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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
いずれ最強へと至る道
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終章―13 根源と陰陽

まえがきとあとがきの限度文字数って二万文字なんですね。

この作品は一話で四千~五千文字くらいなので、あとがきとまえがきで合わせて十話分くらいはやれますねー。

 一陣の風が、吹いた。

 直後に周囲へと巨大な打撃音が響き渡り、同時に周囲へと大きな衝撃波が吹き荒れる。

 その中心地……否、被害の程から『爆心地』とでも言うべきか。

 紅と金の着流しに、赤い羽織を纏った一人の男。

 闇を纏ったような黒一色の装備を纏った一人の女。

 弟と、姉。

 その二人が、杖と剣をカチ合わせていた。


 二人は真剣極まる表情で互いの瞳を睨み据え、白銀と深紅の眼光が――ふっと、ブレた。

 途端に二人の姿がその場から掻き消え、連続して炸裂音が響き渡る。

 ――それは、武器と武器の衝突音だった。

 あまりにも鋭く、そして早く強く放たれたそれらは炸裂音にも似た音を鳴り響かせながらも、絶え間なく相手の急所を狙い打つ。

 が、それを許す両人ではなく、そのたびに得物を合わせ、向かい打ち、その度に新たな炸裂音が鳴り響くのだ。


 ――全くの、互格。


 身体能力では五分と五分。

 経験値は混沌の方がはるかに上を行き、多彩さでいえばギンの方がはるかに上を行く。

 故に、互格。

 互いの総合力が互格である故に引けず、進めず、ただ硬直状態だけが滞っている。

 が、それでも活路が無いというわけではない。


(焦れば焦るほどミスの確率が高まっていく)

(……つまり、先にミスを誘発させた方が、流れを掴む)


 両雄が考えることは同じ。

 ――焦らず、淡々と最善手のみを選び続けること。

 一手でも間違った手を打ってしまえば、たちまちそこから切り崩される。

 つまりは一種の詰め将棋のようなものだ。

 ただし賭けているのは自らの命、そして戦術にせよフェイントにせよ何にせよ、圧倒的プレッシャーと殺気が入り混じり、凶器が自らの眼前を通り過ぎる中で行わなければならない。故に、その緊張感は単なる詰め将棋の比ではない。

 が、こんなことは端から想像していた。

 ここまでの相手だと、互いがあらかじめ察していた。

 故に驚きは無く、両人が両人の最善を尽くして、互いの事を殺しに行く。


「ハアアッ!」

「ラアッ!」


 振りおろした杖と薙ぎ払った剣が交差し、周囲へと再度衝撃波を吹き散らす。

 手頸へとじいんとした鈍い痛みが走り抜け――直後、ギンの前蹴りが混沌の腹へと直撃する。


「が……ッ、ぐぅっ!」


 体を貫かんばかりの衝撃に一瞬彼女の口からうめき声が漏れたが、けれどもすぐさま歯を食いしばってギンの姿を睨み据えると、自らの腹へと叩き込まれた左足を片手でギュッとつかみ取る。


「な――」

「……捕まえたぞ」


 肉を切らせて骨を断つ。

 あまりにも単純な作戦にして、なによりも実力の均衡した相手同士の戦いにおいて有効だとなり得る作戦だ。

 そう、ギンも一瞬で察したのか、咄嗟に混沌の手をほどこうと足に力を入れたが、けれども彼女の腹から生み出された無数の『手』がギンの足をしっかりと捕縛しており、それに思わず頬をひきつらせたギンの視界が――ブンッ、とブレた。

 直後に彼の体は地面へと大きく叩きつけられており、その衝撃だけで城が割れ、大地が砕ける。

 アルファやサタン――否、ギルや久瀬の保有する力すらも超越した、余波だけで世界を、しかも他の世界よりもはるかに硬く創られた悪魔界を破壊しつくしてしまえそうなその戦いに、傍で見ていた恭香の肩が恐怖に震える。


「……ギン」


 ふと思い出す。

 先ほど、彼が彼女へと送った笑みを。

 その笑みにどうしようもなく不安な感情が心の内から湧き出してくる。

 本来なら一人で戦って当たり前のあの男が、よりにもよって彼女をこの場に呼び、約束までして戦っているというその事実。

 それがどれだけ――異常なことか。


(……不安、なんだよね)


