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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
正義の在処
546/671

幕間 器と魂

新章開幕!

多分今まで史上最も濃密な章になりそうな予感がしてますこの章です!

とりあえず最初は幕間からどうぞ。

 それは、ギンが死んだ翌日の話。


「びええええええええんっ! じんゆうぐんがじんじゃっだー!!」


 エロースの声が響き、下級神や中級神がなんとも言えない微妙な顔をする中、近くにいた神王ウラノスがため息混じりに声を上げた。


「で、なんで僕らが集められてるんだい? こんな面子が揃ったのなんて、数億年前、クロノスも合わさって『一回でいいからめちゃくちゃ凄い器作ってみようゲーム』した時以来じゃないかい?」


 そう呟くウラノスが周囲を見渡せば、そこには下級神、中級神、上級神に、加えて最高神、そして――


「君まで来るなんてねぇ? タルタロス」

「……ふん、私は貴様に呼ばれたから来たまでさ」


 そこには腰まで伸びる黒髪をふぁさっと払う一人の女性が立っており、その姿に、その声に、そこにいる誰もがゴクリと息を呑んだ。

 ――獄神タルタロス。

 世界神の内一柱であり、その力は現時点におけるウラノスすら超えていると言われている。

 普段は奈落に引きこもっている彼女と言えど、今回ばかりはこの集会に顔を出しているようで、今回の集会がただ事ではないということを表している。

 ただ、問題はその集会の内容であり。


「で、改めて聞こうか。なんで僕らが呼ばれたんだい?」


 そう彼が問いかける先には金髪オッドアイの少女と、その隣で顔を伏せて立ち尽くす銀髪の少女、そして彼女の腕に抱えられた大きな教本の姿があった。


『――単刀直入にお願いします。皆様にはとある【器】を造っていただきたいんです』


 そう淡々と口にしたのは、銀髪の少女の手に抱えられた黒い本――理の教本であり、その言葉に一人の男が前に出た。


「いきなり何を言い出すかと思えば……器を造れ? それをやって俺たちになんのメリットがある?」

「ハデス……」


 白い髪に体を覆う黒いローブ。

 髪の隙間からは赤い眼光が漏れだしており、その瞳に睨まれた教本は小さくその体を震わせる。

 ――冥府神ハデス。

 ゼウスの実の兄であり、神々の序列三位に位置する冥府の神である。


「どうせこの灰に染まった世界についてのことであろうが、器を作るということは何者かを蘇生……あるいは無理矢理に器を入れ替えるつもりか。いずれにせよそこまでする価値があるのか? 既に我らが作り出した最高の器をやってやったはずだが。なぁ創造神」

「ぐぬぅ……、やっぱり話振られるかのぅ……」


 見れば奥の方に隠れていた白髪の爺――創造神がバツが悪そうに姿を現しており、彼はわざとらしく咳払いをすると口を開いた。


「まぁ、そうさのぅ。当初ギン=クラッシュベルをこの世界へと送り込んだ際、予想以上の強さを手にしおった故な。同時期にこの世界へと送り込まれた勇者達、その中で最も見込みのありそうな男にくれてやったわい。のぅ、そこの聖女殿」

「……」


 見れば視線の先――ゼウスと白夜の背後には聖女ミリアンヌの姿もあり、彼女は赤くなった目元を拭って顔を背けた。

 対してハデスは「無駄遣いが過ぎる……」と声を漏らすが。

 けれどもそんな空気を切り裂くようにして、教本の声が周囲に響く。



『ギン=クラッシュベルが、死にました』



 その言葉に、他でもない彼がここにおらず、さらに言えば彼女が本であること、エロースの言葉などからその事実を察していたウラノスは思いっきり顔をしかめた。


「……本当、なのかい?」

「それについては私が保証しよう。ギン=クラッシュベルは死に絶えた。この目でしかと確認した」


 タルタロスが淡々と告げた言葉に彼は大きく息を吐くと、その言葉に修行中に彼と幾度か会ったことのある最高神たちが驚きに声を上げた。


「なぬっ! あの御仁がやられたのか……!?」

「うわー、嫌な予感してたけど……。こう来たかー」


 そう声を上げたのは赤髪オールバックの筋骨隆々とした巨大な男――軍神テュールに、紫髪にリクルートスーツを着込んだ少女、狡知神ロキだった。


「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て! ギンが死んだ!? あの馬鹿が死ぬなんてことあんのかオイ!」

