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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
正義の在処
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焔―059 言葉無き応酬

今回は少し特別製。

 大きく火花が散り、二人の体が大きく弾かれる。

 片や黒刀を握りしめ、片や鎖鎌を両手に握る。

 蒼い瞳と銀の瞳が交差し――次の瞬間、ヒュンッ、と風切りが久瀬の耳朶を打つ。

 視線の先にはギルの手から放たれた鎖鎌が大きく唸りながら迫り来るのが見えており、それを見た彼は刀に黒炎を纏い、スッと重心を下ろした。


 ――そして、一閃。


 久瀬の放った一撃は寸分違わずその鎌へと吸い込まれていったが、けれども直撃する寸前、その大鎌がまるで意思を持っているかの如く()()、一刀をひらりと躱してしまう。

 そして同時に溢れ出す膨大な『嫌な感覚』。

 大きく目を見開く久瀬の目の前で、ボンッ、と黒い煙を放った大鎌が一瞬にして姿を変え――そして、もう一人(・・・・)のギルが姿を現す。


 ――影分身に、変身スキル。


 すぐさまそれらの能力に考えついた久瀬は、組みかかってきたギルの手を腕で弾くと、そのまま転がるようにしてギルを踏み敷き、その顔面へと拳を振り下ろす。

 途端に靄となって消え失せていくその影分身を一瞥すると、すぐさま顔を上げた久瀬は周囲を見渡して目を見開いた。

 そこにあったのは――見渡す限りの『ギル』の群れ。

 殆どが影分身だと分かっている。けれどもそれらには彼の『眼』をしてどれが本物か分からないレベルの偽装が施されており、そのあまりの量に久瀬の奥歯がぎしりと鳴った。


 そして、ギルの攻撃が始まる。

 上空から降り注ぐのは、無数の魔弾。

 それら単体がerror級を屠るに容易い威力を誇っているにも関わらず、その数は数えるのも億劫になるほど。すぐさま『防御すれば足止めを食らう』と感じた久瀬は、すぐさまその場を離れるべく駆け出した。


 そして、降り注ぐの魔力の弾丸。

 駆け出した彼のすぐ背後を無数の弾丸が抉りとって行き、それを背後に久瀬は大きく刀を握る。

 途端に彼の体から青い魔力が溢れ出し、具現化したそれらは無数の槍となってそれらの弾丸へと向かっていく。


 ――蒼の魔槍(グングニール)


 打ち出された無数の魔槍は空中でさらに分離、枝分かれし、数え切れないほどの槍へと変化していく。

 そして――空気が破裂した。

 破裂した、とそう言っても過言ではないほどの破壊音が響き渡り、魔槍と魔弾が激突、そして破壊音を放ちながら消失していく。


 その様子を見て小さく笑った久瀬は大きく方向転換すると、ギルの群れの中へと突っ込んでいく。

 途端に彼の体から更なる魔力が吹き上がり、青みを含んだ黒炎の刀が()()()、彼の周りに召喚される。

 かつては十本も召喚することの出来なかった黒炎の刀ではあれど、壁を越えた彼なればこそ、その限度はかなりのものへと変化している。


 召喚された無数の刃が周囲のギルたちを切り刻んでいき、一太刀振るわれる度に黒い靄が走り、剣戟の音が響き渡る。

 次々と周囲のギルたちが斬られていく中、ふと、背後から膨大な殺気を感じて咄嗟に横合いへと飛び退いた。

 その次の瞬間、先程まで彼のいた場所へと金色の炎が迸り、どこからか盛大な舌打ちが漏れてくる。


 対し、それを見ていた久瀬の頬から額からは大量の冷や汗が溢れ出しており、その金色の炎から感じられる危険性に汗を拭いながらも、キッと舌打ちの聞こえてきた方へと睨みを利かせる。

 その視線の先――彼へと向けて掌を掲げていた一人のギルは嘲たような笑い顔を浮かべると、すぐさま影分身の中へと去っていく。


 ――焼け石に水。

 ふと、そんな言葉が浮かんで周囲を見渡す。

 周囲には今も倒し続けているにもかかわらず、一切『減った』ように思えない影分身の群れが広がっており、それを前にした久瀬は大きくその中から飛び退いた。


 逃げるのか?

