第55話
朝は辛いよ。
吸血鬼の朝とは予想以上に辛いものがある。
まず第一条件として、吸血鬼とは夜行性なのだ。
その吸血鬼が朝に起きるなど馬鹿げている話だ。
───正直、種族の特性に真っ向から喧嘩売ってるとしか思えない行動である。
例えば、
銀の弾丸を心臓に食らっても無傷。
炎を浴びるの大好き。
全身を銀製の防具を装備している。
ニンニクが大好物。
血を見たら気絶する。
十字架のネックレスを身につけている。
吸血の際に噛み付く場所が腕。
手鏡で髪型を弄っている。
旅に出る際の水筒の中身が清水。
───因みにこの世界では"聖水"ではなく"清水"なのだとか。ややこしい事この上ない。
八重歯が抜けて銀歯になっている。
許可してもいないのに家に入ってくる。
まぁ、そんなのと同位だ。
文字通り、『馬鹿げている』んだよ、ほんとに。
───まぁ、最後のやつはただの迷信らしいけど。
因みに、今の状態を言うなれば、五日間徹夜して直後に一時間だけ寝て起きた、みたいな、そんな気分だ。
「だからさ、僕は起きなくていいと思うんだよね」
『いや、ダメだよ。きちんと起きないと』
朝起きたら耳元から美幼女の声。
うん、素晴らしい日だ。
───これが夜だったら喜んでいたかもね。
「はぁ......恭香、僕は吸血鬼だぞ? 朝に起きろ、とか頭沸いてんじゃないのか?」
正直、めっちゃ身体がだるい。
───まるで何かが乗っかっているかのように重いのだ。
そんな事を考えていたのだが......
『いや、普通の吸血鬼はもっとキツイからね?』
.........まじですか?
『.....まじですよ』
あぁ、それは可哀想に......。
全く、吸血鬼には生きづらい世界だぜ。
そんな事を考えながらも、もう諦めて起きようとしたのだが......
「うっ......なんだ?」
何故か上半身だけが金縛り。
しかも僕のお腹の上から息遣いがきこえる。
.........オバケじゃないよね?
正直、オバケだったら失神する自信がある。
なんとか首だけは動いたので、恐る恐るそちらを見てみたのだが........
「はぁ、またかよ......」
そこには、僕の腹の上で寝ている白夜がいた。
はぁ......めっちゃ涎垂れてるんですけど。
朝から憂鬱な僕でした。
☆☆☆
そんなこんなで食堂まで降りてきた。
後ろを寝ぼけ眼の白夜がとてとてとついてくる。
───どうやらレオンの卵は部屋に置いてきたようだ。
因みに、僕の今の服装は半袖のTシャツに長袖のフード付きの上着。それに柄物の半ズボンだ。
───それは、こっちに来た時の服装であった。
替えの服がないし、あの服は白夜の涎がべっとりだったので、仕方なくこの服に着替えた次第である。
───あぁ、そう言えば。白夜の服は変身スキルで自分の体を弄って作ってるらしいから汚れないらしいよ?
まぁ、それはいいのだが。
どうやら迷い人たちは服すらも広めなかったらしい。
その為か、すれ違う人たちから好奇の視線が注がれる。まぁ、いい気分ではないよね。
「おはようさん、お客さん......ってのも変だな。って、ギン、お前、どうしたんだ? その恰好......」
そう問うてきたエルビンはちょうど掃除中らしい。
モップを持って目を丸くしている。
「ん? 服のことか? これは僕たちの住んでた世界の服装だよ。やっぱ目立ってるか?」
「あ、あぁ。まぁ、それもだけど.........」
どうやら服の事ではないらしい。
何か驚くようなことしてるかな?
寝癖が酷いとか、まだどっかに白夜の涎がついてるとか?
うわ、そうだったらやだなぁ......
そんな事を考えていたのだが、エルビンが驚いた事は全然別の事だったようだ。
「お前さん.........翼と尻尾、どこ行ったんだ?」
エルビンは僕の背後を指差してそう言った。
☆☆☆
『そんなに辛いなら、翼と尻尾、無くしてみたら?』
事の始まりは恭香のその一言だった。
何故、恭香がそんな事を言ったかというと、どうやら吸血鬼の身体で、最も日に弱い部分が、翼と尻尾らしいのだ。
半信半疑で変身スキルを使い、僕の身体を人間であった頃の身体に───まぁ、外見だけで能力は吸血鬼のままだし、眼の色とか八重歯も吸血鬼のままに───変化させたのだ。
「すると、なんということでしょう! 体のだるさが一徹レベルまで回復したのです!」
「いや、一徹でもきついと思うけどな?」
「でもその前は五徹だぞ? それよりかは随分とマシさ」
「......まぁ、そうだろうな」
うん、あれはきつかった。
目の前が真っ白になって、頭もぼやーっと働かない。
さらに、とめどない波状攻撃を仕掛てくる吐き気と頭痛。
何か幻聴とか幻覚見えたし......
