機―06 目覚め
どうも作者です。
既に『あの頃は毎日投稿してたのか……、若いっていいな』とか思い始めてる今日このごろです。
明日もう1話投稿します。
それは、魔国入りしてから数日が経ったある日のこと。
魔国の首都までの道のりもあと少し。正体不明のメカ娘が居るために少々旅の速度も落ちてはいるが、それでも順風満帆な旅路路線を歩んでいた――そんな時だった。
「主様主様ーっ! た、たいへんなのじゃ!」
何とか魔力を使えないものか、と部屋の中で試行錯誤していた僕へと、叩きつけるようにしてタックル気味にドアを開けた白夜がそう叫ぶ。
見れば彼女はどこか焦ったように額の汗を拭うと、興奮冷めやらぬと言った様子でふんすーと鼻息を鳴らす。
「ん? どうしたいきなり」
何だか彼女の頭に最近行方不明になっていた僕の愛用パンツかま被さっているような気もしたが、まぁいつもの事だろうとスルーしてそう問いかける。
すると彼女は心を落ち着かせるように大きく息を吐くと。
「あまりにも使いすぎて主様のおパンツが妾のニオイに染まってしまったのじゃ! じゃから是非とも代わりのおパンツを……!」
「はっはー、とりあえずパンツ返せ」
爽やかな笑みでそう言いながら、彼女の頭から僕のパンツをひんだくる。
我が仲間ながらとんだ変態に育ったものだと思いながらも、同時に廊下の方から恭香の気配を感じてそちらへと視線を向ける。
「で、どうしたの本当は」
「あはは……、なんというか、その」
恭香のどこか困ったような声が響く。
見れば扉の向こうから顔を出した彼女は苦笑いを浮かべて頬をかいており、その姿になんだか面倒くさそうな予感を覚えると同時。
「あの、メカ娘ちゃんが起きたんだけど……」
彼女の背後の廊下から、小さな足音が聞こえてきた。
☆☆☆
出逢いは最悪。
そんな言葉はたぶん、僕らにこそ相応しい。
なにせ出会ったのは森の中。
盗賊じみた元冒険者に股間のマグナムさらけ出された状態で彼女は僕らと出会い、助けてと言っておきながら暴走、終いには僕の頭蓋とか内蔵とか骨とかたくさん抉ってくれちゃって、正直そんじょそこらの『貴族に転生! 子供の頃から魔力使ってたから歳食った宮廷魔術師より優れてるのは当たり前だよね! 学園チートなうww』みたいなことしてる奴らじゃ、『待ってろ! 今俺が助けぶげらっはぁっ!?』と瞬殺される未来しか見えてこないわけで。
つまるところ何が言いたいかと聞かれれば。
「で、大丈夫なのか、その子」
椅子に腰掛け問いかける。
向かって左側には部屋の扉の前に佇む恭香と白夜の姿があり、前方には僕のベッドにちょこんと腰掛ける赤髪の少女の姿があった。
人形のように艶のある赤髪に、歯車のような模様が浮かび上がっている金色の瞳には感情の色はなく、ただじっと、なにか見定めるかのごとく僕の方へと視線を向けていた。
――なるほど『自動人形』ね。
いつか見た髪狂いのピンク野郎は感情ばかりが表に出ている感じしかしなかったが、この少女はそういうのがあまり見えない。
ピンクとこの子じゃ性能が違うってことか、あるいは感情を作るのに使った『ソース』を全て戦闘能力にあてているのか。
まぁ、いずれにしても――
「危ないことには変わりない、とは思うけど」
僕の意を汲んで口を開いた恭香へとチラリと視線を向け、再度赤髪のメカ娘へと視線を向ける。
見れば彼女の機械のような金色の瞳はじっと僕へと視線を注いでおり――ウィン、と。僅かな機械音を奏でて瞬きをした彼女はここに来て初めて、僕へと向かってこう告げる。
「感謝。私を助けてくれたこと、暴走していたところを救ってくれたこと。そして肯定、私は貴方の言う【危険】にあたる可能性が大きい」
その声を聞いて、思わずぴくりと反応を示してしまった僕がいた。それはもちろん、『その歳でそこまで理解が及んでいるのか』という驚愕――なんかでは決して無く。
(ねえちょっと。この子メカ娘のロマンを凝縮させたような喋り方してるんですけど。これで自分のこと【当機】とか言い出したら完璧なんですけど)
(あの、もうちょっと真剣に話聞かない?)