 誰にも頼らなかった彼が、非力な自分を呼んでまでここに来た理由。

 彼が戦う前に告げていた、どうしようもない死への恐怖。

 あの姿を思い出して、彼女はギュッと拳を握る。


「……待ってるから」


 自分にできることなど限られている。

 けれど、その限られたことを彼はきっと望んでいるんだと思う。

 死が怖い、この相手の前に出て行くのがものすごく怖い。

 だから、見守っていてくれないか、と。

 泥仕合になったとしても、どんなに傷を負ったとしても。

 自分のことを信じて、待っていてほしい。

 そんな思いがあの『笑み』に込められていたのだとしたら。


「……帰ってくるって、信じているから」


 揺るぎない彼への信頼。

 待っていてくれるという安心感。

 形にすらならず、明確な力にもならないその想い。

 彼女の言葉が聞こえたかどうかは、分からない。

 それでも地面に叩きつけられ、鮮血を口から吐き出したギンは。


 それでも薄く、笑っていた。




 ☆☆☆




 叩きつけられ、鮮血を吐き出し。

 それでも笑った彼は、大きく魔力を練り上げた。


「影、分身ッ!」


 瞬間、混沌の上空へともう一人のギンが現れ、彼女の首を両足を使って締めあげる。

 虚を突かれたその攻撃に一瞬だけ混沌の顔が歪んだが、けれども彼女の背から召喚された漆黒の槍が数度屈折し、その影分身の体を貫いた。

 けれどもその一瞬、顔を歪め、影分身へと意識の向いたほんの刹那。

 それだけあれば、拘束から脱出するのはいとも容易い。


「『影化』……ッ」


 ギンの声が響き――直後、拘束をすり抜けたギンの足が混沌の顎を蹴りあげた。


「が……、ぐッ」


 大きく跳ねあげられた顎に、口の中に溢れた鮮血。

 あまりの痛みに思わずうめき声をあげた混沌ではあったが、すぐさま剣を握り直し、前方へと視線を投げる。

 そこには左足から影を噴出しているギンの姿があり、彼はこんこんとつま先で地面を叩き、崩れゆく城を月光眼で見渡して見せた。


「……世界が壊れるが先か、僕らが壊れるが先か」

「なに、私の戦いで滅ぶのだ。この世界とて本望であろうさ」


 その言葉に小さく苦笑しながらも、スッと銀色の双眸が混沌を捉える。

 対する混沌もまたギンへと視線を向け、深紅と白銀、二つの視線が再度交差する。

 そして再び――走り出す。

 その速度は先ほどよりもさらに早く、金色の杖と漆黒の剣が再び眼前で交差する。

 けれども直後に混沌から放たれた左フックに、すぐさま剣がおとりだと察したギンは、その拳を屈んでかわすと同時に剣を跳ね上げ、カドゥケウスを腰のベルトへと差しこんだ。

 そして、拳を構える。

 半身になって重心を落とし、拳を構えるその姿に、混沌もまた黒剣を腰の鞘へと納めると、スッと両拳を構えて見せる。


 ――ファイティングスタイル。


 城が崩れ行く中、それでも揺るがぬ闘志を拳に込める両者。

 そして、拳が入り乱れる。


「フッ……!」


 短く息を吐くと同時に放たれるはギンの拳。

 こと短剣、そして格闘においてはギンの技術は凶悪極まりない域にまで達しており、いきなり鼻頭を最短距離で狙い打ってきたその拳に混沌は苦笑しながらも、すっと上体を逸らすことで拳を躱す。

 そして合わせるは勢いをつけた右ストレート。

 黒い魔力を帯びたその拳は凶悪な速度でギンの顔面へと迫り――そして、ふっと拳の軌道円上からギンの頭部が消失する。

 その光景に愕然と眼を見開いた混沌は、ふっと視界の右側に違和感を覚えてそちらを見れば、そこには綺麗な十字架を描いて迫り来る左拳のクロスカウンター。


(ま、まず――)


 咄嗟に拳を納めるのが不可能だと察した混沌は、すぐさま踏み込み、勢いを『増す』ことによってクロスカウンターの軌道炎上から頭部を退ける。

 直後に頭のすぐ後ろへと強烈な一撃が通りすぎ、あまりの威力に冷や汗をかいた混沌は数歩その場から飛び退り、拳を構えてギンを見据える。

 そこには拳を振り抜いた姿で止まっているギンの姿があり、その姿に、その瞳に、混沌は有る事実を確信する。


(……この男ッ、技術だけでいえばサタンよりも――)

