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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
救いの熾火
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特別編 お正月【上】

あけましておめでとうございます!

今回は特別編です!

「イン○タ映えという言葉が嫌い」


 ――新年の一発目がそれだった。

 唐突にそんなことを言い出した銀に、スマホゲームをしていた俺は顔を上げる。


「え、いきなり何」

「いや最近出てきたじゃん。イン○タ映え」


 なんだか唐突にとんでもないことを言い出した銀に思わず眉根を押さえてため息を吐いてしまう。


「……俺らが地球にいた頃、それまだ有名じゃなくなかった?」

「おいちょっと待て久瀬。それ言ったら死んでるやつが何しゃしゃり出てんだよってなるからダメだって……」


 銀の焦ったような言葉に小さく苦笑すると、そもそもさぁ、となんだか一人語り始める銀。


「あれだよ。やってないから分かんないけどなに、イン○タってT○itterと何が違うの? ストーリーって何、巷のイキってる大学生とか普通に動画撮ってるだけじゃないの。アレって『ストーリー取んべストーリーww』とかうるさいんだよね。黙ってT○itterやってろ! って心の中で毎度叫ぶ」

「いや知らねぇよ……」


 そもそもイ○スタやってないし。


「というか、こんな新年の朝からお前ん家でスマホゲームしてるぼっちにイン○タについて語んなよ。やってるわけないじゃん、T○itterとの違いなんて分かるわけないじゃん」


 今日はご察しの通り一月一日、元旦である。

『うぇいうぇーい、あけおめー! 神社行こうぜー!』とか、そんなこと言ってくれる友達がいなかった俺は、別に家族で集まんないとだめーとかも無かったし、お年玉とかもこの歳じゃなかったため、昨日の夜からこうして銀のアパートに泊まってスマホゲームしていたわけであった。


「逆にここにいる面々でイン○タやってる奴いるのか? なぁお前ら」

「「……えっ?」」


 先程から存在感を消していた二名へと話を振ると、振られると思っていなかったのか二人共驚きに声を上げている。


「え、いや、そんな事言われても……」

「やってる分けないじゃないか。イン○タなど下らん。発明品の一つでも開発していた方がよほど効果的な時間の使い方だ」


 そう言ったのは、エプロン姿で朝ごはんを作っている古里愛紗と、白衣姿でハンダゴテ片手に立っている浦町了であった。


「いやー、毎度ごめんね古里さん。朝ごはん作りに来てもらっちゃって」

「いえいえ、私が好きでしてる事ですし。それにこちらこそ久瀬くんが昨日の晩から泊まってたみたいで……、なんだか本当にすいません」

「おいお前は俺のオカンか」


 その姿がグレた息子が迷惑かけた先に謝りに行っている母親のようであり、思わずそう声をかけてしまう。

 するとそれを聞いていた浦町が。


「……ふっ、これだからぼっちは」

「ねぇ浦町、お前俺にそれ言う資格無くない?」


 ハンダゴテ片手に中二病なポーズをとってきた浦町にそう言い返すと、ムッと頬を膨らませた彼女はズビシッとハンダゴテを突きつけてくる。


「おい貴様、勝手に我らが恋の巣に入り込んでおいて何を言うかと思えば……資格だと? そんなものどこに行ったら手に入るというのだ!」

「ねぇ浦町ちゃん? 久瀬と古里さんはピンポン鳴らして入ってきたけど、君だけ不法侵入なの忘れてない?」


 なんだか疲れたように横になっていた銀がそうツッコミを入れると、途端に焦り出した浦町が銀の側へと寄って行く。


「ちょ、ちょっと待ってほしい! 私と君の仲じゃないか」

「残念でしたー。今頃本編じゃあれだからね。実は久瀬と子供の頃会ってましたみたいなエピソード盛り込まれてる頃だからね。付き合いの長さじゃお前完全に負けてるから」

「久瀬竜馬ァァァ!!」


 激昴し、襲いかかってきた浦町を何とか近くのクッションでガードしていると、ふと話が脱線しまくっていることに気がついた。


「というか今話してんのイン○タ映えについてだろ。今って本編とか死んだとか恋の巣とかそういう話じゃないじゃん」

「というかしちゃダメだと思うんだけど……」


 愛紗が困ったようにそう言ってきたが、よりにもよって銀と浦町という最悪の役者たちが揃っている現状、そういう話を根絶できるかと聞かれれば間違いなく否である。出来るはずがないのだ。


「人類の救済と一緒でな(笑)」

「こ、この野郎! 本編居ないからって気楽なこと言いやがって!」

「久瀬くん! 落ち着いて落ち着いて!」


 さり気なく心の中読んできた銀にこちとら片目やられてんだぞと激昂していると、イラッとくる感じで肩を竦めた銀はふっと笑って。


「で、イン○タ映えだよ問題は。こちとら『クリスマス? あ、今元旦ってことはもう過ぎたんだー。知らなかったわー』とか、素で言えちゃうくらいのぼっち集団だぞ古里さん以外。僕だってエレ○ュキガルピックアップガチャ爆死した以外今年のクリスマス思い出ないしな」