思わず恭香に声を潜めて伝える僕。
けれども帰ってきたのは冷静極まるそっけない返答で、ここにレオンでも居ればメカ繋がりで盛り上がれたのかもなぁ、と思うと同時、『キャラ作りがあざとすぎて萎えるのである』とか言いそうだな、とか思ってしまう僕もいた。
と、そんなことを内心で考えていると、はたと、赤髪メカ娘からじっと視線を感じて顔を上げる。
見れば彼女は相も変わらず僕の姿を見つめており――
「……質問、貴方は私と、会ったことがある?」
なんだろう、逆ナンパかな。
そんなことを咄嗟に思ってしまった僕だけれど、けれども真剣な彼女の表情を見て首を振る。
「いや、初対面だと思うけど」
「……了承」
僕の言葉に不承不承と言った様子で顔を俯かせる彼女。
断言してやってもいいほどに、僕と彼女は初対面だ。
確かに空白の期間(どこかの馬鹿に記憶を奪われた幼少期)にあっていた可能性も無きにしもあらず、と言ったやつだろうが、流石に日本の平凡な一家庭で、しかもこんなメカ娘と出会ってるだなんてあまりにも話が『出来すぎている』。
故に断言できる、初対面であると。
と、そこまで考えて、けれども違和感が残る。
「……もしかして、記憶無いのか?」
その違和感を探るべく、僕は単刀直入に切り出した。
あれだけの力を持っておいて、あんな程度の冒険者崩れ相手に『逃げていた』という事実。僕らに助けを求めたという事実。
そして何より、何一つとして理解の及ばない現状に恐怖し、不安に飲まれそうになりながら、それでも必死に感情を隠そうとするその姿が……何でかな、いつかの少年と被って見えるのだ。
見れば彼女はここに来て初めて驚きを顕にしており、思わずと言ったふうにこう呟いた。
「……驚愕。まさか様子を見ただけでそこまで理解が及ぶとは」
その言葉には純粋な驚きが滲み出しており、そのきょとんとした姿に小さく口元を緩めた僕は――
「確信、貴方は弱いが頭脳値数では優れている」
その言葉には、思いっきり微笑みが引き攣った。
……あれっ、今この子なんて言った?
なんだか最近は全く言われなくなったようなセリフを言われたような気がしたのだが。
そう、ヒクヒクと痙攣する頬を揉みほぐしながら彼女へと視線を向けると、僕の困ったような視線を受けて首をかしげた彼女は一言。
「……確認、貴方達三名の内、主力は間違いなく其処の白髪のドラゴン。次いで圧倒的魔力量を誇る其処の人型を取っている神器。最後に一切の魔力を感じられない貴方。回復力は圧倒的。しかし身体能力ではドラゴンに劣り、魔力量では神器に劣り――結論。貴方はさほど強くない」
おうおうおう……、まさかそこまで僕の弱さを理論的に説明されると思わなかったよ。
まぁね、言ってること全部正しいよ。
白夜とかご自慢の生命力で身体能力とか元に戻り始めてるし? 恭香とか空気中の魔力を全部使い放題だから僕が全快だったとしても勝てっこなかっただろうし?
ただ、その、なんて言いますか。
「あのね、僕はアレだから。まだ本気出してないだけだから。もうちょっとしたら本気出してめちゃくちゃ強くなっちゃうアレだから」
「追憶、かつてそう宣った人物のおおよそ九割が虚言混じりの嘯きだった。故に確信、貴方は頭脳と回復力以外は優れてはいない」
ぴきり。
なんだか頭の奥の方からそんな音が聞こえてきた。
しかしまぁ、幼女の見た目をしている彼女相手に怒鳴り散らすというのも大人気ないというもの。これでも体は十八歳だが、中身はそろそろ三十路も近くなってきたお兄さんである。
ここは優しく諭してあげよう、そう言わんばかりに苛立ちをため息に載せて吐き出すと、彼女に改めてこう告げる、のだが。
「いやな、ぶっちゃけた話、今の僕って魔力が使えない状態なんだよ。そもそも僕自身、魔力使用を前提としてたからさ。だから今は力が出ないってだけで――」
「失笑、言い訳もそこまで来ると、少し引く」
ブチッ、と。
何かが切れる音が頭の中で轟いた。
直後、気がつけば拳を振りかぶっていた僕の体を焦ったように白夜が羽交い締めにしており、それを見たオートマタは無表情のままこう告げる。
「追憶、貴方の現状に合致する症状――【中二病】。歳若い青年が『俺の中にはまだ隠された力が眠っているのだ……!』と自らの内に秘められた可能性に異様に固執すること。また、基本的にそんな可能性は存在しない。故に結論、私は貴方に憐憫の情を抱いている」
「……は、はは、ど、どうもありがとぉ」
なんだか客観的にみた今の自分の姿に怒りを通り越して何とも言えないやるせなさを覚えながらも、同時にベッドの上から立ち上がった彼女と視線が交差する。
見れば彼女の金色の瞳は確と僕の瞳を覗き込んでおり、彼女はその瞳に覚悟の光を灯し――
「事実、私は貴方に助けられた。故に約束、せめて私の記憶が戻るその時まで、貴方は私が全戦力を用いて守り抜く」
その言葉に。
――この野郎、いつか絶対僕の本気を見せつけてやる。
そんなことを内心で思いながら。
「お、おぉぅ……、た、助かる」
とりあえず、そんな言葉を返した僕だった。




