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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
いずれ最強へと至る道
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終章―14 竜と虎

〇補足その一

ギンは基本的に『赤』色の魔力を保有しておりますが、ある理由から一部分が銀色のものへと変化しております。

もちろん後者の方が性能的に遥かに勝り、かつ他人には一切扱えないという特性もありますが、それだけ体と精神の消耗が激しいのです。

 この一瞬が、勝負の分かれ目だ。

 そう、二人は同時に直感していた。

 圧倒的多彩の力で攻勢に転じるギンに対し、混沌は力と技術のみでの力技、という言葉が非常にふさわしい。

 故に現状はかなり困窮極まっており、自身のステータスが奪われ、ギンの力へと変換されたのだ。

 確かにギン自身が体を動かせばそのステータスとて返ってくるが、それでも拳を構えたギンの体は先ほどから微動だにしておらず、加えて月光眼による死角のなさ、遠距離攻撃における圧倒的な優位性まで考えるに――


(嵐の中へと、この身一つで突っ込まなければなるまい、か)


 ――均衡は、今崩れた。

 競っていた実力は崩れ去り、そこに存在するのは圧倒的な劣勢感。

 死ぬかもしれない。

 その事実に混沌の心臓が大きく脈動し始める。

 掌底を撃ち込まれた腹がずきずきと痛みだし、頭の中で逃げろと警鐘が鳴り響く。

 けれど……、それでも。


「……ッ」


 その瞳を見て、ぎゅっと拳を握りしめた。

 死ぬのは、恐ろしいことだ。

 そんなのは分かり切っている、だからこそ引けない。

 自分と同じくらい……いや、それ以上に【死】を知っているこの男が、その恐怖を必死に抑えつけて目の前に立っているのだ。

 そんな状態では、絶対に引けない。


 ――ここで引けば、負けを認めることになるから。


 だから、否が応でも引いちゃいけない。


「――私の失策、なればこの身を賭して挽回するのが道理というものか」


 そう呟き、混沌は体の前で十字に腕を交差させる。

 絶対に防ぎきる、という防御態勢にギンはピクリと眉を反応させると、その拳に膨大な量の魔力を纏わせる。


 ――過去滅する禁忌の罪パースト・ダブクライム


 ギンが作り上げた極大魔法が一つ。

 その一撃に、加えて銀色の魔力と、炎天下の金色の魔力が付与されている。

 その様、正しく『凶悪』といったところか。

 あり得ない密度で拳に収束されていくその魔力に混沌の頬に冷や汗が伝い――そして、一気に駆け出した。

 その捨て身の攻撃を前に、初めて拳を振りかぶったギンは――


 次の瞬間、混沌の背後へと移動していた。


「――くッ」


 位置変換、と。

 その力が脳裏をよぎり、咄嗟に背後へとガードを向ける。

 通常の彼女だったならば、十分に間に合っていたタイミングだろう。

 が、今の彼女であれば、また話も変わってくる。

 拳を握りしめたギンは、煌々と瞳を輝かせて、一言。



「――歯ァ食いしばれ」



 次の瞬間、情け容赦の一切無い拳が、混沌の顔面へと突き刺さった。

 仮にも女、その顔面に一切の迷いなく、しかもグーで拳を振りおろす様は、見ようによっては非難されるべき姿で在るかもしれないが、けれどもここにそれを非難できる人物は一人として存在していなかった。

