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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
正義の在処
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焔―040 狂気と勇気

先にギルVS穂花ちゃんたちやってからペンギン戻りまーす。

 雪が、降っていた。

 冷たい風が衣服の上から肌を撫で、踏みしめた雪の大地がシャクッと音を鳴らす。

 それらの面々を前にギルは小さく嘆息すると、桜町の瞳をギっと睨み据える。


「――人違いも甚だしいな、桜町穂花」

「……」


 声も顔も姿も、何から何まで知っている。

 けれどその雰囲気は彼女のよく知る彼とは大きくかけ離れており、事前に聞いていたとはいえ彼女の心の内を確かな動揺が走り抜ける。


「……人違い、じゃ、ないですよね」


 ゼロの声が響き、ギルが小さく振り返る。

 死神のコートに身を包み、その上から弟である白銀鎧(アイク)を纏った小さな少女。

 その隣には神剣・草薙剣を構えるアーマー・ペンドラゴンの姿があり、どうやら少数精鋭、半端な実力者がいても意味が無いという理由からユイや次女のマルタはここには来ていないらしい。

 が、いずれにしても。



「――期待はずれだ」



 呟いたその言葉に三人の体が小さく跳ねる。


「先も言ったが、貴様ら程度で俺を止められるとでも思ったのか? 強い強いとは言っても所詮は雑多から見ての『強い』という話であろう。それを自らの力に自惚れてここまで来るとは」


 そう言って小さく笑ったギルは――ふっと、その場から姿をかき消した。

 次の瞬間にはその姿は桜町の背後にまで移動しており、焦ったように振り返った彼女の瞳に大鎌を振り上げるギルの姿が映り込む。



「場違いここに極まれり。あまり俺を失望させるな暗愚」



 アダマスの大鎌が空を切り裂き――直後、桜町の姿がその場から消失する。

 スッと空を切り裂いたアダマスの大鎌に小さくギルは目を見張ると、すぐさま切りかかってきたアーマーをグレイプニルで迎撃する。

 草薙剣とグレイプニルが火花を散らし、轟ッと爆風が周囲へと荒れ狂う。


「――なるほど、草薙剣の固有スキル『瞬間移動』。白夜のテレポートと似たようなものかと思ったが、まさか視界の中に存在する者まで転移させられるとは」

「……ッ! 相変わらず頭良すぎる人ですね――ッ!」


 グレイプニルが大きく弾かれ、すぐさま振り下ろされた二の太刀をアダマスの大鎌で迎撃する。

 あまりの威力の攻撃に再び爆風が周囲へと荒れ狂う。

 だが、全く『隙』が見えないギルの姿にアーマーは小さく歯ぎしりすると、さらなる連撃を叩き込んでいく。


「ハアアアアッ!!」


 連撃連撃連撃連撃……。

 草薙剣の持つ筋力操作のスキルにより、斬撃の際に身体中の一部分、斬撃を繰り出すのに必要な筋肉のみを大幅に強化し、威力を一気に爆発させる。

 その一撃は正しく一撃必殺。

 それが超連打で飛んでくるのだ、どれだけの強者が相手だったとしても確かにこれは厄介に思うだろう。


 ――が、それはあくまでも、相手が『強者』という域に収まっていれば、という話だ。


「話にならんな」


 ガッ、と草薙剣が払われ、アーマーの上体が大きく後方へと流される。


「――ッ!?」


 あまりの威力に思わず目を見開いた彼は前方へと視線を向けると、すぐさま振り上げた大鎌が唸りをあげて振り落とされる。

 それに何とか草薙剣を合わせて大きく体ごと吹き飛ばされると、すぐさま体勢を整えて駆け出した。


「まだまだッ!」

「――くどい」


 アーマーのしつこい攻撃に大きくアダマスの大鎌を薙ぎ払う。

 それを何とか草薙剣で受け止めた彼は、ぐっと足を地面について踏みとどまる。

 ――受け止められた。

 その事実に小さく声を漏らしたギルに、アーマーはふっと笑みを浮かべると。



「――知ってるでしょう。僕は頑固で、諦めが悪いんですよ」



 瞬間、彼の背後から無数の聖剣が襲いかかる。

 すぐさま背後を見れば、そこには無数に分裂した数多くの聖剣が宙に浮かんでおり、それらを前にギルは小さく舌打ちを漏らす。


「薙げ」


 小さく呟いたその言葉に彼の足元の影が膨張し、いくつものトゲが生み出される。

 それらによってすべて弾かれたそれらの聖剣ではあるが、ふと嫌な予感を覚えて上空を仰ぎ見ると、そこには今よりも遥かに多くの神剣が浮かび上がっていた。


「これは――デュランダル? いや、聖剣フラガラッハか」

「正、解ッ!」


 低い体勢から突き上げるようにして切り込んできた桜町の一撃をグレイプニルをもう片方の手で引っ張り受け止めると、彼女の瞳と視線が交差する。


「聖剣フラガラッハ――無限に分裂し、宙を駆ける圧倒的数量で押しつぶす系の聖剣! 今まで魔力を費やしてめちゃくちゃ分裂させといたからね! いくら君でもそう簡単には捌けないよッ!」


