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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
救いの熾火
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焔―030 遺品

 その言葉に、彼女の真っ直ぐな瞳に、ギルは疲れたように天を仰ぎ、ため息を漏らした。


「……この、頑固者」

「お前にだけは言われたくない」


 すぐさま返ってきた答えに彼は先程までの雰囲気を霧散させてフッと笑むと、小さく赤い瞳を細めてこう呟いた。


「なぁゼウス、頼む。ここで引け」


 その言葉は、彼が初めて見せた本心だった。

 確かに嘘はついていなかった、けれど本心さえも出していなかった。そんな彼が初めて見せた本心。


「これ以上は、俺はもう手を抜けない。どうなった所で、この先お前は俺に殺される。それが嫌ならここで引け。魂の在り処さえ教えれば、今回だけは見逃してやる」

「……そう、みたいだね」


 けれどゼウスはその言葉に口元を緩めると、スッと剣の切っ先を彼へと向けた。


「でも、私は彼から頼られた。なら、どんな結果になろうとも私のすべきことは決まってる。最後まで、あの人の味方で居続ける。それが私のできる、唯一のことだから」


 その言葉にギルは、諦念の情に瞳を揺らし、ふっと顔を俯かせた。

 その姿からは既に先程までの柔らかさは感じられず、触れる間の全てを壊してしまいそうな不気味な危険性が再び彼の体を纏っていた。


「あぁ、分かっていた。分かっていたさ。貴様はそうするのだろうな全能神。なればこちらからも言うことは無い」


 ギルがそう呟いて――直後、彼の姿が掻き消えた。

 視界に収めることも出来ないその速度に思わずゼウスも愕然とし、咄嗟に振り返った背後で揺らめく赤い外套、そして冷たい光を孕んだ黒い鎌が視界に入り、大きく目を見開いた。


「――故に死ね」


 迫る大鎌に咄嗟に全能スキルで自身の体を数メートル先へと転移させると、すぐさま空を斬り裂いたギルめがけて剣を構えて駆け出した。


雷霆(ケラウノス)! 私に力を……!」


 ――雷霆。

 世界を焦がし、宇宙すら焼き尽くすと言われる最強の神器。彼女が構えた金色の剣は一瞬にして刃こぼれを修復し、バチバチと超電力を纏い始める。

 それは一撃で星を破壊出来るほどの圧倒的な雷の力。

 だが、その剣をもってしても彼の防御を崩すことは叶わず、ギリィッと火花が散り、金属音が響き渡る。

 見れば件の黒い鎖が外套の中から伸びており、その鎖によってゼウスの放った一撃はいとも簡単に防がれていた。

 ――圧倒的。

 その言葉が脳裏を過ぎり、直後に彼女の体を衝撃が襲う。


「がは……ッ!?」


 口から少量ではない鮮血を吐き出した彼女は次の瞬間、崩れ去った家の瓦礫の中へと突っ込んでゆく。

 見ればギルは何かを蹴ったような体勢で動きを止めており、瓦礫の中で痛みに喘ぐゼウスはその姿を見て、自らの腹に走った激痛を確認して、改めて『蹴られただけ』の事実を思い知る。


