第47話
今現在進行形で彼の全財産を収集中との事らしいので、僕たちはネイルからギルドについて聞くことにした───なんだか本末転倒な事になっているのは気の所為だろうか?
「ギルドのランク付けについては知っていますか?」
「あぁ、何かAAとかAAAとかが抜けてる変なランク付けのことだろ? 前に恭香から聞いた気がしないでも無いな」
グサァッッ!
「ぐっ、そ、そこには触れないで頂きたいのですが.........では今回説明するのはギルドの依頼について、という事で宜しいですか?」
「うーん、まぁ、依頼とこのギルド内の事も頼むよ」
『苦労人オーラが漂ってきたね...』
うん、なんだかこの人は大変な役職に就いてしまったようだ。今度、なにか差し入れでもして差し上げよう。
まぁ、その前に僕自身がストレスや苦労を与えないように行動すべきだと言う意見もあるが───いや、そういう意見しかないと思うが、この人を見ていると『自重しようかな...』という考えにもなってくる。見ていてあまりにも可哀想だ。
まぁ、考えるだけで実行するかは別なのだが。
(......鬼畜だね、マスター)
鬼畜じゃない僕なんて僕じゃないだろう。
好きに生きていくとあぁなるんだから仕方ないさ。
因みに、『あぁなる』の内容には、
白夜へのご褒美。
かの神の髪全損事件。
白夜とのリベンジマッチ。
骸骨の捕獲。
先程のアーマー君事件。
そして今回。
等々が含まれていた。
(詳しく語ると一話じゃ足りない)
確かに鬼畜である。
特に神の髪とアーマー君の事件については、ご愁傷様、としか言い様がない。
そういや、今頃、骸骨はどうしてんだろうか?
ふと、そんな事を思った僕だった。
まぁ、フラグでも何でもないのだが。
「そ、それではまず、このギルドホームの説明をしますね?」
気付けばネイルが話し始めていた。
「まず、ここ1Fの紹介からですね。この階にあるのは、『受付』『酒場』『買取所』の三つです。受付では、登録、依頼、受注等の全てを受け持っています。何か聞きたいことがある場合は受付へと申してください」
そこの受付だけで全て済むのか......?
かなり忙しいのでは、そう思った僕だった。
「次に酒場ですね。これは私たちギルドが経営している酒場です。質よりも量や値段を追求しており、安い値段で沢山の物を食べたい冒険者の方々には非常に人気が高いのです」
「確かに体を動かすと腹が減るからのぅ......まぁ、ギルドに併設するにはピッタリなのじゃ」
どうやら白夜も酒場の仕様には賛成らしい。
流石はドラゴン娘。ご飯のことには詳しいらしい。
因みに何だかんだでとんでもない量の飯食ってるんだぜ? このロリババア。
「主様よ。禁句、というのは考えてもいけないのじゃぞ?」
おっと、それは初耳。
......はい、次回からは気をつけます。
「三つ目に買取所ですね。ここはあらゆる魔石、素材の買取を行っています。このギルドに支援して下さっている領主様は侯爵なので、滅多に買取拒否なんてことにはならないでしょうが.........まさか、ですよね?」
.........SSSの魔石の事は黙っておこう。
視線を逸らして口笛を吹いてみた。
ひゅー、ひゅひゅー......
ただ、聞こえるのはただのすきま風。
......僕、口笛出来ないのに何してんだ......?
「.........次は2Fの説明ですね」
『今のは見なかったフリをして正解でしたね』
......酷いこと言いやがる。
何なんですか? 一応こちとらマスター何ですけど?
というか、そもそも恭香が僕を敬っている所、一度も見た事が無い気がするんだが......気の所為か?
『......気の所為ですよ。気の所為』
何故か敬語を使う恭香──何だか懐かしいな、それ。
少し気にはなるが.........まぁ、いいか。
「えっと、2Fは1Fの受付の隣にある階段から行くことが出来て、主にギルドマスターの執務室や会議室に職員の控え室。それに加えて簡易的な武器・防具屋が配置されています。......使わないとは思いますが」
全くの同感です。
簡易的な物ならば使用する機会は恐らくはないと思う。
というか、ある程度は装備揃ってるし──防具以外は。
それに執務室なんて行きたくもないしね。書類だらけで汚そうだし......何より呼ばれる理由が面倒だろう。
「最後に、先程の地下の訓練場ですね。受付に言えば基本的にはいつでも使用可能なので、練習などにご利用ください、という事ですね。まぁ、ギルドについてはこんなものでしょうか?」
「あぁ、あの場所か......」
『......いま、変な読み方しなかった?』
「ん? 何の事だ?」
全く、いきなり何を言い出すんだ?
恭香も等々、焼きが回ったのか?
8歳にて、頭がボケる......。
.........病院行こうか?
『くっ、本当にこのマスターはっ......』
おい、恭香。
心の声、漏れてるぞ?
