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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
いずれ最強へと至る道
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終章―09 銀色の輝き

今回からギンVS混沌!

 それは、当時十八歳だったころのギンの器を作りだし、そして、その中に魂を入れるときのこと。


「……それじゃあ、始める、よ?」


 全能神様が不安げにそう呟き、その言葉に私と白夜がコクリと頷いた。

 この場に居るのは私と、壁を越えたおかげか、なんとか立っていられるだけの余裕がある白夜。それに加えて全能神様に、死神様。そして神王ウラノス様の五人。

 そして目の前に横たわる、中身のない器だけ。


「……それじゃあ、行くよ」


 そう呟き、全能神様が手のひらを上へと向けて魔力を込める。

 ――銀の魂の、顕現化。

 どこか遠くの世界の、それまたゲームの中の世界へと飛ばしていたというその魂。

 魂そのものを器に作り替え、レベルという概念を与えて魂そのものを強化させたと、全能神様はそう言っていたけれど――


 ――全能神様の手のひらからは、いつまで経っても魂は出てこなかった。


 数秒が経ち、数十秒経っても何の変化もないその手のひらに、業を煮やした白夜が声を上げようとした――その時だった。

 突然に、本の状態に在った私の体が、人型へと変形したのだ。


「な……、なん、で」


 半ば強制的な変身に、思わずそう声を漏らす。

 そして、ウラノス様の愕然とした声が響いた。


「ま、まさか……ッ!」


 目を見開いたウラノス様は焦ったように周囲を見渡し――そして、肩を大きく震わせ、茫然としたようにこう言った。



「――魂が大きすぎて、視認できなかった……?」



 その言葉に、私たちの間で驚愕が広がった。

 魂が視認できない。

 その馬鹿げた事実に私たちは愕然と口を開き――直後、魂が独りでに器の中へと移動を始めた。

 ――それは、銀色の奔流だった。

 本来ならば色を持たない魂が銀という色を持ち、形を持ち、自らの意思を持ってその体の中へと吸い込まれていく。

 それはとても幻想的で、美しい眺めだった。

 まるで世界に祝福されているかのような光景に、私は思わず見入ってしまったが。


「ま、まずいんじゃねえのか……!? 明らかに器と魂のランクが見合ってねえ! こんな馬鹿げた量の魂……、いくらこの器でも受け切れるわけがねえぞ!」


 死神様が叫んだその言葉に、一気に緊張が広がった。

 私たちが用意した器は、間違いなく久瀬竜馬のそれと同等か、それ以上のものだと思う。

 それでも、足りないと彼女は言った。

 成長してくると見込んで大きな器を用意してはいいが、それでも足りない。

 この魂を収納するには、器が【小さすぎる】。

 本末転倒……いや、単なる予想外、というやつなのだろう。

 誰も、ギンがここまで成長して戻ってくるなどと思ってもいなかったのだ。


「ま、まずいのじゃ……! た、魂が溢れて……っ」


 白夜の焦ったような声が響く。

 見ればギンの器の周辺には収まりきらなかった多くの魂が漂っており、それらの魂が行き場を失い、そして最終的には既に満たされた器の中へと入り込んでいく。

 ――暴発。

 その可能性が脳裏をよぎり、既に魂の制御を始めている全能神様、そしてウラノス様へと視線を向ける。


「く、うっ、こ、これは……」

「ま、まずいかも……ッ」


 二人がそう呟き――そして、二人の腕が弾かれた。

 まるで『邪魔をするな』と。

 そう言っているような銀色のオーラに思わず目を見開き――



 ――そして、ふっと、銀色の魂が消失した。



「……はっ」


 五つの声が重なる。

 先ほどまで暴れ、荒れ狂っていた魂が一瞬のうちに消失したのだ。

