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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
王国編Ⅱ
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焔―027 正義の味方

 場所は冒険者ギルドの執務室。


「ぐぁっ、ぐぅ……!」


 痛みに呻き、俺の前に座って顔の傷へとガーゼを当てていた愛紗が眉根にシワを寄せながら肩へと手を当ててくる。


「だ、大丈夫……? ご、ごめんね、この傷治せないみたいで……」

「あ、あぁ……。こっちもなんかごめん」


 なんとなくそう謝ると、彼女は焦ったように手をブンブンと振って否定してくる。


「いやっ、私達、なんにも出来なかったから。だから、謝らないでよ……、ね?」

「……うん」


 そういった彼女の顔は悲しげに歪んでおり、そう、小さく相槌を打つ他にどう返せばいいか分からなかった。

 ギルがこの街から消えて、街が元に戻り、リーシャさんが戒神衆の死体に関しては後片付けをしておいてくれたらしく、俺達は早速休息をとることとなった。

 ――はずなのだが。


「これは……、なるほど『目を奪った』ね。咄嗟に久瀬くんに混沌の力があると見て、それ以外の手段で目を奪いに来たみたいだ。多分これは――白夜くん?」

「これは……妾でも修復不可能じゃぞ。なるほどこれが奴の正真正銘、本気と言った所かの……」


 白夜さんの足音が聞こえてそちらを見れば、ふむと俺の左の瞳を見た彼女は眉根を寄せて頷いてみせた。


「やはりのぅ。間違いなく時空関係等の能力じゃ。眼球限定で『時』をコヤツが生まれるさらに前へと巻き戻して左の瞳そのものを『無かったことにした』か、あるいは数億年単位で早送りして、塵になるまで朽ち果てさせることで『無かったことにした』か。いずれにせよ回復魔法はもちろんのこと、これを治す手段は妾ですら持ち合わせておらん。ま、顔の傷は直せると思うがの」

「そ、それじゃあ……!」

「ふむ。一ヶ月後、で本当によかったの。しばらくお主は片目での戦闘になれることから始めにゃならんのじゃ」


 その淡々とした言葉に、思わず拳を握りしめ、歯を食いしばる。

 ――勝てなかった。

 油断はしていなかった。話もしていたし考えもしていた、が、油断なんて一ミリたりとも存在していなかった。

 にも関わらず傷一つ与えることが出来ず、こちらは左眼を完全に失った。

 つまりは、完全なる敗北だ。


「……クソッ!」


 そう吐き捨てると、拳を膝へと叩きつける。

 小さく地面が揺れ、愛紗が悲しげに顔を伏せる。

 白夜さんが困ったように頬をかき、ウラノスさんが顔に影を落としたまま沈黙している。


「……ウラノスさん。一ヶ月で俺はアイツに勝てると」

「思わない」


 絞り出すようにして出した言葉に、彼は淡々とその事実を突きつける。


「俺を殺す気かと、彼はそう言ったけれど、今このメンツで挑んでも多分負けていた。所詮は到達者の燃えカスと、到達者になりたてのひよっこ二人、彼からすれば簡単に殲滅できていたであろう戦力で、おそらく次戦ったとしても今の君じゃ勝てっこない。多分彼が本気になれば、幻術を受けて首を掻っ切られて、それですべて終わる。時間にして一秒にも満たないだろう」


 そして、その幻術を破るには……。

 大きく息を吐いた彼は窓の外を見つめると。


「あの幻術に対抗できるのは、全てを見通す三大魔眼の持ち主と、全てを可能にする『全能』スキルの持ち主のみ。実力的に考えると……白夜くんと、ゼウスかな」


 そう呟くウラノスさんの言葉からはいつもの冗談は一つとして感じられず、一ヶ月という期間がそれほどまでに切羽詰まっているのだと実感させられる。


「……じゃあ、どうするんですか? 白夜さんと全能神さんで勝負を挑んでも、きっと――」

「……まぁ、勝てるとは、言いきれんの」


 俺の言葉を継いだ彼女の声に、ウラノスさんは深いため息をつくと、スッと白夜さんへと視線を向ける。


「……()を使うか?」


 ――彼。

 ウラノスさんが呟いた言葉は俺には理解のできないことだったのだろうけど、何故か俺の脳裏には、ある鎧の姿が映っていた。


「それって……」

「あぁ、うん。君には一応言っておくけれど、なにも僕の最高の切り札が白夜くんって訳じゃないんだ。きちんと彼女以上の、それこそギルでさえ知る由のない『奥の手』を用意してある。だからまだ死に直結してるってわけじゃないんだけど」