「……俺も爆死したんだよなぁ」


 クリスマスも何だかんだでこの四人で過ごした俺たちだったが、やったことと言えばクリスマス限定ピックアップガチャ回して爆死してたくらいだろうか。

 ――閑話休題。

 愛紗が朝ごはんを作って運んできてくれる中、その姿を見てふとあることを思い出す。


「なぁ、愛紗ってイン○タやってなかったっけ?」

「ええっ!? そ、その、……やってるけど」


 ぼそっと付け加えられたその言葉に浦町がふははと嘲笑する。


「おいここにいたぞインス○グラマーが!」

「そ、そんなんじゃないよぅ! た、たまたま友達にやってみてって言われたから、ちょっとやってみただけで……」

「はっ、よりにもよってこの三大ぼっちの前でよくそんなことが言えたものだなこの自己顕示欲の塊が!」

「やめたげて! もう愛紗泣きそうになってるからやめたげて! 何だかんだでお前がイン○タ毛嫌いしてるの分かったからやめたげて!」


 憤慨し出した浦町から愛紗を守っていると、愛紗の作った朝ごはんを一人黙々と食べていた銀がはたとなにか気がついた様子で席を立つ。


「あ、なんか足音近づいてきたな。浦町、監視カメラ」

「ぬ? あぁここに映像はあるが」


 激昴から一転、冷静になった浦町がテレビリモコンを操作すると、テレビに監視カメラの映像が映し出される。……もう俺も愛紗も慣れたけど、これって普通に異常事態だと思う。

 すると足音が近付いてきたと言った銀の言葉通り小さな茶髪がものすごーくそわそわしながらこの部屋の方へと歩いてきており、その姿に銀がため息混じりに玄関へと向かい歩き出す。


「はぁ、うるさい奴が来たなー」

「ま、ここで迷うことなく出迎えるのが君の地味な優しさなのだろうな」

「うるせ」


 言いながら銀は玄関まで歩いてゆくと、タイミングよくその扉を開け放つ。

 するとそわそわガチガチと緊張しながら歩いていたソイツはいい感じで銀と見つめ合う形になり、彼女の頭からぼふんっと湯気が上がった。


「は、はひは! ふぁっ! ぁけましでおめでどぅ!」

「お前なに言ってんの……。あとあけましておめでとう」


 そこに居たのは俺達の共通の知り合い、桜町穂花であり、彼女はめちゃくちゃ緊張している様子ではあったが、自らの失態に頭が冷えたのか、頬を朱に染めながらぺこりと銀に頭を下げる。


「あ、遊びに来ました」

「おう、上がってけよ」


 そういった銀はそのままのそのそと部屋の中に戻ってくると再び朝食を食べだし、恐る恐る部屋の中に入ってきた彼女は俺達の姿を見てぎょっと目を見開いた。


「うおぁっ! な、なんか居る……」

「よう、久しぶり桜町。三年ぶりくらい?」

「まぁ、本編基準だとねー」


 そう言いながらマフラーを取ってその場に座り込む彼女ではあったが、その視線は机の上に置いてある朝食へと向かっていた。


「……じゅるり」

「あ、あの、穂花ちゃん?」

「あ! い、いや違うんだよ! 本編じゃ結局銀の家来れなかったし、緊張し過ぎて昨日の夜からごはん喉通らなかったとか、そういうのじゃないから! 全然そんなのないから!」


 その言葉に「青春だなぁ」と一人苦笑していると、呆れたようにため息を吐いた銀がスッと自身の卵焼きを箸で桜町の方へと突き出した。


「そう言えば火事の現場見せちゃったんだもんな。ほら、どうせまた心配とかして何も食べれてないんだろ。僕のやるよ、少食だし」

「え、えええっ!?」


 相も変わらず桜町が銀に恋してるとは微塵も考えていない銀は、深読みしすぎてそんなことを口走りながら、彼女の口元へとぐいっと卵焼きを近付ける。

 ――これはもしや、『あーん』というヤツなのでは?

 そう確信した時には、既に愛紗が暴れるのが目に見えている浦町の体を取り押さえており、咄嗟に叫ぼうとした浦町の口を押さえつける。


「で、でも……」

「ほらいいから。さっさと食え。ここで食べなかったら作ってくれた古里さんに申し訳が立たないだろうが」


 ニヤけそうになる口元を必死に押さえつける。

 見れば愛紗もまた顔を真っ赤にしながら口元をむにむにとさせており、今にでも『きゃー』と黄色い悲鳴をあげそうな雰囲気だ。

 見れば桜町は真っ赤になりながらもぎゅっと目を瞑っており、徐々に、徐々にその口元が卵焼きに寄ってゆく。

 小さく口が開き――ぱくりと、銀の卵焼きが彼女の口に包まれ、耳まで真っ赤にした桜町に銀は小さく微笑んだ。


「どうだ、美味いだろ? 古里さんは料理めっちゃ上手いんだよなー。特に卵焼き。もう暁穂に並ぶかもしれないレベルだよ」


 言いながらも銀は普通にその箸で卵焼きを食べ始め、味なんか分からなかっただろうなー、という桜町は今にも気絶しそうな勢いである。

 すると俺達が組み伏せていた浦町が憤慨したように俺たちを跳ね除け、銀の前まで体を移動させる。


「おい! 私にも卵焼きをくれ!」

「は? お前自分のあるじゃん」

「いやそれがいい! 君のがなんだか絶妙に焼けてるみたいで美味しそうなんだ! 隣の芝生は青いと言うだろう! さぁ食べさせてくれ!」


 そう言って止まない浦町に目に見えて嫌そうに顔を歪める銀を、それを困ったように止めに行く愛紗を、顔を赤くしてぼーっとしてる桜町を、その光景を見て思わず小さく吹き出した。


「いいよな、平和って」


 別にここで何を語ろうってわけではない。

 ただ、いつも通りの日常を見て、新年早々こんな感じのこいつらを見て。

 やっぱり俺は、思うんだ。

 世界ってのは、そこまで悪いもんじゃない。


「……? おいおい、どうしたよ久瀬。らしい顔浮かべてないでこの変態どうにかしてくれないか? もう卵焼きくれ卵焼きくれってうるさいんだけど」


 ふと、銀の声が聞こえる。

 その声に小さく笑った俺は。


「……おう。任せとけ」


 そう言って、前へと一歩踏み出した。



【下】を見たい方は番外編へ!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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