機―05 詰所にて
二本目です!
「だぁっはぁっ! めっちゃ疲れた!」
僕は叫んだ、声の限りに叫んでやった。
見れば視線の先、金色の鎖に背中を縛られたメカ娘は瞼を閉ざして規則正しい呼吸を繰り返しており、その姿に白夜と恭香が目に見えて安堵の吐息を漏らしたのがわかった。
「なんだろう……何だか物凄く疲れた気分」
「妾も同感なのじゃ……」
二人の言葉を聞いて尚思う。なんだろうこの感じ、と。
アレかな。ココ最近忙しかったから、いざこうして長時間休んでいると、こうして一つバトルシーンを書き上げる――否、演じるだけで疲労感が物凄いというか……。
つまるところ休みすぎて戦い方わかんねぇ、というのと。
いやメカ娘強すぎないですか、というのと。
その他色々な感情がごちゃ混ぜになったよくわからない感覚が体の中で渦巻いているのがなんとなーく分かってしまう。
「アレだな、平和ボケしたな。僕ら」
「今じゃ殺伐とした雰囲気の欠片もないからね」
ちょっと前まで正義やら何やらでガチンコバトルしてたくせに、今やある日森の中、メカ娘に出会ってなんやかんやと。初期の頃に勝るとも劣らない平穏さである。……まぁ、にしてはいきなり敵が強すぎるような気もしないでもないが。
「ま、それは置いておいて――と」
言いながらも二人が座り込んでいる近くに倒れている赤髪の少女ことメカ娘の前まで歩いていくと、彼女の前にしゃがみこみ、その寝顔をじっと覗き込む。
そして一言。
「「このロリコン」」
「ねぇちょっと? まだ寝顔見てるだけだよね?」
何なのコイツら。今シリアス顔で『コイツ……一体なんなんだ』とでも言いそうな雰囲気だったよね? なんでこういう時に限って初期の設定持ち出してくるかな。ロリコンとか古代王国とかオートマタとか。もう焔編入ったあたりでそんなの過去の遺物と化してただろこの野郎。
言いながらもため息混じりに座り込むと、二人へと視線を向けてこう問いかける。
「で、真面目に何者だよ、この子。明らかに旧時代のオートマタってレベルじゃなかったけど?」
もしもこの子が旧時代――つまりは古代王国の用いる数多ある兵器の内一体だったのだとすれば、おそらく現存している今よりもずっと性能的には上だったに違いないわけで。
そんな兵器が数え切れないくらい存在している王国がそこだったのだとすれば……たぶん、全盛期の父さんだったとしてもかなりキツイ相手だったのではないかと思う。
「なぁ、恭香?」
「……詳しくは分からないけど、多分そうだね」
そう答えた彼女は考え込むようにして顎に手を当てながら、どこか確信を持ったように言葉を重ねる。
「正直そこまで昔のこととなると私ですら知らない、って言うのが現状なんだけどさ。それでも聞いた話によると、古代王国はその戦乱の世において、あくまでも『存続してただけ』。つまりは何とか全戦力を防御に回して国を生き延びる方向に向け続けただけらしいんだ。……だから、たぶんこんなオートマタは、作れてないと思う。こんな子が沢山いたら――」
「……あれじゃの、なんかもうやばいのじゃ。たぶん全快した妾でも死を覚悟しちゃうくらいにはとんでもないのじゃな」
いやいや僕でも顔が絶望に歪んじゃうよ。
白夜の言葉に内心でそう返しながら大きく息を吐くと、だいたい体の痛みが収まってきたのを感じて立ち上がる。
「まあ、いろいろと思うことはあるけれど……」
少なくとも、ここで放置しておいていい案件でもあるまいさ。
視線を遠くへと向けると、今の戦闘音を聞いてか駆けつけてくる魔族と思しき者達の姿が木々の隙間から小さく窺え、このまま運良く魔王さんの元へとありつけるといいんだが。
そんなことを思った僕を他所に。
「き、貴様らぁっ! そ、そこで何をしているか!」
そんな鋭い声が響き、上手く話が進みますようにと天に願った。
☆☆☆
「……貴様、本物か?」
――その後。
魔国ヘルズヘイムの国境線上にある騎士達の詰所にて、僕は疑わしげな視線を向けてくる金髪騎士へと幾度となく繰り返したその言葉を口にする。
「あの、マジでそろそろ解放してもらえませんか」
僕らが森の中で魔国の騎士達に見つかり、そこからおおよそ数時間が経過していた。
あの森は恐らくというかなんというか、やっぱりダークエルフたちの住まう森だったらしく、ダークエルフに魔族に遠巻きに旅人たちと、かなりのギャラリーが集まっていることに気がついた僕は――はたと、その中に見知った顔があることに気がつき、彼……というか、彼女に希望の光を見出した、という事だ。
「まぁ、初めましてなんで信用してもらえないかとしれないですけど……ほら、魔王さんと一緒に大陸中継映ってたじゃないですか、三、四年前に」
「む、むぅ……、確かに似ている……が」
詰所の小さな一室で。
机を挟み、僕の前でそう呻くのは金髪を肩まで伸ばした紫目のイケメン――もとい、男装の令嬢、と言うべきか。
ぶっちゃけ『もう記憶の彼方に埋蔵してますよ』という方々がほとんどだとは思うがこの方、いつかの武闘会にさらっと登場してた魔王さんの名を継ぐ者であり、加えて言えば魔王軍No.2の座に君臨しているかなりお強い人物。
その名も――アルバ・ロード。
僕よりも若いだろうに、その歳で大陸最強と名高い魔王軍のNo.2に君臨している時点で分かる通り、天才にしてかなりの努力家、正直抜け目の見えない完全超人な訳だが――