 言いながらも小さく笑って白夜さんへと視線を戻した彼だったが、返ってきたのは大きなため息。


「まだあれはダメじゃの。とりあえずぶん殴ってみたのじゃが、それ以降は妾のことをそれはたいそう怖がり始めての。てんで話にならんのじゃ」

「うーん……。白夜くん、もうちょっと殴るの我慢してくれなかったかなー?」

「ふむ、あの顔見たら無性にムカッときたのじゃ」


 分かるけど……、と額を抑えたウラノスさんから視線を切ると、消えた左目を抑えながら小さく呻く。

 ウラノスさんの奥の手。

 ギルの正体と実力。

 本気を出せないのか、出していないのか。

 奴はどんな能力を持っているのか

 奴が出した一ヶ月とは一体なんの時間か。

 こちらへの猶予か、あるいはなんとなくか。

 ――いや違う。


「……ウラノスさん、一ヶ月って、何の時間ですか?」


 ふと零した言葉に、ウラノスさんが顔を上げる。


「一ヶ月……? それって確か」

「ギルの出した猶予です。ギルは確かに一ヶ月後に攻めてくるって言いました。最初は後腐れないようにここで全ての決着をつけるため、一ヶ月で全ての戦力を集めろって言ったのかと思いました――が、何か違う気がするんです」


 ギルの言葉を間に受ければこちらが損をする。

 アイツが嘘を言っていないとは限らない。

 アイツが本音を誤魔化している可能性は否めない。

 アイツが重要な目的を印象操作で隠し通している可能性だって、十分に有り得るわけだ。

 そして俺はそこに違和感を覚えた。

 ――一ヶ月。

 それは本当に俺たちに与えた猶予か?

 そう考えて、ふと、脳裏にある言葉が過ぎった。



「――探し物」



 その言葉にウラノスさんが目を見開いたのが分かった。


「な、なんだい、それは……?」

「ギルバート様たちが言ってました。奴は王国に攻めてきた時、探し物をしている、って自ら口にしたって。もしもその一ヶ月がその『探し物』をする期間で……」


 加えて、もしも白夜さんのいうことが正しいのであれば。

 多分、しっくりくる答えになる。


「一ヶ月は探し物をする期間で、それに加えて白夜さんの言っていた『解除しきれていない制限』を解除するための時間だったとすれば……!」

「そ、そうか! 制限は分かるとして……探し物って言うのはやっぱり……」


 ……心当たりのありそうなウラノスさんに視線を向けると、俺の視線を受けた彼はフッと苦笑すると。


「大丈夫、今のヒントだけでも随分と謎が解けたからね。救いの熾火、一ヶ月の期間、彼が探している何か。もう少し考えれば多分わかるし、そうなれば対応もできるようになると思う。だから君は安心して、自分のことを頑張りなさい」

「……自分のことを?」


 そう、自分のこと。

 そう続けたウラノスさんは微笑を浮かべると、スッと窓際の方に立っていたレイシアさんへと視線を向けた。


「……生きていたのならば、執行者の方へと授けるつもりだったが、どうやら運命は貴様に味方したようだ」


 そう振り向いた彼女の瞳には青い輝きが灯っており。


「久瀬竜馬。お前に足りないものはなんだと思う? 二つ答えて見せろ」

「ふ、二つ……?」


 二つもあるのか……、と思いながらも考え始めると、案外簡単にその二つは浮かび上がってきた。


「えっと……。奴の幻術を打ち破る手段と、自分の意思、ですか」

「分かってるじゃないか。純粋な戦闘力じゃ貴様はあの男には負けていないと見た。ステータスとて貴様が勝っていたのではないか? なぁウラノス様」

「そうだね。ステータスだけならば君の方がよほどある。ただ、向こうはなんていうかね……」


 そう小さく頬を描いた彼に、すっと声を通す。


「――執念、ですか」

「そう、それだ。ギルはこと『執念』に関していえばクロノスと肩を並べる、言うなれば頑固者なんだよ。一度決めたことは曲げない。悩み苦しんで、その末に確信した答えならば間違っているはずもない。この言い方を彼は嫌うと思うけど、自らが正義だと確信して突き進む。正しく『正義の味方』なんだ」


 ――だから強い、圧倒的に。

 そう笑う彼は虚空を見上げてフッと笑う。


「自らの正義をしっかりと掲げてる子は強いよ。僕みたいに正義が何かわからなくなっちゃったら、そこで終わりなんだ。到達者なのにこの程度の実力しかない時点で分かるだろう?」

「……」


 確かに、到達者であることを考えれば、ウラノスさんは少しばかり……いや、かなり弱すぎる。

 それを何故か考えなかったかと聞かれれば、多分否と答えると思う。頭のどこかで、きっと考えたんだと思うから。

 そして、それは魔法の才能を失ったからだと心のどこかで思い込んでいた。けれど。


「何故、銀やクロノス、ギルが到達者の中でも圧倒的か知っているかい? 答えは自身の歩く道をしかと定めているからだ。自らの正義を掲げ、誰にも媚びることなく堂々と歩いているから、彼ら彼女らは『最強』と呼ばれるわけだ」