「……エロース様の言から察してはいたが、甚だ信じられん状態ではあるな」


 それには死神やハデスでさえも驚きを顕にし、彼の実力を知っていた者――つまりは上級神、最高神、そして世界神と位が上がっていくにつれてその驚愕は大きなものへとなっていた。


『……もう一度お願いします。皆様には一つ、器を造っていただきたいんです』


 再びその声が響き、神々の痛々しい沈黙が舞い降りる。

 そんな中、ふと、そんな沈黙など意に返さないといったようなタルタロスの声が響いた。


「――ふむ、全面的に賛同しよう」

「な……ッ!? タルタロス様!」


 その言葉にはハデスも驚きに声を上げたが、彼女はハデスに対して疲れたような視線で返す。


「全く神々の実質総統も楽ではないな。奈落に乗り込んできてまで弟子入りしたいと抜かす愚かな三女(ゼウス)に、自由気まま過ぎて制御のつかない次女(ポセイドン)。まぁ貴様がそこまで頑なになっているのかも分かっているさ。ここで器――それこそ以前に作った『アレ』と並ぶものを作ってしまえば神々の大半が反動で行動不可能になってしまう」


 その言葉にゼウスと、ハデスの背後で縄に縛られて行動不能になっている何者かがビクンっと反応したが、それすら無視したハデスは首肯で返す。


「ええ、感情論に動かされるのは愚か者のすることだ。教本よ、貴様が望むのは並の器ではなかろう? 恐らく後ろの仲間達を連れてきていることからも、アレ以上の器を作り出さんとしているのが透けて見える。そしてその器はおおよそギン=クラッシュベルに与えるものであろう?」

『……そう、ですね』


 その言葉に小さく嘆息したハデスは、額に手を添えてなんとか声を絞り出す。


「……俺とて、嫌がらせでこんなことを言っているわけではない。確かに以前のウラノス様、そしてクロノスが賄っていただけの力はそこの仲間達で十分に足る。まず間違いなく同等の器が出来上がるだろう。――だが」


 そう続けたハデスは薄く瞼を開くと。


「いいか、よく聞いておけ。オーダーメイドでの器の製造はかなりの労力を必要とする。しかも今回は神々の総力をもってあたってもギリギリ完成するかどうか、と言ったレベルだ。そんなことをすれば並の上級神であっても半年は寝込んだまま、程度の反動を受けかねん。死神のように上級神モドキ、と言ったレベルの力を持っていればいいが、それでもまず間違いなく最高神や世界神、その他極一部を除き神々の活動が静止する」


 それだけでもかなり問題が山積みになっていることが分かる。だが、問題は何もこれだけではない。


「加えて聞こう。今現在、ギン=クラッシュベルの器と魂は何処にある。器の作成にはその人物本来の器をモチーフとして行われるが、万が一それがなければ年単位での微調整が必要となる。そして魂がなければ動くこともない。そこらもすべて含めた上で、それでも必要だというのならば話を聞こう」

『……』


 その言葉には彼女も思わず黙ってしまい、その沈黙に大きなため息を放ったハデスではあったが、そんな嫌な空気を破り捨てるように大きな声が響き渡った。


「あ、あぁ、あああああああああッッ!!」

「……いきなりどうした、死神」


 突如として声を上げた彼女にハデスが眉を潜めるが、彼女は大きく目を見開いて勢いよくハデスを見つめ返した。


「つ、つまりはギンを蘇らせてぇ。けどその肉体はとりあえずこっちにはねぇ。つまりは年単位で微調整が必要となるわけだが、そんなことやってる余裕はねぇ、ってことだろ?」

