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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
いずれ最強へと至る道
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終章―12 陰陽天

 剣戟の音が響く。

 金属音とともに火花が散り、体ごと大きく吹き飛ばされていく。


「ぐうっ……!」


 勢いそのまま大きく後ずさり、剣を構える。

 途端、闇のようにして背後へと突然現れた混沌の姿に大きく目を見開くと、振り向きざまに背後へと剣を一閃する。

 かくして感じたのは、硬い手ごたえ。

 見れば混沌の剣がシルズオーバーをいとも簡単に受け止めており、その頬に浮かぶ冷笑に危機感をあおられると同時、腹へと混沌の前蹴りが突き刺さる。


「が……ッ!?」

「ぎ、ギンっ!?」


 大きく吹き飛ばされ、瓦礫の山へと突き刺さる。

 悲鳴の方へと視線を向ければ、いつの間にこんなところまで吹き飛ばされてきたのだろうか、僕の張っていた結界がすぐ近くに存在しており、その中から不安に揺らぐ視線が僕の方へと送られてきていた。


「大、丈夫……だって」


 そう立ち上がりながら、膝に手を当てて立ち上がる。

 何にも、心配はいらないさ。

 確かに逆境だ、力の差は歴然だろう。

 だけど、負けるつもりなど毛頭ない。


「負ける未来なんて、一ミリたりとも見えてない」


 大きく息を吸い込み、右手に握りしめていたシルズオーバーを返還する。

 武器を手放すという暴挙に混沌は小さく眉尻を吊り上げたが、直後に僕の手の中へと生み出された光を見て、見るからに失望の色を表情に浮かばせた。


「――第ニ神器・カドゥケウス」


 金色の光が溢れ、僕の左手に一振りの杖が召喚される。

 混沌は知っているはずだ、その杖が『回復』に特化しているということくらいは。

 だからこそ失望を浮かべた。

 なんだ、殴り合うのではなかったか、と。

 回復に特化し、防御に専念するつもりか、と。


「……そんなことで、勝てるほど私は甘くない」


 途端、彼女の体から膨大な怒気が溢れ出し、威圧感や殺気を伴うどす黒い感情に、思わず笑ってしまう僕がいた。

 失望するのは早すぎるんじゃないか、と。

 なーにがそんなことで勝てるほど甘くない、だ。


「――そんなこと、百も承知してんだよ」


 知っている。

 嫌というほどに、僕は知っている。

 この人の強さを、根性の分厚さを、いざという時の開き直りを。

 僕はたぶん、世界で一番よく知っている。

 故に考えた、どうすればその化物に勝てるのかと。

 考えて、考えて、考えて。

 そうして考え付いた答えは簡単――


 ――なら、力技で限界をぶち破ればいい。


「父さんでさえ勘違いしてた。このカドゥケウスは誰かを守るために創ったんじゃない。……まあ、結果的にはゼウスやその他大勢も救えてよかったんだろうけど――それでも、本質はそうじゃない」


 そう笑って――直後、周囲の魂が螺旋を描いて収束を始める。

 それには混沌も驚いたのか、ガバッと魂の範囲内から脱出し、僕へと射るような視線を注意深く向けてくる。


「神器カドゥケウス。これはいわゆる、滅びをかき消す癒しの杖。なにかが滅びに向かう中、絶対の癒しの力でその滅びをかき消す。現状を保ち続ける。そのためだけに作り上げた、僕のための第ニ神器」


 と、そこまでいえば混沌も分かったのだろう。

 愕然と眼を見開きこちらへと駆けてくる混沌の顔には、絶対的な焦燥が浮かんでいた。

 その姿に『察しが良いな』と内心思いながらも――杖の先端部へと収束された魂を、微塵も残さず、全部まとめて、()()()()()()()()()


 ――そして、銀色の魔力が吹き荒れた。


「ぐうっ……!」


 銀色の魔力は僕の体を囲うようにして渦巻き始める。

 ――そして同時に、激痛が僕の体中を走り抜けた。


「が……っ」


 これは言いかえれば『力技』ってやつだ。

 僕の体には全ての魔力が収まらない。全ての魂が収まらない。

 故に外側に纏わせることにした。どうせそれでも魔法は使える、その上中距離における絶対的な力も手に入る。万々歳というやつだ。

 だが、それでもデメリットというのは存在する。

 それはつまり――近接戦闘における力不足、だ。

 魂が外に出ている、というのはつまり不完全だということ。

 中距離、遠距離となると魔法や魂の支配といった攻撃手段があるからいいが、それでも近距離となると僕の力は以前よりはまだマシ、程度でしかない。


『近接戦闘の理想はね、大きな器と、それになみなみ注がれた魂がそろっていることなんだよ。器が大きければ扉ができちゃって身体能力が制限されちゃう。逆に魂が大きすぎれば魂が溢れちゃって近接戦闘どころじゃない。まあ、そっちの魔王ちゃんがいい例だよ』