 突き刺さった拳は混沌の顔面で巨大な爆発を引き起こし、同時に鮮血が舞い散った。

 悲鳴なく吹き飛ばされていく混沌の体は遠く、瓦礫の中へと吹き飛んでゆき、それを見たギンはすぐさま恭香の元へと駆け出すと、結界を解除して彼女を小脇に抱え込んだ。


「ちょ、な、なにして……っ」

「城が持たない、一旦非難するぞ」


 ギンは恥ずかしそうに顔を真っ赤にする恭香の言葉を無視すると、そのまま壊れた壁の隙間から外へと勢いよく飛び出した。

 ――直後、大きな音を立てて崩れ落ちる混沌の居城。

 その姿に恭香は大きく目を見開いたが、けれどもすぐに混沌のことを思い出したのか、ハッとギンへと声を上げる。


「そ、そういえば混沌さんは……」

「これで死んでたら助かったんだけどな……」


 そう苦笑したギンは崩れ落ちる城から大きく距離を取り、再び恭香を地面へと下ろした。

 ――そして、その直後。

 もはや見るも無残に崩れ落ちた瓦礫の山、その奥から無数の黒い光が溢れ出し、そして、瓦礫が爆発するようにして巨大な『何か』が姿を現した。


「……っ」


 その姿に、恭香が声にならない悲鳴を漏らす。

 そういえば見るの初めてだったか、と恭香の姿に苦笑したギンは、スッと上空を滞空する巨大なソレへと視線を向けた。

 そこに居たのは、巨大な黒竜だった。

 まるで闇という言葉を体現するような漆黒の体躯に、体中から迸る負のオーラはそこに在るだけで『死』を覚悟するほどの不気味さを孕んでいる。眼下を見下ろす紅蓮の瞳は、澄みわたるほどに冷たく、そして恐ろしいほどに禍々しい。

 正しく、邪竜。

 そんな表現がよく似合うそのドラゴンは、少なからずの憎しみと怒りを帯びた瞳でギンと恭香を見下ろしていた。


『……まさか、ここまで本気を出すことになろうとはな』


 頭蓋に響くような声が轟く。

 頭の中に直接話しかけているような、体の芯に突き刺さってくるような声だ。

 それを前に大きく深呼吸をし、瞼を閉ざしたギンは、スッと恭香の体を覆うように高密度の結界を張り直す。


「さて恭香、しっかり応援頼むぞ」

「う、うん……」


 そう答える恭香の脳裏に疑問が過ぎる。

 ――はたしてこの結界を張り続けるのは、彼にとって苦にならないのだろうか、と。

 初心者目に見ても常軌を逸しているとしか言いようのない天井の戦いの最中、自分に意識を回している暇など、余裕など在るのだろうか、と。

 そう考えた恭香は、すぐさまギンへと声をかけようとしたが、けれども彼の横顔を見て声が詰まった。


「――頼む」


 それは、小さな嘆願だった。

 その横顔は隠しきれない恐怖に染まっており、見れば彼の肩は小さく恐怖に震えていた。

 上空から見下ろす混沌には分からない程度の小さな震えではあったが、それでも、すぐ後ろからその背中を見ていた恭香にはすぐに分かった。

 自分をここに連れてくるデメリットも、何もかもギンは分かっていたんだろう、と。

 それでもなお、戦闘中に意識をさくデメリットを鑑みた上で、あえてギンは嘆願した。

 ――頼む、と。


「……分かった。私、応援してるから」


 恭香のその言葉に、ギンは嬉しそうに笑って見せた。

 彼は両手で勢いよく合掌すると、途端にその体が銀色の渦に包まれていく。

 そうして現れたのは――巨大な虎だ。

 紅と金の着流しから垣間見えるその体は煌々と輝く白銀色の毛並みに覆われており、天蓋のような、三度笠のような、竹で編んだ帽子の奥から垣間見える鋭い眼光は真っ直ぐに黒竜を睨み据えている。



