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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
正義の在処
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焔―047 無敗のバルべリス

 水龍が荒れ狂い、聖剣が飛び交い、たった一本の槍がそれらを見事撃ち落としていく。


「ぬははっ! どうしましたかな皆様方! どうやら動きに精彩さが欠けているように思えますが!」

『あぁもううるさいっ!』


 巨大な烏と化したロキの鉤爪がバルべリスを襲い、彼の槍がそれを真正面から受け止める。

 高威力同士の激突に大気がビリビリと震え、お互いの体が弾かれたように吹き飛ばされていく。

 ロキはなんとか空中で体勢を整え直し、バルべリスは空中で黒馬に拾われて事なきを得る。


『うがーっ! 何なのあいつ! 固くて素早くてしかも攻撃は全部一撃必殺級とかなんなのさ!』

「ほっほっほ、やばいのー」

『やばいのー、じゃないよエウラスのじいちゃん!』


 ジェット機搭載のセグ○ェイに乗り込んだ創造神が髭をさすりながらそんなことを言っていたが、けれどもロキの言う通り『やばい』ってだけでは済まないのがバルべリスという悪魔である。

 大した特殊能力がある訳ではない。が、その純粋な戦闘能力はラーヴァナやアザゼルを遥かに上回っており、ポセイドン、ロキ、エウラス、と最高神の上位に位置する三人でさえ容易に倒せない強敵なのだ。

 だが。


「何言ってんのよ二人共! ここで負けたら神の名が廃るってもんでしょうよ!」


 頬に傷を付けられたポセイドンがそう言いながらも二人の元へも下がってきて、頬から流れる血を拭いながらそう叫ぶ。

 けれど視線の先のバルべリスはポセイドンの水龍を尽く屠り倒しており、その実力を前にそう楽観視もしていられない。

 それに加えて――


「――それに、ここで私たちが負ければ、人類は一人残らず死に絶えるわよ」


 ゾッとするほど冷たい声に、ロキは小さく人類軍の方へと視線を向ける。

 そこには見るからに『劣勢』と分かる人類軍と、戒神衆を中心として果敢に責め立てる悪魔軍の姿があり、もしもバルべリス、アザゼル、ラーヴァナ、その三人のうち一人でも打ち漏らしてしまえば……。


「壊滅、じゃろうの……」

『……』


 ここで負ければ、人類が滅ぶ。

 その事実を前にロキは大きく息を吐き出すと、烏から元の人間の状態へと姿を戻す。

 けれどもその背中からは烏の翼が生えており、彼女の紫色の瞳がしっかりとバルべリスの姿を捉える。


「……はぁ、こんなの私のタイプじゃないんだけど」


 ロキはぎゅっと拳を握る。

 大きく息を吸って――直後、彼女の体から膨大な威圧感が吹き荒れた。

 それにはエウラスもポセイドンも、バルべリスも目を見開いて固まってしまったが、彼女がスッとバルべリスへと手を掲げたことで覚醒する。


「私は極力表舞台には立たないように、って言うのが信条だったんだけど。今回ばかりはそうも言ってられないみたいで」


 瞬間、周囲へと烏の翼が吹き荒れた。

 視界すら覆い隠すほどの膨大な翼の量に、叩きつけるようにして吹き付けてくる風の塊に、バルべリスは咄嗟に両腕で顔を覆い――


「――ッッ!?」


 その刹那、翼の隙間から覗いた黒い刀身を見て、咄嗟に馬上で身体をひねる。

 先程までバルべリスのいた場所へと黒い刀身が通り抜け、バルべリスは頬に走った一筋の赤い傷を見て咄嗟にその場から飛び退るよう、黒馬へと念話を送る。

 だが、それをあらかじめ予想していたかのように、視界を覆い尽くす翼の向こう側から黒色の巨大な手が現れ、ぐっと黒馬の首を捻りあげる。

 ――即死。

 そう直感したバルべリスは馬上から飛び退り、遥か眼下に広がっていた地面へと勢いよく着地する。


「一体何が――」


 そう呟いたと同時に彼のすぐ側へと黒馬が墜落してくる。

 小さく見れば黒馬の体は遥か上空から墜落したこともあってかなりの傷を負っており――その首は、なんの支障もなくそこに存在していた。

 脳裏を過ぎる、首を捻りあげられた黒馬の姿。

 にも関わらず、今視線の先にいる黒馬は生きてこそいないが、その首には捻りあげられた形跡は見られない。

 つまるところ――


「幻術……ッ!?」


 見上げれば、背中から烏の翼を生やしたロキが冷たい眼光を孕んだ瞳でバルべリスを見下ろしており、先程までとは『格』が違うその姿に彼の口角が吊り上がる。


「狡知神ロキ……!」

「全く、近頃の子は三大魔眼こそが至上とでも思っているのか、他の魔眼を下に見てるみたいだけど――」


 そう笑った彼女の両眼には見たこともない紋章が浮かんでいる。



「幻術を司る最上位の魔眼――『幻神眼』」



 その魔眼の脅威性を一瞬で見抜いたバルべリスは容赦なく槍を構えると、精神を落ち着かせるべく大きく深呼吸をする。


「……ふっ、狡知神ロキよ。ワタクシたち悪魔に『幻術耐性』があるのは知っているでしょう? 三大魔眼の幻術さえ小さな痛みで乗り切れる。ましてや初めから『幻術頼り』と知っていれば――」