☆☆☆
そんな事もあったが、僕らの絆はそんな事で壊れるはずもなく何だかんだで次の話へと進んでいった。
───絶対的な絆、なんてのは信じてないけれど、それでも彼女達とは上手くやってきたいものだな。
「それでは、次はギルドのルールについて、ですね」
そうして彼女はギルドについて語り始めた。
「まず、依頼の受け方ですが、これは現在のランク+1のランク以下の依頼ならば受注可能、という事になっています。今のギンさんならば最高Bランクまでですね。因みに、依頼は1Fの中央辺りにある立っている掲示板に貼ってありますので、受注される際は受付まで持ってきてくださいね?」
うん、依頼の受け方は分かった。
単純明快で実に良い。
だが、
Bランクか......人間で言うとアーマー君なのだろうが、魔物でいうとどれくらいの強さなのだろうか?
そんか疑問を持ったのだった。
Bランクの魔物がアーマー君と同レベルだと言うのならば、この上なく退屈な事になるだろう。と、そんな事を考えていたのだったが、
その疑問に答えたのは恭香だった。
『魔物だと通常のオーガがBランクだよ?』
.........通常の、ねぇ。
頭をよぎるのは赤い巨体をした大鬼。
......アイツより弱い、って事なら大丈夫そうだな。
結局、僕はそう結論付けたのだった。
そんな事を考えていると、ネイルは次の話題に進んでいた。
「それと、本来のギルドというのは依頼の中継役に過ぎません。そのため、必要最低限のルールがあるだけで、基本的には放任主義ですね」
つまりは自己責任、とも言えるだろう。
何をするにも自己責任だ。だからある程度は好きにしろ。
まさに『自由』を生きる冒険者に相応しい。
───少なくとも僕はそう思う。
「ギルドのルールとしては、幾つかあるのですが、一言で表すとすれば『ギルドに迷惑をかけるな』という事ですね。流石に、ランク付けや受注可能な依頼などについては規制はかけますが、そのルールを守ってさえいれば基本的に自由ですね」
ん? 何をしても自由だって?
うーん.........なら、こんなのはどうだ?
「例えばの話だが、 盗賊になって人を殺すのも自由か?」
「少々例えが刺激的ですが、それも自由です。もちろん指名手配をしてギルドが全力をもって抹消しますけれどね............あなたたちだと洒落にならないので、万が一にも止めてくださいね? 盗賊になるとか」
いや、盗賊なんてしても面白くなさそうだろ。面白くないならば可能性は皆無だよ───それに、どちらかと言うと『盗賊』じゃなくて『暗殺者』だしね。
「? よく分かりませんが、それでも悪い事はしないで下さいね? 流石に常識くらいは分か.................分かりますか?」
ひでぇ言い草だなっ!
『大丈夫ですよ、常識人の私がついていますから』
「いや、お前も常識無いからな?」
『なっ!?』
.........お前は一体、何に驚いているんだ?
『い、いや、私ってそんなに常識ないかな...って』
......やっぱりボケたか?
「そもそもこのパーティに常識を求める方がおかしいだろ。迷い人の僕に、喋るハイスペックな本の恭香、ドM変態なドラゴン娘の白夜、それに正体不明な卵のレオンだ。常識が欠片でもあるなら教えて欲しいな」
『あ、確かに.........』
「ほ、本当にそうですね......」
やっと気付いた恭香と、額の汗を拭いながらも頷くネイル。
「ひ、酷い言い草じゃが、否定出来んのがまた......」
少し顔を火照らせながらも肯定する白夜。
どうやらサラッといった『変態』という言葉に反応したらしい。
お前なんか、こう、そういう病気なんだろ、多分。
でないと流石に............ねぇ?
「白夜、お金が貯まったら、王都で一番のお医者さんに見てもらおうな? それまで申し訳ないが我慢してくれ」
ここまで優しい声を出したのは初めてだった。
あぁ、心配だな......。もしかした未知の病かも......
はぁ......早くお金を稼がないとな。
「よ、よく分からんが、妾は病気なぞ無いぞ?」
「いやいや、それはもう、病気としか思えないよ」
白夜の行動の数々を振り返る。
言葉だけで身悶える白夜。
鳩尾にコークスクリュー(AAが一撃で沈むレベル)を食らった上での恍惚な表情を浮かべる白夜。
瀕死の状態で興奮する白夜。
放置されるだけで興奮する白夜。
───因みに、白夜との会話が少ないのは『話しかけようとしたら恍惚な表情を浮かべていた』と言う状況が多発した為である。
ご褒美=お仕置き、と勘違いしている白夜。
etc........
病気だろ? これって。
病院連れてった方がいいって、絶対。
ただ、そこへと残念なお知らせが舞い込んだ
『はぁ............本当に残念なお知らせなんだけれどね、白夜ちゃんのそれは、病気なんかじゃ無いよ?』
───ッッ!?
それは、この世界に来て一番の衝撃だった。
「な、なんだって!? って、おい、恭香っ! そんな冗談、僕でも笑えないぞっ!?」
白夜が病気ではなく、これが地なのだとしたら......
そんな最悪の事態が頭をよぎる。
いや、そんなはずはない。
見た目は普通の女の子なのだ。
ならば、中身も普通の女の子のはずなのだ....。
白夜は、白夜は病気なだけなんだ!
そこに、またもや衝撃的な事実が明らかになる。
『神の髪、白夜ちゃんに使ったよね?』
思わず僕は、膝から崩れ落ちたのだった。
「何じゃろう、何じゃか酷いことを言われている気がするのじゃが.........興奮するのぅ......」
ガチな白夜でした
次回、アーマー君の全財産が明らかにっ!?