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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
王国編Ⅱ
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焔―020 戦闘開始

「神王ウラノス……か」


 彼が呟いた言葉にメフィストが反応する。


「おや、神王様がどうかしましたか?」

「……なに、そろそろこちらも『計画』を開始しようかと考えていた故な。ついあのイレギュラーのことを考えていた」


 ――イレギュラー。

 男――ギルと同じように壁を越えた存在。

 神王ウラノス、混沌、ギン=クラッシュベル、そして自身。

 内一名は死に絶え、一名は眠りについている。

 なればこそ、現段階を持って障害となり得る到達者は一名となり。


「――そろそろ殺すか、神王ウラノス」

「いやはや、やめて欲しい限りですが」


 淡々と告げたその言葉。

 けれどもすぐにメフィストから反論が返ってくる。


「もう暗黙の了解的なアレですが、ぶっちゃけると私は神王様の眷属なのですよ? 殺されでもすれば私も死にます、それは嫌です」

「貴様の命など知るか。とっとと死に絶えろ」


 ピシャリと言ってのけたギルは玉座から立ち上がると、目の前の円卓へと視線を向ける。

 多くの大悪魔は全員、何らかの任務によって席を外しているが、今現在、ちょうど暇をしていた大悪魔が二人、そこには座っていた。


「嫉妬の罪レヴィアタン、並びに怠惰の罪ベルフェゴール」


 楽しくトランプ(ババ抜き)をしていた二人はギルの方へと振り向き、訝しげな視線を送る。


「なに、新しいボス。混ざりたいの?」

「まぁ混ざりたいって言っても混ぜてやらないけどねー」

「殺されたいのか貴様ら……」


 思わず仮面越しに額に手を当てたギルだったが、すぐに気持ちを切り替えると二人へと口を開いた。


「まぁいい、今よりある街を滅ぼしに行く。俺があの世界で本気で戦えば星そのものが壊れかねないからな、貴様らがやれ」

「うわー無責任〜。でもまぁ、分かったよ」


 言いながらも立ち上がったベルフェゴールは、レヴィアタンに「行こう」と小さく呟いてギルヘと視線を戻す。


「で、街を滅ぼすことが第一目標じゃないんでしょ? 第一世界の第一大陸――創造神が最初に作り上げた原初の大地。僕らが頑なにあの世界の、あの大陸を攻め続けてる理由は分かってるけど、それもこれも君の『計画』が実行されれば全てが灰と化す。なら今更街の一つや二つ、滅ぼす必要も感じられない」

「……フッ、流石だなベルフェゴール」


 仮面の下で小さく笑みを零したギルは顔を上げ、何かを思い出すようにしてその名を口にする。


「神王ウラノス――並びに、久瀬竜馬」


 その言葉に小さく、メフィストが肩を震わせる。


「メフィスト。貴様は言っていたな、久瀬竜馬には注意しておけと。それは確かに正解だったのやもしれんな」


 ――久瀬竜馬。

 ギルはその名を、その男を知っている。

 本来はこんな場所に居てはならない一般人。

 限りなく普通、平凡、平均で、それが普遍的。

 平凡の域から決して抜けきれない弱者。

 ――あの男なくして存在できない、ただの弱虫。


「だったはずなのに、何故貴様はここまで来た?」


 弱虫で、弱者だったはずなのだ。

 そんなことは知っている。

 あの男のことを、ギルはよく知っている。

 あの男に憧れ、ここまで来た平凡な一般人。

 あの男が生み出した忌むべき失敗作。

 愚劣な駄作品。劣化版、代用品。

 にも関わらず久瀬竜馬がここまで来たというのならば、それは軒並みならぬ努力をして来たからだろう。

 だからこそギルはその努力を真正面から認めて――その上で踏みにじる。


「……ふむ、あの雑魚もそれなりに力をつけてきた、ということか。丁度いい、神王ウラノスもあの街に滞在しているというのであれば、あの街ごと破壊してしまえばいいだけのこと」


 地に落ちたかつての最強、神王ウラノス。

 忌むべき失敗作にして代用品、久瀬竜馬。

 加えてあの街には『白神の王』リーシャに『幻影の王』エルザまで存在している。

 なればこそ、滅ぼす以外の手はないだろう。


「レヴィアタン、ベルフェゴール、貴様ら二名に命令を下す。いまより戒神衆百体を連れてエルメス王国、パシリアの街へと直行せよ。抗うものは殺せ。計画など待たずに殺し尽くしてもらって構わない」


 そして――

 そう続けた彼は、仮面の奥の瞳を獰猛に輝かせ。



「確実に殺す。その為にもこの俺自ら同行しよう」



 それは丁度、レイシアがその未来を予想した二日後の晩のことであった。




 ☆☆☆




 それは、三日目の朝のことだった。

 街の人々はメンタル化物であっても実際のステータスは一般人並み。間違っても港国や森国の面々と比べてはならない。

 そのため彼ら彼女らも二日前の夜には既にシャルターの中へと避難を終えており、避難できていない老人や迷った子供なんかいないだろうかと街を巡ってみたが……本当にすごいなこの街は、老人や子供はもちろん、旅行客でさえ避難を済ませ、街を囲む壁の門は完全に閉ざされている。