 そう言われたのは、いつだったか。

 ……そうだ。たまたま遊びにきた、と言っていたロキへ魂について相談した時だった。

 器が大きければ、かつての久瀬のように力を使いこなせなくなる。

 魂が大きければ、魔王さんのように極端に撃たれ弱くなり、近接戦闘に支障が出る。

 全く困ったもので、今の僕は下手に器が大きいから目だっていないものの、僕の遠距離弾幕、果ては魂の支配までスピードで振り切ってくる化物とかが現れたら、その時点で今の僕に勝ち目はないってことになる。

 だって、今の僕は近距離線向きじゃないのだから。


 だからこそ考えた。

 どうすれば、僕は近距離でその『化物』に対抗できるのか、と。

 魂が大きすぎる、なればそれらを全て器に収めることができればきっと万事解決なのだろうが、それにしたって、小さい器に許容量を大幅に上回る液体を流し込めばどうなるかなど火を見るより明らかな話。

 ならばどうする。諦めるか?

 そう考えて――ふっと、頭の中に一つの可能性が浮かび上がった。



 ――肉体が耐えきれないなら、耐えきれるように常に回復し続ければいいのではないか?



 そう笑って、杖を大きく振り払う。

 途端に周囲を覆っていた銀色の渦は空気に溶け込むようにして消えてゆき、その中から金色の杖を片手に持った僕の姿が現れる。

 金と紅の着流しに、赤い羽織。

 視界の隅に揺れる髪は銀色に染まっており、無理が祟ったか、あるいは肉体活性が過ぎたか、後ろ髪が腰のあたりにまで伸びている。

 視線の先には愕然と眼を見開く混沌の姿があり、その姿を一瞥した僕は結界の中で固まっている恭香へと片手を差し出す。


「髪留め、貸してくれない?」

「へ? あ、は、はひっ」


 初めて見る僕の姿にテンパったのか、顔を真っ赤にしながらも、後ろ髪を首の後ろでまとめていた赤い髪留めを結界越しに僕の方へと投げてくる。

 それを左手で受け取ると、自らの銀髪を彼女と同じように首の後ろで縛りあげながら、恭香へと笑ってこう告げる。



「――少し待ってろ。必ず返しに、生きて帰る」



 その言葉に、恭香が大きく目を見開いたのが分かった。

 ――さて、と。

 準備はできた。

 負けられない理由も、約束もある。

 視線を前へと向けると、硬直から治ったのか、大きく顔を歪める混沌の姿があり、彼女と視線を交差させた僕は杖の石突で地面をトンッと叩いて見せた。

 途端に溢れ出すのは、銀色の魔力。


「モード『陰陽天・人』」


 これぞ僕の、正真正銘奥の手だ。

 これ以上の強化は世界樹で見せた『神』しか存在しない。

 そしてそれは、たぶん混沌も同じだろう。

 だからこそ、自信を持ってこう告げよう。



「戦ろうか混沌、こっから先は全開で」



 その言葉に。

 混沌は大きく息を吸い込み――そして、拳を握りしめた。


「……所詮は張りぼて、その杖さえなければ破裂寸前の水風船であろう」


 誰に問うでもなくそう呟いた混沌は、スッと冷たい光の灯った瞳を僕へと向ける。

 それはさながら、血濡れた剣の切っ先を喉元へと突きつけられているかのような感覚ではあったが、それでも怯むことだけは絶対にしない。

 根拠は無い、けれど僕らの力量は、ほとんど互角な気がするんだ。

 だからこそ思う。


 ――心の強い方が、勝利する。


 拳を握り締める。

 対する混沌は剣を握りしめ、スッとその切っ先を向けてくる。

 さぁ、最後の戦いだ。

 この先どうなるかは分からないけど。

 この先何が待っているのか分からないけど。

 とりあえずは十数年前から今に至るまでの長い因縁に、ケリを付けよう。



「どちらが強いか――」

「決着をつける……ッ」



 拳を握り締め、杖を握りしめ、剣を握りしめ。

 僕らは同時に駆け出した。


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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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