 彼女の声と共に無数の聖剣が一気にギルへと襲いかかる。

 片腕はアーマーに、片腕は桜町によって塞がれており、小さく見ればゼロがいつでも襲いかかれるように剣を構えており、その姿に小さく嘆息した彼は。



「――燃やし尽くせ。『天焔』」



 チリッ、と小さな炎が溢れ出す。

 その小さな炎に背中に怖気が走り抜けたアーマーと桜町が一気に距離を取り――次の瞬間。

 轟ッ、とオレンジ色の炎が溢れ出し、その炎が周囲の全てを燃やし尽くす。

 見れば炎の中へと突っ込んでいったフラガラッハは一歩残らず『融解』し、液体と化した聖剣、すぐさま蒸発してゆく。

 聖剣すら一瞬で蒸発させる超高音の炎に思わず三人の頬を冷や汗が伝い落ちる。


「な……、せ、聖剣が!」

「触れたら……その時点で終わりかもしれないですね」


 驚く桜町にアーマーがそう返し、小さくゼロへと視線を向ける。

 今のところ、全く勝ち目が見えない。

 だが、それが『今のところ』であるのもまた事実。

 ゼロは小さく桜町、アーマーの順に視線を巡らせると、小さく胸へと手を当てる。

 ――天魔族の奥の手。

 吸血鬼にエナジードレインという糞チートがあるように、天魔族にもまたそれだけで『ぶっ壊れ』と言わざるを得ない糞チートが眠っている。

 それを、それを一撃でいい。

 ギルにまともに撃ち込むことが出来れば――


「……勝ち目は、ある」


 ゼロはそう呟いて小さく息を吐くと、炎の中から現れたギルへと視線を向ける。

 ギン=クラッシュベルと、ギルという男。

 二人は同一人物であると同時に――明らかなる別人だ。

 その証拠に――



「――もしかして、記憶が無いんじゃないですか?」



 小さく問うたその言葉に、ギルの歩みが止まった。

 見れば彼は小さく目を見開いており、その姿に久瀬竜馬にあらかじめ聞いていた『予想』が正しいのだと確信する。


『――アイツはギン=クラッシュベルだけど、そのものじゃないはずだ。なにせ銀の【魂】を抜かれてるんだ。ならそれ相応の記憶だって抜け落ちているに違いない』


 それに肯定したウラノスの予想としては。

 ギン=クラッシュベル、という人物の記憶のうち、肉体に残されているのは全ての記憶のうち――およそ二割。

 その二割、つまりは今のギルが覚えている記憶が何なのかは定かではないが……。


(……私を最初に狙ってこなかった。それはつまり、今のあの人は私のステータスを――あのスキルを、知っていないということ)


 今の彼女のステータスはあらかじめ狡知神ロキ及び、幻影の王エルザにより完璧に隠蔽されており、たとえ月光眼とて簡単には見抜くことは出来ない。

 それはつまり――奥の手が通用するということ。

 問題はタイミング。

 どのタイミングでどうやって撃ち込むか。

 ゼロは小さく二人へとアイコンタクトを取ると、彼女はぐっと剣を握りしめる。


「行くよアイク」

(うん! 思う存分頑張ってね!)


 剣や鎧と化した(アイク)がそう答え、ゼロは小さく微笑んだ。

 途端に膨れ上がった威圧感にギルは小さくゼロへとしせんをむけるが、他に二つ、膨れ上がった威圧感を感じて視線を巡らせる。


「それじゃあゼロちゃんも本気になったところで、僕達も本気で行くとしようか。偽勇者くん」

「に、偽とか言わないでくださいよ……。まぁ、本気で行くことには変わりありませんが」


 そう笑った二人にギルは小さく眉を顰める。


「……なるほど、今までは本気ではなかった、と。それは良かった。あの程度の実力で俺に挑んできたのだとしたら失笑することも出来なかったぞ」

「うへぇ、やっぱり聞いてた通りビックマウス癖がでっかくなってるなぁ……。まあまいいけど、僕ってあんまり難しいことわからないし」


 難しいことはわからない。

 世界を救うとか救わないとか。

 何でこんなことになってるのか、とか。

 そんなことは分からない。確たることなんて何も言えない。

 ……否、一つだけ断言できることがあったか。

 彼女はふっと聖剣を元に戻すと、体の底から魔力を組み上げる。


「『其の剣は神の剣。その剣は山を砕き、海を割り、大地を穿ち、空を駆ける。但しその剣は壊す者に在らず。全てを守り、全てを救り、全てへ平和を齎さんとする者なり』」


 桜色の魔力が溢れる。


「僕はよく分からない。君がなんでそんなことをしているのか、君がなんで僕らの敵になっているのか。多分聞いたところでわからないから聞かない。ただね、ギン」


 彼女はその柄を握りしめる。

 桜の舞うような魔力の中召喚された一振りの剣を手に彼女はふっと微笑むと。



「これだけは僕にも分かる。狂気の天敵は『勇気』なんだ。そんなに舐めてると痛い目みるよ」



 彼女の手の中に召喚されたのは一振りの神剣。

 桜色を帯びた刀身に真っ赤な柄。

 神剣シルズオーバーと互角――否、それ以上にも思えるその膨大な『嫌な予感』にギルは大きく目を見開く。



「――神剣アマ・グリムス」



 その名を告げて、彼女はスッと切っ先を向けてくる。

 その言葉に、その姿に、その一周まわってぶっ飛んだ意思に、彼はふっと吹き出すと。



「――なるほど、及第点だ」



 彼はそう呟いて、初めて大鎌を構えるのであった。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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