「どうだった?」


 同じように街を巡ってきた妙と京子にそう聞くと、二人共呆れたように首を横に振った。


「いないにゃ……、一体どうなってんだにゃこの街は」

「港国とか森国の人たちは一人一人が一騎当億くらいできそうだったからこそのあの団結力だったけれど……ここの人達はそれよりとんでもないわね」


 紛うことなき軍事力最強の港国。

 加えて獄神様に守られた不滅の森国。

 対してここは国の郊外にぽつんと佇む小さな街である。街そのものにも、もちろん街の人たちも大した力はない。

 にも関わらずここまでの団結力を持ち、統制が取れているというのはあまりにもおかしすぎる。狂気すら感じさせる程にだ。


「おーい! 三人ともー、みんな集まったみたいっすよー!」


 声の方へと見れば、遠くからガシャンガシャンと鎧を奏でて走ってくる花田が手を振っており、戦闘が始まってもいないのに汗をかいているその姿に思わず苦笑いしてしまう。


「分かった! すぐ行くよ!」


 そう彼に向かって叫び返そうとした――その時だった。

 突如として街中に霧が立ちこみ始め、遠くにいた花田の姿が霧で掻き消える。


「な、何が――」


 突如として起きた状況の変化に、思わずこの街はこういう特殊な状況になる環境だったかと考えて――すぐに違うと気が付いた。


「妙、京子! ここって確か……」

「ええ! エルザさんに修行をつけてもらっていた間、一度としてこんな濃霧は発生していなかった!」


 つまるところこれは異常事態。

 考えられるところでは――


「て、敵襲――ッ!」


 どこからか声が上がり、ギィンッと剣戟の音が響く。

 咄嗟に腰から剣を抜き放つと、どこからかレイシアさんの声が聞こえてくる。


「久瀬竜馬! 聞こえているか! 聞こえているな? 聞こえていると思って話す! 私は力を全く引き出せていないが故に、限定した未来しか見ることは叶わない! 故にこんな未来など初めて知ったが、貴様が事前に教えたとおりになる未来は多分変わらん!」


 その未来とは、俺が一人で大悪魔二体と戦わなければならないというものであろう。

 酷い未来もあったものだと苦笑していると、レイシアさんも戦闘中なのか、辛そうな、それでいて懇願するような声が体の芯にまで突き刺さる。



「だから敢えて言おう! 生きて帰ってこい!」



 霧の中から悪魔が現れたのは、ちょうどその時だった。




 ☆☆☆




「俺が前衛をやる! 妙は京子の護衛、京子は魔法関連に関してお願いする!」

「「了解!」」


 二人の声を聞きながら駆け出すと、目の前の赤い外套の悪魔への剣を一閃する。

 しかしながらその悪魔はその一閃を手に持った巨大な大剣で受け止めており、奴は力任せに俺の体を押し飛ばしてくる。


「クッソ戒神衆か……! 本当に厄介な」


 赤い外套に天蓋の悪魔。

 仮面をかぶっていないことからも件の男とは別人だろうが、この中にちらっと紛れられれば恐らく判別するのは難しいだろう。

 内心で舌打ちをすると、同時に背後から声がかかる。


「久瀬くん! やるから躱しなさい!」


 直後にバチチッと稲妻が走る音が響き、とっさに上空へと大きくジャンプする。

 すると先程まで俺のいた場所を巨大な稲妻が走り抜け、戒神衆を一瞬にして丸焦げにしてしてしまう。

 ――町田京子。

 このパーティ最年長の女性で、こと後衛という役割に関していえば間違いなくトップクラスの実力者でもある。

 その最たる理由こそ――


「こ、この餓鬼が……! とっとと死ねぃ!」


 戒神衆の放った魔法が幾つも連続して京子へと向かってゆき――直後、その軌道がぐにゃりと曲がった。


「んな――」

「さて、お返しするわ」


 パチンッ、と京子が指を鳴らした途端。

 それらの魔法は彼女を起点として百八十度反転し、流れるようにして魔法を放った戒神衆へと向かってゆく。

 彼女の力――魔法操作。

 それはあらゆる魔法を操作できるという力であり、魔力量によってはどんな膨大な力であっても跳ね返し、我が力とすることができる最悪の魔法キラー。

 まぁ、魔王さんのが『全ての魔法封じ』だとするならば、京子のは『全ての魔法使い』だろう。

 改めて仲間というものの心強さを感じ、少し口元を緩めながらも。



「さぁ行くか! とりあえずウラノスさんに合流する!」



 上空から無数の戒神衆が降りて来るのを見ながら、剣を握りしめてそう告げた。


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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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