 そう問いかけるような無数の視線を感じながらも、彼は腰の鞘へと黒刀を収めた。


 それにはギルも目を見開いたが――次の瞬間、その理由は白昼の下に晒された。

 途端に久瀬の体から視界を埋め尽くすような蒼い魔力が迸り、あまりの威圧感に思わず腕で両眼を隠したギルは、直後に目の前へと現れた存在を見て目を見開いた。


 ――そこに居たのは、蒼い龍だった。


 大気を切り裂くような咆哮が響き渡り、余波だけで影分身の数体が消え去っていく。

 その様、正しく圧倒的。

 思わず歯を食いしばったギルに対して、青龍と化した久瀬は大きく体を浮かび上がらせると、自身の尾へと膨大な量の黒炎を纏わせる。


 そして――ただ薙いだ。


 尾を眼下の影分身たちめがけて薙いだだけ。

 それだけで無数に広がっていた影分身たちの半数以上が倒れ伏し、その光景を見て久瀬はその瞳でこう語る。


 ――影分身なんて、もう役には立たないぞ、と。


 かくしてさらに高度を上げた久瀬は、眼下のギルたちを見据えて大きく息を吸いこんだ。

 そうして放つは、絶対破壊の超一撃。

 大きくアギトを開く。

 喉の奥には青黒い炎がチリチリと燻っており、それを見たギルは焦ったように両手を天へと合わせ掲げる。

 彼の掌に生み出されたのは、金と紅、二色が混じった巨大な球体――全能神ゼウスすら屠った究極奥義『万喰の陽陰(サンズ・ダークネス)』。

 そのあまりの威力に小さく目を見張った久瀬ではあったが、すぐにキッと目を細めると、その一撃を眼下めがけて撃ち放つ。


 ――然して、世界が白く染まった。


 黒炎の付与された青龍の咆哮と、万喰の陽陰。

 圧倒的な破壊力を誇る二つの超一撃が真正面から激突し、周囲を抉り、破壊し、光に包み込んでいく。

 それらの光は久瀬やギルの姿すら飲み込んでいき、一泊遅れて、破壊音と衝撃が突き抜けた。




 ☆☆☆




 そこには、大きく抉られた世界樹が存在していた。

 見渡せば焼け焦げ、煙の上がる木の断面ばかりが視界に入る中、体を焦がし、それでもなお立ち上がる二人の姿がそこにはあった。


 片や白い髪を不機嫌そうに揺らしながら、煌々と怒りの炎をその瞳には燃やし続けるギルという男。

 勇者達との戦いで『常闇のローブ』を失っている彼は、黒炎の影響を少なからず孕んだ爆発に身を打たれ、体中に(あざ)や切り傷を作りながらも、息を荒らげ、その場にその両足で佇んでいた。


 対するは、黒い髪を風に揺らし、蒼い瞳を辛そうに歪めながらも佇む久瀬竜馬という男。

 今の爆発は一応のため、という名目の元距離をとっていた彼すらをも飲み込み、その体に大きな傷を残していった。

 彼は痛みに顔を歪めながらも、ふらふらと体を揺らしながら、なんとかと言った様子で立ち上がる。


 その様子にギルは苦痛に歪んだ笑みを浮かべると、彼の右足へと視線を落とす。


 ――否、()()()()()()()()()()視線を落とした。


 彼の右足は膝から下が跡形もなく消し飛んでおり、先程からなんとか回復魔法を使おうと試みているものの、黒炎の力は使用者たる彼自身にも牙を向く。

 ――この足はもう、治らない。

 そう、すぐさま足はどうしようと無いと考えると、青い魔力を足へと集中させ、すぐさま右足へと代用品として、蒼い水晶のような『義足』を具現化させる。

 けれども立った途端に激痛が響く。義足で地面を踏みしめた途端に顔が痛みに歪んでしまう。


 その様子にギルは好機と見たか、悲鳴をあげる体にムチを打ち、久瀬めがけて駆け出した。

 その姿に久瀬は大きく目を見開くが、けれども心を落ち着かせるように大きく深呼吸すると、スッと瞼を閉ざす。

 勝負を投げたかのようなその姿にギルは困惑を示したが――次の瞬間、久瀬が瞼を開いたのを見て、嫌な予感が溢れ出す。


 ――その瞳に浮かんでいたのは、王冠の文様。


 最強の名を冠する、太陽眼。

 万能の名を冠する、月光眼。

 そしてそれら二つに肩を並べる最高位の魔眼。

 文字通りの『不敗』の名を冠する最高の魔眼。

 その名と、その力を咄嗟に思い浮かべたギルを他所に、久瀬は迷うことなく、義足で一歩を踏み出した。

 その速度は確かに生身の足よりは遅かったが、今この瞬間に義足を体感した者の動きでは決してなかった。


 久瀬の拳がギルの顔面を確と捉え、ギルの口からぐぐもった悲鳴が漏れる。

 十数メートル吹き飛ばされたギルは鼻から吹き出した鮮血を拭うと、憎悪に歪んだ瞳で久瀬を睨み据える。

 対する久瀬は、ぐっと握りしめた拳をギルへと向かって見せつける。


 ――一発ぶん殴る、と。


 その言葉を実行して見せたその男に、ギルは大きく顔を歪めた。


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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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