 悪であれ、善であれ。

 彼ら彼女らは皆全員が『正義の味方』であり、己が正義を守らんがために戦った。その果てに何が待ち受けていようと、最期まで戦い尽くした。


「多分、銀や混沌がギルの前にいても、『だからなんだ』っていって鼻で笑うんでしょうね……」

「そうだねぇ……。もう彼らは自身の正義を定めてる。そこに今更違う意見を言われたところで『だから何』でしかないんだ。ま、ギルも同じだとは思うけど」


 そして俺にはそれがない。

 故に惑わされ、傷を負った。

 ステータスでも経験でも、俺は絶対に負けていない。アイツの正体がソレならば、負けているはずがないのだ。


 問題は、心の強さ。

 否、自身の正義を掲げているかどうか、か。


「正義……ですか」

「クロノスとギルは理由はどうあれ、世界を滅ぼすことこそが正しいと思った。逆にギンは世界を守ることが正義だと思った。ま、理由はどうかは知らないけどね」

「ま、問題となるのはその理由じゃろうな」


 見れば白夜さんも難しそうに顔を歪めており、ガシガシと頭をかいてため息を吐いている。


「だー! 難しいのじゃ! 世界を守る理由なんぞ知らんのじゃ、そもそも興味ないしの……」

「はぁ、白夜くんは銀以外興味無いからダメなんだよね……」

「当然なのじゃ! あの方以外興味を抱く対象など皆無なのじゃ!」


 愛だねぇ、と呟くウラノスさんは、レイシアさんへと視線を戻すと笑って見せた。


「で、やっぱり?」

「はい、譲渡したいと思います」


 そう告げたレイシアさんが俺の前へと歩を進める。


「久瀬竜馬、今ここで選べ。滅ぶことが運命だと諦め、それを受け入れるか、あるいは運命など知ったことかと全ての苦難を笑い、跳ね除けるか。貴様はどちらを選ぶ?」


 なぜ彼女はそう問うたのか。それは分からなかった。

 けれど、その答えだけはしっかり分かってた。


「現状で満足なんてしてたら成長なんてないんだ。あの背中に追いつくには、前に進み続けるしかないんだ。その道中で運命が俺を押し潰そうとしてきたなら、笑って斬り捨て、燃やし尽くして先に行きます。誰が相手だとしても、俺はもう負けたくないから」


 こんな思いなんてもう二度と御免だ。

 負けたくない、ただ純粋にあの男に勝ちたい。

 あの男を一発、ぶん殴ってやりたい。

 拳を握りしめ、そう言って口角を吊り上げる。


「そうじゃなきゃ、アイツに託された『主人公』失格でしょう」


 俺はもう、流されるだけじゃダメなんだ。

 アイツに勝てるだけの力だなんて、そんな甘っちょろいことばかり言ってられないんだ。


 ――俺も、最強の座を奪いに行く。


 この手で未来を掴み、すべての責任を背負って突き進まなきゃいけない。

 ならば運命なんて俺は信じない。

 運命なんて捩じ伏せて、焼き斬って、望んだ未来へと突き進む。

 まだ何が正義で、何が正しいのか分からない。

 けど、生憎と一ヶ月も期間があるんだ。


「自分の正義も、片目での戦闘も、何もかもこなしてやりますよ。一ヶ月後にウラノスさんは勝てないって言いましたが、そんなの関係ない。次は勝つ。その為だけに」


 その言葉にウラノスさんが小さく吹き出し、レイシアさんもまた口角を吊り上げる。


「いいのかそんな感情論で。勝てる確証はどこにもないぞ?」

「それ銀に言ったら『勝てないと思ったから逃げるのか? 違うだろう、勝てないと思ったら感情論引っ張り出してでも勝ちに行くんだよ』とか、そんなふざけたこと言われますよ」


 あぁ、アイツならきっとそう言う。

 そうして彼は、きっとこう笑うんだ。



「じゃないと、カッコよくないでしょう?」



 その言葉にククッと吹き出したレイシアさんはその青い瞳を煌めかせる。


「合格だ久瀬竜馬。二つに一つを取れ。左眼を元に戻すか、あるいは右眼をグレードアップさせるか。左眼を元に戻す場合は幻術対策は自分でしろ。だが、右眼を強化する場合は――」


 そういった彼女は大きく右の瞼を見開いて。




「貴様にこの瞳――不敗の名を冠する『運命眼』を授けよう」




 その瞳には、王冠のような紋章が浮かんでいた。


次回から新章開幕!

一ヶ月の間にギルが何をしていたか語る章になるかと思いますが、多分かなり短いです。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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