『モード【陰陽天・神】』


『モード【根源王・竜】』



 互いの名乗りが終わり、巨大な虎と化したギンは腰の帯へと巨大化したカドゥケウスを差し込んだ。

 かくして右手に生み出したのは、巨大な剣――神剣シルズオーバ―。

 黒色の鞘から産み落とされた透き通るような白銀色の刀身は酷く美しく、それでいて圧倒的な危険性を孕んでいた。

 対し、それを見た上空の混沌は大きく息を吐くと、口の端を吊り上げて口を開いた。


『……貴様らしくないな。恐怖を紛らわせるために恋人を連れてくるなど。貴様ならば戦闘中に守らねばならんデメリットを考えるかと思っていたが』

『……』


 その言葉に、なんで見透かしてんだよ、という沈黙で返しながら、ギンは大きく息を吐いた。


『……なに、どっかの馬鹿が家出して、僕も変わらざるをえなかったんだよ』


 思い出すは、暗い部屋の中から自らを連れ出してくれた一人の少女。

 背後を見れば、絶大な信頼をその瞳に宿し、じっと背中を見守ってくれているその少女の姿があり、その姿に、どうしてか笑わずにはいられなかった。


『感謝するよ、姉さん。あの時白夜をそそのかしてくれて。おかげで目的が出来た。生きる理由が出来た』



 ――何より、負けられない理由が出来た。



 そう続けたギンの瞳は煌々と光り輝いており、その瞳を前に混沌は僅かに後悔する。

 あの作戦は、この男の精神を突き崩すために行ったものだった。

 その果てに廃人と化したとしても、それで全てが楽に進むのならばそれでよかった。

 だからこそ後悔し、怨まざるを得なかったのだ。

 ――あの作戦を、自力で乗り越えてさらに強くなる可能性。

 それをあらかじめ考えておかなかった過去の自分を、怨まざるを得なかった。

 そんな混沌を前に、ギンはその剣の切っ先を混沌へと向けて一言。



『さあ姉さん。姉弟喧嘩も終いにしよう』




 ☆☆☆




 見下ろす邪竜と、見上げる白虎。

 レベルが上がったことにより新たな『姿』を得た混沌と。

 神器(カドゥケウス)で押さえこんだ魂を用い、新たな姿を作り上げたギンと。

 そこに至った過程こそ異なれど、それでもその事実には変わりない。


 ――この相手は、掛け値なしに強い。


 それが分かっているからこそ二人は一瞬硬直し。

 そして――すぐさま相手へ向けて飛び出した。

 空気を押しつぶすような勢いで駆け出した二人は空中で相対し、轟音を鳴らして白銀の爪と剣が交差する。


 ――その瞬間、世界から音が消えた。


 音のない一瞬、二人の視線が交差し――そして、一瞬遅れて周囲へと爆音がまき散らされた。

 そのあまりにも巨大な爆音にビリビリと恭香の結界が悲鳴を上げる中、けれども二人の戦闘はさらなる苛烈を極めていく。


『ハアアッ!』

『ラアアッ!』


 振り払い、薙ぎ払った二ノ太刀と混沌が薙ぎ払った左腕が交差し、さらなる衝撃波が突き抜ける。

 一撃一撃、交差する度に世界が壊れる。

 天が割れ、地が砕け、世界が壊れ、魔力が噴き出す。

 悪魔界を以てしてこの惨状。それらを前に常人ならば『危ないから場所変えよう』となるのは必至だが、けれども戦う二人の脳内からは、既に『いったん止める』なんて感情は消え失せていた。


『チィッ!』


 空中で大きく弾かれたギンは隠すことない舌打ちをすると、手の甲に刻まれた紋様へと魔力を込める。


『銀滅氷魔……ッ!』


 瞬間、大地より召喚された無数の氷柱が天高く飛びまわる混沌へと向かって真っ直ぐ伸びてゆき、それを難なく躱してゆく混沌では有れど、その召喚された氷柱を足元にしてギンが徐々に迫り来る。

 加えて召喚された氷柱はその場に召喚されたままになっており、このままではいずれ飛ぶ場所がなくなってしまうのは目に見えていた。

 故に、それより先に壊すことに決める。


『喰らいつくせ……ッ!【混沌の咆哮(カオスバースト)】ッ!』


 混沌がそう叫ぶと同時、彼女の口から迸った漆黒の光線がそれらの氷柱をのみこんでゆく。

 それにより足場を失い落下するかと思われたギンではあったが、その背から血色に燃える一対の翼が召喚され、難なく飛翔したギンは混沌めがけて剣を振り下ろす。


『ハアッ!』


 その一撃は頭上で両手の爪を交差した混沌により受け止められており、それを見たギンは驚くことなく回し蹴りを混沌の腹へとぶちかます。

 蹴りが入ると同時にギンの足裏へと確かな感触が返ってきたが、けれども直後に返ってきた混沌の拳に大きく目を見開いた。


『ラアッ!』

『ぐ……っ』


 直前で背後へ上体を逸らして勢いをそいだもののその威力は余り有る。

 口の端かから溢れた鮮血を拭い、吐き捨てると、それを見た混沌はふっと余裕ありげに笑って見せた。


『なんだその蹴りは、全く効かんが?』

『うるせ、直前で尻尾挟んで衝撃緩和してたんだろうが』


 見れば混沌の尻尾、その先端部の鱗が衝撃によりはがれており、それを一瞬で見透かしたギンの洞察力に驚くと同時、混沌は『戦えている』事実に少しだけ歓喜した。


(……全く、勝てるかわからないと、そう思ってここに立っているのがなにも自分だけだとは思うなよ)


 そう内心呟くと、混沌は再び拳を構える。

 その瞳は爛々と輝いており、それを見たギンもまた拳を構える。

 竜と虎。

 五分と五分の力を持つものが戦えばどうなるか。



 ――少なくとも、まともなことにはならないのだけは確かである。




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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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