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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
正義の在処
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焔―038 最強の悪魔

皆さんお待ちかね。

アイツ、満を持して登場です。

 ギィンッ、と金属音が響き、火花が散る。

 上空には無数の聖剣が浮かんでおり、凶悪極まりないそれら無数の一斉放射を黒馬に乗った茶髪の武人が尽く槍で打ち払ってゆく。


「ぬははっ、その程度か創造神!」

「ぐぬぅ……、なんでこう、悪魔は厄介な連中が多いのかのぅ。ぜったい大悪魔より強いじゃろコイツ」


 その荒唐無稽な絶技にエウラスは思わずそう声を漏らすと、その隣から二つの影が飛び出した。


「くふふっ! まぁいいじゃないのおじいちゃん! せっかく私たちが相手するに足る化物が出てきたってことでさ!」

「あはははははは! そうねロキ! 私の神たる所以を示す時が来たようだわ!」


 見れば短剣を構えたロキと三股の槍を構えたポセイドンがその悪魔――バルべリスへと向かってゆき、彼が馬上で槍を構えると同時にロキがスッと右手を伸ばす。


「さぁ行くよ!『英智の王(ザ・ウィスダム)』ッ!」


 瞬間、溢れかえった魔力が大地を砕き、足元に生まれた巨大な亀裂が周囲の悪魔ごとバルべリスを飲み込んでゆく。

 ――英智の王。

 狡知神ロキが誇る唯一のスキルであり、その力は言うなれば『天変地異を引き起こす』というもの。

 不可能すら可能にして天変地異を無理矢理に引き出すその力は正しく『チート』と呼ばれるに相応しいものであり、序列二位、四位、五位の最高神たちを相手取らねばならないのかとバルべリスは小さく苦笑する。

 見れば亀裂の下からは真っ赤なマグマがこちらを窺っており、それを見たバルべリスは両足で黒馬の腹を蹴り、「ハイヤッ」と声を上げる。


「さぁ翔けよ我が愛馬よ!」

『ヒヒィィィンッ!』


 嘶きが響き、バルべリスの黒馬が空を蹴って空へとかけ登ってゆく。

 その姿には「馬も強かったっけ……」と苦笑してしまったロキではあったが、空には空のスペシャリストが存在するわけで。


「はーっはっはっはー! さぁ私の出番ね!」


 轟ッ、と虚空より生まれ出た水が唸りを上げ、一匹の巨大な水龍を作り上げる。

 その頭上へとポセイドンが飛び乗ると同時、一気にバルべリスの元へと飛び登った水龍は大きくアギトを開き、その喉奥で巨大な魔力を練り上げる。

「うぉっ!? い、いきなり大技ですかっ」

「そうよ! 大技こそこの世の全て! 小手先などアレよ! 所詮はあんまり強くない微妙な立ち位置の奴がやる努力! 神にはそんなもの関係ないわッ!」


 ――正しく暴論。

 いろんな人の反感を買いそうなことをと平然と行ってのけた彼女は獰猛に笑うと、スッと三股の槍――神器・トライデントの切っ先をバルべリスへと向けて。


「海の神の名の元に命ず! 我が敵を撃ち滅ぼせ!」


 ――ドンッ、と空気が爆ぜた。

 溜めに溜まった超圧縮水が一気に解放され、それらは虚空を切り裂いてバルべリスへと向かってゆく。

 それには思わず目を見開いた彼ではあったが、すぐさまニヤリと笑うとその槍をスッと構えてみせた。


「良かろう! ならば槍の真髄、ここに見せてしんぜよう!」


 ぐっと槍を構えたバルべリスの体から真っ赤なオーラが溢れ出す。

 俗に『気』と呼ばれるソレは、正直『ここ』まで到れるものからすればあっても無くても変わらないものであり、最高神や上級神、またそれ以上の強さを誇るものからすれば「まぁ、使えるけど使ってない」程度のものだった。

 だが、ここにそれを極めし酔狂な男が一人。

 悪魔の中でもバアルに並ぶ古参者である彼は、昔より『気』と『槍』を極めるためだけに全ての時間を費やし、魔法も槍以外の武器も何一つとして使えないが、事槍と気に関して言えば、余人には決して及ぶことの出来ない一種の境地へと達していた。


