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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
正義の在処
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焔―041 最強VS勇者

 ――神剣・アマ・グリムス。

 神王ウラノスが創り出した最高の神剣が『シルズオーバー』だとすれば、それに負けじと創造神が全ての力を使って生み出した最高のもう一振り。

 それこそが彼女の持つその神剣であり、彼女が召喚できる最上位の武具でもあった。

 加えて『草薙剣』に、天魔族の『武具化』と来たものだ。


「――なるほど、及第点だ」


 ギルはそう呟き大鎌を構える。

 ぶっ飛んだ感情論。一周回った潔さ。

 なるほど『よく分からないから考えない』とは愚かしい。

 けれどその無鉄砲さは、彼が構えるに値する愚かさだ。


「……君なら鼻で笑うと思ったけど」

「なに、心構えもなく俺の前に現れる『愚かしさ』なら鼻で笑うだろうさ。が、貴様のような馬鹿は別だろう。理論的か否かは別として、心構えだけは出来ている。それはそこの二人にも言えることであり――」


 フッとギルは大鎌を払う。

 たったそれだけで轟ッと空気が斬り裂かれ、激風が荒れ狂う。



「――他でもないこの俺がその愚かしさを突き通している。なれば、道は違えど同類を舐めてかかれる道理はない」



 分からないから考えない愚かしさと。

 救済がないから滅ぼそうとする愚かしさと。

 道は違えどその『考え方』は非常に似ており、久瀬竜馬のような圧倒的なポテンシャルも、全能神ゼウスの様な純粋な脅威も確かに脅威でこそあれど。

 やはり最も注意すべきは――絶対的な意思の強さ。

 意思の強いものは面倒くさい。何をしでかすか分からないから。

 そう内心で考えると同時、アーマーの草薙剣と桜町のアマ・グリムスが眩い光を放ち始める。


「それじゃあ早速本気で行こうか! 偽勇者くん、そう簡単にへばったりしないでね!」

「分かってますよ。そちらこそへばったりしないでくださいね!」


 二人は大きく魔力を組み上げる。

 片や桜色の魔力を巻き上げ、片や緑金の魔力を迸らせる。

 それぞれ神剣を持つ二人。

 シルズオーバーと異なり、純粋な『武力』に全ての力を費やした二振りの神剣。

 その奥義とも呼べるその『力』が、今開放される。



「――『桜葉纏』ッ!」

「――『武神化』ッ!」



 轟ッ、と二つの魔力が溢れ返り、二人の姿が顕になる。

 金色の彫刻の刻まれた緑色の鎧に身を包み、翡翠色に輝く草薙剣を手にするはアーマー・ペンドラゴン。

 彼の髪は緑色に染まっており、金色の瞳がギルの姿をしかと捕らえる。

 ――武神化。

 草薙剣に備わった最終奥義であり、その力は正しく武神の名に相応しいものである。が。


「――ッ」


 その隣に佇む一人の少女。

 彼女の姿に、ギルは大きく目を見開いた。

 その姿を見て真っ先に目に浮かんだのは――満開の桜。

 魔力によって桜色に色付いた雪が空を舞い、桜色に染まったその髪がフッと風になびいてゆく。

 ――桜葉纏。

 神と名のつく能力と比べると些か下のようにも思えるその力ではあるが、けれどその力はかなりの力を誇っている。

 その証拠にギルの纏っていた緊張感が一気に張り詰め、すっと瞳が薄く、細くなってゆく。


「――確かに、これはシルズオーバーを超えている」


 なるほどあの『創造神』が作り上げた最高傑作だと言わざるを得ない。作ることにかけていえば明らかにウラノスすら超えている。

 閉ざされていた彼女の瞼が開き、漆黒の瞳がギルの姿を捉える。

 そして――ふっと、背後へと彼女の姿が移動した。


「……ッ」


 ――瞬間移動。

 その能力が脳裏に過ぎり、咄嗟にアダマスの大鎌を背後へと振るう。

 その力は『手加減』とはかけ離れており、到達者の力の一端が垣間見える一撃であった。

 だが、その一撃は大きく火花を散らせ、彼女の神剣によって受け止められる。

 受け止められるとは思ってもいなかったギルは大きく目を見開くが、すぐさま背後で膨らんだ気配に振り返る。

 見ればそこにはアーマーが剣を振りかぶっている姿が窺え、先程までとは明らかに異なるその動きに思わず目を見張る。

 グレイプニル単体では防御不可能だと察したか、すぐさま常闇のローブとグレイプニルでその一撃を受け止める。

 到達者……程ではない。

 だが、その力はかなりの脅威度にまで達しており、ギルの足が小さく地面を踏みしめる。

 そして――ふと、視界の隅に小さな銀色を映した。


「ハァァッ!!」


 長い白髪が風になびき、彼女の握りしめた剣がギルの胸へと突き刺さる。

 鮮血が溢れ、背中から突き出したその白銀色の剣はベッタリと紅い血潮に濡れている。


「――……そういう事か」


 長い沈黙の後にギルは口を開く。

 右腕は抑えられ、グレイプニルも常闇のローブも防御に回したとなるといよいよ防御が甘くなる。

 同じ失敗は二度繰り返さない。

 その姿勢にももちろん感心したが、それでも一番の驚きは彼女らが明らかに『強くなっている』ということだ。

