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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
王国編Ⅱ
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焔―026 宣戦布告

近年は気がついたら「あ、今日クリスマスなの?」って感じで日々が過ぎていきます。

 ――執行機関。

 かつてこの大陸において最も勢力の大きかったそのクランにおいて、ギンに次ぐ最高戦力として数えられていた人物。

 それこそが彼女――白夜さんで、その姿に、その背中に、思わずこんな状況なのに目を見開いて固まってしまった。


「な、何で……」

「カカッ、お義父さまにお願いされた、なればそれを叶えてみせるのが善き彼女、というものなのじゃ」


 もう何が何だかわからないが……アレかな。ウラノスさんが呼んだから来た。それでいいのだろうか。

 思わず傷口を抑えながら惚けていると、ギルが突然に体を跳ねあげ、驚きに声を上げる。


「ま、まさか、貴様……!」

「そのまさかじゃ。良くもまぁ時空間魔法もなしにこんな馬鹿げた結界を張れたものじゃの。妾が来てなかったらお義父さまでも破るのには時間がかかったじゃろうに」


 彼女の声が響いた次の瞬間。

 俺の目の前にウラノスさんとエルザが姿を現し、少し遅れてレイシアさんが姿を現す。


「皆さん……! 俺の仲間達は――」

「はぁ、はぁ……。大丈夫、街の人を、フリーにさせるわけには、行かなかったから……、リーシャとみんなには、あっちをお願いしてきたよ」


 そうウラノスさんは返してくれるが、その顔は真っ青に染まっており、息もかなり荒れている。

 白夜さんの言葉から察するにギルの張った結界とやらを破くのにかなり力を使ってくれたようだが……。


『馬鹿な……! ウラノス様でさえ破れない結界を張りながら、その上で今の貴様に一太刀を入れたとでも言うのか……!』


 そう、真に驚くべきはそこだ。

 ウラノスさん達が駆けつけない理由は、正しく『勝負にならないから』だと勝手に思い込んでいた。

 それがまさか……結界を張りながら戦っていただなんて。

 驚きにギルを見ると、奴は小さく舌打ちを吐き捨てると俺たちへと膨大な殺気を送り付けてくる。


「貴様ら……!」

「ふむ、見掛け倒しの殺気じゃのー? なんじゃ、殺気ばかりで先程から全く攻撃せんではないか」


 ――まるで。

 そう続けた彼女は冷笑を頬に貼り付けて。



「――制限、だったかの。やっぱりまだ残っとるんじゃないか?」



 その言葉に思わず目を見開いた。

 攻撃できない、そう読んだ俺に反してやつは本当に攻撃して見せた。

 しかしそれが、相手によるものだとすればどうだ?

 傷の具合によるものだとすればどうだ?

 ギルが言った大切な【一】。

 それが目の前に現れてしまえば、一体どうなる?