 そしてその力は――時に物理法則すらねじ曲げる。


「ハァッ!」


 ――一閃。

 たった一突き。

 それは衝撃波すら伴ってそのブレスをいとも簡単に貫通し、その先の水龍の頭部さえ穿ち、巨大な大穴を開ける。


「ば――ッ!?」


 あまりの威力に思わずポセイドンも目を見開き、パァンと破裂した水龍から地面へと真っ逆さまへと落ちてゆく。

 だが、どこからか現れた巨大な『(カラス)』が彼女の体を掠めとり、ハッと目が覚めたポセイドンはその烏の正体に気がついて目を見開いた。


「えっ!? も、もしかしなくともロキよね!」

『そうだよーっ、てかポセイドン。油断しすぎ』

「うぐっ……」


 ロキという神は元々千変万化の肉体を持つ悪戯好きの神様であり、その変身スキルの練度はギン=クラッシュベルのソレすらも遥かに上回る。

 ちらりと見れば、空飛ぶセ〇ウェイのようなものに乗った創造神が近くまでやって来ており、彼は困ったように顎髭をさすった。


「いやはやマズイのぅ……。贖罪のアザゼルに神殺しのラーヴァナ。元々悪魔族は神族よりもステータスが上じゃからこの二人だけでもきついと言うのに、まさか『無敗のバルべリス』まで出張ってくるとは……」

『そうだねぇ……。もう防御なんて忘れて総戦力できてるよこれ』


 その言葉を聞き取ったか、フッと笑みを浮かべたバルべリスは赤いオーラを解くと、人懐っこい笑みを浮かべて口を開いた。


「なんのなんの。ワタクシなど才能のない雑兵ですさ。故に大悪魔には選ばれませんし、無敗とか呼ばれてますけど結構負けてるんですよ?」

「ぬかせバルべリス。貴様が無敗と呼ばれる所以は敗北した相手に幾度となく再選を申込み、最終的に完膚なきまでに叩きのめすことにあるのは知っておる」


 バルべリスは才能がない。

 故に多くの敗北を知っており、そしてまた多くの勝利も知っている。

 確かに大悪魔には選定されてはいない。

 が、だからといって強さが大悪魔以下、というわけでは決してなく。


「今は負けようがいつか勝つ。それを体現し、いつしか『無敗』の名を関するようになった、ある意味最強の悪魔。これならそこらの大悪魔二体を相手取っておった方がよほど楽じゃわい」

「ぬははっ! あまり褒めないでいただきたいな! 年甲斐もなく照れてしまいそうですからして!」


 ギン=クラッシュベルとの最終決戦の際、バルべリス、アザゼル、ラーヴァナの三人は別任務に当たっていたため、彼と戦うようなことは無かったが、もしもあの場にこの三人が居たとすれば……その時は、きっと結末も変わっていたのだろうと思われる。

 と、そんなことを思っていたエウラスではあったが、ふと笑いを収めたバルべリスの表情が真剣味を帯びたのを察して、思考をそこで留めておく。


「しかしながら創造神。良いのか? 言っておくがワタクシが『無敗』などと呼ばれた時代は今や昔。それなりに腕っ節には自信はあるワタクシではあるが、今の悪魔軍のトップに立つ『二強』にはどう考えても勝てる気がせん」


 ――二強。

 本来ならばメフィストフェレスも含めて三強、としたいところではあるが、あの男は今回も今回とても『あ、お腹痛くなってきたので今回は観客として楽しませてもらいます』と言ってサボリを決めて居た上に、いざ戦おうとしても毎度手を抜かれてしまうため、確実に強さの測れる二人、つまりは二強と言い表した。


