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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
いずれ最強へと至る道
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終章―04 不敵な笑み

 そこは、元は小さな森があった場所であった。

 血の染みた大地に紫色の天、深紅の月と、異常としか思えない光景が広がる中、生きるために足掻き、血を吸い生き延びてきた木々が集結し、濃い緑色をした針葉樹の森が広がっていた。

 そう、()()()()()()のだ。


「おらァッ! 炸裂ドッ根性ッ!!」


 アルファの拳が地を砕き、大地を大きく砕いていく。

 その力はまさしく『到達者』のソレ。

 あまりにも絶大なその力に世界が悲鳴を上げ、壊れ行くのが素人目にも分かった。

 けれども全てが終わった後、この世界が文字通り『残っている』可能性などごくわずかしかない。

 なればこそ。


「遠慮なんてしねえ! 世界ぶっ壊してでもケリつけてやらァ!」

「それはこちらも同じこと……ッ!」


 サタンの拳が唸りを上げて迫り来る。

 けれどもアルファの表情は揺らぐことなく、紅蓮のオーラが包み込む右腕で大きくその拳を弾き飛ばす。

 が、そんなことはサタンとて承知の上。

 すぐさま拳を戻したサタンは左拳でフックを放ちながら体を捻り、ぐっと右拳を握りしめる。

 一撃一撃が全身全霊。

 たった一撃でも触れればそれだけで骨が砕けかねない威力にアルファは小さく目を見開き――


「――ッ!」


 カウンターで、右拳をサタンの顔面へと叩き込んだ。

 鼻から鮮血を噴きながら、サタンは顔面に走った痛みに呻くようにアルファへと視線を向ける。

 ――そして、流れるようにつま先でアルファの顎を蹴りあげた。


「が……!?」


 死角から一瞬にして叩き込まれた一撃。

 拳よりも余程威力のある『蹴撃』で顎をかちあげられ、アルファの体が空中へと吹き飛ばされていく。

 対し、なんとか片足で踏みとどまったサタンは、ぐっと両足で大地を踏みしめ――飛び上がる。


「我が主、今ここにその力を貸し給えッ!」


 かくして彼の腕に生まれたのは――膨大な魔力。

 混沌の力によって強制的に増幅させられた力に加え、彼女より預かった黒の魔力。

 それを元より持っていた自身の炎へ、加え込む。


「『根源化』ッ!」


 瞬間、彼の体から威圧感が溢れ出す。

 その力は正しく到達者のソレ。

 空中へと打ち上げられ、身動きの取れないアルファは大きく顔を強ばらせながら、それでも目の前に迫るサタンへと両腕を防御に回して体を固める。


 ――そして、その一撃が繰り出された。



『――悪魔の絶拳(サタンブロー)



