で、裏方ばっかりやってたみたいだ」


 ……なるほど。

 一瞬、ギルと戦っていた……く、く……クガ? とか言ったか? あの男のことかとも思ったが、言っては悪いがあの男、我が弟とため張るレベルの童貞臭さだった。あんな男が誰かと結婚なんて出来るはずもない。養子の方かとも考えたが……まぁ、そんな偶然、あるはずもない。


「おそらく知らん顔だな。貴様が言うそこまでの強さ、もしや知った顔かとも思っていたが……」

「だよな! 俺もアンタの……なんつーの? スキル? あの黒いの見た瞬間は『ぜってーコイツ、あの野郎の知り合いだな!』って確信してたけど、そこまで世間は狭くなかった、って訳だな」


 当たり前だ。世間はそんなに狭くない。

 男は大きな口を開けて馬鹿みたいに笑うと、改めて私へと手を差し出してくる。


「んじゃ、改めまして自己紹介だ。俺の名はエ(・)ル(・)グ(・)リ(・)ッ(・)ド(・)! 昔はちっと王様やってたんだがな、今は隠居して放浪の旅してる訳よ!」


 エルグリッド……か。

 聞いた覚えもない名前だな。そこまでの重要人物でもないだろう。

 内心でそう結論づけると、私は素直に握手へと応じる。


「ああ、私は……そうさな。しがない旅人。名前はク(・)ロ(・)ノ(・)ス(・)だ」


 私の『混沌』という名前はあまりに世界へ広まりすぎた。

 おそらくギルのヤツが出したのだろう。私や弟などの詳細を書いた本が、弟との最初の戦いを終えてまもなく世界中へと出版された。

 その影響で今では名前すら偽らなければならない始末だ。


「おうよ、よろしく頼むぜクロノスさんよ! 我らの恩人!」

「……貴様がいればあの程度、私が手伝うまでもなかったのだろうがな」


 見たところ、この男もそれなりの強者だ。

 もちろん私たちの域まで入ってこられるか、と聞かれれば即答できる程度だが、それでもあの程度の数ならば単体で全滅させられただろう。

 そう小さく息を吐いた私は……ふと、気になることがあって問いかける。


「して、この馬車は一体どこへと向かっているのだ? ……女子供に、オッサンしか乗っていないようだが?」


 見れば、隣のパイナップルヘアーに、目の前のオッサン、エルグリッド。その他には小綺麗な服装に身を包んだ子供や、大人になりかけといった少年少女ばかりが乗っている。……うむ、何人か可愛い女子が居るようだ。お近付きになりたい。


「お、オッサン……ま、まぁいいか。俺らが目指してんのは『帝国』さ」

「……帝国? 何処だそこは」

「……お前さんも大概だな。帝国ってのは、獣王が率いてる獣人たちの国よ。そんでもって、そこで久方ぶりに『武闘会』が開催されるってんで、俺たち観戦しに向かう途中、ってなわけ」

「武闘会……武闘会? …………あぁ、ア(・)レ(・)か」


 思い出した。

 数年前、なんかルシファーに分体を預けさせて襲ったアレか。

 たしか、ルシファーがよくわからん小僧に私の力を分け与えていたから、帰ってきたあの男を一発ぶん殴ったのをよく覚えている。


「ん? おお、お前さんも知ってるか?」

「……まぁ、な。参加したこともなければ詳しいことも知らないが……察するに、強い者が集まって、一番を決め合うとかいうアレだろう」

「そうなのよー!」


 隣の幼女が同意してくる。

 一番を決め合う…………か。

 正直、私からすれば参加する価値が見当たらないな。

 今の私が世界で唯一、マトモに戦える存在はあの男だけ。眷属関係にまで目を向ければその限りではないのだろうが、少なくとも私がソレに出て何かしら得るものがあるとも思えない。


「んで、これがその武闘会のチラシってわけよ」

「……ん」


 エルグリッドより、一枚の紙を受け取って目を通す。

 そこには色々とそれっぽい事が書いてあったが、なんとまぁ、チンケなままごとだこと。何が面白いのかすら分からんな。


「なになに……。『前回、予選でステージ上にあまりにも人を集めすぎたことに苦情があったため、今回の予選は街中を全てを用いたバトルロワイヤル。その中で条件を満たした者を本戦に出場させる』……か。前回は一体何をやったんだ?」

「あー、その、予選受けるヤツらを何グループかに分けてアリーナの中に突っ込んだんだよ。前回はいつにも増して出場者が多かったから、けっこうキツキツで戦いにくかったんだよなー」

「……その様子だと、貴殿も前回は出場したのか」

「おうよ! さっき言った義理の息子ってのも出てたんだぜー。身分は偽装してたんだけどよー」


 ほう、あの場所に居たのか。

 あの時はほとんどルシファーに任せっきりだったから、あまり詳しく覚えていない。

 まぁ、あの男の腕を奪ってやったのは覚えてるがな。あとゼウスとハデスが出張ってきたのだったか。久々に見たが、二人とも随分と大人になって……。父としては複雑な心境だったな。

 そんなことを思いながら、そのチラシをぼーっと見つめる。

 言っておくが、私は出ないぞ?

 いや、本当に出るつもりは無い。

 ぶっちゃけ、私は他とは格が違う。そんな下々の者達が鎬を削る大会に出場して一体何を楽しもうというのか。

 ホント、得られるものが何も無いのだ。

 少しでもそういったものがあれば、まだ出場も考えるのだが……まぁ、私が自分の意見を変えるほどの『何か』などあるはずもな――



「あ、そういや優勝したら賞金出るみたいだぜ」


「おい、出場登録は今からでも間に合うのか」



 ――くも、ないような気もしなくもない。

 改めてチラシを睨みつけると、真ん中のところにどデカく賞金の金額が乗っている。えーっと、ゼロが、一、二、三、四、五、六……とにかく沢山だ。現代の通貨基準は分からんが、とりあえずこれだけあればしばらくは間に合うだろう。


「おっ、急にやる気出てきたな?」


 エルグリッドは笑い、私はそのチラシを握り潰す。

 ……まぁ、なんだ。

 私は、今まで目を向けてこなかったものを見るために旅を始めたのだ。

 ならば、選り好みせず、小さなものにも目を向けるべき……というのもあるが、やっぱり賞金も欲しい。喉から手が出るほどに欲しい。

 と、言うことで。


「エルグリッド、一つ聞きたい」


 私は目の前の男へと、問いかける。



「手加減とは……どうすれば出来るのだろう?」



 元、時空神クロノス。

 現、混沌。

 生まれてこの方、手加減などした覚えがなかった。



クロノス、武闘会参戦決定!

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