「文字通り最強の悪魔、憤怒の罪のサタン殿に、今の悪魔軍を率いる、狂気の英雄ことギル殿。言っては悪いが、この二人だけでも人類と神々を滅ぼすには十分に足る戦力だ」


 片や未だに実力の『底』を見せない到達者。

 片や純粋な『力』のみでアルファを倒してみせた最強の大悪魔。

 この二人の実力を知ってしまえば、その時点でその他などあくまでも『オマケ』でしかないと実感できる。

 いくら無敗の悪魔でも、いくら強大な大悪魔でも。

 多分、あの二人には絶対に敵わない。

 そんな予感が彼の脳裏には蹲っていた。


 けれど、それに返ってきたのはエウラスの吹き出したような笑い声だった。

 見ればかの老人は腹を抱えて大爆笑しており、その姿には唖然としたバルべリスは彼が直後に口にした言葉を聞いて、一瞬にして自身の意見を改めることになる。



「――()()()()()、のぅ?」



 たったそれだけの言葉。

 しかしながら、その言葉を聞いたバルべリスは大きく身体を震わせ、背筋に蠕動する巨大な怖気に顔を蒼白させた。


「ま、まさか――」

「いやなに、ワシとてあの悪魔がこっち側に付くとは思わなんだがな。曰く『借金チャラにしてくれるなら喜んで!』だそうじゃ」


 その言葉にバルべリスは、ガバッとサタンたちの向かった未開地の最奥へと視線を向ける。

 その先からは得体の知れない気味の悪さが漂って来ており、それを肌で感じた彼は思わず歯を食いしばった。


「ま、マズイ……! あの悪魔は……、あの悪魔だけは……!」


 あの悪魔。

 いつもチャラチャラとそこら辺をほっつき歩き。

 地球、なる世界の、日本、という国によく出没し、アキバなる区域で、メイド喫茶、なるものへよく足を運んでいるという噂のクソッタレ悪魔。

 彼女曰く『こんな人類を滅ぼしちゃ損ですよ損!』らしく。


 ――バルべリスを以てして、唯一勝つことの出来なかった、彼が知る中では最も凶悪な大悪魔。


「く、クソッ!」


 咄嗟に西へと駆け出そうとした彼だったが、すぐさま飛来した聖剣を槍で弾き返し、思わずエウラスを睨み据える。

 視線の先で、エウラスは余裕そうに「ほっほ」と笑みを浮かべており。



「なぁに、所詮はワシらも『時間稼ぎ』じゃ。こうしてワシらが貴様らをここにとどめている間に、守護者たちがお主らの主力たちを屠ってくれよう」



 その言葉に、バルべリスの頬を一筋の冷や汗が流れ落ちた。




 ☆☆☆




 その頃。

 サタン率いる大悪魔一行は、未開地の奥地、大陸西端の封印の地にまでやって来ていた。

 そこはあらゆる存在を封印している、言うなれば『封魔の森』とでも言うべきか。

 その中でも最も大きな封印こそが、この星の外殻を焼却する『救いの熾火』の封印である。


「――さて、それでは早速封印を解くとするか」


 サタンはそう呟いて一歩踏み出し――その直後。

 身体中を襲った膨大な『嫌な予感』にすぐさまその場から飛び退いた。

 轟ッ、と音が鳴って先程まで自身の立っていた場所を見れば、そこには純白色の魔力の剣が地面を食い破って現れており、その魔法に思わずサタンは目を見開いた。


「じ、時空間魔法……! 執行機関か!?」


 白夜という少女の姿が脳裏に浮かぶが、直後に上空より感じられた更なる嫌な予感にガバッと視線をあげると、そこには巨大な雷が迫っていた。


「こ、これは全能神の――ッ!?」


 すぐさま飛び退いてその雷を間一髪の所で回避すると、彼は改めて周囲へと注意深く視線を向ける。

 白夜の時空間魔法。

 ゼウスの雷の力。

 いずれも『個人』が所有できる力の域を超えており、その力はオリジナルにすら届きうるクオリティ。

 なれば本人達が居るのだろうか。

 そんな考えが過ぎったが――けれども、彼の本能が『違う』と大きく叫んでいた。

 本人達がいるでもなく、ただ本物に限りなく近いクオリティの別種の魔法が飛んできた。

 つまりは――



「――なるほど、貴様か」



 スッと立ち上がったサタンは、前方に存在する空間の歪みをキッと睨み据える。

 すると揺れ動いた空間の中から「ひぎっ!?」と小さな悲鳴が漏れ、ため息が聞こえると同時にそこの空間が大きく歪んだ。


「あーもう、ダメじゃないっすかー。悲鳴なんて漏らしたらバレちゃうに決まってるでしょー」

「だ、だってサタンよ! サタンに睨まれて平然としていられるわけないじゃない!」


 その空間の歪みの中から現れたのは二人の影だ。

 片や剣を片手に体を震わせている白髪の女性――大悪魔アスモデウス。

 彼女はプルプルと震えながらもう一人の後ろへと隠れており、そのもう一人の大きな影は「へいっ」と片手をあげた。


「やぁやぁ諸君! こんなところで何ですが、パン買っていきませんか!」


 ずんぐりとしたその体躯。

 黒光りする体に、真っ白なお腹。

 鋭い嘴にまんまるとした黒い瞳。

 見間違うはずもないその姿にサタンは獰猛に笑みを浮かべると。



「――大悪魔、アスタロト……ッ!」



ペンギン参上ッ!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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