機―04 原点回帰
忙しくて間に合わなかったので、明日に『ワールド・レコード』一本、『Silver Soul Online』二本出したいと思います!
すいません!
――さて、改めて現状を整理してみよう。
まず僕、魔力が使えなくってかなり弱い。多分到達者の中では父さんの次くらいには弱い。久瀬とかにやられそうなくらい弱い。
次に恭香、到達者にこそなれていないが、それなりには能力とかは強い。ただ全体的にスペックが低い。そもそも戦闘タイプじゃないし。
次に白夜、それなりに強い。今の僕以上、今の久瀬以下、そんなくらいには強いと思う。まぁ、死ぬ以前の僕と同程度、と思ってくれればいいと思う。
対して相手、よく分からないメカ娘。
恭香曰く『古代王国』とやらが関わっているらしいが……父さん、つまりは神王ウラノスが全盛期の頃とか億とか兆とか、そのレベルでの昔だろう? それが今、何でこれほどまでに『損傷が見当たらない状態』で発見できているのか、ちょーっと僕の直感が『危険だ』と叫んでいるわけだが――
「助けてって言われたら、助けないわけにもいかないわな」
呟き、腰から剣を抜き放つ。
これはつい先日、街の鍛冶屋で発見したちょっとした掘り出し物……なわけだが、正直強度や性能としてはシルズオーバーの足元にも及びない。ま、無いよりはマシ、って言うことで――
「――さて、行くか」
スッと剣を並行に構え――一気に走り出す。
途端、間合いに入ったのか、メカ娘の背中から生えているメタリックな脚が物凄い勢いで突撃してくる。
が、所詮はオートマタ。いくら優れた時代の産物だろうと『戦ってきた経験』が無ければ意味がない。
「ふ……ッ!」
剣で脚を受け流し、体を捻り、捻りこんで前へ前へと進み出る。月光眼を使えない事実と影神と化していない素のステータスの低さが異様にキツイが、それでも力を解放したあの姉を相手するよりかはずっと楽――とか、そんなことを思ってた時期が僕にもありました。
「ぐぅ……っ!?」
無数に襲い来る脚の連撃。
まるで『どうすれば相手が嫌か』を知っているかのようなその連撃に、その嫌な戦術に、頬に赤い傷跡を貰って飛び退る。
「うっわ……何アレ、思ってた十倍くらい強いんですけど……」
「だ、だから言ったじゃん! ……にしても、本当に古代王国産のオートマタにしては強すぎるような――」
「ふむ……、今の主様が攻めきれないとなると、まず間違いなく到達者クラスの怪物なのじゃな……」
二人の声を聞きながら、スッと目を細めてメカ娘を改めて見据えていると――ふと、魔力の感覚をメカ娘の方から感知する。
それは本来有り得ない現象だ。
ピンク頭のオートマタを思い出したってわかるとは思うが、オートマタは人が生み出した単なる機械。いくら優れていたってソレが魔力を持つはずがない。
そう、持つはずがないのだ――けどなぁ。なんだろうあれ、物凄く高密度の魔力が脚の先に集まってるんだけど。
「や、やばくない? あれ」
「や、やばいなんてものじゃないのじゃ! よう分からんが、アレって主様の魔力量と同じくらいじゃぞ!?」
いやいや、流石に僕の魔力ほどは無――くもみえなくないな。うん、少なくとも到達者になった直後くらいの僕の魔力は超えてるわ。
焦って恭香の方へと視線を向けると、彼女もオートマタが魔力を使っていることに関していえば完全なる想定外だったのか、目を見開き、口をぱくぱくとして硬直してる。
前を見れば視線の先、メカ娘の背から生えた紅蓮の足は僕らの方へと先端を向けており、その先には膨大な魔力の塊が集結し、僕らへとその標的を定めている。
回避……は、出来るかな。もしも万が一追尾機能とかあった日にはまず間違いなく死が確定する一撃だ。
回避してその可能性があるのなら――あとは、受け止める以外の選択肢は持ち合わせていない。
「く……ッ、打ち返すって選択肢がないって物凄く不便!」
そう叫びながら常闇に呼びかけながら白夜と恭香を懐に抱きしめ、ローブを大きく拡大すると同時――ドンッ、と重低音とともに物凄い衝撃が駆け抜けた。
「――ァッ!?」