「これ、は……、まずい、かも」


 流石にこれほどまでとは思っていなかった。

 実力を隠していることは知っていた、勝てないだろうと分かっていた。けれど、ある程度は戦えるだろうという推測していたのも事実なのだ。

 だが蓋を開けてみればどうだ、この現状は。

 ギルがほんの少しだけ本気を出しただけでこの有様。傷一つつけられていないにも関わらず、こちらは既に傷だらけ。遊ばれているとしか思えない。けれど。


「これじゃあ、終われない……!」


 痛みを堪えて立ち上がると、一歩、一歩とこちらへと近づいてくるギルへと両手を突き出し、魔力を組み上げた。


「雷霆・雷砲モード……!」


 彼女の声で周囲を浮遊していた五つの雷霆が光と化し、新たな第三形態へと姿を変えてゆく。

 その第三形態を一言で表すと――『超電磁砲(レールガン)』だ。

 彼女の全力を以て放たれる最高威力の超電磁砲。その威力は下級の禁呪すら軽く超える程であり、バチバチと巨大な雷が帯電を始めたその超電磁砲にギルは初めて歩みを止めた。

 対してゼウスは大きく息を吸い込むと、迷うことなくその一撃を放射する。


「『雷霆の一撃(ロードオブ・ゼウス)』ッ!」


 ――瞬間、一筋の雷が空間を裂いた。

 その先に佇んでいたギルは鎖で打ち消そうと動き出し、けれどすぐに『不可能』と察したか、スッと片腕を前方へと突き出した。

 そして、たった一言。


「――『無壊の盾(・・・・)』発動」


 彼の突き出した手のひらから無数の黒色透明な盾が召喚され、重なり合わさったそれらは巨大な盾を形成してゆく。

 ――無壊の盾。

 それはゼウスのよく知る能力であり、同時に彼女は知っていた、その盾を壊すことは今の自分には難しいということも。

 轟音が鳴り響き、無壊の盾へと雷撃が激突する。

 周囲へと雷の余波が荒れ狂い、大地を壊し、確実に世界を壊してゆく。

 盾を壊すことが難しい。

 なれば、真正面から当たらなければいいだけのこと。


『……ふっ、ようやく我の出番よな』


 彼女脳内に声が響き、フッとゼウスは笑みを零した。

 ――四聖獣。

 朱雀、白虎、玄武、青龍。

 その四体からなる四聖獣という集まりの頭領は青龍で間違いはないのだが、さらにその上に一体、それらを総督するもう一つの聖獣が存在する。

 それこそが四聖獣の五体目、つまりは五聖獣の頭領。

 その名も――


「……うん、ここから先は、本気で行くよ『麒麟(・・)』」


 瞬間、彼女の体を巨大な雷が包み込んだ。

 眩い光の中神器・雷霆が光に溶けてゆき、徐々に光に包まれた彼女の体を覆ってゆく。

 黒いドレスは黄色の羽衣へと変化し、頭や胸、足といった重要な場所に金色の鎧が召喚される。

 四聖獣のいずれよりも遥かに優れた力を誇る最強の聖獣――麒麟。その力を完全に使いこなした者しか使うことの許されない、言うなれば一種の境地。

 それこそが、この最終奥義。


「――『聖獣化』」


 瞬間、彼女の姿がその場から掻き消え、直後に雷撃を阻んでいたギルの体へと衝撃が走り抜ける。


「ぐ……ッ、き、貴様……!」

「ズルイとは言わせない。この盗っ人」


 見ればギルの赤い外套が一瞬にしてギルの背後へと移動したゼウスの拳を受け止めており、その見覚えのある武具にゼウスは小さく呟いた。


「――()()()()()()。一目見た瞬間にわかっていたけど、ギンくんも面倒な武具を残していった」


 見れば雷撃は既に止んでおり、ギルは無壊の盾を解除すると仮面の下で嘲笑する。


「このローブを使ってはいけない法律などないだろう?」

「うるさい。お前が盗んだのは、これだけじゃない」


 ゼウスがそう告げた途端、周囲の地面を食い破って無数の黒い鎖が召喚され、それを見たゼウスは瞬間移動でそれらを回避する。


「――()()()()()()に、()()()()()()()。その二つは元々は私の所有物。見た途端に分かってた」

「……」


 黒く染まってはいるが、その力だけは隠しようがない。