「――考え事か?」


 直後、眼前から聞こえたその声に、一瞬考え込んだ自分を酷く恨んだ。

 何せこの男には、一瞬で距離を詰める方法がいくつもあるのだから。

 見れば一瞬にして自らの懐へと潜り込んだギンは、ギュッと構えたその右拳を――大きく開いた。

 ――掌底か。

 一瞬にしてその答えに至った混沌では有れど、時すでに遅し。



「――『破鐘掌(クラッシュ・ベル)』」



 彼の名を冠するその一撃。

 それは吸い込まれるようにして混沌の腹へと突き刺さり――そして、彼女の顔が大きく歪んだ。

 腹に掌底が突き刺さり、直後に感じたのは体の内側に突き刺さる鮮烈な痛みだった。

 まるで内臓に巨大な杭を刺されたような、撞木で鐘を叩きつけるようにして内臓を抉られたような、外ではなく内を、外傷ではなく内傷を、心や精神を削り取ってくるような一撃だった。

 そのあまりの衝撃に一瞬硬直を示した混沌ではあったが、その一瞬の硬直を逃すギンではない。


「――隙を見せたな」


 直後、体がくの字に折れ曲がり、下がった顎を打ちあげるようにしてショートアッパーが容赦なく叩き込まれる。

 鮮血が弾け、混沌の体が顎ごと跳ね上がり――そして、ギンの膝が折れた。


「が……」


 見れば彼の顔面にはカウンター気味に放たれた拳が突き刺さっており、混沌の拳が上から振り落としていた分、この一撃によるダメージ量は混沌の拳の方が上を行っていた。


「……が、はっ……、隙、か。隙とは言いかえれば絶好の機会、好機というヤツだ。そう簡単に勝利を確信してもらっては困る」

「そ、そう……かよッ!」


 そう笑い、ギンは再び駆け出した。

 対する混沌は拳を構えて受ける姿勢を取っており、その構えを前にギンは迷うことなく踏み込んだ。

 かくして繰り出すは右フック。

 側頭部を狙い打つその一撃はけれども混沌のあげたガードに止められてしまい、直後に放った左のフックも混沌の右腕で止められ、振り落とされる。

 直後にギンの腹へと混沌の蹴りが迫り、それを視界の隅で視認したギンは右足を上げてそれをガードし――直後、混沌の額へと自らの額を叩きつけた。

 ――が、間一髪で首を傾げて躱される。

 二度目は無いとばかりに笑みを浮かべた混沌では有れど、視界の端にギンが牙を剥き、頭突きを躱された勢いのまま混沌の首筋へと噛みつこうとしているのが見えた。


「――ッ!? そ、そっちが狙いかッ!」


 彼女の脳裏に、アポロンを食い尽くしたギンの姿が過ぎる。

 あり得ない、あり得るはずがない。

 そう思っていたところから、やってのけたこの男。


(この男に……【あり得ない】は通用しないッ)


 すぐさま左手を首筋に当てて噛みつきを防ぐと、すぐさま手の甲に来るであろう鋭い痛みに、そして喰われる感覚に眉根を寄せた混沌ではあったが――直後に襲ってきたのは、『()()()()()()』という感触だった。

 喰われている、ともまた違った感覚に一瞬困惑し――直後、ガバッと大きく後方へと飛びのいた。

 首筋にあてていた手に感じたのは、歯ではなく、手の感触。

 歯を使わねば存在を食らいつくすエナジードレインは使用できない。

 それはつまり――


「――貴様……ッ、騙したな私をッ!」


 視線の先には、先ほどまでより威圧感の増したギンの姿があり、その姿に、自らの内から『奪われた』ステータスに、大きく歯ぎしりをして睨み据える。

 その視線の先には手をぶらぶらとさせながら余裕を見せつけるギンの姿があり。



「普通にお前の存在は喰えっこない。だから普通に吸わせてもらったぞ、お前のステータス」



 通常使用のエナジードレイン。

 吸いとったステータスは動けば動くほどに元の所有者へと戻ってしまうという特性こそ在れど。

 ――それでも、戻るまでは絶対的な劣勢を強いられる。

 その事実を前に、混沌は大きく歯を軋ませた。




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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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