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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
王国編Ⅱ
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焔―019 最悪の未来

「かはっ、はぁっ、はぁっ……はぁっ」


 荒い息が聞こえる。

 視線の先にはいつの間にか動き出した灰色の空。

 鳥たちが何事も無かったように空を羽ばたき、ふっと、倒れる俺に影がさした。


「いやー、これは強い! いや本当にすごいよ君は。銀をはるかに上回る器の大きさに、クロエ、常闇を上回る青龍の聖獣化……。まず間違いなく『血濡れの罪業』発動時の銀にすら匹敵する力があるよ! その力を使い慣れれば、多分あの頃の銀と同格かそれ以上か……」

「はぁっ、はぁっ……、そ、そう、ですか……」


 ――あの頃。

 それはつまり、俺が最後に見た銀と同格ってことか。


「つまりは……」

「そう、上を見ればまだまだだね」


 そう笑うウラノスさんはスッと俺へと手を差し伸べる。すいませんとその手を握ると、彼の力を借りて上体を起こす。


「まぁ、今の君がすべきは『絶炎武装』をより多く使ってその力を『使い慣れる』こと。……他には、なんだ。レイシアさん?」

「……まぁ、アレでしょうな」


 ふむと頷きながらレイシアさんが近づいてくる。

 彼女は俺の前で立ち止まると、ガシッと俺の髪を掴み、俺の瞳をのぞき込んでくる。

 ――青色の瞳。

 見たこともない紋様の浮かんだその瞳からは感じたことのない……それこそ、銀の『月光眼』すら及ばないのではないかと、そう思ってしまうほどの威圧感が感じられた。


「――なるほど、三日後ですね。この男は大悪魔二柱を同時に相手することとなる。戒神衆も大勢引き連れてくる。私や師匠、ウラノスさんにリーシャさん。他にも……この男の仲間達全員もそちらに回るハメになり、最終的に大悪魔二体をこの男ただ一人で受け持つこととなる」

「へぇ………………って、今なんて言った?」


 思い切りウラノスさんの頬が引き攣る。

 対してレイシアさんはスッと俺から顔を離すと。


「『ふむ、あの雑魚もそれなりに力をつけてきた、ということか。丁度いい、神王ウラノスもあの街に滞在しているというのであれば、あの街ごと破壊してしまえばいいだけのこと』――だそうです。どころか……」

「……まさか、来る・・のかい?」


 冷や汗をかきながら問うたウラノスさんに、レイシアさんは深刻そうに頷いた。


「……恐らく、本体(・・)です」

「よし逃げよう! 死ぬ覚悟決めれば『自分の体を全盛期の状態へ設定する』こともできるかもしれないけど十中八九死ぬ! もし設定できて、戦ったとしても死に絶える!」


 いつの間にか巨大なリュックに旅準備を整えてきたウラノスさんがそこには立っていた。恐らくそういう設定でもしたのだろう。


「っていうか……そんな設定できるんですか?」

「ん? まぁ、出来るっちゃできるよ。ただ混沌の力すらも完全に復元する神剣シルズオーバーは僕が知る中では最高の神剣だからね。その効果を打ち消すとなると……多分八割九割の確率で僕が死ぬ。負担が大きすぎて四肢が爆散すると思う」


 思わず口から「うへぇ」と声が漏れる。

 しかし、彼が続けた言葉にそんな声すらも詰まってしまう。


「だけどそれよりやばいのはこっちだよ。彼の……よりにもよって本体が来るとなると間違いなくこの街は破滅する。僕が一割の可能性にかけて才能の復元をしてもいいけれど、僕らが戦えば決着より先にこの星がぶっ壊れる。それは嫌だろう?」

「嫌ですね……」


 というか、戦えば星がぶっ壊れるとかドラゴ○ボール級じゃないですか。なに、この人ってカカロ○トなのか? あるいはちっちゃい方の魔神○ウ。


「というか誰が来るんですか? そもそもレイシアさんが何でそんなことを……」

「あぁ、君は意図的に何も知らされてなかったんだっけ。恭香ちゃんが知らせない方がいいって言ってたけど……これはそうも言ってられないかな」


 そう苦笑した彼は俺の前にしゃがみ込むと。


「混沌の代理として悪魔軍の頂点に立った仮面の男。赤い外套に白い髪、天蓋を被った現時点の最強」



 ――名前を、ギルという。




 ☆☆☆




「我は設定する――『決して壊れぬ避難所をここへ』」


 瞬間、町の中心地へと巨大なシャルターが現れ、遠目から見ていた住人達がざわざわと大きくざわめきをあげる。


「はぁ……逃げたい」

「まぁまぁ、土下座して命乞いしたらきっとあの子も許してくれるわよー! ……たぶん」

「『貴様らのそんな姿……見たくなかったな』って目を逸らされる未来が透けて見えるよー……」


 いつになくどんよりとしているウラノスさんは、リーシャさんの頼りない言葉に更に肩を落とした。


「すいませんウラノスさん。私たちの我儘のせいで……」

「いや仕方ないよ。三日間しか無いのであれば住民全員の避難なんて出来るはずがない。できたとしてもすぐに追いつかれて他の街にまで被害が及ぶ結果になる……なら、こうして避難所を大々的に作っちゃった方がいい」


