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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
いずれ最強へと至る道
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終章―16 正義

あと4~5話で決着(予定)

 その刹那、時間が止まったような感覚を覚えていた。

 我が力を全て集結させた、正しく諸刃の一撃。

 使ったが最期、自らの体へと膨大な倦怠感と魔力切れによる苦痛が襲いかかり、戦闘不能にほど近い瀕死状態へと移行してしまう、正しく最後の手段。

 ――混沌終撃(カオス・フィナーレ)

 私が開発した、()()()()()()()()()()()()()()だ。

 この一撃は全ての力を使うことで完全に数段階上の【域】に達している究極の一撃。故に私と同格程度ではどう足掻いたところで相殺することなど出来やしない。


 出来やしない、そのはずだ。


 けれど、何故だろうか。

 こうも心が落ち着かないのは。

 こんなにも心が、揺れているのは。


 ふと思い出すのは、ギルという男と、名も知らない一人の男の死闘だった。

 私は目を覚ましてすぐにサタンの元へと向かったため、その後半戦、つまりは最後の最後しか見てはいないが、それでも余り有る『馬鹿馬鹿しさ』に、笑ってしまったのを覚えている。

 一体何が正義だ、一体何が正しい。

 そう拳に乗せた疑問を交わし合い、そして殺し合ったその二人。

 その二人を見て、私は――


「……混沌様」


 ふと、サタンの声が聞こえた。

 それは確か、あの三人がこの世界に来る直前のこと。

 バルベリス、アザゼル、ラーヴァナの三人を安全な世界へと送り届け、そしてその『時』を待っていた、ちょうどその時にあいつはこう、言ってのけた。


「……私たちは、正しかったんでしょうか」


 その言葉は、雷のように鋭く、私の核心を突いてきた。


「私は、正直よくわかりません。今はあの男と戦いたい、勝利したい。その気持ちだけですから。だから今は怨みも憎しみも憤怒も、なにも有りません。だからこそ余裕を持って考えられる」


 ――果たしてこの道は、正しかったのだろうか、と。


 その言葉に、どうしてか胸が苦しくなった。

 私の命令一つで、無数の命が散って行った。

 父へと進行をかけた際、無数の神々がその命を散らしていった。

 ここへ来てから、最強の座に座りこんでからも、私の命令一つで無数の悪魔たちがその命を散らしていった。

 ……今までは、余裕がなかった。

 だからこそ考えることもできなかったけれど、今は違う。

 考える時間が出来た。余裕ができた。

 故に考えた。

 ――誰一人として、彼ら彼女らは『後悔』していないのだろうか、と。

 憎しみと憤怒に駆られ、激情のまま戦場へと趣き、そして命を散らす。

 果たしてその人生に、その『道』に、悔いは無かったのだろうか、と。


 ……そう考えて、私は思う。



「……正しさ、とはなんだろうな」



 その呟きに、サタンは言葉を返さなかった。

 正確には、返せなかった、のだろうと思う。

 正しさ、正義。

 あの二人の戦いを見て。あの馬鹿馬鹿しくも愚かしく、そして純粋な想いのぶつかり合いを見て、狂おしいほどにこう思った。


 ――正義とは、一体なんだ、と。


 果たして、私は正しいのか。

 皆の憎しみを代弁し、世界へとその憎しみを、我らが受けた不条理を、理不尽を、ただ『ふざけるな』と破壊で返すその行為は、正しいのだろうか。

 そんなのは、見方を変えれば自分たちこそが世界の『理不尽』を作り上げている一角にすぎないのではないか。私たちの被害に遭ったものからすれば、私たちこそがその理不尽な世界そのものではないのか。