 そのあり得ない光景に思わず目を見開いて固まってしまった私たちを前に。



「……知らない天井だ」



 そんな間抜けた声が、聞こえてきた。




 ☆☆☆




 壊れた壁の外から、赤い月光が漏れている。

 相対する僕らの頬が月光に照らされて紅色に染まり、四つの紅蓮の瞳が互いの瞳を睨み据える。

 見れば混沌の口元にはまるで刃のような鋭い冷笑が浮かんでおり、その表情に、その姿に、どうしてもあの光景が脳裏をチラつく。

 切り裂いた混沌の魔力。

 突き付けた白銀色の刀身。

 愕然と眼を見開く姉の姿。

 そして、薄れ、暗転していく自らの意識。

 その光景を思い出す度に、どうしたって体が震える。

 百戦錬磨、どれだけの敵を打ち倒し、どれだけの逆境を乗り越えようと、死ぬっていう事だけはたぶん、絶対に慣れっこない。


 けれども、だ。


 そう内心で呟き、スッと背後へと視線を向ける。

 そこには本気で張った結界の中から不安げな視線を送ってくる一人の少女の姿があり、その視線を体に感じて、ふっと笑みをこぼしてしまう。

 一人の時は、ちょっとばかし無茶したところでとがめられやしなかった。

 が、今回は見守ってくれる存在がいる。

 自分の背後で、僕の勝利を信じて待ってくれてる、大切な存在(ひと)がいる。

 なればこそ。


「今回ばかりは、負けられないな」


 そう呟き――スッと、右手を虚空へ滑らせた。

 右手から溢れ出した魔力の色は、眩いほどの白銀色。

 それを前に混沌はニヤリと笑うと、スッと腰に差した長剣の柄へと右手を添える。


「それを聞いて安心した。以前の死で怖気づいているのでは、とそれなりには心配していたからな」

「ああそうかい。そりゃすまなかったな、姉さん」


 ニタニタとした笑みを隠すことなくそういった彼女に、僕はふっと笑って感謝を告げて。

 そして次の瞬間、手に持った剣で彼女へと容赦なく斬りかかった。

 硬い感触が手に響き、一瞬遅れて爆風と金属音が響き渡る。

 目前、数センチのところには黒剣で白銀色の剣を受け止め、楽しげに紅蓮の瞳を煌めかせる姉の姿があり、その瞳を睨み据え、自信満々にこう告げる。



「――安心しろ。少なくとも、負けるビジョンだけは微塵も見えない」



 途端に両目の月光眼を発動させる。

 紅蓮の瞳に月のような紋章が浮かび上がり、銀色に染まり始めたその瞳を見た混沌がスッと黒剣をふるって背後へと飛び退る。

 ――そして、眉尻をピクリと反応させた。


「……なんだ、その剣は」


 そう混沌が視線を向ける先には、僕の手に握られている一振りの剣の姿があった。

 剣……否、刀といった方が近いだろうか。

 軽く反った白銀色の刀身は剣と刀を足して二で割ったような独特の形状だ。

 ただ、柄から鍔までが漆黒色に染まり、白銀色の刀身に深紅の文字が描かれたこの剣、混沌とて見覚えがあるに違いない。

 スッとその切っ先を混沌へと向けると、彼女は目を見開いて一言。


「……神剣シルズオーバー、なのか」


 その言葉に、ふっと笑みを浮かべて剣を構える。

 神剣シルズオーバー。

 神王ウラノスが作りし最高峰の神剣。

 強度は使用者の魂の総量、まあ、精神力によって変化し、その純粋な武器としてのスペックでいえばかなり上の方に位置しているだろうと思う。

 が、そのシルズオーバーにはまだ、引き出し切れていない力があったのだ。


「神剣シルズオーバー。その力の本質は、使用者の魂の総量に応じて自らのスペックを高めること。……っていってもまあ、本来は回復専用の剣だけど」


 そう呟いた僕の左手に、もう一振りの剣が生み出される。

 ――そこに現れたのは、柄から刀身の先まで漆黒色に覆われた一振りの剣。

 その剣には何本か赤い線が入っており、その剣が現れたと同時に両手の剣の刀身から血色と白銀、二色の魔力が吹きあがる。



「――二刀流・月喰神剣(イクリプス・オーバー)



