第50話
奴が再登場!
さぁ、奴とは一体........?
やっと日が落ちて、夕方。
あの後、僕たちはネイルにおすすめの宿屋について聞いてみた。
すると、ネイルは満面の笑みを浮かべて教えてくれた。
「あぁ、それならギルドを出て右に数軒の所にある宿屋がいいと思いますよ? そこは安くて安全、それに料理が美味しい事で有名なところですからね」
との事だったので、僕たちはそこに宿泊しようと考えたのだったのだが......
僕たちは今現在、その宿の目の前に来ていた。
似たような家ばかりだから分からないのでは? とも思ったが、そんなことも無く。
何故なら、その宿の看板には大きな文字で、宿の名前が書かれていたのだ。
───『宿屋 ダムダム』と。
僕は思った。というか、言った。
「普通さ、異世界って言ったら『とまり木の宿』とか『安らぎの宿』とか、そういう系の名前じゃないのか?」
今の二つはテキトーに考えついた名前だが、それでもお分かり頂けるだろう。
......異世界来てダムダムは無いんじゃないか?
って言うか、前の世界でもダムダムはないだろう。ネーミングセンスがなさ過ぎる。
『でも、確かに繁盛しているみたいだよ。今もほぼ満員状態らしいし......』
なっ!? こ、この名前で客が来るのか!?
「それだけ凄い宿じゃと言うことじゃのう。それにしても人間の宿のう......妾もこればかりは初めてじゃし、けっこう楽しみなのじゃ」
こればかりは、と言うか、人間サイドのことは全部と言っていいほど初めてだろう?
そんな事を思った僕だったが、白夜があまりにもしみじみと言っているものだから、言うのはやめておいた。
「ま、こんな所で躊躇していても仕方ないしな、さっさと入ろうぜ?」
『確かに早く行かないと空きが無くなるかもしれないしね......』
そんな会話をしながらも、僕たちはその宿屋の中へと入っていくのだった。
そこに、ネイルのささやかな仕返しが待っているとも知らずに。
☆☆☆
「いらっしゃい!......って、さっきの坊やじゃない!」
───人の『縁』とは、何だろう?
もちろんそんなものは目に見えないし、そんな物があること自体、迷信の様なものだ。
あちらの技術、こちらの技術。
そのどちらにおいても観測のできていないもの
───それが『縁』である。
ならば、その存在は迷信や都市伝説───黒猫が目の前を横切ると不幸になる、某映画のキャラが死神である、とか───と同位であろう。
しかし、人の『縁』というのは多くの人に信じられている。
───それは既に都市伝説の域を超えているだろう。
それは何故か。
それはきっと、実際に『縁』というものを実体験している人が大勢居るためだろう。
斯く言う僕も、その一人である。
───確かにそれは偶然かも知れない。
───その人が『偶然』を『必然』に捉えているだけなのかもしれない。
それでも、『縁』というものはこの世界に確かに存在すると、認識されてしまった。
───そこに住む人々によって。
あまりにも多くの信仰者。
とある小説に、こんな言葉がある。
『そこに存在したから信じられたのか。信じられたから、そこに存在したのか』
───確かこんな感じだったろうか?
だからこそ僕は思う。
「縁なんて考えつくなよ馬鹿っ!」
なぜそんな事を思ったかというと。
「もう会いに来てくれるだなんて......もしかして!? あぁ......私に一目惚れしちゃったのね♡ 私も罪なオンナよね......」
と、頭が沸いているとしか考えられない事をほざいている筋骨隆々のマッチョ。
その声は、いつかの決闘の時に聞いたものだった。
☆☆☆
未だにこちらを見て身悶えるマッチョ。
白夜が同じことしているのを何度も見ているはずなのに......何故だろう、何だか初めて見る気がした。
───ついでに怖気もした。
っていうか、アンタ。オンナじゃなく男だろ───それもどちらかと言うと漢の方の。
僕は思わず、そんな失礼なことを考えてしまった。
もちろん言葉には出していない。
考えただけだ。
僕は、後にこう語る。
『この世界の人々の察知能力を舐めたらダメだ』と。
ピクッ。
先程まで躍動していた筋肉が、ピクッと跳ねる。
そして......
「あぁん? おい餓鬼。俺は罪なオンナだよなぁ? 」
「はい、貴女は罪なオンナです、はい。」
「あらやだぁ! 全くもう、褒めても何も出せないわよ? 安心してちょうだい♡ 私はきちんと貴方を愛してるわ♡」
思わず即答してしまった。
って言うか、誰だ? さっきの漢らしい声の持ち主は?
「うふふ♡」
やっぱコイツだよなぁ......。
というか全然安心できない。
何故こんなマッチ......素敵な女性に愛されて安心できるのだろうか? 意味がわからないね。
それに話が飛び過ぎ。
もう、何処からツッコメばいいのかわからない。
「あらやだ、突っ込む所なんて一箇所しか無いでしょう♡」
「...........................意味がわかりませんね」
「うふふ♡ エッチな子ね。この、お・ま・せ・さ・ん♡」
彼女(?)の筋肉が躍動する。
効果音を付けるならば、僕はこう付けるだろう。
───ダムダム、と。
やっと店の名前の理由が分かった僕であった。
例のオカマでした。
※BL要素は一切ありません。
因みに、
金髪の長髪の縦巻きロール。
身長はおよそ2m30cm。体重は乙女の秘密♡
らしいですよ?
実際、オーガより筋肉あります。
ギンとしてはそこまで詳しく触れたくはなかったんでしょうね。
それは僕もなのですが.........