 その拳はガード越しにアルファへと突き刺さり、そして、彼の身体中を感じたことのないような衝撃が突き抜けた。

 ガードなど知ったことかと、あっでなくても同じだと、そう吐き捨てるような強烈で鮮烈な一撃に一瞬、アルファの意識が遠のいた。

 けれどもすぐに歯を食いしばって眦を決すると、大きく吹き飛ばされながらも空中で体制を整える。


「まだ、まだ……ッ!」


 トンッと、巨大な大木の幹へと着地する。

 直後に衝撃を受けとった大木がミシミシと嫌な音を立てて傾いたが、すぐさまその幹を蹴り飛ばすようにしてアルファが飛び出した。

 それにはサタンも目を見開くが、それよりも先にアルファの姿が彼の目の前へと現れる。



「光速超えてぶっちぎる――『野性の絶槍(ブレイクスピア)』ァッ!」



 ――瞬間、紅蓮の光が走り抜けた。

 超高倍速にて放たれたその拳はいとも簡単に光速を超え、目を見開くサタンのガードの上へと叩き込まれた。

 直後にアルファの腕へと骨が砕ける嫌な感触が返り、そして、サタンの体が弾かれるようにして眼下の地面へと突き刺さる。

 途端に大地へと無数のヒビが入り込み、大きく吐血するサタンへ向けて、アルファはぐっとかかとを振り上げる。


「次いで――『野性の絶鎌(ブレイクサイズ)』ッ!」


 アルファがそう叫び、その右足へと膨大な赤いオーラがまとわりつく。

 その圧倒的な威圧感にサタンは大きく目を見開き――そして、覚悟を決めた。


『――その一撃、受け止めてやろう』


 サタンが呟いた、次の瞬間。

 アルファの一撃が仰向けに倒れ伏すサタンの腹部へと直撃し、赤いオーラが刃となって彼の胴体を貫いた。

 鮮血が舞う。

 あまりにもうまく入った――否、『うまくいきすぎた』一撃にアルファは小さな違和感を覚え、そして、サタンの浮かべるうすら笑いに、大きく目を見開いた。



『――代わりにその足、(いただ)くぞ』



 ――ゴキリッ、と鈍い音が鳴り響いた。


「がっ、ああああああああああああああッ!?」


 アルファの悲鳴が轟き、彼は右足を抱えてその場に蹲る。

 見れば彼の右足――正確には膝から下がありえない方向へとねじ曲がっており、膝を捻じり切られる、という道理外れな痛みにアルファの額に脂汗がにじみ出る。


「ぐ……クソ、が!」


 見れば胴体に風穴を開けたサタンは、それでも痛みを感じさせない無表情でその場に立ちあがっており、彼はアルファを見下ろして一言。


『俺は、貴様にだけは負けんよ。アルファ』


 ――ゴッ、と。彼の蹴りがアルファの腹に突き刺さる。

 声にならない悲鳴が上がり、大量の鮮血が彼の口からあふれ出す。

 まるで腹を雷が貫通したような衝撃に彼の脳が揺れ――そして、弾かれたように吹き飛んでいく。

 アルファの体は木々をへし折り、大岩を破壊し、それでも止まらず、数キロ吹き飛ばされてようやくその勢いを殺し切る。


「あ……、が、ぁ、ッ」


 声にならない悲鳴が漏れる。

 いや、それは悲鳴でなく、ただのうめき声だったのかもしれない。


『俺は、お前にだけは負けられない。お前は俺の同類だ。才能がなかった。特別な力もなかった。そこからさらに不幸のどん底に落とされ、終いには自分の力以外信頼できなくなった哀れなる愚か者だ。戦うことしか能のない、ただの戦闘に狂った野性の権化だ』


 その言葉に、アルファは顔を上げる。

 見ればそこには、遠く向こうからこちらまで飛んできたのか、大きく翼を広げ、ふっと大地へと降り立ったサタンの姿があり、彼の腹部に空いた風穴は見る見るうちに修復を始めていた。


『だからこそ。お前にだけは負けられない。他の誰に負けたっていい。が、お前にだけは、負けたくないんだ。なにせお前に負けるということは、俺という『存在』が否定されることに等しいのだから』


 努力した。

 努力して、努力して。

 血反吐を吐いて泥水を啜り、後ろ指をさされながらも足掻いてきた。

 ――そして、今目の前に、自分の『同類』がいる。

 なればこそ、敗北したくないのは道理だ。

 なにせ、同類に負けるということは、自分を否定されるということなのだから。

 今までの努力も、足掻きも、我慢も何もかも。

 全て、自分という存在が、概念そのものが否定されるということなのだから。

 だから、負けられない。

 もう、引き分けなんて結果は要らない。

 今欲しいのは、この男に対する『勝利』ただ一つ。



『俺は――貴様に勝利する』



 サタンの宣言に、アルファは大きく吹きだした。

 その笑いに、この逆境における噴き出した笑みにサタンは小さく眉尻を吊り上げると、アルファは笑みを浮かべたままその場に立ちあがる。


「……へえ。()()()()()()、ねえ」

『…………』


 アルファは一体何に噴出したのか。

 それが読めないサタンは沈黙の中、アルファの姿を注意深く睨み据える。

 けれどもわかる事といえば、目の前に横たわる絶対的な『有利性』のみ。

 混沌の魔力を得、痛みという枷から解き放たれ、回復能力も含めて全ての力が大幅に上昇している。

 なればこそ、敗北する道理などどこにもないはず――にもかかわらず。


(……何故、この男は笑った)


 その疑問が心に引っかかる。

 何故この男は、この逆境に於いて、それでも笑みを浮かべたのか。

 何故こうして、勝利を疑わずに目の前に立ちあがるのか。

 まだ隠した能力があるとでも言うのか?

 まだ全力を出していないとでも言うのか?

 援軍でも来るとでも言うのか?

 自分が助かる、自分が生き残る絶対的な確証でもあるのか?


 ――否、そんなはずはない。


 確証など有るはずがない。

 戦っていれば分かる。この男に隠している力など皆無だと。

 常に全身全霊、フルスロットルで戦っている。

 口に出しておらずとも、次第に『加速度』が上がっているのも理解しているし、ド根性のスキルとて混沌の魔力を直に纏っているサタンと殴りあえている時点で常時全力発動しているのが分かる。

 ならば援軍か、とも疑ったが、今のサタンを抑えるなど全能神ゼウスでも荷が重い。久瀬かギルのいずれかでも連れてこなければ勝てやしないだろう。

 故に、断言できる。


 ――この男に、生き残る確証などどこにもないのだ、と。


 なのに、何故。

 何故、この男は――



「……何故、貴様は笑っていられるんだ」



 その問いに、アルファは不敵に笑って見せた。



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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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