 レイシアさんとウラノスさんが言葉を交わす最中、エルザは一人、住民達へと事情を説明していた。


「ちゅうもーく。三日後に化物が攻めてきますので、それまでに食料と水を持ってこの中に集合してくださーい」

「おう! 分かったぜエルザさん!」

「はっはっはー! またこの街が襲われんのか! 何かそういうモンでも持ってんのかね!」

「さぁ子供たち! 三日後化物よ! きちんと覚えなさいな!」

「うん! 三日目は家のお手伝いサボれる日だね!」


 ――なんか物凄く頼もしいな住民達。

 思わず目を剥く俺の肩に近づいてきたレイシアさんが手を置いた。


「まぁ、この街の住人は他の街と比べると特殊でな。アーマー・ペンドラゴンの被害。ギン=クラッシュベル(の仲間)からの大被害。魔物達による大進行。加えて日常的にあの伝説エルザと触れ合ってるんだ。化物が攻めてくる、逃げる場所がある。ならば何も心配いらない。そう笑って飛ばせる連中しかこの街にはいないさ」

「……港国の次くらいに頭ぶっ飛んだところですね」


 森国も合わせろ、とケラケラ笑うレイシアさんではあったが、その青い瞳からはすでに前に見た紋様は消え失せていた。


「……ん? その顔は、私の『眼』が気になるか?」

「気にならないわけがないでしょう……」


 気にならないはずがない。

 月光眼でも、白夜さんの太陽眼でも無い。

 にも関わらず、あれほどまでに魔力がこもった瞳を俺は今まで見たことがない。

 じっと視線を向ける俺に対して、彼女はフッと笑みを零すと。


「なに、いずれ嫌でも知ってもらうことになるさ。なにせ未来のお前は……いや、やめておこうか」

「いやそこまで言ったなら言ってくださいよ……」


 再び肩を震わせて笑う彼女は『めんどくさい』と呟いてエルザの方へと歩いてゆく。

 その背中に恨みのこもった視線を投げかけていると、げしっと足に鈍い痛みが走り抜けた。


「いづ……」

「久瀬竜馬のくせに、生意気」


 見れば凛ちゃんが俺の足をげしげしと蹴りつけており、ため息混じりに距離をとる。


「おいおい凛ちゃん、暴力系ヒロインは嫌われるぞ」

「……なに、兄さんの真似? ……案外似てる、口調だけ」


 ピシャリと当てられた事実に思わず言葉に詰まる。

 顔が羞恥に赤くなるのを誤魔化すようにして咳払いしていると、彼女は俺に背中を向けて。


「……モブのくせに、兄さんと同格とか死ねばいい」

「ねぇボソッと心にくること言わないでもらえます?」


 小さくため息を吐いて、すっと視線を逸らす。

 その先にはギルド前に置かれた『名掘り石』が置いてあり、『久瀬竜馬』の名前のすぐ下には見覚えのある名前が刻まれていた。


「……同格なんて思ってないさ。今でも俺はあいつには及ばない。主人公なんて柄じゃないただの一般人。一度として、同格なんて思ったことは無い」

「……」


 ふと、凛ちゃんの表情が不機嫌そうに歪む。

 おそらくアイツと同じように『そのネチネチした感じが気持ち悪い』とでも思ってるんだろう。

 だから……。



「ネチネチするのはもう止めた。今の俺はまだまだアイツには及ばないけれど、きっとすぐに追いついて、追い越す。じゃないとアイツに顔向けできない」



 ふっと、彼女の不機嫌な雰囲気が霧散する。

 見れば彼女は何か思い浮かべるように瞼を閉ざして笑っており、きっと俺と彼女が思い浮かべる光景は同じものだろうと、そう確信できた。


『……え、なんでまだ弱いの?』


 いつもならぐだぐだとイライラするセリフを並べ立ててくるアイツだけれど、もし生き返って今の俺を見たら、きっと素で驚いてしまうんじゃないかと思う。

 それほどまでに彼は俺を信じていた。

 それほど信用するに足る理由がどこにあったのかは定かではない。ただ、彼は俺に毎度毎度重すぎる期待を寄せて、その度に裏切られてもなお、その信用をやめることは無かった。


「たしかに、そのままじゃ顔向けできない」

「そうだろ? アイツがイラッとくること言わないレベルって相当だからな」


 だから、その相当なことにはなりたくない。

 いつもいつも裏切ってきた俺だけれど。

 今度ばかりは――アイツの信頼を裏切りたくない。


 空を見上げてフッと笑う。

 その時どこからか、鎖が弾ける音がした。

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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