 左手には黒い剣――月蝕(イクリプス)を。

 右手には白い剣――神剣(シルズオーバー)を。

 スッと体の前で刀身を交差させるようにして構えると、それを見た混沌の警戒度が一気に跳ね上がったのが分かった。

 その顔に、既に笑みはうかがえない。

 今の彼女の顔に浮かぶ感情はただ一つ――未知への警戒。

 その感情を前にふっと笑みを浮かべると。



「行くぞ混沌。ついてこれるか?」



 次の瞬間、僕の体が彼女の背後に移動した。

 ――位置変換。

 懐かしくも凶悪極まりないその力に、咄嗟に背後を振りかぶった混沌は漆黒の魔力を纏わせたその剣を力任せに薙ぎ払う。

 技術もへったくれもない。ただ触れればその時点で終わるその一撃に、スッと両の剣を重ねて防御姿勢を取った僕は――次の瞬間、黒い靄となって消え失せた。


「な――」


 影分身。

 位置変換すると見せかけて影の中へと忍ばせておいた影分身を混沌の背後へと浮かび上がらせただけのちょっとしたマジックではあるが、それでもこの緊迫した空気の中ならばそんな簡単なマジックでも十分に通用する。

 そう、彼女の真上へと位置変換していた僕は内心思う。


「ほい一閃」

「チィッ……!」


 上空から振り落とされた白銀の一閃を咄嗟に黒剣で受け止めた混沌。

 その顔からは既に余裕は消え失せており、キッと上空の僕を睨み据える混沌へと、左手に握りしめた黒い剣を振り落とす。

 刀身から絶対破壊のウルの魔力、そして生命の燈の影響で混沌の魔力に対する耐性を得た銀色の魔力が迸り、それを見た混沌は小さく呻くと、ガッと僕の振り落とした白刃を払いのけ、余裕を持って黒刃を受け止めて見せた。

 予想をはるかに上回った混沌の剣術に小さく目を見開いていると、上空の僕の腹へと蹴りあげた彼女のつま先が突き刺さる。


「……ッ」


 咄嗟に常闇の腕を具現化させて直撃を防いだものの、それでも衝撃だけは吸収しきれず、あまりの威力に体がはるか上空の天井付近にまで吹き飛ばされる。

 そして、すぐさま追随して投げ上げられた混沌の剣。

 なんとか空中で躱したその一投だったが、その剣は天井へと常闇のローブを完全に縫いつけてしまっており、それを見て小さく舌打ちを漏らす。

 そして、すぐさま目の前へと飛んできたドロップキックを両腕を交差させて受け止めると、僕の体越しに天井を突き破った混沌は、スタッと屋根の上へと着地する。

 天井を突き破った際に上空へと弾きとんだ混沌の剣が彼女の手の中へと回転しながらスッと収まり、満足げに顔を緩めた混沌はその切っ先を僕へと向けて突き付ける。


「さて弟よ。そろそろ本気を出しては如何かな」


 その言葉に、小さく笑ってしまう僕がいた。

 現状、相手の『底』が分からない以上はある程度自らの力をセーブし、後々相手が本気を出してきてから解放させていくのがベスト……だと、少なくとも僕は思っている。

 まあ、アルファみたいに『初っ端から全開』みたいなやつもいれば、久瀬みたいに『ピンチになると覚醒する』みたいな主人公気質もいるだろうから、正直これはその人の考え方によるだろう。


「本気……ねえ」


 混沌の言葉にそう呟き、小さく頭をかいて立ちあがった僕は。

 ふっと笑って、鋭い視線を突き付ける。



「本当にいいのか? 本気出しちゃって」



 ――瞬間、周囲へと銀色の光が溢れかえった。


 周囲の変貌に咄嗟に周囲を見渡した混沌ではあったが、されど彼女とてこの『光』の正体には気が付けないだろう。

 なにせ、これは世界中を探しても僕だけしか()()()()()()()()なのだから。


「な、何だ……。これは……ッ」


 そう愕然とする彼女へ向けて。

 僕は改めて淡々と、こう告げる。



「だから言ったろ。お前は強くて、確かに勝てる気はあんまりしないけど」



 ――それでも、負けるビジョンだけは微塵も見えない、ってさ。





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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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