五徹なんてしたことないから分からないけど、きっと経験したらあんな状態になるのではなかろうか?
吸血鬼に幻覚とは......恐ろしいものだ。
まぁ、そんな事を話しながらも朝食を口にする。
───もちろん口の中に物を入れながら話してはいないさ。あれ、やられる側だと真面目に嫌だからね。
「それにしてもこっちの世界の食べ物は旨いよなぁ......なんて言うんだろう、素材の格からして違うもんね。向こうが下位種だとしたらこっちは中位種飛ばして上位種だよ」
「そ、そんなに違うのか......? だとしたら俺は、そっちの世界じゃ生きていけねぇかもなぁ...?」
「う、うむ......確かにそうかもしれんのじゃ......」
エルビンも白夜も同意のようだ。
『まぁ、私はよく分からないけどこちらとあちらの食材は全然違うらしいからね......』
どうやら恭香も同意のようだ。
───いつかコイツも人型になれればいいのにな...
『因みにマスターが種族進化したら、私も進化できるみたいでね。どうやら最初から変身のスキルが手に入るらしいよ?』
.........何だか俄然やる気が出てきたぞ?
「くっくっくっ、一体どんな美幼女になるのやら。きっと黒い本だから黒髪の幼女に違いないな。それも天使みたいな幼女に違いない。うん、とても、とても楽しみだ」
「主様、声に出ておるぞ?」
おっと危ない。失言、失言。
って、あれ? いつの間にか、僕のパーティが幼女の吹き溜まりになってないか?
団長。8歳、恭香。
副団長。10歳、白夜 (見た目だけ)
構成員。0歳、レオン (性別不明)
なんだこのパーティは。
10歳以下のロリ(ショタ)っ子しかいないぞ?
これでもし、レオンが女の子だったとしたら......
ふっ、正しく理想郷だな。
「何だかニヤニヤしてるのじゃ」
『うん、真面目に気持ち悪いね。もうロリコンを隠す気がないんじゃないかな? あれ』
失礼な奴らだ。
僕はロリコンじゃない。
「僕はオールラウンダーなだけだっ!」
「あら? それって本当♡」
「すいません、嘘です。」
うん、BLは無理です。
それにしても神出鬼没だな、ルーシィって。
まぁ、話を戻すとしよう。
やっぱ、これ程の食事に食べ慣れてるだなんて、向こうの人が聞いたら、さぞ羨ましがることだろうな。
───いや? この感動を味わえないのなら逆なのかもしれないな......。
まぁ、そんな事考えても仕方ないか。
僕が今、食べられているだけでも良しとしよう。
そう割り切って、僕は残りの朝食を平らげる。
因みに朝食は、スクランブルエッグにオークベーコン。
それに加えて奴だった。
☆☆☆
時と場所は変わって、ギルド内。
僕は上着のフードを被ってギルドに来ていた。
フード被るだけでも随分とマシになるもんだな、体調。
今回は珍しく、恭香も白夜も連れてきていない。
どうやらレオンがもうすぐ産まれるそうで、白夜だけでなく恭香もそちらに付いていて貰っている。
まぁ、僕も用事を済ませたらすぐ帰るつもりなのだが。
ん? 用事のことか?
いや、昨日、ネズミを一匹逃がしてしまったからね。
ある程度仲間が集まるまでは泳がせておくつもりだが、それでも現状くらいは確認しておかないとさ......
え? 何もせずに逃がしたんじゃないのか、って?
くっくっくっ、そんな訳ないじゃないか!
僕だってアイツを生かしておくつもりなんてないさ。
魔導Lv.1
『追跡者』
相手の身体に隠蔽済の魔力の塊を付着させる。
使用者は相手が居る方角を常に知ることが出来る。
相手が圏内にいる状態でマップを使用した場合、そのマップにはドクロマークと名前が記されることとなる。
その魔力は使用者自身にしか解除することは出来ない。
僕から逃げられると思うなよ?
新しい仲間諸共、完膚なきまでに潰してやるさ。
くっくっくっ、笑いが止まらんなっ!
今回ギルドに来たのは、彼の様子を見るついでに討伐依頼を幾つか受けようかと思ったからである。実はお金ないんだよね。
まぁ、最悪の話、蠍の素材売ればいいのだが。
まぁ、そんな考えで依頼を見ていったのだが......
「あら、おはようございます、ギンさん」
「......あぁ、おはよう」
残念ながら、依頼を決める前にネイルに見つかってしまった。
っていうか......今、明らかに僕に向かって歩いてきたよね? しかもわざわざ受付を放り出してまで。
その手には一つの依頼書。
......何だか嫌な予感しかしないな。
まぁ、こういった予感は外れないわけで。
「ギンさん、あなたに指名依頼が来てますよ?」
レオンよ、君の誕生には立ち会えないかもしれない。
そろそろ話も進みます
アーマー君については活動報告もご覧下さい。