 全てを捕縛し、全ての力を無効と化す万物捕縛の最悪の鎖――『グレイプニル』。

 そして、切り裂いたモノの時間を操作する万物破壊の最悪の鎌――『アダマスの大鎌』。

 それらは元々ゼウスの所有物であり、それらがギンの手に渡って、最終的にギルの所有物へと化している。


「それは、私のもの。ギンくんにあげた私のもの。お前なんかが触れていい代物じゃない」


 ゼウスの淡々とした言葉にギルは小さく肩を震わせる。

 その反応に小さく眉根を寄せたゼウスではあったが、スグにその震えが『笑い』からくるものだと察してしまう。


「クククッ、クハハハハッ、ハハハハハハハハハハハッ! あぁ、いや済まない全能神! 貴様のセリフが余りにも無様で仕方なかったのだ、笑ってしまった俺を許して欲しい」


 仮面を抑えてそう笑って見せたギルは真っ直ぐにゼウスへと視線を向ける。その紅蓮の瞳が彼女の姿を捉えると同時に、彼女の体へと怖気にも似た何かが走り抜けた。


「愚かなる全能の神よ。不完全なる全知全能よ。敵に塩を送る行為と知って忠告しよう」


 その言葉の先を聞いてはいけない。

 そう分かってはいたけれど、ゼウスの体をまるで金縛りにあったような不自由さが押しとどめる。

 ゼウスの瞳の先には、仮面を抑えて笑うあの男の姿があり。



「――現実を見ろ。誰が、誰のものを盗んだって?」



 気がつけば、彼女はギルの目の前まで迫っていた。

 雷を帯びた拳がギルの常闇のローブによって防がれ、彼がその腕をガシッと掴みあげる。


「ぐ……あぁッ!?」

「動くな全能神、骨が砕けるぞ」


 彼は片腕で容易く彼女の左腕を背中に回して固定すると、背後のギルへと恨みのこもった視線を向けるゼウスを他所に、フッと笑って語り出す。


「久瀬竜馬も神王ウラノスも、そして全能神ゼウスでさえ、一度としてこの仮面を割ることをしなかった。この仮面は俺の装備の中では特別製でな、市販のものと同じ強度の脆弱品だ。やる気になれば貴様と手この仮面の一つや二つ、割ることだって出来ていただろう」


 ――にも関わらず、それをしなかった。


「さて、それは何故か」


 背後のギルから嘲笑を感じ取ったゼウスはギリッと奥歯を噛み締める。

 そんな理由は分かっている。

 分かっている、分かりきっているからこそ聞きたくない。

 しかしそんな気持ちを嘲笑うかのように、ギルは彼女の耳元へと口を寄せると。



「貴様らは、俺の『顔』を見るのが怖いのだろう?」



 瞬間、ゴキィっと骨が砕ける音が響き、ギルの腹部へと強烈な蹴りが叩き込まれる。

 咄嗟に片腕でそれをガードしたギルではあったが、今の行動には少なからず驚きを示していた。


「……ほう。腕をへし折って拘束から抜け出すか。さすがは全能神、そこらの軟弱とは違うようだ」


 見れば彼女はぶらんと下がった左腕を抑えながら脂汗を滲ませており、その瞳はキッとギルの瞳を睨み据えている。


「……」

「……答えぬ、か。まぁいい。所詮は今より殺される他愛のない命だ。語るだけ無駄というものであろう」


 その言葉に小さく口元を歪めたゼウスは、左腕へと回復魔法を放ちながら小さく拳を握りしめた。

 聖獣化を使ってもなおこれだけの実力差。

 正直、勝ち目の欠片も見えやしない。

 配色しか見えず、自分の死が首元まで迫っていることに彼女は気がついていた。

 だからこそ。



「……いちか、ばちか」



 小さく呟いた彼女は瞼を閉じ、大きく息を吐く。

 その姿にはギルも思わず首を傾げるが、すぐにある可能性に至ったのか、仮面の下で目を見開いた。


「ま、まさか……貴様ッ!?」


 驚くギルにゼウスは小さく笑うと。

 淡々と、それでいて簡潔に。



「――今より、壁を無理矢理に破壊する」




次第にギルの正体が浮き彫りに……。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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