「まさかここまで頭が硬いとは……」
ものすごーく小さな声で、ぼそっと呟く僕がいた。
見れば目の前で眉根に皺を寄せて呻いている彼女はじーっと僕の顔を見つめており、というか睨み据えており、その姿に小さくため息を漏らした僕はひらりと手を振って提案する。
「もう素直に言いますけど、実は神魔大戦の後から体に不備がありましてね。魔力が全く使えない状態異常……? まぁ、病気みたいなものでして。生憎と映ることはないんですが、これはちょっと拙そうなので、魔王さんに相談したいなぁ、と」
「むむむ……、嘘は……言っていなさそうだが」
僕の言葉に顎に手を当てながらもそう呟いた彼女は、恐らくは信じてくれたのだろう、大きく息を吐いて背もたれへと体を預けた。
「済まないな、まさか私達も生死不明、行方不明、力量不明の黒ずくめ、伝説に名高い執行者とあんな所で相見えることになるとは思わなかったものでな。正直今も『……え、本物?』という感じでしかないが――」
「え、なにその力量不明って」
彼女のサラッと告げた言葉に思わずそう問い返すと、きょとんと首を傾げた彼女は心底不思議そうにこう告げた。
「いやなに、他の英雄視されている方々は皆、何かしら大勢の前でその力を振るい、他でもない民にその強さを視認されて現状に至るわけではあるが、貴様……いや、貴方は極端に『民に力を見せる』機会が少な過ぎたにも関わらず、今や伝説の中の伝説、宗教の対象にさえ崇められるほどの傑物と化しているわけで――」
「あ、あぁ……」
その言葉に、どうしよう物凄く納得してしまった自分がいた。
こうして思い返してみると……なんだろうな、ガチバトルを一般市民に見られたのってバジリスク騒ぎの『VS私有兵団』の時だけな気がする。それ以外は大体あしらってばかりで力の垣間も見せていないし、見せたとしてもそれは王族だったり貴族だったり、そういう極わずかな人々の前で、って感じだったろう。
他には……そう言えば聖国でのバトルが全国に放送されてたっけ、とか思いながらも、確かにアレも四年前、正直今の実力は『……どれくらい強いんだ?』ってのが皆の感想なのかもしれない。
「……救世の英雄と名高い貴方の事だ。そう簡単に怒りはしないと仮定して告げるが、正直な話、貴方に相対した騎士達のおおよそ全てが『自分でも勝てそう』と言った感想を覚えている。……まぁ、隠蔽の達人相手に何を馬鹿なことを、という話だが――あまり、自分の名を過信しない方が良いと思うぞ」
その言葉に、道理であの冒険者崩れたちも僕めがけて斬りかかってきたわけだ、と納得しながら、同時に彼女から送られてくる僅かな威圧感に小さく眉根を吊り上げる。
「なるほど……ねぇ。確かにそろそろ執行者も時代遅れだ。丁度どこかの黒炎にでも功績やら人気やら全部預けて放浪を始めようかと思ってたところだし、丁度いい契機だと思っておくよ」
「……」
僕の言葉に――恐らく何らかの形で『怒り』やら『不機嫌さ』やらを叩きつけられると思っていたのだろう、小さく眉根を寄せた彼女は、ゴクリと喉を鳴らして右手を腰の剣に添える。
おうおう血の気が多い、なんでこう、男勝りの女騎士ってのは自分の力を試したいんだろうかね。
そう、頭の中で考えながらも――
「で、まだ何か?」
――その言葉に、大粒の冷や汗を流した彼女は体をビクリと硬直させた。
別に後ろから第三者が静止をかけているだとか、別に威圧感や殺気を飛ばしているだとか、何か表立って状況が変化した訳では無い。
ただ、彼女の覚悟の顔に笑って返し。
さり気なく剣に添えた右手を確と視認し。
その上で、武器一つ持っていないこの身で。
魔法を奪われた後衛だと明かしてもなお、僕はただ薄笑いを浮かべて彼女の姿を見据え続けた。
たったそれだけ。
正直、もっと馬鹿なら単純な隙と見て襲いかかってくるほどの大きな隙だ。あるいは目の前にいるのがサタンとかアルファとか、ああいうレベルの連中なら『何余裕ぶっこいてんだ』と顔面殴られるレベルである。
――が、彼女はサタンでも、ましてやアルファでもない。
故に、これで十分だろう。
そう言外に、そして明白に告げる僕の態度に、彼女は大きく息を吸い直し、改めて剣から手を離した。
「……も、申し訳ない。一瞬……ほんの一瞬だが、もしかして今ならば私でも勝てるのではないかと、そう思ってしまった……」
「ま、そうだろうね……」
僕も目の前に完全にゴブリンへと変装したイブリースとか現れたら疑うこと一切せずに斬りかかってただろうし。というか斬りかかって気付くまもなく殺されてただろうし。別に彼女に対して何が悪いとかは一切思っちゃいない。
ただ……それでも何か告げるとしたら。
そう考えながら立ち上がると、恐らくそろそろ僕を待っているのも限界なのだろう、部屋の外から感じられ始めた白夜の拗ねた雰囲気に苦笑しながら、最後に一言。
「ま、明らかに名前と力が一致してない奴がいたら、まず圧倒的な格上か、あるいは金持ちのボンボンか。そのどっちかを疑うんだな」
その言葉に、彼女は苦笑混じりに頷いた。
アルバさんは……多分、その内書くであろう作品のヒロインになる予定です。
まぁ、首を長くしてお待ちくださいませ。