常闇のローブ越しに体を貫いたあまりある衝撃に呻き声が噛み締めた歯の隙間から溢れ出し、勢いを殺しきることが出来ずものすごい速度で吹き飛ばされていく。
「あ、主様っ!?」
「び、白夜……っ、た、頼むッ」
何百メートルと吹き飛ばされながらも何とか衝撃を殺し切り、地面に両の足で着地すると、衝撃により上手く働かない喉を動かしそう頼み込む。
見れば僕らへと攻撃を打ち込んだメカ娘は全身から蒸気を上げてフリーズしており、その隙を見て、そして僕を一瞥した白夜は、僕へと心配そうな視線を送ってから一気にメカ娘へと駆け出した。
「ぎ、ギン……っ、だ、大丈夫っ?」
「お、お前こそ……、生身でキツかっただろ……」
言いながらも立ち上がると、口からゴフリと溢れ出した血液を拭ってメカ娘を睨み据える。
今この時点に至って心の底からこう思う。
多分、現状ってかなりのピンチだわ、と。
白夜が全快じゃないってだけでも厳しいのに、何よりの問題が僕が完全なる戦力外だということだ。
「いや……、昔に戻ったみたいだな」
昔、それこそ迷宮をクリアして、初めてこの世界へと降り立った当初の頃だ。
僕は白夜よりもずっと弱くて、何も特別な力だなんて持っていなくて、魔力も体の扱いもなにもかも、一つとして誇れるものを持っていなかった。
故に、頭を働かせた。
頭脳で全てを打ち負かし、全てを読み切り、生き延びた。
――そして今は、きっとその状況に酷似している。
「……頭使うと、結構疲れるんだけどな」
呟き、重心を落として笑ってみせる。
さて、ちょっとばかし原点回帰。
初めの頃の、頭を使っての戦術任せを呼び戻そう。
力なんてない、魔力なんて使えない。
僕の誇る手札は、情報特化の恭香に、僕より強いが相手より弱い白夜、そして不死だけが取得の自分だけ。
なんとまぁ、かつてナイトメア・ロードに挑んだ時にそっくりだ、なんて思いながらも口角吊り上げ。
「――さぁ、死合いを始めよう」
かくして僕は、カッと目を見開いた。
☆☆☆
見る、しかと見る。
一挙手一投足を見逃さないとばかりに見る。
ただ、見る。
弱点はないか、不備はないか。
なにか、嫌がっていることはないか。
そう、白夜と戦っているメカ娘を見て、鑑みる。
思いつく全ての作戦を鑑みて、その度に作戦の不備を切り捨て、使える部分だけを摘み取ってゆく。
――そして、使える部分だけを用いて完全な作戦を練り上げる。
「……ふぅ」
大きく息を吐き、剣を投擲するようにして肩に担ぎ、スッとメカ娘へと視線を向ける。
瞬間、僕からの殺気を察したかのごとくメカ娘の赤脚が僕の方へと小さく向き直り、なるほど殺気まで読めるのか、と思い知ると同時に走り出す。
片手を隠すようにして背後に隠し、片手で投擲する構えのままにして、真っ直ぐ、ただ一直線にメカ娘へと向かってゆく。
なに、純粋な身体能力だけならこの器は一級品だ。少なくとも久瀬の器にだって遅れを取らないくらいは高位のものに仕上がっている。
なればこそ、それだけならば十分に『使える』わけだ。
『ジ……ィ、ジ、ジ……ッ』
ノイズのような音が響き――赤脚が僕めがけて襲い来る。
その本数は三本、僕を白夜よりも格下だと分かっているのだろう、だからこそ彼女に当てるよりも僕への迎撃に回す脚の本数が幾本か少ない。
そしてそれは、程よい『隙』にも成り得るわけで。
「おいおい、たったそれだけで僕を『殺せる』だなんて思っているのか?」
凄惨に、そして獰猛にそう笑うと――躱すことなく、真っ直ぐそのまま駆け抜けた。
このメカは賢い。恐らく百戦錬磨の人間の頭脳と同等、いやそれ以上も有り得る知識量、そして知能を誇っているだろう。
故に、初めから『相手が躱す前提』で攻撃を放つ。
それは一種の経験論だ、間違っちゃいない。
けれどもその経験論すら踏み台に作戦を錬るような奴からすれば、そんなもんは腹出して突き刺してください、って言ってるようなモンでしかない。
『――ジ』
焦ったようなノイズが漏れ出す中、僕は悪魔のように笑って脚の隙間を駆け抜けてゆく。
今ここに至って『ヤバイ』と確信したのか、白夜に回していた足の内半数以上を僕の方へと回してきたメカ娘は、今度こそ躱す間もない赤脚の弾幕を張ってくる。