「知っていれば、どうなのかな?」


 そう、()()()()声が響き、目を向いたバルべリスは咄嗟に背後へと槍を振るう。

 が、そこにはロキの姿はなく、槍が虚空を切り裂き――その直後、背後からとてつもない衝撃が彼を襲った。


「が……ぁ!?」


 大きく吹き飛ばされたバルべリスは、けれどもすぐにカッと目を見開くと、地面に槍を突き刺してその勢いを殺していく。

 顔をあげれば、先程まで自身のいた場所に佇んでいる狡知神ロキの姿があり、どこかぼんやりと霞むその姿に思わず瞬きすると、次の瞬間、周囲の世界はガラリと変わっていた。

 ガバッと周囲を見渡す。

 遠くから雷鳴が轟き、乾いた赤い地面が小さく揺れる。

 そこら中には人骨が転がっており、空には赤い満月が彼らを照らしている。


「こ、これは……」

「もちろん知ってるよ。君たち悪魔にはあんまり幻術は通じない。しかも君たちほど長く生きた悪魔となると、三大魔眼を以てしても唇を噛めば抜け出せるだろう。けれど」


 ツーっと、バルべリスの口の端から血が伝う。

 ――唇を噛みきった。

 けれども周囲の光景は微塵も揺るがず、ただバルべリスの姿を、その意志を、幻術の中に閉じ込めている。

 少なくない驚愕を滲ませるバルべリスへ、ロキは冷たい笑みを貼り付けて。



「ごめんねバルべリス。私の幻術は、三大魔眼よりずっと強い」



 その言葉に、背筋に冷や汗が伝い落ちた。

 怖気が体中を走り抜け、ぎゅっと槍を握りしめる。

 ――幻神眼。

 基本スペックこそ三大魔眼には及ばないが、こと幻術に関してだけいえばそれらのスペックをはるかに上回る最上位の魔眼。

 狡知神ロキが誇る、もう一つのユニークスキル。

 初めて聞いたその能力――否、意図的に隠しておいてその力に、バルべリスは恐怖を感じると共に、思わずふっと吹き出した。


「ここまでの強敵……、なるほど貴女はワタクシが求めし経験値だ……ッ!」


 あぁ、この相手に勝つことが出来れば自分はどこまで上り詰めることが出来るだろうか。

 そう考えると胸が躍る。楽しみで楽しみでしょうがない。

 未来の自分に思いを馳せ、バルべリスは強く強く槍を握りしめる。


「我が真名、無敗のバルべリス! 一度負けたとて決して諦めぬ、勝利に飢えた獣の名なり!」


 プライドなど、とうの昔に捨ててきた。

 他の欲も一切要らず、ただソレを求めて突き進む。

 なにせ彼には、他の全てを犠牲にしてでも欲しい勝利(モノ)があるのだから。

 故に彼は強者を求める。

 自らより強い圧倒的な強者を求める。

 そしてどれだけ時間がかかったとしても、勝利する。

 さすれば自分は、今よりもっと強くなれるのだから。

 そう楽しげに笑うバルべリスを見て、ロキは小さくため息を漏らす。


「あぁ、やっぱり君、悪魔の中で一番厄介だよ」


 ロキは右手をバルべリスへと掲げ、大きく魔力を練り上げる。


「予め行っておくよ。最高神(わたしたち)は現状、絶好調とは程遠い。ちょーっとばかしとんでもない依頼をこなしたばかりで、魔力も体力も気力もすっからかんさ。だけどね」


 そう、彼女は笑う。

 彼女の背後には巨大な水龍を引き連れた海の神と、無数の武具を創り上げた原初を創りし創造の神。

 それらを引き連れた彼女――狡知神ロキは、ゾッとする程に冷たい声色でこう告げる。



「この三人を相手に勝てるとでも? だとしたら思い上がりも甚だしい」



 その言葉に、もはや隠しもしないその力に。

 バルべリスは獰猛に笑って。



「――不足なし」



 たった一言、そう呟いた。



戦闘狂と書いてバルべリスと読む。

あるいはアルファ。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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