「クソッ、こうなれば――」


 ギルがそう呟いた――次の瞬間。

 魔力が溢れ、俺の視界がぐにゃりと歪む。


「こ、これは……!」


 ――幻術。

 普段から模擬戦で凛ちゃんの月光眼から幻術を受けているため、すぐにそれが幻術だと分かった。

 そして同時に、それが彼女とは比べ物にならない強さ、そして練度を誇っていることにも気が付いていた。

 歪む視界の隅ではウラノスさんとエルザさんでさえ膝を付いており、ギルの姿は既に視界から消えている。

 その代わりに俺の肌が感じ取ったのは膨大な殺気。今度は形だけの殺気ではなく、間違いなく命を狙う類の殺気だ。

 姿なんて見えない。けれど咄嗟に刀を握りしめ――



「ふむ……、流石に幻術は厄介なのじゃ……」



 パリィンッと、幻術が破られた。

 見ればすぐ隣へと移動していた白夜さんがギルの大鎌を受け止めており、仮面の向こうに小さく見えたギルの目の輪郭が小さく震えた。


「……なるほど、月の眼を継承したか」


 ギルの言葉に白夜さんの横顔を見れば、そこには左の眼窩に収まっている銀色の瞳が見て取れた。

 ――月光眼。

 目を見開き驚いていると、ギルは不利を悟ったか大きくその場から飛び退いた。


「なるほど貴様も超えていたか、太陽と月の眼、なるほど壁を超えるには十分すぎる素質ではある」

「当たり前なのじゃ。妾ほどの高位な肉奴隷ともなると、主が壁を越えるとそれに伴って色々超えちゃうものなのじゃ」


 ――壁を越えた。

 その言葉に驚きウラノスさんへと視線を向けると、苦笑した彼は仕方なく、と言ったふうに。


「……実は、白夜くんは僕にとっての奥の手の一つだったんだ。神々しか知らないもう一人の【到達者】――そう簡単に切れる手札じゃなかったんだけど」


 ――今回(ギル)ばかりは、どうにも出来なかったと。

 改めて俺とギルの実力差に歯噛みしていると、大きくため息を吐いたギルは小さく肩を竦める。


「……全く揃いも揃って。到達者三人に幻影の王、加えて運命の眼だと? 俺を殺す気か貴様ら」

「殺す気に決まっているだろう? ま、ここで引いてくれると僕のコンディション的には嬉しいんだけど」


 そういったウラノスさんはどこからか取り出した神剣を構えており、白夜さんは銀色の剣を、エルザさんもまた気配を薄くして戦闘態勢に入っている。

 俺も、と刀を掴みあげようと力を入れると、隣にしゃがみ込んだレイシアさんが笑ってその手を制した。


「どうやら、その必要は無いらしい」

「……へ?」


 思わず困惑した声を上げると同時。

 フッと笑ったウラノスさんは。


「それとも何か、この街を元に戻して欲しいのかい?」


 その一言に、ギルは確かに反応を示した。


「……街を、戻すだと?」

「そうだね。街を戻した上で白夜くんを君にけしかける。恐らく今の白夜くんでも君には勝てやしないだろう。それほどまでに君は圧倒的で――それ故に致命的だ」


 圧倒的故に致命的。

 そう告げたウラノスさんは「簡単に言おうか」と笑って言うと、スッと無表情を顔に貼り付けて。


「――ここで引かねば、この星が『壊れる』ぞ」


 今ここに至って初めて気がつく。

 この街を元に戻す。それは詰まり『壊れない』という特性がこの街から、俺達の周囲から消えるということ。

 そして、何も補強されていないこの星で、俺達到達者四人が戦うなんてことになった日には、まず間違いなく決着よりも先に星が壊れる。

 そしてそれは、きっと――


「……なるほど、星を人質に取るとは貴様もなかなか厄介な男だ」


 ウラノスさんの言葉に対して、ギルの反応はあまりにも小さく、それでいて大きかった。

 彼はそうとだけ言うと、今まで向けてきていた殺気を収め、その黒鎌をどこかへと収納した。

 ――戦闘終了。

 その四文字が脳裏を過ぎり、ウラノスさんが安堵の息をつくのを視界の端に映した。


「星というより、僕が人質にとったのは君にとっての大切な【一】だろうけれどね。少なくとも、この星が破壊されれば君の望む何かは永久に失われる」


 その言葉にギルは何も返さない。

 ただ、スッと虚空を見上げて一人呟いた。



「――俺の望むもの、か。そんなものはとうの昔に潰えたよ、ウラノス」



 その言葉は酷く悲壮さに満ちており、優しげに告げられた言葉にウラノスさんが目に見えて顔を歪めた。


「別に俺は今、何かを望んで歩いているわけじゃないんだ。ただ、望むものが手に入らなかったから。だから、悩み苦しんで、妥協した。妥協して、世界を滅ぼすことにした」

「……それ、は」

「……まぁいいさ、語り明かしたところで俺はもう止まらない。誰が目の前に立ちはだかろうと、俺はもう、止まれない」


 ――止まれない。

 そう自嘲するように笑ったギルは、纏っていた優しげな雰囲気を一瞬で霧散させると、どこか満足げに口を開いた。


「本来ならばウラノス共々そこの少年を殺すつもりできたのだがな。それでも()()()()()到達者一人の左目を奪うことが出来ただけでも重畳と言ったところか。それに何より、神王ウラノス、黒炎久瀬竜馬、加えてそこの老餓鬼の実力を図れた。今回はそれで良しとしよう」

「おいちょっと待つのじゃこのダサ仮面。いま誰のこと老餓鬼とか言いやがったのじゃ?」


 たぶん老餓鬼と書いて老餓鬼(ロリババア)って読むんだろうな、と頭の片隅で思いながらも、左目を押さえながら立ち上がる。


「……これで、終わるだなんて思うなよ」


 俺の言葉に、奴は仮面越しに俺の瞳を覗き込む。

 その真っ赤な右の瞳が俺の姿を捉え、奴はフッと笑って見せた。


「あぁ、知っているとも。貴様は弱虫の臆病者だったが、腰抜けではなかった。片目を潰されたからと、そこで終わるような虫ケラではなかろうさ」


 ――故に。

 そう続けたギルはククと笑って。


「一つ宣言しよう。一ヶ月後、手始めに俺はこの世界を焼却する。この星の表層に存在する()()()()()尽く焼き尽くし、エデンの園を作り上げる」


 思わず目尻が吊り上がるのを感じた。

 けれども俺の殺気など意に返すことなく、ギルは笑って俺達の方へと指をさす。


「神々が作りし原初の世界。とりわけこの星、この大陸は創造神エウラスと地母神ガイアが最も最初に作り上げた、正しく原初の大陸」

「……ま、まさか――ッ!」


 ギルの言葉に何を察したのか、ウラノスさんが驚きに目を見開いて声を上げる。

 その姿に、その声に、クハハと嘲笑したギルは。



「――【(すく)いの熾火(おきび)】。そう言えば分かるな?」



 救いの熾火。

 その言葉に、ウラノスさんが目に見えて狼狽したのが分かった。


「な、何故、その言葉を……!」

「なに、このシナリオも元はと言えば混沌の策だ。仮にも元時空神ならばそれくらいは知っていてもおかしくはないだろう?」


 そう笑ったギルはすっと俺たちへと指をさす。

 それは『止められるものなら止めてみろ』とでも言わんばかりの姿であり。


「全ての力を集い、俺はこの世界へと進行する。悪魔族、戒神衆、大悪魔。そしてこの俺、持ち得る全ての力を持ってこの世界を熾火と化そう。止めたければ好きにすればいい。立ちはだかりたければ勝手にしろ」


 ――だがな。

 そう続けたギルは仮面の奥の瞳を紅く煌めかせて。



「次俺の前に立つ時は、死を覚悟することだ」



 かくして俺達のパシリアの街防衛戦は幕を閉じ。

 ギルは虚空に溶けてゆくように、その姿を消していったのだった。


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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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