正直、無傷で切り抜けるなんて無理だろう。そんなの分かってる。分かりきってる。
――だからこそ、致死傷覚悟でぶっちぎる。
「悪いな、僕は死んでも死なない不死身って奴でね」
瞬間、僕の身体中を無数の赤脚が穿ち、貫き、突き刺し、大量の鮮血が周囲へと撒き散らされる。
が、脚は止まらない、歩みは止まらない。
痛い、痛い、死ぬほど痛い。
でも死なないなら、前に進むしかないじゃない。
頭蓋を穿たれてもなお、脳を飛び知らせながらも、なお笑って突き進む僕の姿に何を覚えたか、白夜へ回していた全ての足すらも僕へと回し始めたメカ娘――ではあったが。
けれどもそれは、ここに来て初めての失策だった。
「――さて、種は埋め終えた」
全ての状況は揃いに揃った。
手の空いた白夜、投げる姿勢の整った剣、背後に隠した取っておき、そして失策に気が付き思考を空回りさせたポンコツロボット。
種が埋め終えたのなら、あとは花を咲かせるに限る。
「まずは初手――ッと」
腕に突き刺さった赤脚を肉ごと引きちぎり、同時に瞬間回復した腕で振りかぶった剣を投擲する。
その狙いは少々卑怯だが――その『本体』らしい、赤毛のメカ娘そのもの。
彼女を潰されれば自動的にこの脚も止まるのだろう、そう思っての投擲は案の定かなりの弱点を付いていたのか、白夜の方から僕へと向かっていた全ての足がその投擲を受け止めんとばかりに動き始める。
けれどもそこで第二手を撃ち放とう。
「白夜ッ!」
「分かってる……のじゃっ!」
間一髪で剣の投擲を受け止めた赤脚数本。
それらを上空から降り立った白夜が体を一部竜へと戻してその場に磔にし、それを確認した僕は次の手へと移行する。
「さて、取っておきの奥の手――準備はいいか?」
『ほ、本当の本当にやるの……?』
投擲した方とは逆の後ろに隠していた片腕。
その手にがっしりと掴まれていた本と化した彼女――恭香は、不安げに僕へとそう問いかける。
が、これ以外に打破する道は見当たらないときたならば、ちょっとばかしリスクを負ってもらいたいのがホントのところ。
「大丈夫、後で恨み言ならいくらでも聞いてやるから――っと!」
かくして笑った僕は――思いっきり、理の教本を投擲した。
僕からの投擲、第二弾。
今回のソレは放物線を描くようにしてメカ娘の背中、脚の生えている場所へと向かっており、それらへと最初に僕を襲ってきた三本の脚が迎撃に向かう。
『うううううぅぅぅ……っ』
呻くような悲鳴が溢れ――そして、構えた三本の脚が空中の恭香めがけて撃ち放たれる。
もしも、アレが普通の本なら突き刺さって終わりだろう。
けれども理の教本は特別仕様。僕以上の『不死』の力に、加えて破壊不能ときたもんだ。
そんなものに脚を突き出したとしても――結局、突き刺すことなど出来っこない。
『ジ――』
ノイズが溢れ、理の教本を突き刺して止めることの出来なかったメカ娘の脚は焦ったようにして残り二本を用いて迎撃に向かう。
けれども突き刺せない。突き刺せない。
二本とも見事に突き刺すことが出来なかったメカ娘はいよいよ焦り、残りの足を用いてでも迎撃するべく思考した――と、思われるが。
「残念、他の足はぜーんぶ予約済みでな」
僕の身体中に突き刺さり、常闇のローブを絡めさせて固定された数本の足と、白夜に直接抑えられている数本の足。それらの他に迎撃に回せる脚はなく。
視線の先――メカ娘の上空で本から人へと姿を変えた恭香は、スッとその背中、腕の生えている部分へと手を当て、その魔法を撃ち放つ。
「『封印の鎖』!」
封印の鎖。
相手の行動を一つ、完全に封じ込めてしまうというかなり厄介な鎖魔法の一つ。
今回、溜めに溜めまくった彼女の無限魔力で封印したのは――メカ娘本体の『攻撃手段』。
つまりは彼女から生える無数の脚、その他あるかもしれない隠し玉諸々全てを封印したのも同意なわけで。
封印され、彼女の体に吸い込まれてゆく赤い脚を見ながら、僕は安堵の吐息を漏らしてこう呟いた。
「あぁ、体痛い」
とりあえず、穿たれた傷は全部回復済みであった。