 ……そう、思わずにはいられなかった。


 何が正しい。

 一体、どうすればよかった。

 怨み、憎しみ、激情に駆られる彼らをなだめればよかったのか。


 ――お前らが復讐すれば、また新たな恨みを生むだけだ。だからその恨みは無かったことにして、過去はさっぱり忘れてくれ。


 ……そう、言えばよかったのか。

 泣き咽び、悲憤に暮れ、悲哀を嘆き、悲痛に苦しみ、慟哭の響くこの悪魔界に。

 狂おしいほどの憎悪に顔を歪める彼ら一同に。

 そう……言えるわけ、ないじゃないか。

 言えればよかった、無神経に、鈍感に、そう言えればよかった。

 けれど、私には言えなかった。

 どうしても、言えなかったんだ。


『――なあ、弟よ』


 その刹那、私は問いかける。

 必死に抵抗し、足掻き苦しみ、それでも諦念だけは微塵も見せない。

 そんな、哀れで誇らしい我が弟に問いかける。



『私は、正しいのだろうか』



 大きく盾が割れる音が連続して響き、光が徐々に広がってゆく。

 自ら放った一撃がその内から爆発するようにして周囲一帯を滅ぼしてゆく中。

 その白い光に飲み込まれる中。

 私は、やっぱり思う。


 ――貴様に勝てば、全てが分かる。


 なにせ、勝者こそが、絶対なる正義なのだから。

 どの道中でなにがあったにせよ、どんな想いが渦巻いていたにせよ。

 最後に、立っていたただ一人だけが、絶対なる正義。


 なればこそ。

 勝利するにせよ、敗北するにせよ。

 この戦いが終われば、全てが分かる。

 自らが正しかったのか、あるいは間違っていたのか。

 だからさ、弟よ。

 どうかこの問いに、応えてくれよ。

 そしてあわよくば――



『私が正しかったと、その死を以て教えてくれ』



 光が私たちを包み込み、巨大な爆発が巻き起こった。




 ☆☆☆




 荒い息が響く。

 それは、混沌の息使いだった。

 既に彼女の体は元の姿へと戻ってしまっており、彼女は短く切りそろえた黒髪を揺らしながら、地面に両手両膝をついていた。


「は、あっ、はぁっ、はぁっ……くっ」


 彼女は息を切らしながらも大きく顔を歪めると、ギュッと握りしめた拳へと視線を落とす。

 ――魔力切れ。

 生命活動に回していた分の魔力まで総動員させた一撃だった。故にこうして自らを構成する魔力以外、使える余裕がほとんど消え失せてしまった。

 そう苦笑して、ふっと視線を上げる。

 そこに広がっていたのは、この世界を、この星を、形ごと変えてしまうような巨大なクレーターだった。

 周囲には砂煙が漂っており、それらが邪魔して周囲を確認することはできない。

 けれども、不思議と彼女には理解が出来た。


 ――ああ、まだ終わってないんだな、って。


 砂煙が晴れてゆく。

 視線の先にはひび割れ、ぼろぼろに朽ち果てた小さな銀色の盾が、一枚。

 そしてその背後に、血まみれになりながらも辛うじて命をつないでいる一人の男が、じっとこっちを睨み据えていた。


「が、ぁっ、あっ、はっ、はあっ、はあっ……」


 喘ぐように肺いっぱいに空気を吸い込み、全身を使って息を荒げるその姿。

 ――正しく、満身創痍。

 おそらく魔力も何も、全て使いきったのだろう。

 九十九枚の盾を混沌終撃の『誘爆』に用い、残りの一枚、自らの体から最も近く、最も魔力の行き届く最硬の盾でその爆発を防ぎきった。

 確かにベクトルの収束された一撃ならば無数の盾を以てしても防ぎきれやしない。が、そのベクトルが分散される『爆発』ならば、防ぎきる可能性は確かに存在する。

 あの刹那でそこまで計算しきった天才的な頭脳。

 加えて九十九枚を犠牲にして威力を軽減し、残り一枚で爆発に耐えようというその馬鹿馬鹿しいほどに勇敢で、この上なく正しいその選択に、混沌は思いっきり苦笑してしまう。


「……やはり、まだ終わらんか」


 そう呟き、立ちあがる。

 膝が震える、もう魔力も尽きた、けど立ち上がる。

 どれだけ体が悲鳴を上げようと、どれだけ心が悲鳴を上げようと。

 自分は正しかったと。

 散って行った貴様らは、正しかったと。

 自らの歩んできた道に、散って行った自らの仲間たちに。

 胸を張ってそう言えるようにと、彼女は再び立ち上がる。



「――私は、正しい」



 故に、勝利する。

 じゃなきゃ、散って行った者たちに顔向けできない。

 自ら進んできた道に、誇りを持てない。

 だからこそ宣言した。自分は正しいと。

 対し、それに苦笑で返したギンは、大きく息を吐き出した。


「……どう、だろうな。まだ決着、ついてないけど」


 そう笑ったギンもまた、立ちあがる。

 その背後には、彼の服の裾を掴む恭香の姿があり、彼女はぼろぼろになった彼の姿に、泣きそうに顔を歪めている。

 はたと、その手の感触に気がついた様子のギンは、ふっと振り返り、彼女の頭を優しく撫でた。

 ――否、優しく、では決してない。

 もう、力が何一つとして残っていないのだ。

 それに気がついた恭香の頬を一筋の涙が伝い、それを見たギンは、けれども笑ってこう告げる。



「――待ってろって。最強になって帰ってくるから」



 恭香の手を力なく払いのけ、ギンはゆっくりと歩き出す。

 その歩みに力は無い。

 だらんと力なく血に塗れた両腕を下ろし、押せば倒れそうなほどにふらふらと、それでいてその瞳だけは今だ煌々と光り輝いている。

 瀕死、満身創痍、死にかけ、半生半死。

 さまざまな言葉は有れど、それでも言い表すとすれば、こうだろうか。


 ――手負いの獣。


 ダメージを負う度に恐ろしさが増してゆく。

 死に近づくたびに、プレッシャーがわき上がる。

 この男ならば、まだ何かやってのけるかもしれない。

 理解不能にして予測不能。

 推測が出来ない、未知だからこそ恐ろしい。


(……一番恐ろしいのは、才能でも努力でもなく、ここ一番での『分からなさ』)


 その瞳に、その『未知』に圧倒されればこちらの心に隙が生まれる。

 そして、手負いの獣はその一瞬の隙を見逃さない。

 故に、強い。

 諦めることを知らず、純粋に勝利を取りに行くその姿。

 ――正しく、強敵。


「……なるほど、不足はない」


 拳を握りしめ、混沌は瞼を閉ざし、大きく息を吸い込んだ。

 そして、カッと瞼を開き、眉尻を険しく吊り上げた。


「行くぞッ!」


 両足に力を込め、一気に駆け出す。

 その走りに精彩さは感じられない。

 けれども彼女の体からあふれ出すプレッシャーは留まる事を知らず、それを見たギンは大きく息を吐き、両の拳を構えて相対する。


「――来いッ」


 すでに互いが満身創痍。

 けれども勝負は続いてゆく。

 その決着が、どちらかの敗北が訪れるまで。



 ――絶対の正義が白昼の下にさらされるまで、続いてゆく。




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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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