 特に桜町の成長という概念を超越した『進化』は度を越しており。


「――『一時的な壁の除去』に『仲間達の無条件での能力強化』か。加えてそれ以外にも力があるとなると厄介極まりない」


 正しく糞チート。

 それが武器単体の能力だと考えると馬鹿げているとしか言いようがない。

 だが、その予想は少しだけ外れていたらしく。


「惜しい、けど少し違うよ」

「……なに?」


 口の端から血を流しながらギルが問う。

 桜町の黒い瞳と視線が交差し、彼女は小さく笑ってみせた。


「神剣アマ・グリムス。その力の本質は『勇気ある味方の力を大幅には引き上げる』こと。そしてその上昇幅は対象の『勇気』によって変化する」


 ――そして。

 そう続けた彼女の瞳には大きな炎が灯っている。

 手足は微かに震えている。きっと圧倒的な格上に挑むという恐怖からだろう。

 けれどその炎に揺らめきは見えず、覚悟がしかと窺い見えた。



「――僕は、勇気だけなら誰にも負けない」



 彼女は勇者。

 勇者とはすなわち最も勇気あるものに贈られる称号。

 そしてその称号に最も相応しい武器こそが、彼女の持つ『神剣アマ・グリムス』である。

 それらの相乗効果は計り知れず、彼女が『桜葉纏』を使用した時に限り到達者にも迫る力を発揮することが出来る。

 しかも彼女はまだまだ若い。これから経験を積めば相乗的に勇気も大きくなってくる。


 ――つまりは、これでまだ発展途上。


「だが」


 チリチリと彼の体からどす黒い魔力が溢れ出す。

 混沌の魔力ともまた違った――見たことのない気味の悪い魔力。

 それに大きく目を見開いた次の瞬間、三人の体は大きく後方へと吹き飛ばされており、周囲の木々や岩に背中を打ち付けた三人は声にならない悲鳴を漏らす。

 見ればかなりの勢いで当たったにも関わらず木々や岩にはヒビ一つ入っておらず、その異常事態を前に一つの可能性に思い至る。


「ま、まさか――」

「世界構築。少しは周りにも目を向けることだな」


 見れば黒い魔力を右手に纏ったギルが桜町のことを見下ろしており、その姿に小さく歯噛みしてしまう。


「勝てると思ったか? その武器さえあればこの俺を打倒することが出来ると、本気で思っていたのか?」


 ギルの口元には嘲りにも似た笑みが浮かんでいる。

 彼は大鎌を肩に担ぐと、ぐらりと彼女らの視界が歪む。

 すぐに頭を降って彼を見れば、その真紅の瞳はいつの間にか銀色へと変化しており、知らず知らずのうちに幻術にかけられていたのだと自覚する。

 そんな彼女らへ、ギルは謙遜するでもなく淡々と。



「――『最強』の座を舐めるなよ雑多。武器一つで勝敗が決まるほど、この名は軽くない」



 最強の座。

 全ての世界にて唯一無二のその名を名乗れるのは、単体でその他全てをひっくり返せる絶対者のみである。

 武器一つでその座は奪えない。

 極わずかな勝利の可能性に必死で縋りつき、奇跡に奇跡が連鎖して、その果てにやっと敵うかどうか。

 それこそが、最強なのだ。


「確かにその意思は賞賛に値する。が、それだけで勝てるほど俺は弱くない。貴様らと同等以上の意思の力。時空の鎌と神縛の鎖、最強の盾と二十分に過ぎる武装の数々。極めつけは圧倒的な【力】の隔たり」



 ――一体、どこに勝機を見いだせる?



 否、見いだせるはずがない。

 あらかじめ狡知神ロキの力を借りて幻術対策をしてきたとはいえ、それでも月光眼を使われれば大きな隙を晒すことになるだろうし、使わなかったとしてもそれでも勝てるかどうか分からない。

 敗色しか見えない現状に桜町は小さく顔を俯かせる。


 そして――小さく笑ってみせた。


「……そうだね。やっぱり凄いや、強すぎる。あらかじめ聞いてたけど、僕が想像してた百倍は強そうな予感だよ」


 けどね。

 そう続けた彼女は顔を上げる。

 そしてその漆黒の瞳へと視線を向けたギルではあったが、その瞳の奥底に潜んだ『何か』に、思わず背筋に冷たいものが走り抜ける。



「――勝てそうにないなら、勝つまで立ち上がる。体も動く、心も死んでない。なら、挑む以外に道なんて無いでしょ?」



 その瞳を、彼はよく知っていた。

 瞳の奥底に潜んだ飛びっきりの『狂気』。

 常人なら諦めてしまうところを、淡々と、心底不思議そうに問いかけてくる。

 いや、諦める選択肢なんて有り得ないでしょう、と。

 その瞳を……その瞳を持つ男を、ギルはよく知っている。


「……なるほど、貴様もあの男に憧れたのだったな」


 勇気と狂気は紙一重、とはよく言ったものだ。

 あの男の秘めていたモノに比べればまだまだ小さい。

 今のギルのモノと比べれば雲泥の差が透けて見えるだろう。

 けれど、その狂気を持つものは決まって――諦めが悪い。

 ギルは小さく嘆息すると。



「いいだろう、本気で息の根を止めてやる」



 そして、彼の持つ大鎌から黒い魔力が溢れ出した。


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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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