「……まぁ、そういう事なのであろうな」

『はい、そんな感じです……』


 そう意気消沈といった様子の彼女を前に、死神は大きく口の端を吊り上げて笑ってみせると。



「――あるぜ。つまりはいつ、どの段階の『銀』の肉体でもいい訳だろ? ちょうど俺様のところに、火事に巻き込まれて死んじまったもう一つの肉体が残ってる」



 その言葉に、ウラノスが大きく目を見開いた。


「ま、まさか……!」

「あぁ! 俺様は最初あの男を火事から救ったが、けれど居合わせたのが回復魔法が使える面々じゃ無かったんでな。その肉体を元に、その場で咄嗟に急場しのぎの『器』を作り上げ、魂だけを移し替えた。つまりは……」

『も、もう一度……それをすればいいッ!』


 なにも今の、この世界で成長したギンの肉体にならなくてもいいのならば。

 日本で死んだ、当時十八歳の彼の肉体さえあれば、十分にモチーフとして利用可能なのである。

 だが、問題は魂の方にあり。


「だ、だけど問題は魂の方だ。銀の器も魂もないとなると、混沌の力によって利用された可能性が大いにあり得る。となると、いくら肉体を作ることが出来ても、魂はもう――」

「――それに関しては、問題ない、よ」


 淡々と響いた姪の声にウラノスは顔を上げると、彼女は上へと向けた掌を勢いよく開いて見せる。

 途端に彼女の掌からは巨大な魂が溢れ出し、銀色のその魂は大きく揺れ動きながらも轟々と燃え盛っていた。


「……さすがは、ギンくん。器を残していたからか、魂まで残す術まで確立していたみたい。ついさっき、朱雀がこの魂を届けに来てくれた」

「あ、あの頑固者の朱雀がかい!?」


 どうやっても神々には力を貸してくれなかった最後の聖獣、朱雀。それがギンに手を貸しているのだから驚かない方が嘘だというもので、ウラノスは驚きながらも、内心どこかで『さすがは銀だな……』と納得している部分もあった。


「……で、どう? 兄さん」

「……どう、と言われてもな」


 ゼウスの言葉に腕を組んで大きく呻いたハデスではあったが、その背中へと二つの大きな手のひらが叩きつけられた。


「ガははははははは! のうハデスよ何を迷う! この筋肉さえ見れば迷うことなど何も無い! さぁ共に筋トレの旅に参ろうぞゥ!」

「ヌははははははは! ここまで言われれば致し方なしと言うものであろうハデス! 神々もとうとう腹を括らなければならぬ時が来たという時さ!」


 見れば長い青髪を揺らす眼帯をした隻腕の風神、オーディンと、短く刈られた金髪をガシガシとかく雷神、トールの二人がバシバシと彼の背中を叩いており、脳筋二人の攻撃にめちゃくちゃ迷惑そうに顔を歪めていたハデスではあったが、視線の隅で先程までの次女を捉えていた縄が解けていることに気がついた。


「ま、まず――」


 咄嗟に周囲を見渡してその姿を探そうとしたハデスではあったが、その姿は探す手間もなく見つかった。



「ふははははははは! 私は神よ!」



 その声に、ハデスはとうとう頭を抱えて蹲った。

 見れば広場の中心に飾られた銅像の上には一人の少女が乗りあがっており、青髪ポニーテールを風に揺らす彼女はずびしっと恭香を指さし、笑って見せた。


「いいでしょう! この海皇神ポセイドンがすべて許しましょう! なにせこの私は神! GOD! 逆らう者などいるはずもないパーフェクトルーラー! 正しく神! そう神なのだから! だからもうやっておしまいなさい!」

「この馬鹿が……」


 突き抜けた馬鹿ことポセイドンの声にそう呻いたハデスはもう色々とどうでも良くなったのか。



「よぅし分かった! そこまで言うのならばもう知るか! 好きにすればいいじゃないか!」



 ヤケクソ混じりなその言葉から。

 もう一つの、彼の物語は幕を開けたのだった。



神々も大変ですねぇ……。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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